奥様はとても献身的

埴輪

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≪過去②≫

28 君ほど世話の焼ける女はいないね 後

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 文香はちらちらとさくらを、そしてその傍にいる給仕の男を見ないようにした。

「君、胸が大きいから…… まず、ブラジャー取って。それからキャミソール一枚になって」

 訳の分からない命令に逆らう気力もなく。
 文香は小さく頷いた。

 不器用ながらも、さくらの指示通りにブラジャーを外す。
 下着を見られるのが恥ずかしく、外したものをすぐに背中に隠した。
 キャミソールの布地を押し上げる胸はブラジャーがなくなったことで一気に無防備となり、スース―する。
 そのせいで、乳首が僅かに勃起し、布に擦れて泣きそうになった。
 両腕を交差して隠そうとすると、豊満な肉の塊がむにゅっと盛り上がる。

 羞恥で震えが止まらない。
 
「腕どかして…… そう。それから、両手で下から胸を持ち上げてごらん」

 ぎゅっと目を瞑る。
 暗闇の中でさくらの命令する低い声が、不思議と優しく文香の耳を撫でる。
 煩い心臓の音を聞きながら、文香は言われた通りに肌着の上からじんわり汗ばむ胸を下から持ち上げる。

「掌をお椀型にして、全部包み込むように…… 揉んで、寄せて…… もっと、強く、弱く…… そう、力加減を変えて、優しく揉んで、今度は乱暴に……」
「……っ、ぅ」

 さくらの言う通りに手を動かす。
 自分の胸をこんなに触ったのは初めてだ。
 この動作に一体なんの意味があるのだろう。

「ああ、さっきよりも乳首が勃って来たね。そうしたら…… 布の上からまず乳輪を指先で撫でて…… 今度は、乳首を擽って…… ぎゅって、摘まむんだ」

 さくらの言ったとおりに、布の上から勃起した乳首を弄る。
 途端、文香は慌てて奥歯を噛み締めた。
 お尻から背中、背骨を通って僅かに痺れるような軽い電流を感じたのだ。 

「っ、ぁ……」

 声が、漏れそうになる。
 必死に耐えようとすると、自然と呼吸が荒くなった。

(な、何……?)

 怖い。
 
「今、感じたのと同じように…… 愛撫を続けて」

 けど、さくらの言葉には逆らえなかった。
 あんなにも意地悪で、今も文香を苦しめているのに。
 暗闇の中から聞こえるさくらの声は今までで一番優しくて、ついその声に縋り付きたくなる。
 言うことを聞いてしまう。

 ドキドキと早鐘打つ鼓動。
 それと共に、甘い匂いがした。

 あのときの悪臭とは違う。
 文香にとっては、とても芳しい香りだ。
 脳味噌が、溶けていくような。

「後ろに寄りかかって、足を伸ばして姿勢を楽にして。それから…… 指を舐めて、唾液をたっぷりとつけるんだ。……そう、そんな感じ」

 ちゅぷっと、人差し指と中指を二本口に入れる。
 唾液を湿らせようとするたびにちゅぱちゅぱと棒付き飴を舐めているような変な音がして恥ずかしい。

「いい子だ」

 それなのに、さくらに褒められて嬉しいと思ってしまう。

(変だ…… 私、おかしくなってる……)

 自分が可笑しくなっていると自覚しても、文香の手は止まらない。
 さくらに言われた通り、肌着の上から唾液で濡れた指で乳首を弄る。
 鼻にかかった声が漏れそうになる。
 それを耐えようとした。

「だめ。声は抑えるな」

 さくらのその命令に文香は泣きそうになった。
 
「ぁ、……っ!」

 そして、誰が聞いても分かる嬌声がとうとうその場に響いてしまう。

「……今度は直接胸を触るんだ。そして、足を開いて」
「っ、ぁ……」

 まるで耳元に吐息を吹きかけられたような。
 さくらの声に、文香は自分が興奮していることに嫌でも気づかされた。
 文香とていくら性欲が薄くても、経験はそれなりにある。
 今、身体が熱くて堪らないのも。
 普段の自分からは想像も出来ないような甘ったるい声が自然と漏れるのも。

 足を、開くのを躊躇ってしまうのも。

「いいから、股を開け」

 ショーツが濡れる理由を知らないほど、文香は無知ではない。

「なんだ…… 初心なこと言って、君って結構いやらしいんだね」

 さくらが笑う。

 反論などできない。
 自分自身の愛撫で感じているのは本当のことだ。

「もしかして、浮気した元旦那のことを想像してた?」

 さくらの言葉に文香の顔が強張る。

 肯定はしないが、否定もできない。
 優の愛撫しか知らず、優でしか感じたことのない文香は必然的に自分の身体を愛撫するとき、優のことを思い出してしまう。
 優の指を想像したわけではない。
 ただ、似たような仕草で優に同じことをされたなと、嫌でも記憶が蘇るのだ。

 身体が、まだ別れた夫のことを覚えている。

 それが悔しかった。

「……まぁ、なんでもいいや。君がイクとこさえ見れれば」

 文香を翻弄した当のさくらのその言葉に文香はまた別の意味で強張った。
 じっとりと湿った空気から、できれば逃げ出したい。
 この未知の感覚の先を文香はまだ知らないのだ。

「乳首を愛撫しながら、片手でクリトリスのとこを弄ってごらん」

 さくらの視線が文香の下半身に注がれているのが分かる。
 文香は身体を洗うときでしか触らないところを、優に何度も丁寧に舐められたところに恐る恐る手を伸ばす。
 無意識に唾を呑み込んだ。

「絶対に、声は抑えるな。派手に喘げ」

 簡単にそんなこと言わないで欲しい。
 だけど、文香の身体はさくらの命令に忠実だ。

ぐちゅっ

「はっ…… んっ、ぁっ」

 パンスト越しに触れただけなのに、もうこんなに湿っている。
 
ぐちゅ、ぐゅくちゅっ

「っぁ、あ、んっ……! はっ、はぁ、んっ、ん……っ!」

 こんなに自分の吐息が熱いなんて思わなかった。
 異常な空間、異常な体験。
 厭らしくて、とにかく下品で。
 淫らなことをして、見られているのに。

 さくらの声を、その命令を、嘲りを、視線を、強く感じれば感じるほど指が止まらなくなる。
 さくらの言う通りに、従いたくなる。

 どうして。

ぐちゅぐちゅ、ぐりぐり……

 なんで。

「あんっ、んんっ、っぁ、はぁん、んっ、ぁっ……ん!」

 なんで、こんなにも気持ちがいいのだろう。

(やだ、やだ……っ 変、こんなの……っ)

 自分が自分で無くなる感覚が怖い。
 だって、文香はこの先の感覚、快楽を知らない。

(イクなんて…… そ、んなの…… 知らない)

 知識としてはある。
 けど、文香は一度も絶頂の快楽というものを味わったことがない。
 緩やかなさざ波のように優しい優とのセックスにいつだって満足していたからだ。
 文香が少しでも嫌がれば、優は無理強いをしない。
 だから、こんな苦痛と恐怖を覚えるような愛撫など味わったこともなかった。

 歯止めが利かず、たださくらの命令のままに文香は乳首を捏ねり、ぐちょぐちょにパンストを濡らして薄い布の上から勃起したクリトリスをなぶった。

 怖いぐらいに気持ちが良くて、自分が今どんな表情を浮かべているのかも分からない。

 枕に寄りかかり、足をぴんと伸ばし、文香の視界は霞み歪んでいた。
 涙の膜越しに、赤く燃える宝石を見た気がする。

「……そんな涎を垂らして、喘いで。手が止まらないほど、気持ちいいんだ?」

 遠くから聞こえる艶やかな声に文香はこくこくっと頷く。

「あんっ! んっ、ぁ、い、い……、はぁんっ、きも、ちぃ……っ!」

 もう、慣れてしまった甘い匂いがきつくなる。
 今は、もっと嗅ぎたいと思った。

「ああ、漸く効いたのか・・・・・……」

 どこか嬉しそうなさくらの声に、文香もまた嬉しくなった。

「君の淫らな姿は…… 悪くない」
 
 文香は喘ぎ、腰を振る。

「声も、僕好みだ」

 もぞもぞとする感じが堪らなく切ない。
 お尻が何度もシーツの上から浮き、その度にお漏らししたように濡れている臀部が恥ずかしかった。

「もっと乱れろよ。僕の前で、もっと喘いで、感じろ」

 けど、止まらない。

 もっと、もっと。
 この先にある快感を。
 さくらが望む、淫らな自分を曝け出したい。
 もっと文香の理性を溶かして欲しい。
 本当の文香を見て欲しい。

「……いい子だ。顔を上げて、僕にイクときの顔を…… よく見せて」

 さくらの甘い香りと声に、文香はぽろっと大粒の涙を零す。
 声にならない叫びに似た嬌声。

 腰の奥から全身を駆け巡る、電流に似た刺激。

 一瞬、全てが真っ白な光に包まれた。



* 


 さくらは文香が果てる姿を食い入るように見ていた。
 全身を駆け巡る歓喜に震える。

「……どう? 初めての自慰は」

 切ない吐息を吐き出す文香は汗と唾液、愛液で濡れていた。
 身体が火照て、無意識にシーツに頬を摺り寄せている。
 涙で濡れた睫毛に、赤く腫れた唇。
 朱色の目元に、さくらは気づけば唾を呑み込んでいた。

 さくらが移動し、間近で文香の痴態を見ていたことに、まだ気づいてもいないのだろう。
 
「こ、んなの、し、らない……」 

 ぐずぐずと鼻をすすり、涙を今度は近くの枕に擦りつける文香はいじける幼子のようだ。
 むわっと、その肉体から漂う精気に気づいてすらいない。 
 なんとも少ない量だが、今の文香を見て色気がないなんて口が裂けても言えないだろう。

 やはり、この女は特異体質なのかとさくらは思考を巡らす。

 しかし。

「これが…… いくっ、てこと?」

 文香の怯えたような泣き声にさくらの思考が乱れる。

「……君、イクのも初めてなの?」
「…………ん、」

 小さく枕に顔を埋めて文香は頷く。

「……もぅ、やだぁ、こんなの…… しらない……」

 しくしくと泣きながら、文香は初めての快楽と絶頂。
 その他の羞恥や取り戻せないプライド、倫理観、価値観。
 文香にとって大事なものが一気に押し寄せ、今になって強いショックと自己嫌悪の嵐に襲われていた。

「わ、たし…… こんな、いやらしく、なかったのに……」

 みっともなく涙が止まらない。

 もう、自分は穢れてしまった。
 心が、穢れてしまったと、本気で自責の念に駆られていたのだ。

「こわい……」





 さくらもまた初めてだ。
 うじうじと泣く文香を見て、頭から強い何かを、例えるなら雷が落ちたような、そんな訳の分からない衝撃を受けていた。

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