アゲアゲ淑女のティータイム〜さあ、あなたのお話を聞かせてちょうだい

清水花

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富を根こそぎ失った男

第九話

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 心地よい夜風が彼の火照った身体を優しく撫でていく。

 今、彼の心は喜びでいっぱいだ。

 死んじゃいたくなるほど辛い事もあったけど、彼は今、幸せな気持ちでいっぱいなのだ。

 特に今日という日は不思議な女性と出会ってひどく戸惑ったり、自殺する決意がすっかり調子を狂わされたり、くじをやって緊張したり、歓喜したり、勘違いかと落胆したり、かと思いきや実は当選していて逆転パターンで驚かされたり、詐欺被害の傷心を上回るほど歓喜したり。

 上がって下がって上がって下がって……、こんなに忙しく気持ちが揺れ動いたのは生まれて初めてだ。精神が変に疲れてしまった。へとへとだ。

 だが、その甲斐あって大金貨五十枚が手に入るのだ。精神はぼろぼろになってしまったが、この後の贅沢三昧を考えると疲れも吹っ飛ぶというものだ。

「さて……」

 はたして当選金は店頭ですぐさま貰えるものなのだろうか? それとも後日銀行での受け取りになるのであろうか? といった事をぼんやりと考えながら、彼は軽快な足取りでくじ屋の窓口へと向かった。

 くじ屋の店頭、すぐ脇にある大看板に目が止まった。何度何度も穴が開くほど確認した当選金額の一覧表が貼ってある。

 念のためにもう一度だけ再確認しておく。





【当選金額一覧】

 7が斜めに揃うと五等賞、小銀貨一枚。

 7が斜めに二つ揃うと四等賞、大銀貨一枚。

 上段の列に7が三つ横並びに揃えば三等賞、大金貨五十枚。

「上段の列に7が三つ横並びで……大金貨、五十枚! うんっ! 間違いない」

 彼は鼻の頭が看板につくほどの至近距離で確認し、力強く頷いてみせた。

「ーーーーんっ?」

 距離を取りつつ、ぼんやりと眺めていた看板のとある一部分に強い違和感のようなものを感じた。

 その箇所に視線を注ぐ。

 高額当選! の旗を振るくじ屋のマスコットキャラクターが数体描かれた箇所。さらにその少し下の方、そこには当選金額一覧の続きがあった。そこにはこう記されていた。

 中段の列に7が三つ横並びに揃えば二等賞、大金貨五百枚。

 下段の列に7が三つ横並びに揃えば一等賞、大金貨一千枚。

「中段……大金貨……五百枚……下段……大金貨……一千枚……?」

 ぶつぶつと呪文のように彼は文面を読み上げた。

「上段……五十枚……中段……五百枚……下段……一千枚……」

 なおも彼は呪文のように読み上げる。

 彼は気でも振れたような顔つきで、右手に握りしめたくじ券へと視線を落とす。

「上段に777……中段に777……下段も777……全部7だ……全……」

 彼の意識はそこで途絶えた。











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