奥様はとても献身的

埴輪

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≪現在②≫

23 再びお風呂

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 さくらは飽きもせずに文香の唇にちゅっちゅっとキスをした。
 小鳥が餌を強請るような可愛いものばかりで、くすぐったさすら感じる。

 一晩中、さくらは文香とキスをしたがった。

 身体の汚れが気になる文香を横抱きにし、そのまま浴室に連れ込むまでずっと唇を離さないさくらはもう見た目は成人した立派な男性なのに、まるで幼く無邪気な少年に見える。
 
「ふみちゃんにはいっぱいお世話になったから、今度は僕がお世話してあげるよ」

 嬉しいでしょ?と、それが当然とばかりに傲慢に微笑むさくらに文香は笑った。
 文香の愛を疑わないさくらは姿形が変わっても、やはりその自意識過剰なところはそのまんまだ。
 むしろあんな小さい頃からこんな性格だったのかと思えば一層感心する。

 そんな文香の余裕は長くは続かなかった。

 てっきりお湯でも溜めてくれるのかと思ったが、さくらがそれで満足するはずがない。
 これは文香がいけない。
 元に戻ったさくらに安堵し、安心して惚けていた文香はすっかり油断していた。
 





 奇妙な既視感を抱きながら、文香はさくらの彫刻のように美しい裸から必死に目を逸らした。
 
「どう? 気持ちいい?」

 背中に暖かなシャワーが降り注ぐ。
 さくらの大きな男の手が文香の背中の感触を確かめ、ゆっくりマッサージするように撫でる。
 擽ったく、それでいてドキドキするような感覚に文香は顔を赤くした。

「さ、くら……っ」
「ん? なぁに、ふみちゃん?」

 絶対にわざとだと思いながらも、久しぶりすぎるさくらの精悍な顔や決して細くない立派な体躯になんだか慣れずにそわそわしてしまう。
 子猫のように無害(?)なさくらが一層懐かしいほどだ。

 さくらの鼻筋が文香の項を撫でる。
 髪を急にかきあげられたときは思わず肩が跳ねた。
 背後で小さく笑われた気配がしたが、それに怒る余裕などない。
 項の匂いを嗅がれ、そしてぱくっと甘噛みされる。

「っ、」

 ぴくっと驚き立ち上がろうとする文香だったが、さくらの手はいつの間にか文香の腰に回されており、とても立ち上がることはできなかった。
 ぎゅっとさくらの立派な胸板が背中に当たり、そしてタオルすら巻かれていない一部が文香の尻の辺りを擦って来る。
 何か抗議したいのに、それは結局言葉にならない。

ちゅ、ちゅっ

 浴室に響く可愛らしいリップ音。
 文香の項を、鎖骨を、背中をさくらは口づけていく。

 優につけられたキスマークを消すように、それかマーキングしなおすように、どこか子供っぽく、野生の獣のような雰囲気に文香の鼓動が暴れてる。

「っぁ、さくら……」
「んっ、ふみちゃん…… ここや、ここも…… 本当に数えきれないぐらい、いっぱいマーキングされちゃったね」

 揶揄うような軽い口調と裏腹に、どこか低く聞こえる、艶を帯びた声色。
 天使のような少年の声を聞き慣れ過ぎたせいか、一気に声変りしたさくらの声に今更ながら文香はショックを受けた。

 さくらの手が背後から伸びる。
 文香の胸を、臍を、そして下腹部へ。
 さくらのキスに夢中になっていたのは文香も同じだ。
 軽く下腹部を圧迫されただけで、中にまだ残っていた優の精液が漏れ出て来る。
 反射的に我慢しようと膣に力を入れると、より生々しくその存在を認識してしまう。
 文香の努力を嘲うようにさくらの長い指が透明になった精液を掻き出そうとする。
 時間が経って固まったそれの残滓にお湯をかけ、少しずつほぐすように撫でていく。
 まるで小さな子供が親に下腹部を洗われているような、そんな羞恥に文香は身を震わせて嫌がったが、さくらはただ優しく宥めた。

「ダメだよ、ちゃんと綺麗にしなきゃ」

 よしよしと濡れた手で頭を撫でられ、完全に子供扱いされている現実に文香は唇を噛んだ。
 気づけば裸のさくらに背後から抱えられている。
 拒みたいのに動くとさくらのペニスに尻を擦りつけることになってしまう。
 何よりも、こんなときでもお構いなしに横から文香の唇に飽きもせずにちゅっちゅっとキスして来るさくらを本心では拒絶したくない。
 すっかり唇へのキスの虜になったさくら。
 それは文香とて同じだ。

「大丈夫、何も怖くないから…… 目、閉じてて?」

 唇だけが触れ合う稚拙なキス。
 さくらの吐息に触れながら、文香はおずおずと瞼を閉じた。
 滑った舌が文香の唇を濡らし、時折上唇や下唇を食まれる。
 その間にもさくらの指は器用に文香の中に侵入し、その刺激で強張るたびに唇で慰められた。
 目を開けようとすれば瞼にキスされる。

「っぁ、」

 さくらの長い指が、文香の奥の弱点を刺激した。
 反射的に漏れた文香の嬌声に、さくらはくすくすと笑った。

「可愛い声」

 つい前まで風呂場で全身を洗ってあげていた男の子と同一人物とは思えないほど艶に満ちたさくらの声。

「声、我慢しなくていいから」

 耳元に吹き込まれ、ぞわっとする。
 さくらは優しく、本当に優しく丁寧に文香を扱ってくれる。
 文香が冷えないようにお湯をかけ、時間をかけて丹念に、一層しつこいほど丹念に文香の中に残った優の精液を掻き出した。

 緊張し、強張っていた身体から力が抜く。
 脱力した文香を背後から抱きしめながら、さくらは額にキスする。
 よく我慢できたねと褒めるように。



 お風呂にお湯が溜まると、さくらは当然のように文香と一緒に入った。
 幼いさくら用に買ったアヒルさんが習慣で浮いている。
 メンバーは変わらないはずなのに、一人さくらが大きくなったせいでだいぶ狭くなった。
 身動き一つできないほどである。
 さくらが一番体格がよく、はみ出そうな脚に苦戦しているのに、なんだかとっても満足しているようだ。
 さくらは文香を自分の股の間に座らせ、肩に顎を置いて腹に腕を伸ばす。
 より密着して来るさくらに文香はもうのぼせてしまいそうだ。

「後で、僕がシャンプーしてあげるね」
「……それぐらい一人でできるから」
「分かってないな、ふみちゃん」

 相変わらず鈍いんだからとつんつんと髪の毛を引っ張られた文香は嫌そうな顔をする。
 文香が笑えばさくらは喜ぶ。
 文香が嫌がるとさくらは愉しい。
 何をしてもさくらは文香で上機嫌になるのだ。
 そんなさくらを唯一苛立たせるのもまた文香である。

「ただ僕が君をべたべたに甘やかしたいだけ。骨が溶けちゃうぐらいに甘やかすから、覚悟してね?」

 ぎゅっと腰に回されたさくらの腕に力が入る。
 筋肉質なその腕に文香は幼いさくらが懐かしくなった。

 甘く、本当に骨が溶けてしまいそうなさくらの囁きに、お湯で温まった身体に寒気が一瞬走った。

「いっぱい可愛がってあげるから」

 愛しそうに指で頬を悪戯してくるさくらに文香はただドキドキするしかない。

「ふみちゃん、こっち向いて?」

 狭い風呂の中では少し動くだけでも辛い。
 それでもさくらの求めに文香はゆっくりと振り返る。
 
 満足に見れなかったさくらの姿が露になった。
 黒い髪が濡れたせいでより一層艶を帯び、さくらの白い顔や逞しい首筋にかかっている。
 優美で耽美な雰囲気と野生の獣のようなオーラに文香は圧倒された。
 久しぶりにその独特すぎる色気に触れてしまい、なんだか恥ずかしくて仕方がない。
 ミルクが大好きな子猫が肉食の獣に成長したような。

『ふみちゃん、ふみちゃん、、ふみちゃん』

 脳内にみぁみぁと鳴きながら懐いて来るさくらの笑顔が浮かぶ。
 文香の思い出のさくらを消すように、目の前のさくらが唇を釣り上げる。
 前髪をかき上げ、水を滴らせながら、さくらは目を細めた。
 
「僕に見惚れちゃった?」
「……」

 確かに半分は見惚れていた。
 残りの半分は幼いさくらが懐かしく、もう会えないのかという寂しさに浸っていただけだ。
 子供になっても、いや子供の頃から自分大好きなさくらのお馴染みの台詞だが、どうして大人と子供ではこうも印象が違うのか。
 幼いさくらが言えば可愛いと素直に思えるのに、今の魅力が有り余った大人さくらに言われると、その自信満々なドヤ顔に反射的にイラつく。

 ぴちゃっと小さな水音を立てて、文香は指でお湯をさくらの顔に飛ばす。
 なんなくそれを避けるさくらが文香を小馬鹿にするように笑う。

「ふみちゃんって、本当子供だよね~」
「最近まで子供だったさくらに言われたくないわ」

 仕方がないな~とやれやれと首を振るさくらの頬を抓ようと手を伸ばす文香。
 バシャバシャとお湯が飛び跳ね、狭い風呂の中で暴れようとする二人は上手くいかずに縺れ合い、結果顔を突き合わせて絡む形となった。
 目の前に文香のどこか拗ねたような顔がある。
 さくらがその好機を見逃すはずもなく、当然のようにまた唇を押し付けて来た。
 
「機嫌なおして、ね?」

 ちゅっ、ちゅっと、抱きしめられながらキスされるとどうしても擽ったいような甘ったるい気持ちで満たされる。
 
「……ずるい」
「何が?」
「……私のこと、どうせチョロイ女だとか思っているでしょ?」
「わー ふみちゃん、さすが。名探偵になれるよ」
「……」
「あ、ちょっと太もも抓るのはズルいよ」

 きゃっきゃっきゃっと、年甲斐もなくいちゃつく二人はテンションが上がっていた。
 漸く、さくらが元に戻った。
 幼児化する前に危うく消滅の危機に瀕していたのだ。
 その危機が去ったことが少しずつ実感として湧いて来る。
 嬉しくないはずがない。
 今は優のこともすっかり頭から消え失せ、さくらの愛情を一身に感じながら文香は目を潤ませた。
 泣きそうなほど嬉しく、さくらが愛しい。

「よかった、元に戻って……」
「ふみちゃん……」

 しみじみと呟く文香に、さくらは茶化すことなく頬を染める。
 今度は自然と二人の唇が触れ合い、そして長く触れるだけのキスをした。
 顔の角度を変えるたびに水音が耳に入る。
 吐息は熱く、二人は同じことを考えた。

 唇がゆっくりと離れる。

「……キスだけじゃ、もう足りないよ」

 甘えるように首筋に鼻を埋めてじゃれるさくらに、その台詞に、文香は息を呑んだ。
 優に散々突っ込まれたあそこに熱が灯る。
 さくらがそんな文香の変化に気づかないはずがない。
 何も言わず、文香の後ろ毛を弄ったり、頬を摺り寄せて来るさくら。
 妖しく輝く蜜のような琥珀の瞳がじっと文香を見ている。
 誘うような視線に、のぼせてしまう。

「ねぇ…… ふみちゃん」

 水音すら消えた浴室に、さくらの声は当然ながらよく響いた。

「僕とセックスしよう」

 湯気が籠る視界を潤ませながら、文香は恥ずかしくて仕方がないとばかりにぎゅっと目を瞑り、そして無言で頷いた。

 あのときとは違う。

 今ならきっと、セックスができると文香もさくらも確信していた。
 唇へのキスが成功した瞬間から、二人は内心で期待していたのだ。

 漸く、夫婦として繋がるのだと。
 
「僕、初めてだけど…… きっとふみちゃんをどろどろに気持ち良くして、イかせてみせるから」
「……お手柔らかにお願いします」


 二人は初めてのキスに一晩中酔い痴れ、初めてセックスした。

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