ポーンドット男爵のダイエット奮闘記〜娘の視線が気になりまして

清水花

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終章 やるべき事、変えるべき事

7 それからの生活

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 あれから一ヶ月が経った。

 ジェラールは辿り着いた答えに従い、10kgの減量に成功していた。

 その後も意識的にそんな食生活を続けて、今現在もその体重をキープし続けている。

 そんなとある日、ジェラールはおもむろにお腹の肉を摘むと、このわずかに残ったお肉さえも無くしてしまいたいと強く思った。

 一ヶ月前、大幅な減量に成功したあの時は全てやり終えた気でいたが、それから日を重ねるごとにダイエットという事よりも自身の健康について強く意識するようになっていったのである。

 必要な物を、必要な時に、必要な量だけ。

 この基本的な考えに基づく食生活は変えずに、今度は食事面以外のところにその考えを取り入れるようになったのだ。

 健康には、やはり運動だ。

 人間たるもの適度に運動しなければ、たとえどれほど体重が軽くなろうと体調を崩してしまいかねない。

 そう思い立ったジェラールであるが、やはり動こうとすると気が重いのであった。

 運動着に着替えジムに入ってしまえば多少はやる気になるのかもしれないが、どうにもそこまでやる気が追い付かないのだ。

 いや……やる気はあるのだがあくまでも身体が動かないのだ、身体が。

「…………」

 やる気がないのか、やはり。

 そもそも運動を得意とせず、運動神経なるものを持ち合わせていないジェラールにとっては、スポーツジムというのはあまりにも馴染みがなく取っ付き難い場所なのだ。

 だからジェラールは必死になって考えたのであった。

 自分に合った、自分だけのスポーツジム。

 生ぬるくて、ダラダラできて、いつでも気軽に始めたり休んだり出来る最高のジム。

 そして、遂に発見した。

 自分に合った、自分だけのスポーツジム。

 それはーーマイホーム。

 我が家で気が向いた時にやる。これしかない。

 だが、それでは今までと何ら変わらない。きっといつかのように、風邪をひいてお終いだ。

 だから、今までと少しやり方を変える。

 今から1時間頑張るぞっ! と、決して熱くなったり身構えたりせず、あくまでも自然な流れで普段の生活の中に必要なトレーニングを取り入れるのだ。

 例えば今、彼が一番気に入っているのがーー、


《片足スクワット》だ。


 単純明快。片足で立って、スクワットをする。ただ、それだけ。

 1、片足立ちの方の足を無理のない範囲で曲げる。
 ※バランスを崩さないように!

 2、そのまま、曲げた方の足を伸ばし元の位置へと戻る。

 3、片足とりあえず10回づつ交互にやってみる。
 ※太腿の前側の筋肉がカチカチに固くなっている事を触って確認!




 慣れてきたら変化を付けてみる。

 1、片足立ちの方の足を無理のない範囲で曲げる。
 ※そのまま保持してカウント10秒後!

 2、10秒経ったらゆっくりと元の位置へと戻る。

 3、これをとりあえず10回づつ、慣れれば回数を増やしていく。

 そんなどこでも気軽に出来るトレーニングを生活のあちこちに存在する合間合間に行っているのだ。

 本棚に向かい、本を探している時の数秒。

 仕事に疲れ、外で深呼吸している時の数秒。

 真剣に考えを巡らせている時の数秒。

 相乗り馬車などの公共交通機関を待っている数分。

 私生活のあちらこちらに存在するそんな少しの時間にやる事で、少し少しが積み重なり結果そこそこの運動量をこなせるようになっていた。

 そしてジェラールは気付く。今まで縁遠い存在だったトレーニングがいつの間にか自分の中でかなり近い存在になっていると。

 まるで呼吸や瞬きをするような自然さで、暇さえあれば身体が勝手に動いてしまっていると。

 そしてそんな合間合間トレーニングを始めて1ヶ月が経った頃ーー、

 今まで緩やかな弧を描いていたスボンのお尻の部分は、今はすっかりとその輪郭が崩れ布地が余りに余って悠々自適に伸び伸びとしているのだ。

 なので、横からジェラールを見るとまるでお尻がなくなってしまったように見えて仕方がない。

 そして、ジェラール自身もよほどその事が嬉しいのか上半身を器用に捻っては、お尻の部分をよく眺めながらすっかりと余ってしまったズボンの布地を右に左に引っ張りながら気味が悪いくらいにニヤニヤとしている始末だ。

 自室で一人、鏡の前に立ったジェラールはズボンを脱いで自身の下半身に注目する。

 ほっそりと引き締まっている。

 まさにその表現がぴったりと当てはまった。

 合間合間とは言え、あれほどのトレーニングをしたのにも関わらず筋肉がゴツゴツ隆起した非常に男性らしい固い印象の見た目ではなく、どちらかと言うと女性らしいほっそりとした身がキュッと引き締まったような印象を受けるのだ。

 分かりやすく言うとボディービルダーのような足ではなく、マラソン選手のような無駄な脂肪をとことん削ぎ落としたような、しなやかで、たおやかな足のラインなのだ。

 それはジェラールにとって、とても嬉しい結果であった。

 男らしいゴツゴツした印象はあまりに自分にはそぐわないと思ったからだ。

 鏡の前でズボンをだらしなく下げた奇妙な格好のジェラールは、想像以上の変化を遂げた自身の肉体に恍惚の表情を浮かべ続けた。








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