5 / 125
1章 婚約破棄
4 シンクロバード
しおりを挟む
『何がそんなに可笑しいの?』そんな当然すぎる質問が彼から返ってきました。
なので、
「分かりません。ただーーーー」
「ただ?」
「お日様と風がとっても気持ちよくって、目の前の庭園がとっても綺麗で、あなたとここで座っておしゃべりしていると、なんだかとっても楽しいです」
と、
何の飾り気もなく、何の気遣いもなく、今、思っている事を口に出してみました。
まるで、つい先日までのアシュトレイ様とお話する時のように。
いえ。友人のように、と言った方がこの場合は正確でしょうか?
「そっか……」
彼はやや顎の角度を上げて、ぼんやりと空を眺めながらそう呟き、
「そうだよね。家の為に、親の為により良い結婚相手を探すだけの毎日なんてつまんないよね……人間なんだから外に出て何も考えずボーっとしたり、のんびりと自然を感じてゆっくりと流れる時間を楽しみたいよね。それが人として生きるって事で、普通だよね。でも貴族はーーーー」
と、彼はそこでややうつむき、口を止めました。
私は彼が何を言いかけたのか概ね察する事が出来ましたので、少しだけ意地悪したくなり続きを聞いてみる事にしました。
「ーーーー貴族には、無理でしょうか?」
「えっ⁉︎」
「人間らしく、普通に生きる事は」
「…………」
彼は若干驚いた素振りを見せたあと笑う事もなく、当然怒る事もなく、ただ真剣な表情で私を見つめます。
私が空に視線を戻し、白すぎる大きな雲をぼんやりと見ていると、
「ーーーー君は、出来ると思う? 人間らしく生きる事」
まるで子供のように純粋な瞳で聞いてくる彼に、私は答えます。
「どうでしょう? でも、私達は所詮人間ですからね」
「うん……」
「…………」
考えを巡らせる彼を横目で見て、私は空を指差し言いました。
「あ、シンクロバード!」
シンクロバード。この辺一帯に多く住む体長40センチ程の大きさの鳥。果実や虫などを捕食し、大抵20羽ぐらいの群れで行動する事が多い。空を飛ぶ際、群のリーダーが先頭を飛び後に続く鳥達はリーダーと同じように飛ぶ事からシンクロバードと呼ばれている。リーダーが右へ旋回すれば後続も右へ旋回し、リーダーが急降下すれば後続も急降下する。見事なまでに連携がとれたその飛行術は多くの人を魅了し、高貴な貴族の間でもファンが多いのです。
「見ていて下さいよ!」
私は得意げにそう言って、右手の指を弾きました。
パチンッと、辺りに乾いた破裂音が鳴り響きます。
すると、空を飛ぶシンクロバードの群が私の合図に答えるように、一斉にきりもみスピンを始めました。
「あ、懐かしい……子供の頃によくやったよ、それ」
「タイミングが合うと気持ちがいいですよね。まるで自分がシンクロバード達を操っているようで」
などと話していると、シンクロバード達は空の彼方に飛んで行ってしまいました。
シンクロバードがくれたチャンスをモノにしてお話に花を咲かせているといつの間にか、お互いの緊張も解けて今やまるで古くからの友人のようにリラックスして楽しい時間を過ごしていると、
「ローレライ! どこに行った⁉︎ ローレライ!」
私を呼ぶお父様の声に背筋がピンッと伸び、慌ててその場に立ち上がります。
私はお父様の姿を視界に捉えましたが、お父様はまだ私には気付いておらず辺りを見回しています。幸いにも階段に座りこんでいた事は、お父様にはバレなかったようです。
本当に良かった。
「お父様! 私はここです」
「おおっ、ローレライ。何をやっているこんな所で」
「少し風に当たって考え事をしていました」
「そうか……。ん? そちらは?」
と、お父様が視線を送った先、私のすぐ後ろの辺りには彼が立っていて、
「お初にお目にかかります。私はナイトハルト・ツヴァイゲルと申します。お嬢様にはーーーー少し世間話に付き合って頂いていました」
「あ、あぁ……そうかね」
お父様は少し驚いたような素振りを見せてそう言うと、すぐに視線を私へと向けて真剣な表情のまま口を開いた。
「帰るぞ、ローレライ。すぐに支度をしろ」
「……はい。お父様」
すぐに踵を返して歩き出したお父様の後を追って私は階段を数段のぼり、上がりきった所で後ろを振り返りナイトハルトと名乗った彼に視線を送って、
「楽しい時間をありがとうございました。それでは私はこれで失礼いたします。御機嫌よう」
「うん。こちらこそ、ありがとう」
彼は、ナイトハルト様は相変わらず優しく微笑み私を見送ってくれました。
なので、
「分かりません。ただーーーー」
「ただ?」
「お日様と風がとっても気持ちよくって、目の前の庭園がとっても綺麗で、あなたとここで座っておしゃべりしていると、なんだかとっても楽しいです」
と、
何の飾り気もなく、何の気遣いもなく、今、思っている事を口に出してみました。
まるで、つい先日までのアシュトレイ様とお話する時のように。
いえ。友人のように、と言った方がこの場合は正確でしょうか?
「そっか……」
彼はやや顎の角度を上げて、ぼんやりと空を眺めながらそう呟き、
「そうだよね。家の為に、親の為により良い結婚相手を探すだけの毎日なんてつまんないよね……人間なんだから外に出て何も考えずボーっとしたり、のんびりと自然を感じてゆっくりと流れる時間を楽しみたいよね。それが人として生きるって事で、普通だよね。でも貴族はーーーー」
と、彼はそこでややうつむき、口を止めました。
私は彼が何を言いかけたのか概ね察する事が出来ましたので、少しだけ意地悪したくなり続きを聞いてみる事にしました。
「ーーーー貴族には、無理でしょうか?」
「えっ⁉︎」
「人間らしく、普通に生きる事は」
「…………」
彼は若干驚いた素振りを見せたあと笑う事もなく、当然怒る事もなく、ただ真剣な表情で私を見つめます。
私が空に視線を戻し、白すぎる大きな雲をぼんやりと見ていると、
「ーーーー君は、出来ると思う? 人間らしく生きる事」
まるで子供のように純粋な瞳で聞いてくる彼に、私は答えます。
「どうでしょう? でも、私達は所詮人間ですからね」
「うん……」
「…………」
考えを巡らせる彼を横目で見て、私は空を指差し言いました。
「あ、シンクロバード!」
シンクロバード。この辺一帯に多く住む体長40センチ程の大きさの鳥。果実や虫などを捕食し、大抵20羽ぐらいの群れで行動する事が多い。空を飛ぶ際、群のリーダーが先頭を飛び後に続く鳥達はリーダーと同じように飛ぶ事からシンクロバードと呼ばれている。リーダーが右へ旋回すれば後続も右へ旋回し、リーダーが急降下すれば後続も急降下する。見事なまでに連携がとれたその飛行術は多くの人を魅了し、高貴な貴族の間でもファンが多いのです。
「見ていて下さいよ!」
私は得意げにそう言って、右手の指を弾きました。
パチンッと、辺りに乾いた破裂音が鳴り響きます。
すると、空を飛ぶシンクロバードの群が私の合図に答えるように、一斉にきりもみスピンを始めました。
「あ、懐かしい……子供の頃によくやったよ、それ」
「タイミングが合うと気持ちがいいですよね。まるで自分がシンクロバード達を操っているようで」
などと話していると、シンクロバード達は空の彼方に飛んで行ってしまいました。
シンクロバードがくれたチャンスをモノにしてお話に花を咲かせているといつの間にか、お互いの緊張も解けて今やまるで古くからの友人のようにリラックスして楽しい時間を過ごしていると、
「ローレライ! どこに行った⁉︎ ローレライ!」
私を呼ぶお父様の声に背筋がピンッと伸び、慌ててその場に立ち上がります。
私はお父様の姿を視界に捉えましたが、お父様はまだ私には気付いておらず辺りを見回しています。幸いにも階段に座りこんでいた事は、お父様にはバレなかったようです。
本当に良かった。
「お父様! 私はここです」
「おおっ、ローレライ。何をやっているこんな所で」
「少し風に当たって考え事をしていました」
「そうか……。ん? そちらは?」
と、お父様が視線を送った先、私のすぐ後ろの辺りには彼が立っていて、
「お初にお目にかかります。私はナイトハルト・ツヴァイゲルと申します。お嬢様にはーーーー少し世間話に付き合って頂いていました」
「あ、あぁ……そうかね」
お父様は少し驚いたような素振りを見せてそう言うと、すぐに視線を私へと向けて真剣な表情のまま口を開いた。
「帰るぞ、ローレライ。すぐに支度をしろ」
「……はい。お父様」
すぐに踵を返して歩き出したお父様の後を追って私は階段を数段のぼり、上がりきった所で後ろを振り返りナイトハルトと名乗った彼に視線を送って、
「楽しい時間をありがとうございました。それでは私はこれで失礼いたします。御機嫌よう」
「うん。こちらこそ、ありがとう」
彼は、ナイトハルト様は相変わらず優しく微笑み私を見送ってくれました。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

婚約破棄された伯爵令嬢は錬金術師となり、ポーションを売って大金持ちになります〜今更よりを戻してくれと土下座したところでもう遅い〜
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは婚約者のラインハルトから真実の愛に目覚めたと婚約破棄される。そして、フィーナは家を出て王都からも追放される。
行く宛もなく途方に暮れていたところを錬金術師の女性に出会う。フィーナは事情を話し、自分の職業適性を調べてもらうとなんと魔法の才能があると判明する。
その才能を活かすため、錬金術師となりポーションを売ることに。次第にポーションが評判を呼んでいくと大金持ちになるのであった。
一方、ラインハルトはフィーナを婚約破棄したことで没落の道を歩んでいくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる