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3章 魔王討伐編

12 ごはん屋

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 箸先から垂れる麺を勢いよく麺をすする。

 両手で慎重に器を持って出汁を飲む。

 箸先を天ぷらへとシフトし口へ運ぶ。

 カリカリの衣の食感が楽しい。

「うんまいじゃろう……」

 ーーーー⁉︎

 と、不意に声をかけられびっくりする。

 声のした方、つまりは俺の左隣を見ると、さっき村の入り口にいたお爺さんがいつのまにか座っていた。

「この店は、うんまいんじゃよ。みーんな、大好きなんじゃ。ここが。特にそのーーーー揚げ物が」

 お爺さんから何やらメッセージ性のあるものが伝わってくるのだが、いったいどうすればいいのだろう。

「…………」

 とりあえず食事を再開するのである。

 喉越しの良い麺が流れるように口の中に滑り込んでくる。

 絶妙な茹で加減の麺が前歯で切断される時の、ぷつんっとした感じがまた堪らない。

 アルデンテ的なものだろうか?

「ああ、ああ、ああ……ああ……」

 そしてお爺さんは何で俺が食べるたびに『あああ……』と声を漏らすのだろう……。

「麺も、揚げも……ああ、あああ……」

「一つ……食べます?」

 たぶん今、言うべき一言を口に出しつつ揚げ物の乗ったお皿をお爺さんの目の前に差し出してみる。

「おおお……」

 お爺さんの言葉が変化したようだ。

「おお、おおお、おおお……」

 そのまま震える手つきで揚げ物を摘み上げると、お爺さんは一口で頬張り遠くを見つめながら、ゆっくりゆっくりと食べ始めた。

 そこそこの大きさの揚げ物だったのだけれど、一口で食べちゃって大丈夫なのかな?

 俺の心配をよそにお爺さんは約三秒に一度、咀嚼してはカリカリの食感を楽しんでいるらしかった。

 そして無関係だとは思うのだが、思いたいのだが、お爺さんの持つ杖が小気味よく床を叩き出したのは、揚げ物を食べれて機嫌が良くなったからではないかと、どうしても思ってしまう。

 若干、微笑んでいるように見えるし、今のお爺さんの姿に声優さんを真似してセリフを付け加えるとするのなら、『おおお……何でもやってみるもんじゃ……ラッキー……おおお』かな?

 まあ、揚げ物一つで誰かを幸せに出来たのなら、それは最高に嬉しい事だ。

 俺は急ぎ気味に残りの食事を食べ終え(またお爺さんにあげたくないからではない)、ご飯屋さんを後にした。




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