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1章 婚約破棄
6 見習いメイド
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馬車の揺れが今までのそれとは大きく異なりすっかり激しくなってきました。それはつまりアヴァドニア公爵家の治める領地を抜けて、お父様が治めるポーンドット男爵領へ入ったと言う事ですね。
アヴァドニア公爵家のお屋敷を出て約一時間、もうすぐ私達のお屋敷へと到着する筈です。
窓の外の景色を見渡すと、そこには濃密なほど鬱蒼と生い茂るウッディールの森があって、かたわらには広大なジャガイモ畑が広がっています。
もうすぐ収穫の時期ですね。ドーラさんのお手伝いをしてあげないと。
それに、採れたてのジャガイモで作るパイユはとっても美味しいんです。柔らかくて、ホクホクで、さっぱりとした甘さで、味と香りが抜群なんです。
早く食べたいな。毎年恒例のみんなで作るパイユ。
などと考えているうちに馬車はいつの間にかポーンドット家のお屋敷に到着していました。
御者のネイブルさんが扉を開けてくれるとお父様は無言のまま馬車を降りてお屋敷に向かって歩いて行きました。その背中はやはり落胆しているご様子で少し怒っているようにも見えます。
お父様から視線をはずすと、そこには優しく微笑みながら私を待ってくれているネイブルさんの姿があって、その見るからに優しい微笑みに私は安堵を覚えました。
「どうぞ、お嬢様」
そう言って差し出されたネイブルさん右手。私は自身の手をネイブルさんの手の上に重ねて、
「ありがとうございます。ネイブルさん」
「いえいえ。それよりも頭をぶつけない様に気をつけてくださいね、お嬢様」
「はい」
ネイブルさんの紳士的なエスコートにより安心して馬車から降りた私はネイブルさんにお礼を済ませ、お屋敷に向かって歩き出しました。
こじんまりとした正面入り口前の階段を慎重に登り扉を開くと、白を基調とした安価なエプロンに包まれたお尻が私のすぐ目の前でヒラヒラとリズム良く動いて私を通せんぼしていました。
私はそれを一目見ただけで途端に可笑しくなってしまい右手で口元を隠しながら言いました。
「ただいまアンナ。お掃除お疲れ様」
私の問い掛けにアンナはゆっくりとこちらを振り返り一瞬、呆けたような表情を見せそれから慌ててきちんとこちらに向き直り姿勢を正して頭を下げる。
「ももも、申し訳ございませんっ!」
言葉を詰まらせ取り乱すアンナの姿を見てとても幸せな気持ちになりました。
私って性格悪いですね。
「アンナ、何で謝るの? お掃除中だったのでしょう?」
「ああっ! おかっ、おかえりなさいませお嬢様!」
先月から我が家に勤めに来てくれている十五才になったばかりの見習いメイドのアンナは、私と同い年のとても可愛いらしい慌てん坊の女の子です。
そんなアンナは栗色の艶やかな髪を垂らして必死に頭を下げています。
「アンナ、慌てないでよく聞いて? さっきから全く会話が噛み合っていないわ。だから、まずは頭をあげて私を見て?」
そんな私の言葉にアンナは素直に頭を上げかけたのですが、
「申し訳ございませんっ!」
と、またしてもアンナは深々と頭を下げてしまいました。
「ほらほら、アンナ。また繰り返しになってしまったわ」
私はアンナの両肩を持って彼女の上半身を真っ直ぐに伸ばします。そしてそのまま彼女の目を見つめながら、
「はい、ここでストップ。ただいまアンナ」
と、にっこり微笑んでみたのですがアンナは決して私の目を見ようとせずに視線を伏せて今にも泣き出してしまいそうな顔をしています。
「うぅ……ごめんなさい……」
「ふふふっ。アンナ、私あなたのそういうところ大好きよ? でも、そろそろ中に入れてもらえるかしら?」
「ーーーーっ!」
本日何度目かのアンナのハッとした表情。本当に可愛いらしいです。
「申し訳ございませんっ!」
その後しばらく経ってから、ようやく私はお屋敷の中に入る事が出来ました。
アヴァドニア公爵家のお屋敷を出て約一時間、もうすぐ私達のお屋敷へと到着する筈です。
窓の外の景色を見渡すと、そこには濃密なほど鬱蒼と生い茂るウッディールの森があって、かたわらには広大なジャガイモ畑が広がっています。
もうすぐ収穫の時期ですね。ドーラさんのお手伝いをしてあげないと。
それに、採れたてのジャガイモで作るパイユはとっても美味しいんです。柔らかくて、ホクホクで、さっぱりとした甘さで、味と香りが抜群なんです。
早く食べたいな。毎年恒例のみんなで作るパイユ。
などと考えているうちに馬車はいつの間にかポーンドット家のお屋敷に到着していました。
御者のネイブルさんが扉を開けてくれるとお父様は無言のまま馬車を降りてお屋敷に向かって歩いて行きました。その背中はやはり落胆しているご様子で少し怒っているようにも見えます。
お父様から視線をはずすと、そこには優しく微笑みながら私を待ってくれているネイブルさんの姿があって、その見るからに優しい微笑みに私は安堵を覚えました。
「どうぞ、お嬢様」
そう言って差し出されたネイブルさん右手。私は自身の手をネイブルさんの手の上に重ねて、
「ありがとうございます。ネイブルさん」
「いえいえ。それよりも頭をぶつけない様に気をつけてくださいね、お嬢様」
「はい」
ネイブルさんの紳士的なエスコートにより安心して馬車から降りた私はネイブルさんにお礼を済ませ、お屋敷に向かって歩き出しました。
こじんまりとした正面入り口前の階段を慎重に登り扉を開くと、白を基調とした安価なエプロンに包まれたお尻が私のすぐ目の前でヒラヒラとリズム良く動いて私を通せんぼしていました。
私はそれを一目見ただけで途端に可笑しくなってしまい右手で口元を隠しながら言いました。
「ただいまアンナ。お掃除お疲れ様」
私の問い掛けにアンナはゆっくりとこちらを振り返り一瞬、呆けたような表情を見せそれから慌ててきちんとこちらに向き直り姿勢を正して頭を下げる。
「ももも、申し訳ございませんっ!」
言葉を詰まらせ取り乱すアンナの姿を見てとても幸せな気持ちになりました。
私って性格悪いですね。
「アンナ、何で謝るの? お掃除中だったのでしょう?」
「ああっ! おかっ、おかえりなさいませお嬢様!」
先月から我が家に勤めに来てくれている十五才になったばかりの見習いメイドのアンナは、私と同い年のとても可愛いらしい慌てん坊の女の子です。
そんなアンナは栗色の艶やかな髪を垂らして必死に頭を下げています。
「アンナ、慌てないでよく聞いて? さっきから全く会話が噛み合っていないわ。だから、まずは頭をあげて私を見て?」
そんな私の言葉にアンナは素直に頭を上げかけたのですが、
「申し訳ございませんっ!」
と、またしてもアンナは深々と頭を下げてしまいました。
「ほらほら、アンナ。また繰り返しになってしまったわ」
私はアンナの両肩を持って彼女の上半身を真っ直ぐに伸ばします。そしてそのまま彼女の目を見つめながら、
「はい、ここでストップ。ただいまアンナ」
と、にっこり微笑んでみたのですがアンナは決して私の目を見ようとせずに視線を伏せて今にも泣き出してしまいそうな顔をしています。
「うぅ……ごめんなさい……」
「ふふふっ。アンナ、私あなたのそういうところ大好きよ? でも、そろそろ中に入れてもらえるかしら?」
「ーーーーっ!」
本日何度目かのアンナのハッとした表情。本当に可愛いらしいです。
「申し訳ございませんっ!」
その後しばらく経ってから、ようやく私はお屋敷の中に入る事が出来ました。
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