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ツーステップ
とある日
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その日は嘘のように身体が軽かった。
あれほど私に影響を与えていた世界中のものが、その矛先をようやく別の方へと向けてくれたらしい。
私はこの世界に再び受け入れてもらえたようだ。この世界と、 再びひとつになれた。
そんな気がした。
私は窓を開け放ち朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
あれほど拒絶していた酸素がたまらなく美味しいと感じる。
これほど清々しい気分は久しぶりだ。
よく晴れ渡った青空、耳に心地よい小鳥のさえずり、肌を優しく撫でる風。
まるで別世界にでも来たかのようだ。
それくらい昨日と今日とでは世界が違って見える。
あの地獄のような日々はようやく終わりを迎えたということなのだろうか?
それとも今日だけ特別に神様が私に与えてくださった休日なのだろうか。
私は高鳴る胸を弾ませつつ慎重な足取りでオリバーの部屋へと向かった。
オリバーの部屋は二階の西側にある。私の部屋は東側だから距離は少しあるけれど、ミレニアさんに支えてもらえば転倒することもなく歩いていけるだろう。
私は一歩一歩慎重な足取りで歩みを進めながら、オリバーのことを考えていた。
彼とはもう一ヶ月近くまともに会っていない。
私の身体の具合が悪いからと距離を置いてくれているのだ。きっと、苦しんでいる姿を見られたくないという私の気持ちを汲んでくれているのだろう。
そんな彼に感謝を込めてずいぶんとれていないスキンシップもとりたいものだ。喜んでくれると良いのだが。
そんな事を考えながら歩いていると、あっという間にオリバーの部屋の前に到着していた。
ミレニアさんが扉をノックしてくれ、私がオリバーの名を呼ぶ。
「オリバー。いる? 私、アーリィよ」
私の呼びかけに反応するように中から大きな物音が聞こえた。
「ーーーーア、アーリィ!? 何で!? か、身体は!? 身体の方はどうしたんだい!?」
ずいぶん慌てた様子のオリバーの声が中から聞こえてきた。
ガタゴトと、騒がしい物音も続いている。
きっと突然私が部屋に来たから驚いているのでしょうね。
私はこの一ヶ月自室に篭りきりでオリバーの部屋を訪れることなんて全くなかったのだから。
驚くのは無理もない。
「今日はすごく体調が良いから顔を見にきたのよ」
それにまともに食事を摂れていない私はこの一ヶ月でかなり痩せ細ってしまっている。
会えばもっと驚くのではないだろうか。
扉一枚隔てた距離でオリバーの驚く顔を想像しながら私は扉に手を掛けた。
「入るわよ、オリバー」
「あ、あ、うわあ!」
うわあ? どうしたのかしら?
ゆっくりと扉を押すとそこには息を切らせたオリバーが立っていた。
久しぶりに見たオリバーはいつかのような苦笑いを浮かべている。それに妙に着衣が乱れていて、汗ばんでいるのはなぜだろう?
まるで激しい運動でもした後のような状態だ。
オリバーは運動量の激しいスポーツなどは好まない性格のはずだが……しかも部屋の中でなんて。
「オリバー、何だかすごく辛そう。体調が良くないの?」
「あ、いや、そんなわけじゃ……」
オリバーは小さく開いた扉からこちらを覗き込むようにしてそう口にする。
「本当? 顔色もよくないみたいだけれど」
「ああ、これは、その、う、うん。実は……そうなんだ。何だか最近体調が良くなくって……。君のことを心配するあまりよく眠れていないし」
「まあ、そうだったの。心配かけてごめんなさい。あなたがそんなに心配してくれているだなんて……」
私はオリバーの体調が心配になり扉を押し開けようと手に力を込めた。
「あ、あ、大丈夫! 本当! 全然、大丈夫だからさ!」
そう口にするオリバーは私が押す扉を中から押し返してきた。
「え……」
「うん、大丈夫、大丈夫!」
「そ……そう? 仕事が大変なのも分かるけれど、きちんと休まないとだめよ」
「わ、分かっているよ」
そんな会話を交わした後でふとオリバーの後方、部屋の中へと視線を送ると私の視界はそこに人影をとらえた。
カーテンの影になっていて気付くのが遅れたが間違いなくそこに誰かいる。
風が吹いてカーテンの布地が大きく膨らんだ。
「あなたは……マシュー嬢?」
あれほど私に影響を与えていた世界中のものが、その矛先をようやく別の方へと向けてくれたらしい。
私はこの世界に再び受け入れてもらえたようだ。この世界と、 再びひとつになれた。
そんな気がした。
私は窓を開け放ち朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
あれほど拒絶していた酸素がたまらなく美味しいと感じる。
これほど清々しい気分は久しぶりだ。
よく晴れ渡った青空、耳に心地よい小鳥のさえずり、肌を優しく撫でる風。
まるで別世界にでも来たかのようだ。
それくらい昨日と今日とでは世界が違って見える。
あの地獄のような日々はようやく終わりを迎えたということなのだろうか?
それとも今日だけ特別に神様が私に与えてくださった休日なのだろうか。
私は高鳴る胸を弾ませつつ慎重な足取りでオリバーの部屋へと向かった。
オリバーの部屋は二階の西側にある。私の部屋は東側だから距離は少しあるけれど、ミレニアさんに支えてもらえば転倒することもなく歩いていけるだろう。
私は一歩一歩慎重な足取りで歩みを進めながら、オリバーのことを考えていた。
彼とはもう一ヶ月近くまともに会っていない。
私の身体の具合が悪いからと距離を置いてくれているのだ。きっと、苦しんでいる姿を見られたくないという私の気持ちを汲んでくれているのだろう。
そんな彼に感謝を込めてずいぶんとれていないスキンシップもとりたいものだ。喜んでくれると良いのだが。
そんな事を考えながら歩いていると、あっという間にオリバーの部屋の前に到着していた。
ミレニアさんが扉をノックしてくれ、私がオリバーの名を呼ぶ。
「オリバー。いる? 私、アーリィよ」
私の呼びかけに反応するように中から大きな物音が聞こえた。
「ーーーーア、アーリィ!? 何で!? か、身体は!? 身体の方はどうしたんだい!?」
ずいぶん慌てた様子のオリバーの声が中から聞こえてきた。
ガタゴトと、騒がしい物音も続いている。
きっと突然私が部屋に来たから驚いているのでしょうね。
私はこの一ヶ月自室に篭りきりでオリバーの部屋を訪れることなんて全くなかったのだから。
驚くのは無理もない。
「今日はすごく体調が良いから顔を見にきたのよ」
それにまともに食事を摂れていない私はこの一ヶ月でかなり痩せ細ってしまっている。
会えばもっと驚くのではないだろうか。
扉一枚隔てた距離でオリバーの驚く顔を想像しながら私は扉に手を掛けた。
「入るわよ、オリバー」
「あ、あ、うわあ!」
うわあ? どうしたのかしら?
ゆっくりと扉を押すとそこには息を切らせたオリバーが立っていた。
久しぶりに見たオリバーはいつかのような苦笑いを浮かべている。それに妙に着衣が乱れていて、汗ばんでいるのはなぜだろう?
まるで激しい運動でもした後のような状態だ。
オリバーは運動量の激しいスポーツなどは好まない性格のはずだが……しかも部屋の中でなんて。
「オリバー、何だかすごく辛そう。体調が良くないの?」
「あ、いや、そんなわけじゃ……」
オリバーは小さく開いた扉からこちらを覗き込むようにしてそう口にする。
「本当? 顔色もよくないみたいだけれど」
「ああ、これは、その、う、うん。実は……そうなんだ。何だか最近体調が良くなくって……。君のことを心配するあまりよく眠れていないし」
「まあ、そうだったの。心配かけてごめんなさい。あなたがそんなに心配してくれているだなんて……」
私はオリバーの体調が心配になり扉を押し開けようと手に力を込めた。
「あ、あ、大丈夫! 本当! 全然、大丈夫だからさ!」
そう口にするオリバーは私が押す扉を中から押し返してきた。
「え……」
「うん、大丈夫、大丈夫!」
「そ……そう? 仕事が大変なのも分かるけれど、きちんと休まないとだめよ」
「わ、分かっているよ」
そんな会話を交わした後でふとオリバーの後方、部屋の中へと視線を送ると私の視界はそこに人影をとらえた。
カーテンの影になっていて気付くのが遅れたが間違いなくそこに誰かいる。
風が吹いてカーテンの布地が大きく膨らんだ。
「あなたは……マシュー嬢?」
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