13 / 21
終章 やるべき事、変えるべき事
1 彼女の生き方
しおりを挟む
「ーーローレライ! ローレライ! ローレライはどこへ行った⁉︎ ローレライ!」
ジェラールは屋敷の中で声を荒らげ、必死に娘を探していた。
そんな鬼気迫るジェラールの勢いに驚いた多くの使用人は現在行っていた仕事の手を一旦止め、息を殺しながら非常に注意深くジェラールの姿を観察していた。
「ーーはい、お父様。私はここです!」
ジェラールがあれほど必死に探し回るローレライが登場した事で、この先何かよくない事が起こりそうだと多くの使用人がそう思った。
激しいお説教か、あるいは想像も出来ないような恐ろしい何かか、どちらにせよローレライお嬢様の涙を見る事になるかもしれないと使用人一同、覚悟を決めていた。
「おお! 探したぞローレライ! いったいどこにいたのだ?」
「はい。さっき摘んできた薬草を裏口で水洗いしている最中でした」
「そうか……」
「それで……いかがされたのです? お父様」
「ああ、いや……別に大した事ではないのだがーーん?」
ジェラールが八方から向けられる視線にようやく気付いた事で、それまで一箇所に集中していた意識と視線は瞬く間に消え失せ、後にはどうにも重苦しい気まずさだけが渦を巻いた。
ジェラールは仕事を再開した使用人達の姿をちらりと見遣って、そこにある確かな不快感から逃げるようにローレライの手を引いてその場を後にした。
「ーーなあ、ローレライ?」
「何でしょう? お父様」
「うむ、お前は本当にルクスに似て美人だな」
「ーーーーっ⁉︎」
「ああ! 違う、違う! 何を言っているんだ、私は。これではただの親バカではないか……。私が言いたいのは……いや、違うな。聞きたいのは、だな……その……何だ、少し変な事を聞くぞ?」
「…………?」
「ローレライは、その……太ったりはしないのか?」
「……え?」
「あー……つまりだな……同じ屋敷に住んで、同じ物を食べて、同じ生活をしている訳だが、ローレライは太ったりしないのかな、と……」
「ああ。太りますよ、当然」
「ーーそっ、そうなのかっ⁉︎」
「はい。お菓子を食べ過ぎてしまった次の日なんかは体重が増えてしまいますね、やはり」
「そっ、その場合……どうするのだ? やっぱりダイエットとか、やるのか? あっ! いや! なんとなく気になってな! 本当、なんとなく……」
「うーん……」
「どっ、どうした?」
「何もやっていませんね、たぶん」
「なっ、何も⁉︎」
「ーーはい。何も」
「だっ、だが……それではどんどん太ってしまうのではないか?」
「そうですね……。けれど、その次の日には大体、元の体重に戻っていますよ?」
「そっ、そんなバカなっ! 何もやらずに元の体重に戻るだなんて、そんなの卑怯じゃないかっ!」
「卑怯……?」
「ああ……いや……何でもない。こっちの話だ。それで……具体的には何kgから何kgに戻るのだ……?」
「そっ……それは……」
「ああ……そうだな……すまない。配慮に欠けた」
「いえ……」
ジャラールは酷く困惑した。
同じ生活を送っているローレライに聞けば、痩せるための手掛かりを掴めるかもしれないと思っていたのだが、耳に届く話はどうにも信じられない話ばかりである。
たとえ食べ過ぎたとしても、次の日には元の体重に戻っている?
勝手に痩せる?
そんな事がある筈ないじゃないか。
ローレライは何を言っているのだ?
手塩にかけて大事に大事に育てた愛娘は、いつの間にか非行に走ってしまったのか?
それは一大事ではないか!
「あの……お父様?」
「ーーなっ、何だ? どうした?」
「もしかして、ダイエットをしていらっしゃるのですか?」
「いやっ……その、あの、何だ、健康のために少し気を付けようとだな……思い始めたんだ。歳も歳だし……。ローレライは、その……ダイエットなどはしないのか?」
「私ですか? うーん……今まで気にした事もないですね」
「だろうな……そのほっそりとした体型では」
「あ、でも……」
「…………?」
「毎日、食べ過ぎないように気を付けてはいますよ?」
「食べ過ぎないように……?」
「はい。毎食お腹いっぱい食べるんじゃなくて、自分に必要な量だけ食べるって感じでしょうか?」
「必要な量……」
「朝食で言えば朝からそれほど多く動き回る事はないので、そんなに多くのエネルギーを摂取する必要はないかと……それに朝食の後はすぐに昼食ですから、少しぐらい足りなくても案外平気ですよ?」
「…………」
「その後の昼食ですが、日中は行動が増える時間帯ですし夕食までは少し時間が空くので、それに備えて朝食よりも少し多めに食べています」
「…………」
「それで夕食の時は……その時のお腹の減り具合で食べる量を変えています。でも、夕食の後は寝るだけなのでそんなに沢山食べる必要もないんですけどね」
「…………」
「ーーそんな感じです。何か力になれました?」
「…………」
「お父様?」
それまでジェラールの頭の中で乱雑していた何かがカチリカチリと音を立てながら繋がりーー形をなし始めた。
ジェラールは屋敷の中で声を荒らげ、必死に娘を探していた。
そんな鬼気迫るジェラールの勢いに驚いた多くの使用人は現在行っていた仕事の手を一旦止め、息を殺しながら非常に注意深くジェラールの姿を観察していた。
「ーーはい、お父様。私はここです!」
ジェラールがあれほど必死に探し回るローレライが登場した事で、この先何かよくない事が起こりそうだと多くの使用人がそう思った。
激しいお説教か、あるいは想像も出来ないような恐ろしい何かか、どちらにせよローレライお嬢様の涙を見る事になるかもしれないと使用人一同、覚悟を決めていた。
「おお! 探したぞローレライ! いったいどこにいたのだ?」
「はい。さっき摘んできた薬草を裏口で水洗いしている最中でした」
「そうか……」
「それで……いかがされたのです? お父様」
「ああ、いや……別に大した事ではないのだがーーん?」
ジェラールが八方から向けられる視線にようやく気付いた事で、それまで一箇所に集中していた意識と視線は瞬く間に消え失せ、後にはどうにも重苦しい気まずさだけが渦を巻いた。
ジェラールは仕事を再開した使用人達の姿をちらりと見遣って、そこにある確かな不快感から逃げるようにローレライの手を引いてその場を後にした。
「ーーなあ、ローレライ?」
「何でしょう? お父様」
「うむ、お前は本当にルクスに似て美人だな」
「ーーーーっ⁉︎」
「ああ! 違う、違う! 何を言っているんだ、私は。これではただの親バカではないか……。私が言いたいのは……いや、違うな。聞きたいのは、だな……その……何だ、少し変な事を聞くぞ?」
「…………?」
「ローレライは、その……太ったりはしないのか?」
「……え?」
「あー……つまりだな……同じ屋敷に住んで、同じ物を食べて、同じ生活をしている訳だが、ローレライは太ったりしないのかな、と……」
「ああ。太りますよ、当然」
「ーーそっ、そうなのかっ⁉︎」
「はい。お菓子を食べ過ぎてしまった次の日なんかは体重が増えてしまいますね、やはり」
「そっ、その場合……どうするのだ? やっぱりダイエットとか、やるのか? あっ! いや! なんとなく気になってな! 本当、なんとなく……」
「うーん……」
「どっ、どうした?」
「何もやっていませんね、たぶん」
「なっ、何も⁉︎」
「ーーはい。何も」
「だっ、だが……それではどんどん太ってしまうのではないか?」
「そうですね……。けれど、その次の日には大体、元の体重に戻っていますよ?」
「そっ、そんなバカなっ! 何もやらずに元の体重に戻るだなんて、そんなの卑怯じゃないかっ!」
「卑怯……?」
「ああ……いや……何でもない。こっちの話だ。それで……具体的には何kgから何kgに戻るのだ……?」
「そっ……それは……」
「ああ……そうだな……すまない。配慮に欠けた」
「いえ……」
ジャラールは酷く困惑した。
同じ生活を送っているローレライに聞けば、痩せるための手掛かりを掴めるかもしれないと思っていたのだが、耳に届く話はどうにも信じられない話ばかりである。
たとえ食べ過ぎたとしても、次の日には元の体重に戻っている?
勝手に痩せる?
そんな事がある筈ないじゃないか。
ローレライは何を言っているのだ?
手塩にかけて大事に大事に育てた愛娘は、いつの間にか非行に走ってしまったのか?
それは一大事ではないか!
「あの……お父様?」
「ーーなっ、何だ? どうした?」
「もしかして、ダイエットをしていらっしゃるのですか?」
「いやっ……その、あの、何だ、健康のために少し気を付けようとだな……思い始めたんだ。歳も歳だし……。ローレライは、その……ダイエットなどはしないのか?」
「私ですか? うーん……今まで気にした事もないですね」
「だろうな……そのほっそりとした体型では」
「あ、でも……」
「…………?」
「毎日、食べ過ぎないように気を付けてはいますよ?」
「食べ過ぎないように……?」
「はい。毎食お腹いっぱい食べるんじゃなくて、自分に必要な量だけ食べるって感じでしょうか?」
「必要な量……」
「朝食で言えば朝からそれほど多く動き回る事はないので、そんなに多くのエネルギーを摂取する必要はないかと……それに朝食の後はすぐに昼食ですから、少しぐらい足りなくても案外平気ですよ?」
「…………」
「その後の昼食ですが、日中は行動が増える時間帯ですし夕食までは少し時間が空くので、それに備えて朝食よりも少し多めに食べています」
「…………」
「それで夕食の時は……その時のお腹の減り具合で食べる量を変えています。でも、夕食の後は寝るだけなのでそんなに沢山食べる必要もないんですけどね」
「…………」
「ーーそんな感じです。何か力になれました?」
「…………」
「お父様?」
それまでジェラールの頭の中で乱雑していた何かがカチリカチリと音を立てながら繋がりーー形をなし始めた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
スコップ1つで異世界征服
葦元狐雪
ファンタジー
超健康生活を送っているニートの戸賀勇希の元へ、ある日突然赤い手紙が届く。
その中には、誰も知らないゲームが記録されている謎のUSBメモリ。
怪しいと思いながらも、戸賀勇希は夢中でそのゲームをクリアするが、何者かの手によってPCの中に引き込まれてしまい......
※グロテスクにチェックを入れるのを忘れていました。申し訳ありません。
※クズな主人公が試行錯誤しながら現状を打開していく成長もののストーリーです。
※ヒロインが死ぬ? 大丈夫、死にません。
※矛盾点などがないよう配慮しているつもりですが、もしありましたら申し訳ございません。すぐに修正いたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無法の街-アストルムクロニカ-(挿し絵有り)
くまのこ
ファンタジー
かつて高度な魔法文明を誇り、その力で世界全てを手中に収めようとした「アルカナム魔導帝国」。
だが、ある時、一夜にして帝都は壊滅し、支配者を失った帝国の栄華は突然の終焉を迎えた。
瓦礫の山と化した帝都跡は長らく忌み地の如く放置されていた。
しかし、近年になって、帝都跡から発掘される、現代では再現不可能と言われる高度な魔法技術を用いた「魔導絡繰り」が、高値で取引されるようになっている。
物によっては黄金よりも価値があると言われる「魔導絡繰り」を求める者たちが、帝都跡周辺に集まり、やがて、そこには「街」が生まれた。
どの国の支配も受けない「街」は自由ではあったが、人々を守る「法」もまた存在しない「無法の街」でもあった。
そんな「無法の街」に降り立った一人の世間知らずな少年は、当然の如く有り金を毟られ空腹を抱えていた。
そこに現れた不思議な男女の助けを得て、彼は「無法の街」で生き抜く力を磨いていく。
※「アストルムクロニカ-箱庭幻想譚-」の数世代後の時代を舞台にしています※
※サブタイトルに「◆」が付いているものは、主人公以外のキャラクター視点のエピソードです※
※この物語の舞台になっている惑星は、重力や大気の組成、気候条件、太陽にあたる恒星の周囲を公転しているとか月にあたる衛星があるなど、諸々が地球とほぼ同じと考えていただいて問題ありません。また、人間以外に生息している動植物なども、特に記載がない限り、地球上にいるものと同じだと思ってください※
※固有名詞や人名などは、現代日本でも分かりやすいように翻訳したものもありますので御了承ください※
※詳細なバトル描写などが出てくる可能性がある為、保険としてR-15設定しました※
※あくまで御伽話です※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様でも掲載しています※
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる