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ワンステップ
アーリィ・アレストフ伯爵令嬢
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突然だが、私には夢がある。
もちろん、その夢を夢のままで終わらせる気は少しもない。
必ずーーーー必ず現実のものにしてみせる。
私が夢の実現に対しこれほどの激情に駆られるようになったのは、あるひとりの男のおかげである。
その男と知り合い親交を深めていった結果、私は自分でも信じられないほどの熱く、大きく、濃密な激情に駆られる事になった。
今、この瞬間にも弾けてしまいそうなほど膨らんだリアルなこの感情。これは普通に生活していては到底手に入れる事はできなかったものだと思う。
そう考えるとあの男は一種の恩人と言えなくもない。
もともと感情の起伏にあまり変化のない私をこれほどまでに怒り狂わせた男ーーーーつまり、私の夫。
そして私の夢とは、もちろんあの男との離縁である。
離婚して法律上の婚姻関係を解消し、そしてその上で、残りの私の人生においてもう二度と、金輪際出会う事がないように私とあの男の縁という縁を全て断ち切りたいのだ。
私はあの男と絶対的に対極の位置関係に在りたく、片時も側にいて欲しくない。
願わくば時間軸さえ超越した別世界、あるいは別次元のような絶対的な距離感を永遠に保ち、なおも離れ続けたいと切に願っている。
それほど私の全細胞はあの男を拒絶しているのだ。
腹の底から噴き上げる熱き激情となって。
では、なぜ私があの男に対しこれほどの怒りの念を抱く事になったのか。
記憶を辿る事さえ、ましてこの場で語って聞かせる事など本来ならあり得ない事なのだが、そうは言っても語らずには何も始まるまい。
記憶の奥底に沈めた忌々しい欠片を今一度、水面へと掬い上げるとしよう。
あれは今から一年と少し前の事である。
当時の私、アーリィ・アレストフは結婚を約三ヶ月後に控えている身だった。
親同士が決めた縁談だったが、今まで特に恋愛などしたことのなかった私は結婚を単なる通過儀式のように、当たり前の事としてその縁談を受け入れていた。
お相手の、オリバー・マカロフ公爵令息に対しても特に嫌な印象も抱かなかったので、何度か顔を会わせるうちに自然と打ち解ける事ができた。
縁談は極めて順調に進んでいたのだ。
時が経つにつれ私は完全にオリバーの事を信頼し、彼とこの先共に築くであろう家庭について思いを馳せたりした。
目を凝らせば見えるような、すぐ先の未来。そこには一般的な仲睦まじい夫婦の姿があって、その傍らには子供の姿も。
そんな想像をすると、まるで人生の第二幕が始まったような気さえして、柄にもなく心が浮き立つ思いだった。
けれど、それから少しして私達の周辺が急に慌ただしくなったのだ。
私達というより、オリバーの、と言った方が正解だろう。
その日は私がオリバーの邸宅に赴く日で、私は馬車に乗りオリバーのもとへと向かった。
オリバーの屋敷に到着し馬車を降りると、何やらテラスの辺りで騒いでいる数人の姿が目に止まった。
何の騒ぎだろうと思いながらテラスに近づいて行くと、そこにはオリバーと三人の女性の姿があった。
三人の女性は自身の身体をオリバーにぴったりと添わせ、不自然に顎を引き、口々に何やら訴えかけているようだった。
対するオリバーは照れ笑いを浮かべつつも、一人一人の話を聞いては順に返事を繰り返す、という行動を繰り返していた。
私が四人の傍らに立ってこの状況をどうしたものかと思案していると、三人の女性のうちの一人が私の存在を認めるなりなぜか睨みつけるようにしてこう言い放った。
「あなたは? まさか、私のオリバー様に何か御用かしら?」
私はどう返事をしたものかと、思いを巡らせた。
もちろん、その夢を夢のままで終わらせる気は少しもない。
必ずーーーー必ず現実のものにしてみせる。
私が夢の実現に対しこれほどの激情に駆られるようになったのは、あるひとりの男のおかげである。
その男と知り合い親交を深めていった結果、私は自分でも信じられないほどの熱く、大きく、濃密な激情に駆られる事になった。
今、この瞬間にも弾けてしまいそうなほど膨らんだリアルなこの感情。これは普通に生活していては到底手に入れる事はできなかったものだと思う。
そう考えるとあの男は一種の恩人と言えなくもない。
もともと感情の起伏にあまり変化のない私をこれほどまでに怒り狂わせた男ーーーーつまり、私の夫。
そして私の夢とは、もちろんあの男との離縁である。
離婚して法律上の婚姻関係を解消し、そしてその上で、残りの私の人生においてもう二度と、金輪際出会う事がないように私とあの男の縁という縁を全て断ち切りたいのだ。
私はあの男と絶対的に対極の位置関係に在りたく、片時も側にいて欲しくない。
願わくば時間軸さえ超越した別世界、あるいは別次元のような絶対的な距離感を永遠に保ち、なおも離れ続けたいと切に願っている。
それほど私の全細胞はあの男を拒絶しているのだ。
腹の底から噴き上げる熱き激情となって。
では、なぜ私があの男に対しこれほどの怒りの念を抱く事になったのか。
記憶を辿る事さえ、ましてこの場で語って聞かせる事など本来ならあり得ない事なのだが、そうは言っても語らずには何も始まるまい。
記憶の奥底に沈めた忌々しい欠片を今一度、水面へと掬い上げるとしよう。
あれは今から一年と少し前の事である。
当時の私、アーリィ・アレストフは結婚を約三ヶ月後に控えている身だった。
親同士が決めた縁談だったが、今まで特に恋愛などしたことのなかった私は結婚を単なる通過儀式のように、当たり前の事としてその縁談を受け入れていた。
お相手の、オリバー・マカロフ公爵令息に対しても特に嫌な印象も抱かなかったので、何度か顔を会わせるうちに自然と打ち解ける事ができた。
縁談は極めて順調に進んでいたのだ。
時が経つにつれ私は完全にオリバーの事を信頼し、彼とこの先共に築くであろう家庭について思いを馳せたりした。
目を凝らせば見えるような、すぐ先の未来。そこには一般的な仲睦まじい夫婦の姿があって、その傍らには子供の姿も。
そんな想像をすると、まるで人生の第二幕が始まったような気さえして、柄にもなく心が浮き立つ思いだった。
けれど、それから少しして私達の周辺が急に慌ただしくなったのだ。
私達というより、オリバーの、と言った方が正解だろう。
その日は私がオリバーの邸宅に赴く日で、私は馬車に乗りオリバーのもとへと向かった。
オリバーの屋敷に到着し馬車を降りると、何やらテラスの辺りで騒いでいる数人の姿が目に止まった。
何の騒ぎだろうと思いながらテラスに近づいて行くと、そこにはオリバーと三人の女性の姿があった。
三人の女性は自身の身体をオリバーにぴったりと添わせ、不自然に顎を引き、口々に何やら訴えかけているようだった。
対するオリバーは照れ笑いを浮かべつつも、一人一人の話を聞いては順に返事を繰り返す、という行動を繰り返していた。
私が四人の傍らに立ってこの状況をどうしたものかと思案していると、三人の女性のうちの一人が私の存在を認めるなりなぜか睨みつけるようにしてこう言い放った。
「あなたは? まさか、私のオリバー様に何か御用かしら?」
私はどう返事をしたものかと、思いを巡らせた。
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