13 / 24
ツーステップ
マシュー嬢
しおりを挟む
「あなたは……マシュー嬢?」
カーテンの影に隠れるようにしていた人物は思いもよらない人物ーーーーマシュー嬢であった。
マシュー嬢とはオリバーと結婚する数週間前に初めて出会った。あの時は他にもガイアン嬢、オルテン嬢という二人のご令嬢もいて仲良くお茶会を開いたりしたものだ。
ガイアン嬢、オルテン嬢、マシュー嬢といえば黒い三令嬢として社交界で噂になっている三人組である。なぜ黒い三令嬢と呼ばれているのかはよく分からないが。
そんな黒い三令嬢ことガイアン嬢、オルテン嬢、マシュー嬢は、私とオリバーの結婚後ぱったりとその姿を見せなくなっていた。
なので、もしかしたらオリバーとご令嬢達の間で何かしらの諍いなどが起きて私の知らない間に疎遠な関係になってしまったのではないかと勘繰っていたのだ。
そんなマシュー嬢がまさかオリバーの部屋から現れるとは夢にも思わなかったので、私としてはまさに晴天の霹靂というものだ。
「こ、こんにちは。アーリィ、婦人」
マシュー嬢はオリバー同様に乱れた着衣を直しながらそう口にした。
「こんにちは、マシュー嬢」
言いながら私はマシュー嬢の顔を確認するが、彼女は視線を床へと落とし非常に落ち着かない様子である。
また何かの理由で機嫌が悪いのであろうか、などと考えていると。
「ち、違うんだ! アーリィ!」
と、目の前のオリバーは以前どこかで聞いたようなことを口にする。
「違う? 何が違うの?」
「あ、いや、だから、その……マシュー嬢とは、ただ話を……」
なぜかオリバーは口籠もりながらそう説明する。
「落ち着いて、オリバー。何をそんなに慌てているの?」
「え? いや、だって……」
「?」
オリバーはひどく混乱したような表情を浮かべている。
彼は時々こんな風になることがあるのだけれど、いったいどうしたというんだろう?
一種のパニック障害のようなものなのだろうか?
ふと私の隣にいるミレニアさんの方へ視線を向けると、ミレニアさんの表情もどこか暗い。
それからしばらくの間、沈黙が続いた後にオリバーがゆっくりと口を開いた。
表情はすでにいつものオリバーのものへと戻っている。
「ありがとうアーリィ! 会いに来てくれて本当に嬉しいよ! 同じ邸にいるのにずっと会えなかったから寂しかったんだ。今日は本当にありがとう!」
私の肩を抱きながら少年のような笑みを浮かべそう口にするオリバー。
良かった。どうやら喜んでくれたらしい。
その後、マシュー嬢はすぐに邸を後にして私はオリバーと久しぶりの談笑を交わしたのであった。
数日後。
ミレニアさんが教えてくれたことなのだが、マシュー嬢は私と会った日の以前からオリバーの部屋を度々訪ねて来ていたらしい。
二人は部屋で数時間を共にするという日々を送っているのだとか。
二人が仲直りしたのは良いことだが、私が苦しんでいる最中に私をほったらかしにして二人で楽しむというのはどうなんだろう? というひとつの疑問が私の胸に残った。
病める時も健やかなる時も共にあり続けると神の前で誓い合った筈なのに。
上手くは言えないが、何となくモヤモヤする私であった。
カーテンの影に隠れるようにしていた人物は思いもよらない人物ーーーーマシュー嬢であった。
マシュー嬢とはオリバーと結婚する数週間前に初めて出会った。あの時は他にもガイアン嬢、オルテン嬢という二人のご令嬢もいて仲良くお茶会を開いたりしたものだ。
ガイアン嬢、オルテン嬢、マシュー嬢といえば黒い三令嬢として社交界で噂になっている三人組である。なぜ黒い三令嬢と呼ばれているのかはよく分からないが。
そんな黒い三令嬢ことガイアン嬢、オルテン嬢、マシュー嬢は、私とオリバーの結婚後ぱったりとその姿を見せなくなっていた。
なので、もしかしたらオリバーとご令嬢達の間で何かしらの諍いなどが起きて私の知らない間に疎遠な関係になってしまったのではないかと勘繰っていたのだ。
そんなマシュー嬢がまさかオリバーの部屋から現れるとは夢にも思わなかったので、私としてはまさに晴天の霹靂というものだ。
「こ、こんにちは。アーリィ、婦人」
マシュー嬢はオリバー同様に乱れた着衣を直しながらそう口にした。
「こんにちは、マシュー嬢」
言いながら私はマシュー嬢の顔を確認するが、彼女は視線を床へと落とし非常に落ち着かない様子である。
また何かの理由で機嫌が悪いのであろうか、などと考えていると。
「ち、違うんだ! アーリィ!」
と、目の前のオリバーは以前どこかで聞いたようなことを口にする。
「違う? 何が違うの?」
「あ、いや、だから、その……マシュー嬢とは、ただ話を……」
なぜかオリバーは口籠もりながらそう説明する。
「落ち着いて、オリバー。何をそんなに慌てているの?」
「え? いや、だって……」
「?」
オリバーはひどく混乱したような表情を浮かべている。
彼は時々こんな風になることがあるのだけれど、いったいどうしたというんだろう?
一種のパニック障害のようなものなのだろうか?
ふと私の隣にいるミレニアさんの方へ視線を向けると、ミレニアさんの表情もどこか暗い。
それからしばらくの間、沈黙が続いた後にオリバーがゆっくりと口を開いた。
表情はすでにいつものオリバーのものへと戻っている。
「ありがとうアーリィ! 会いに来てくれて本当に嬉しいよ! 同じ邸にいるのにずっと会えなかったから寂しかったんだ。今日は本当にありがとう!」
私の肩を抱きながら少年のような笑みを浮かべそう口にするオリバー。
良かった。どうやら喜んでくれたらしい。
その後、マシュー嬢はすぐに邸を後にして私はオリバーと久しぶりの談笑を交わしたのであった。
数日後。
ミレニアさんが教えてくれたことなのだが、マシュー嬢は私と会った日の以前からオリバーの部屋を度々訪ねて来ていたらしい。
二人は部屋で数時間を共にするという日々を送っているのだとか。
二人が仲直りしたのは良いことだが、私が苦しんでいる最中に私をほったらかしにして二人で楽しむというのはどうなんだろう? というひとつの疑問が私の胸に残った。
病める時も健やかなる時も共にあり続けると神の前で誓い合った筈なのに。
上手くは言えないが、何となくモヤモヤする私であった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──


断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる