奥様はとても献身的

埴輪

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≪現在③≫

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 優とセックスした布団はさすがに使いたくなかった。
 さくらならそんなこと構わず、むしろ他の男の匂いがする君に興奮するとか言いそうだなと警戒していたが、意外なほどあっさり文香の要望を聞き入れてくれた。

 だが、意気揚々と押し入れから布団を運び出すさくらを真っ直ぐ見ることはできなかった。
 これからセックスするのだと言わんばかりの準備が恥ずかしくて、そして期待する自分がいる。

「おいで」

 手首をぎゅっと掴まれ、久しぶりに見る精悍なさくらに見下されるだけで心臓が壊れそうになる。
 バスタオルを羽織っているが、大した意味はないことを文香は知っていた。
 
「嬉しいな…… ずっと、このときを待ってたんだ」
「さくら……」

 はらりと、布団の上に文香のバスタオルが落ちる。
 さくらの視線の熱に、肌が粟立つ。

「……んっ」

 文香の腰を掴み、あんなにもたくさんしていたキスを、さくらは永遠に飽きないといわんばかりに何度も何度も繰り返す。

「はぁ、ふみちゃん……っ」

 余裕なんてない。
 濡れた髪にさくらの指が忍び込み、文香はただたださくらを受け入れるだけで精いっぱいだ。
 さくらの荒々しく、興奮に満ちた声が徐々に部屋に満ちていく。
 
 噎せ返るような甘い匂い。

 けど、今の文香にはどうでも良かった。
 そんなことを気にする余裕もないほど、ただただ愛しい夫に求められる幸福に酔い痴れていた。

「好きだ、君のことが好きだよ……」

 文香の耳たぶを噛みながら、さくらは擦れた声で囁く。
 その余裕の無さに、文香はドキドキと自分の胸が高鳴るのを実感した。

 腰に、熱く滾る男の下半身が当たる。

(興奮してる……)

 さくらが自分に興奮し、そして腰を擦りつけて来ることが堪らなく嬉しいと思った。
 逞しい男の脚に文香もまた応えるように柔らかな太ももを擦りつけると、さくらが低く笑う。

「……随分と、積極的だね」
「っぁ、」

 首筋にさくらは噛みつくようにキスをし、文香は思わず背中を弓なりにして逃げるように腰を浮かせた。
 けど、絡み合ったさくらの脚がそれを許さない。
 自ら拘束されに行った下半身。
 さくらのペニスが直接文香の皮膚を擦り、その硬さと熱量を誇示した。

「いつから、こんないやらしくなったの?」

 さくらの手が、指が意地悪く文香の陰部を探る。
 さっきまで綺麗に洗ったそこを、さくらは滅茶苦茶に汚してやりたいと思っていた。

 薄い繁みに指を突っ込まなくても分かる。
 文香の下半身はもうびちょびちょだ。
 そのことに文香もまた気づいている。

「……ばか」

 目を潤ませ、さくらを睨みつけながらも文香は細い両腕をその太く血管が浮き出た首に持って行った。
 ぎゅっとさくらにしがみ付くように抱き着けば、文香の豊満な胸が、乳首が当然当たる。
 しかし、それよりもさくらは文香の胸の奥、心臓が早馬のように鳴り響いている事実に反射的に抱きしめ返した。

 痛いほどの抱擁。
 絡まり合った互いの脚。
 視線が溶け合い、そして唇が自然と重なり合う。

 淫らで一途な水音はしばらく止まなかった。






 二人とも早く繋がり合いたかった。
 夫婦として、愛し合う男女としてセックスしたいと思っている。

 けど、あまりにもお互いがお互いのことを好きすぎて、焦れる身体と裏腹に、心がまだ今の幸せを信じられなかった。
 だから、さくらは長く、ねっとりと文香を愛撫し、文香はただただその愛に溺れた。

ぐちゅくちゅぐちゅぐちゅっっぅ……

「っぁ、んっ、あんっ……!」

 さくらの容赦のない舌使いと、自分の下半身から聞こえる粘液が啜られ、泡立つような音に文香はぴくぴくと腰を震わせる。

「ほら…… ふみちゃんだけ気持ち良くなるなんて狡いよ」
「っ、ん……っ」

 溜まらず文香の口から零れ落ちてしまったさくらの勃起したペニスが責めるように文香の頬と唇をぺちぺち叩く。
 揶揄うように意地悪で巧みな腰使いでさくらはなかなか上手くフェラが出来ない文香を甘く叱った。

「一緒に気持ちよくなるんだろう?」
「うん……」

 さくらの指が文香のあそこを割り開き、今度はゆっくりと舌先を尖らせて襞を愛撫するのが分かった。
 それでもさっきみたいに容赦なくクリトリスをれろれろちゅちゅっと変態的に舐められるよりはマシだ。

(奥、じんじんする……)

 優にいっぱい中まで注がれて、まだそう時間は経っていない。
 それなのに、もう文香の身体はさくらの味を覚え、まるで全てが塗り替えられるように優の痕跡がどんどん消えていく。
 優につけられたキスマークをさくらが上書きしていくたびに、文香の身体はさくら色に染まる。

 そのことが嬉しい。

「ん、んっ」

 ぱくっと、もう一度さくらの滾ったものを銜える。
 口の中がさくらの精液の味を覚え、何度か呑み込んだそれが喉にへばりつき、どろどろゆっくりと文香の身体の奥へと侵入しているような錯覚を覚えた。

じゅるじゅるっと、さくらに仕込まれた通りにわざと厭らしい音を立てながら、文香は頬いっぱいに満ちる質量と噎せ返るような青臭い匂いに、また自分の下半身からじわっと淫液が滲むのが分かった。

「……そう、いい子だね」

 さくらに褒められたことが嬉しい。
 けど、いつもなら頭を撫でてくれるはずの手は文香の下半身に伸びている。
 なんだか物足りなくて、文香はわざとさくらのそれに柔らかく歯を立てた。

 その途端、ぴくぴくペニスの血管がグロテスクが脈打つものだから、文香はまた驚いて口を放してしまった。

 ぺちっと、尻を叩かれ、お仕置きとして文香が今一番苦手とするアナルを責められ、結局さくらの望む前戯は文香の気絶で漸く終わった。



* *

 
 さくらに片脚を持ち上げられている最中に文香は目覚めた。

「起きた……?」

 文香の髪を撫で、その耳朶を擽るさくらに文香は小さく吐息を零す。
 さくらが勃起したそれを無言で擦りつけて来る。 

「……もう、いいよね?」
「……う、ん」

 何を、なんて聞かなくても分かる。

「手、握っていい……?」

 そんなこと、聞かなくてもいいのに。
 顔を真っ赤にして、汗をびっしょりかいて、余裕のないさくらの表情に、文香はなんだか泣きたくなった。
 無言で、ぎゅっとその手を握り返した瞬間、さくらがほっとしたような小さな息を零すのを見て、文香はこのまま死んでもいいと思った。
 そんなこと、もしもさくらに知られたらきっと容赦ないお仕置きをされるだろう。

「挿れるよ?」

 でも、本当にこのまま死にたいと文香は思った。

 あまりにも幸せだから。
 ずっと、時が止まればいいのに。
 これから先、他は何一ついらない。
 
 この幸せの瞬間で人生が終われたらいいのに、と思ってしまう。

 そんなことを考えている間に、あっさりとさくらのそれは文香の中に埋め込まれた。

「あ……っ」

 当たり前だ。
 文香は処女ではないし、散々元夫のペニスを銜え、気絶するほどさくらに愛撫されたのだから。

「っ、は、いった……」

 まるで初めからそれが当たり前のように難なく文香の膣はさくらを受け入れ、さくらのそれは文香の中にすっぽりと埋まった。

「さくらと、つながった……」

 ぎゅうぎゅうと、まるで胎を圧迫されるような質量と熱に自然と涙が零れる。

「ふみちゃん……」
「さくら……?」

 そんな文香の涙に混じるように水滴がぽたぽたと落ちて来る。
 霞む視界に、さくらの泣き顔が映ったとき、文香は笑った。

「な、に…… ないてるの……」

 その涙を拭おうとする文香をさくらはぎゅっと力強く抱きしめた。
 文香の中に埋め込まれたさくらのそれが更に奥へと侵入する。
 痛いのか苦しいのか、それとも気持ちいいのか。
 もうそんなことも分からないほど、二人の繋がったそこは熱く、溶けてしまったようだ。

「ふみちゃん、ふみちゃん……」

 まるで小さなさくらに戻ったように文香にしがみ付き、その顔を、首を、胸を。
 唇が触れられる場所全てに恭しく口づけるさくら。
 その度に熱いさくらの涙が文香の肌を濡らす。

「……泣かないでよ」

 さくらの頭を撫でる。
 文香の中に埋め込まれたさくらのペニスが脈打ち、それが堪らなく嬉しくて幸せだった。
 
「止まらないんだ……」

 文香の頬に頬を摺り寄せ、さくらは囁く。

「幸せ過ぎて…… 涙が止まらないんだ」

 ぎゅっと、繋がったままの二人の身体が溶けていく。
 このまま時が止まればいいのにと、文香はやはり思った。

「僕はね、君とセックスして、キスして、エッチなことして、君の間抜けな顔を見るだけで幸せなんだ。健気だろう?」

 ゆっくりと、さくらの腰が動く。
 本当に、とってもゆっくりと。
 まるで射精するのが勿体ないとでも言うように。

「はぁ…… ん、」

 文香の吐息のような喘ぎ声にさくらがまた涙を零す。
 宝石のような赤い瞳からキラキラと零れる真珠はとても美しく、文香は改めてさくらの美しさに見惚れた。

「その幸せが…… これからずっと続く。明日も、明後日も…… 何年、何十年先まで、ずっと続くんだって思ったら」
「っぁ、」

 文香の弱いところが刺激される。
 さくらはそんな文香の唇に何度も何度も甘えるようなキスをした。

「……君と、この先ずっと一緒に生きるんだって思ったら、」

 何故だろう。
 さくらの涙はもう止まったのに。
 今度は文香の涙が止まらない。
 ぐずぐずと二人して泣いて、夢中になってキスして、少しでも長くこの交わりが続くように必死に快感を耐えている。
 そのくせ、互いが互いをイカせようとしているのだから、まったく馬鹿な夫婦だ。

「幸せすぎて、死にそうになる」

 文香はそんなさくらになんと返したかったのか。
 


 もう、文香の口からは嬌声しか出ない。



* * *


 優は暗い画面のスマホを苦々しく眺める。

 やはり、あの男、渡辺恭一は何か知っている。
 優の知らない文香を知っているのだ。
 そのことに胸を掻きむしりたくなるような嫉妬を抱く。
 
「役立たずめ」

 優を知る者なら、きっと信じられないほど優は荒れていた。
 苛立たしく指を噛みながら頭を掻きむしる。
 優の罵倒は志穂に向けたものか、それとも必死に平静を装っている間抜けな恭一に向けられたものか。
 きっと、その両方だ。

 今の優の心は黒く淀んでいる。

 淀んだ心とは裏腹に優の五感、第六感は冴えわたっていた。
 あの少年との接触がきっかけだと優の勘が告げている。
 きっと、アレは普通ではない。
 そうでなければ優がほんの少しの間とはいえ、文香のことを忘れるはずがないのだ。
 ずっと、別れた間も恋しく、毎晩夢に見るほど、文香のことしか考えていなかった。
 もしも優が写真を見なかったらと考えただけでぞっとする。

 文香のことを忘れ、いずれは新たな恋をして前向きに未来を生きる。
 もしかしたら再婚して、今度こそ子供ができるかもしれない。

「そんなもの、一体なんの価値がある?」

 まるでもう一人の自分に問いかけるように。
 優は美しいウェディングドレスに身を包んだ文香の写真を愛しそうに見つめた。

「文香のいない人生なんて……」

 優への愛情を惜しみなく溢れさす文香。
 それがもう二度と手に入らないなんて、冗談ではない。

「文香……」

 俺の全部をあげると、そう言ったのに。
 まだ、全部受け取っていないのに、どうして消えてしまったのだ。

 意地悪な文香がそれでも愛おしい。
 写真の文香にキスしながら、優は早く文香に会いたくて仕方が無かった。

 会いたい。

「……文香に、会いたい」

 会いたいなら、会いに行こう。

 



 久しぶりに文香の夢を見た。

 裸ですやすやと眠る文香はとても幸せそうで、ぽってりとした赤い唇に引き寄せられるように優は顔を近づけようとした。
 
 久しぶりだ。
 こうして、夢の中で文香にキスしようとするのは。
 愛しい女を抱こうとするのは。

「文香……」

 早く、早く。
 文香を感じたい。
 文香に自分を感じて欲しい。

「好きだよ」

 ずっとずっと好きだ。
 別れたって、違う男と結婚したって、そんなのどうだっていい。

「愛してる」

 優はただ、ずっと文香の傍にいたいだけだ。
 それ以外何一つ望まない。
 それなのに、そのたった一つのことが、こんなにも難しい。

 文香の頬に手を添わせ、赤く濡れた唇や伏せられた瞼、陰を落とす睫毛を優は夢の中で切なく見つめる。
 
「どうしたら、いいんだろうな……」

 どうしたら、ずっと文香と一緒にいられるのだろう。

 そんなことを思いながら、優は文香の唇に触れようとした。
 身体中が、魂が熱く昂って行く。
 早く、文香を感じたい。

 もうすぐ唇が触れる。
 あんなにいっぱいでキスしたのに、もうこんなにも恋しい。

 優の吐息が文香の唇にかかるほどの距離。
 その瞬間、優は強い違和感を抱いた。

 文香に、嫌な匂いが纏わりついている。

 

「いい夢は見れたかい?」

 

 そして、優の視界は反転し、文香との世界は一変した。



* * * *


 優は夢を見ていた。
 夢でなければ可笑しい。

「お前は……」

 文香との夢が勝手に塗り替えられ、気づけば優は男と対峙していた。

「いや、君は……」

 このとき、優は何故か目の前の男はあのとき公園で見た年下の男、文香に懐いていた少年だと直感した。
 そんなはずはない。
 どう見たって年齢が違う。
 
「さくら、君?」

 けど、所詮は夢だ。

 優の出鱈目な夢でしかない。
 目覚めれば、都合よく全てを忘れる、いつもの夢でしかない。

「本当なら、君如きに名前なんて呼ばれたくないけど…… まぁ、特別許してやるよ」

 そうであるはずなのに、この足元から這いずるような不快感はなんだ。

 警鐘が鳴り響く。
 危険だ。
 目の前の男は危険だと。 

「はははっ 本当、何も知らないんだね」

 優を嘲笑い、そしてどこか哀れむように、それでいて残酷に冷酷に嗤うさくら。
 その赤く色づき、腫れぼったい唇から目が離せない。

 何故か、文香の唇が脳裏を一瞬よぎり、そして唐突に自分が気絶したときのことを思い出した。
 あのとき、最後に見た光景、耳に届いた嘲笑。

 悪意を。

「 せいぜい楽しみなよ、  」

 
 あのとき、さくらはなんと言った?
 優を、なんと呼んだ?
 
「そう、警戒するなよ」

 あのときと同じ、いやそれ以上の悪意を滲ませ。
 さくらは囁く。

「なぁ、  」










「兄弟」

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