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黎明の書×勇者×魔道具

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 第三高官国王座の間、そのエロール人の少女は、過去の怒りに激情に駆られ、その書を手に取った。



 その表情は…



 『無』



 考えて欲しい、大量の記憶の中から、一つの記憶を取り出す。



 これは明瞭な記憶が増えれは増えるほどに難しくなるのではないだろうか?



 今、この世界の全ての魔法の知識を手に入れた少女は、その膨大な知識の処理に、脳のリソースの大半を割くことになり、表情に割く分が足りなくなっていた。



 ただ…感情は…その知識を引き出すキッカケとなった激情は、自分が何をするのかを、見失うことは無かった。



「どういうことだロコック?」



 オークたんは、ロコックの横で、その光景を眺めていた。隣にいる斬人刀は、クロエに何が起こっているのかわかっていた。そのクロエ左手に黎明の書を持ち、その両手の指には、鉄の輪が五指共に装備されていた。



「あの書を持つ者は、人ならざる者を産み出す。」



 ロコックの表情は厳しい、左手のリングは黎明の書に吸い付いているように見え、右手のリングからは、それぞれネックレスのような細い鎖が垂れていた。



「だからその意味がわからないんだけど?」



 それはそうだ、急にクロエが人じゃなくなる?と言っても、人の神器を使うわけだから、人を救う存在なわけであって、そんなに警戒した表情をしている意味がわからないな。



「ジェイル…」



 クロエの言葉に反応して、右手の鎖がゆらゆらと宙に浮かび、ロコック顔に緊張が走る。



「もし…あの鎖が自分の方に来たなら…全力で逃げろ。」



「ハッ!?」



 オークたんは思わずロコックに目を向けたが、その右手は、かつてクロエを最初に奴隷とした、第三高官国の王子アルケ=ツヴァイに向けられている。



「勇者アルケ=ツヴァイ」



 ツヴァイは、跪いた状態でクロエを見ている。



「魔道具名…ツヴァイハンダー」



 キュォオオオ…



 クロエが魔道具名を決めると、五指の鎖が、凄い勢いでツヴァイに巻き付いていく、複数の蛇が獲物に巻き付く様に、肌が見える隙間が無いほどにみっちりと巻き付いた。衣服の下に入り込み、着ていたものは全てボロクズとなって床に落ちた。全身を隙間なく締め付ける苦痛からか、勇者アルケ=ツヴァイの口からは、声が漏れた。



「あぁぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ~ああぁ゛あ゛あ゛ぁ~~~…」



 自我を感じることのできない声、ゲームのミイラのような状態で、手足は使えるがグルグル巻きになり、立った状態で少し地面から浮いていた。



「あ~普通に引くんですけど~」



 ドン引きだ…マジで怖すぎる…あれは神器って言うには邪悪すぎる。



 ロコックは落ち着いているどころか、薄っすら笑っているように見える。



「素晴らしいな…流石に勇者なだけはある。」



「あれって勇者はどうなんの?」



 魔道具にされたものは、ほぼ死ぬことがない、記憶がない、そしてリピート率100%を誇る。理由は簡単、黎明の書により支配は、人の脳をグッドトリップさせる。そして鈍器として使われても、盾として使用されても、全身を締め付ける神器のチェーンで守られ、快楽の感触だけが残る。

 かつて、魔道具を次々と変える黎明の書の適正者がいたが、魔道具となった者の間で、誰が魔道具になるかもめ事が起こり、最終的に殺し合いにまで発展、それ以降、勇者か適正者の選ぶ一人のみが魔道具になることになった。



「おそろしすぎるでしょ~、もうドラッグの域じゃん」



「争いが起こったのは、まぐれでも魔道具の意志が弱いからで、依存性は確認されていない。」



「いやいやいや、そんなのヤバいだろ?」



 ツヴァハンダーを鉄球を振りまわすようにグルグル自分の頭上で回し、高く振り上げて、地面に振り下ろした。



 ゴガッと、床と堅いものが゛ぶつかる音と同時に、四つん這いの馬状態になった。



 クロエは、そこに腰かけると、落ち着いた声でつぶやいた。



「魔道具ツヴァイハンダー…椅子兼武器として使ってあげるです。」
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