奥様はとても献身的

埴輪

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≪過去②≫

32 へたくそ 前

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 出来ることなら、今すぐ気絶したい。
 昂ったさくらの股間を前に、文香は泣きそうになっていた。

「僕に奉仕するんだろう? ここからが本番なんだから」

 さくらは容赦がないどころか、喜々として文香の精神を痛めつけようとしていた。
 ベッドの上で膝立ちになり、さくらは異様に盛り上がった下半身を見せつけて来る。
 逃げ場はなかった。
 
「まさか、フェラもしたことがないわけ?」
 
 直球すぎる問いに、文香は小さく首を横に振る。
 その顔は真っ赤になっていたが、どこか複雑そうな色が浮かぶ。
 文香は今の今まで初彼であり元夫である優としか性行為をしたことがない。
 優以外の男を知らないのだ。
 当然、それ以外の男の裸体も見たことがない。
 
「へぇ~ じゃあ、君って旦那以外のちんことか見たことないんだ」
「……元、旦那だから」

 芸術品のように整ったさくらの口から卑猥な単語が飛び出るのは心臓に悪い。

「なら、どういう風に咥えていたのか…… やってみてよ」
「……」
「ほら、早く」

 じりじりと追い詰められ、文香は膝立ちになったさくらの前で四つん這いになり、目の前のテントを見つめる。

 優以外の初めての男の下半身。

(……こんなに、大きくなるものなの?)

 まだ実物を見ていないのに、文香の心に怯えが生じる。
 別に優のあれが小さいわけではない。
 実際に優とさくらのあれのサイズは大して違わないのだが、文香にはさくらのが特別大きく見えた。
 まだパンツから出してもいないのに。
 さくらから漂う雄のフェロモンが文香に無駄な緊張感を与えているのだ。

(怖い……)

 けど、いつまでもさくらを待たせるわけにはいかない。
 さくらよりも、じとーっと背中に感じる視線に冷や汗をかいた。

(居心地が悪い……)

 見覚えのある、けれど一度もまともな会話もしたことがない見目麗しい男。
 さくらの奴隷、信奉者の一人が先ほどからずっと無言でベッドの上にいる自分達を見ている。
 男の視線はさくらに向けられていたが、時折驚くほど鋭く敵意に満ちた視線を文香に向けて来るのだ。

 さくらは気づいていないのだろうか。

(……気づいていても、興味ないんだろうな)

 さくらと、奴隷の男の視線に促され、文香はさくらの下半身に恐る恐る手を伸ばした。
 ベルトの金属音が響き、より一層背後の男の視線が険しくなった気がする。
 顔を真っ赤にし、睨むようにさくらのそれを見ている今の文香は幸いにもそれに気づかなかった。

 細身のパンツ。
 逞しくも引き絞られさくらの肉体はネコ科の肉食動物に似ている。
 
「チャック下すときは気を付けてよ?」

 揶揄うような声に文香は返事しなかった。
 そんな余裕あるはずもない。

「あ、口で下してね」
「……」

 さくらのその注文に文香はぎゅっと自分の唇を噛みしめた。
 そして、顔をさくらの下半身に近づけ、言われた通りに口でチャックを銜え、じれじれとゆっくり下していく。
 鼻先に当たる熱い感触に、これが夢であればいいのにと現実逃避したくなった。

「旦那のちんぽ咥えてたんだからやり方は分かるよね?」

 盛り上がったボクサーパンツを前に文香は涙目でふるふると首を横に振る。
 
「やったことは…… ある、けど……」

 弱弱しく、涙が混じったか細い声。
 文香はさくらに意地悪されたり、可愛がられたりすると、途端に普段の理知的な性格が鳴りを潜める。
 あんなにも意地っ張りで気の強い性格が嘘のように幼く、何も知らない乙女の風情を見せつけるのだ。

「うまく、できない、の……」

 もじもじと裸に赤い首輪という、なんとも扇情的な姿で文香が俯く。

 この格好はさくらの趣味だ。

 せっかくのクリスマスだからと、文香に赤い首輪をつけた。
 トナカイをモチーフにしたらしく、黄金色の鈴もご丁寧についている。
 おかげで四つ這いになってシーツの上を這うだけでちりんちりんと音が鳴り、余計に恥ずかしかった。

「……やりかた、なんて…… しらない」

 どこか悔しそうに、辱めに堪えるように唇を噛みしめる文香。
 そんな文香を見下すさくらは微動だにしない。
 じーっと睫毛を揺らして、胸や下半身を隠そうともじもじする文香を凝視している。
 上から見下ろすとその赤い首輪と白い谷間が見事なコントラストとなって鮮やかにさくらの視界を刺激するのだ。
 豊満な肉体、エロ目的でしかない首輪と、見事な婀娜っぽさを全身から醸し出しているくせに。

「……わたし………… へ、へた、だから……」

 ぐすっと鼻をすすり、文香は頼りなくさくらを見上げる。
 潤んだ眼差しと、真っ赤になった顔。
 稚く、文香はさくらに哀願する。

「ご、めんなさい……」

 霞む視界に映るさくらの顔があまりににも険しくて、文香は思わず視線を逸らす。
 普段は痛々しいほど真っ直ぐさくらを見るくせに。
 こんな場面で弱弱しく視線を逸らし、またちらちら伺い、しゅんと俯く。

「……」

 そんな文香にさくらは無意識で拳を握りしめた。
 険しい表情に反し、その目は赤く滲んでいる。
 何よりも下半身を見ればいかにさくらが興奮しているのか分かるだろう。

「……本当、」

 さくらの誇るべき下半身が異常なまでに昂り、食欲とはまた違うむくむくとした性欲が湧き上がる。
 だが、その性欲ともまた何か違う気もした。

 とにかく、訳も分からず興奮する。

「本当、君って……」

 続くはずだった罵倒は結局出なかった。
 しゅんっと更にしょんぼりと肩を落とす文香に、言い様のない高揚感に翻弄される。
 気を抜けば顔がにやけてしまいそうなほど。

(くそ、一体なんなんだ……)

 正体が分からないからこそ、気が散ってしまう。
 まともに何も考えられず、とりあえずさくらは文香の首輪に繋がっているチェーンを引っ張った。

 ちりんっと、鈴の音が響く。

「……無駄口はいいから、とっとと口を開けろ」

 傲慢な命令に反し、文香の顎を撫でるさくらの手は、甘い。

「わからないなら、身体で覚えてもらう。僕の言う通りにしろ」
「……は、い」

 優しくはない。
 ただ甘かった。

 首を締め付けられ、文香は苦しそうに息を吐き出す。
 だが、その姿は酷く従順で。
 さくらに全てを委ねようとする姿は、健気で、とても厭らしい。
 文香は自分の姿を果たしてどこまで認識しているのか。
 そんな恰好で、そんな身体で、そんな顔で。
 何も知らない少女のようにさくらの言葉を素直に受け止める無垢な精神とのアンバランスさは、酷く背徳的だ。

「君は……」
 
 さくらの顔が近づく。
 涙が浮かぶ文香の瞳にさくら自身の顔が映った。

 何か言おうとして、さくらは一度首を振って言葉を呑み込んだ。

「口に咥えて」

 無情な声で、さくらは文香に命令する。
 一度小さく肩を震わせ、文香は恐る恐るとボクサーパンツ越しに熱く昂ったさくらのペニスを唇で食んだ。
 滑った文香の小さな舌や赤く熟れた唇がそっと優しくさくらの大事なところに触れる。

「……もっと、大きく開けて。それじゃ、ちっとも入らないだろう?」
「ん……っ」

 さくらの長い指が文香の髪を乱暴に、そしてあやすようにかき混ぜる。
 その指の動きに促され、文香はぎゅっと目を瞑って言われた通りに口を大きく開けた。
 そのまま、ぐぐっとさくらに後頭部を押され、文香の口の中に異物が入り込む。
 恥ずかしくて、間近にあるそれを目にすることはどうしても躊躇われた。
 口の中に熱くて、それでいて硬い男の性器が入り込んでいる。
 いや、咥えている。

「……歯を立てるなよ?」
「んんっ……」

 そう言いながら、ゆっくりとさくらのそれは大きくなり、更に深く押し込んで来る。
 文香の唾液で湿って行くボクサーパンツ。
 唾液が口の端から零れ、シーツにぽたぽたと染みを作る。
 手をどこに置けばいいのか分からず、自然と文香はチェーンに引っ張られるがまま両手をシーツにつけた。
 まさに従順な犬そのものの姿勢である。
 そうすると必然的に谷間を強調する形となるのだが、生憎それを知るのはさくらだけだ。
 涎を垂らし、息をしようと苦しそうに喘ぎ、そして必死にさくらの立派な塊を咥えようと健気に頑張る文香。

 布越しにもじんわりと染みる味と、匂い。
 久しぶりに感じる男のペニス。
 優以外のものを今まで見たことも触ったことも咥えたこともなかった。
 だから、文香には判断がつかない。

(男の人って…… みんな、こうなの……?)

 生々しく、出来れば今すぐ吐き出したくなるほど濃厚な雄の匂い。
 気持ち悪くて、熱くて、苦しくて、懐かしい。

「うっ、んん……っ!」

 喉の奥からせり上がって来そうな吐き気、それを呑み込もうと嚥下すれば口の中に自分の唾液が溢れかえる。
 布越しのさくらのペニスが沁みた唾液が。

 吐きそうなほど不快な匂いがする。

「飲んで」

 冷たく、有無を言わせないさくらの言葉に文香は拳を握りしめて必死に溺れそうなほど溢れかえった唾液と、それだけではない何かを呑み込んだ。

 気づけば無我夢中で濡れた男物のパンツをしゃぶっている。
 硬く、熱く感じるさくらのペニスに張り付く布。
 そこからにじみ出る唾液に混ざったペニスの味にくらくらする。

 大きな、飴玉を懸命に舐めているような。
 ぴちゃぴちゃという濡れた音が恥ずかしい。
 目を瞑っているせいで、よりダイレクトに感覚を刺激される。

「本当、不器用」

 揶揄うわけでも、馬鹿にするわけでもなく、淡々とそう文香を称するさくら。
 さくらにとって文香のフェラはフェラとは決して言えない稚拙すぎるものなのだろう。
 それこそペットの戯れぐらいにしか思っていないはずだ。
 その証拠に一向に射精の兆しが見えない。

(でも…… どうして?)

 薄っすらと涙を浮かばせながら、熱に浮かされながら文香は不思議に思った。

(どうして、こんなに大きいの……?)

 まったく射精する気配を見せないのに、さくらのペニスは顎が苦しくなるほど大きくて、未だ全部収まりきらないのだ。
 こんなにも、男のそれは大きくなるのか。
 優のサイズなど今まで気にしたこともなかった。
 いや、気にする余裕などなかったというのが正しい。
 フェラをしたことがあっても、文香が少しでも苦しそうにすれば優はあっさりと自分の中途半端に勃起したペニスを引き抜く。
 だから、文香にはさくらのそれが常人に比べて大きいのか。
 優とさくらのそれがどう違うのか。
 それすらよく分かっていない。
 見ても触っても、口に咥えても、きっと分からない。
 実際に、さくらのそれを受け入れない限りは比べようもないのだ。

(さくらのを、受け入れる……?)

 惚けた頭で、ふと浮かんだ考えに文香は居た堪れない気持ちでいっぱいだ。
 一瞬でも、考えてしまった。 

 とても、くだらなく下品なことを。

 そのことにどくどくと心臓が早鐘を打ち、全身が熱く燃えるようだ。
 熱は文香の思考を、意地っ張りな涙すら溶かしてしまう。

「んっ、ふ……っ」

 さくらの手が、文香の顎を撫でる。
 
「よそ見する暇なんてないだろう?」

 どうやらさくらは敏感に文香の意識が一瞬違う方に集中したことに気づいたようだ。
 今日一番の冷たい声が頭上から降って来る。
 それなのに、さくらは文香の後頭部を撫で、項を擽るだけでそれ以上無理に押し込むこともない。
 もっと、乱暴に無理矢理喉の奥に押し込まれるかと思ったのに。

「……本当、下手だ」

 さくらの呆れが滲んだ冷たい声。
 その語尾が微かに震え、愉悦と熱に支配されていたことに文香もさくらも気づかなかった。

「ふっ、ん……」

 ずるっとさくらのそれが離れていく。
 文香の唾液とさくらの粘液でびしょ濡れになったボクサーパンツ。
 あんなにも不味くて苦しかったものがいざ口の中から消えると途端に追いかけたくなる。
 つい、恋しがるように名残惜しく切ない吐息が文香の口から唾液と共に零れた。

「あーあー…… こんなにべたべたにして……」

 さくらの指が文香の顎を、唇を撫でる。
 熱に犯され支配された文香は戸惑いながらも布地が張り付き、その形を大胆に誇示するさくらの下半身から目を逸らすことができなかった。
 誘惑的な香りが文香の鼻腔を擽り、無意識に唾を呑み込む。

「次に、何をするべきか…… 分かってるよね?」

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