奥様はとても献身的

埴輪

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≪現在①≫

18 スキンなしの立ちバック

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 再会してから、文香とは片手で数えきれないぐらいのセックスをした。
 優の体調を気遣い、オーラルセックスのみの場合を除いてみても、恋人や夫婦だったときよりも頻繁に積極的に交わっている現状は果たして喜ぶべきか哀しむべきか、今の優には判断がつかない。
 そもそもがおかしな話である。
 別れてから三年。
 その間連絡など一回も取らなかった、取れなかったというのに。
 再会したその日からセックスして、その後もひたすら誘惑されて意味も分からずただ流されるままに文香に溺れていた。
 文香の真意を聞くタイミングがなかったわけではない。
 例えその目的を聞けなくとも、今まで何をしていたのか、どんな風に暮らしていたのか、仕事はどうしているのかとか。
 聞けることはたくさんあったのに、いつだって優はそれを躊躇い呑み込んでいた。
 少しでも文香が嫌がる素振りを見せたら、無様なほど優は慌てた。
 文香に嫌われたくなかった。
 面倒な奴だと思われるのが怖かった。
 逃げてばかりいるくせに、何も言わない文香に少しずつ近寄ろうとする浅はかな自分を笑うことしかできない。

 それでも、優は文香が好きなのだ。
 過去ではなく、今も。
 ずっと、愛しているのだ。
 愛しているからこそ、優は文香に愛していると伝えられなかった。
 愛しているのなら、どうして裏切ったのだと。
 そう返されるのが怖いのだ。

 文香を抱き締める夢を見るとき、目が覚めるタイミングは決まっている。
 愛していると文香に囁く瞬間、優は覚醒する。
 文香を抱く優を夢の中の文香は見ない。
 その視線は優ではない誰かを見ていることに気づき、振り向くと必ずそこには優・がいた。

 そいつはいつも優の夢を滅茶苦茶にする。
 現実に引き戻す元凶だ。

 いつだって、夢の中で優を嘲うのは、優自身なのだ。 






 汗が頬を伝い、鎖骨を流れていく。

「っぁ、ん……っ」

 ねっとり纏わりつく湿気と、それだけではない熱さに文香は喘いだ。
 テーブルの上に両肘をつきながら、文香はぴちゃぴちゃと鼓膜を震わす音に眩暈がしそうだった。

「ん、ぁっ、ゆ、う」

 文香のスカートを背後からたくし上げ、そしてその尻に顔を埋めながら優は夢中になって舌で愛撫を続ける。
 今日の文香の下着は黒のTバックだった。
 正直、あんな話をした後にいかにも性的な行為を期待していると分かる下着姿を見せるのは色んな意味で恥ずかしく気まずい。
 だが当の優は嫌味も蔑みもなく無我夢中で文香のそこに舌を這わせて愛撫し続けている。
 もう文香を抱けないと優に言われたらどうしようと悩んでいたのが馬鹿らしいぐらいに、優は文香に欲情していた。
 それだけは良かったと素直に思える。

 文香の内心を知らないまま、優は指でパンティーの布地の部分を引っ張り、突き出した舌でアナルも含めて文香の恥ずかしいところを丹念に愛撫した。

ぴちゃぴちゃっ、じゅくじゅる……

「ふ、ぁ…… はぁ、んっ、んっ……!」
「はっ、は……」

 優の顔を見ることはできないが、生温かい息遣いが濡れて敏感になった箇所をずっと撫でている。
 興奮していることは確かだ。

「はぁ…… 文香……」

 ずぷっと、唾液で湿らせた優の指がずぷずぷと中に入って来る。
 もう、どのくらい優の舌で蕩かされたのか分からない。
 散々に濡れたそこは待ち望んでいたように優の指を呑み込んでいった。

「あんっ、んん、んっ……!」
「文香、なぁ……? 気持ち、いい……?」

ずぷ、ずぷっ、ずずず……

「ふぁ……! っぁ、ぁあ……っ んっ、んん」
「……言ってくれないと、俺、分かんないんだ。文香が、どう思ってるのか、何をされたら…… 嬉しいのか」

ずぷ、ず…… ずる、じゅ、じくじゅく、じゅくっじゅぷっ

「やっ、そん、なの…… んっ」

 わざわざそんなことを聞くなと、きっと先週の文香なら罵っただろう。

「頼むよ…… 不安なんだ、文香の口からちゃんと聞かないと…… 堪らなく、不安になるんだ……」
「っぁ、ひゃっ……っ!?」

 文香の背中に覆いかぶさりながら、優の指の動きは激しくなっていく。
 いつの間にか増えた指の数。
 中でバラバラに蠢き、痛いような疼くような感覚に文香の目から生理的な涙が零れる。
 はあ、はあと耳元で優の荒々しい息遣いが響く。
 尻に当たる硬い物に文香はぞくっとした。

「文香…… 教えてくれよ、なぁ?」
「あ、あんっ…… ふっ」

ぐちゅぐちゅぐちゅ……っっ

「俺に、どうされたいのか…… 何が欲しいのか…… 全部、教えてくれ」

 背後から優の片手が文香の頬を撫でる。
 その力に逆らわず振り向いた文香の唇の端を優は恐る恐る触れるだけのキスをした。
 薄っすらと涙で歪む視界に映る優の顔はひどく不明瞭で、どんな表情をしているのか分からない。

「文香」

 何かに堪えるような声に、文香はぎゅっと唇を噛む。
 咎めるように優の指が文香の唇を這い、包み込むように抱きしめられた。

じゅく…… 

 ずっと愛撫していた優の指がゆっくりと抜き取られ、今度はその喪失感に文香はつい名残惜し気な声を上げてしまう。

「っぁ……」

 がくがくと気力のみで立っていた足が崩れそうになる文香を優はしっかり背後から支えた。
 優の湿った指がちらちらと視界の端に見えるたびに文香はとてつもない羞恥を感じる。
 いくら大胆になったとはいえ、生まれ持った性分はそうそう変わらない。 

「はぁ…… はぁ、ん……」
「文香……」

 息を整える文香の耳に入って来たのはベルトの金具が擦れる音だ。
 昂った優のそれが文香の尻にぬるっとした感触を伝える。
 横にずらしただけのパンティーの中を擦ろうとする優の性器に、下半身のあらぬ所が疼く。
 ついさっきまで優に舐められふにゃふにゃになったそこに硬い男の象徴が擦られている。
 その直後に訪れた強い刺激に蕩けた文香の思考は一気に現実に引き戻された。

「あっ……!」

 きゅっと、Tバックのクロッチを上に引っ張られる。
 ただでさえ面積の少ない布地を強引に引っ張るせいで、紐のように黒のシルクが文香の尻に食い込む。

「んっ、やぁ……っ ゆ、ゆう…… まっ、て…… っぁ」

ぐりぐりぐりっ

 絞られたパンティーが陰部に食い込む痛みと絶妙な快感に文香は身を捩って逃げようとした。
 だが、動けば動くほどそれは食い込み、余計に悶えてしまうという悪循環が続いてしまう。
 ぐちゅっと濡れた感触がまた最悪だった。

「っ、ふぅ、ば……かっ、ばか、やだって……」

 優の意地悪な行為を涙目で咎める文香に、優の鼻息が荒くなる。

「だって、文香…… こんな、いやらしい下着を穿いて」
「んっ……!」

 きゅっっと明らかに文香の感じる部分を意識しながら優の責めは止まらない。
 ぐちゃぐちゃに乱れたスカートの裾が時折太ももを撫でる感触すら敏感に感じてしまう。

「今日も、期待してたんだよな? 俺に、抱いて欲しくて、穿いて来たんだろう? 俺を興奮させるために…… そうだよな?」
「っぁ、あ、んっ」

 暑さにバテる犬のような息が文香の項にかかる。
 強引で乱暴ともいえる行為をしながら、文香の耳裏に口づけする優の動きは覚束なく躊躇いが見えた。

「……文香に、すごく似合ってるよ」
「っ、ばか」
「なぁ、興奮してるの、分かる?」

 ぐっと、露になった優の性器が文香の濡れたそこを擦る。
 熱くて硬いその塊が擦られるたびにひくひくと文香のあそこが物欲しげに収縮するのが分かった。
 優も、そのことを理解していた。

「っ、文香、もう俺…… 中に、文香の中に挿れたい」
「ふぁ、ぁ、ぁん……」
「……挿れても、いい、か?」

 今にも滑ったそれがそのままするりと入って来そうなのに、優はギリギリで我慢して文香を焦らす。
 意地悪するためでもなく、ただ本当に優は文香の許可を伺っていた。

「ばか、聞かないでよ……っ」

 文香は目尻を赤くしながら、睫毛を震わす。
 そんなこといちいち聞くなと抗議するように、或いは態度で示すように自分から汗で火照た尻を優の性器に押し付ける。
 息を呑む優に文香は振り返り、蠱惑的に微笑んだ。

「はやく、して」

 何を、とは聞かなくとも分かるだろう。
 その証拠に優はぐいっと荒々しく文香の腰を掴み、そのまま我慢汁が垂れ流しになった性器を挿入した。

「ああっ……ッ!」

 いつにないその熱い昂りに文香は喉を仰け反らせた。

 部屋の気温が高いからなのか。
 いつもよりもずっと、繋がった箇所が熱くて可笑しくなりそうだ。

「あんっ、ぁ…… はぁっ、は……」
「っ、文香……」

 文香の息が整えるのを待つように、優は性器を埋め込んだまま、ゆっくりと体重をかけていく。
 汗ばんだ互いの服が張り付き、生々しくも気持ちの悪い感触にすら文香は感じてしまう。

「はぁ、はっ……」
「……なぁ、文香。気づいて、いるか?」

 頬にかかる優の吐息。

「はぁっ、な、にを……?」

 興奮に満ちたその息遣いを感じながら、文香は今にも崩れそうになる自身の足を叱咤した。
 ずるずるとテーブルの上にうつ伏せになる文香を支えるように優が腰を掴む。
 動かなくとも、ずっと狭い膣の中を圧迫し続ける優の性器に文香は焦れたい思いすら抱いた。
 脳味噌が溶けてしまいそうな熱に文香の意識が果てそうになる。

 そんな中で。

「今、俺達…… でやってるの」

 冷たい汗が一筋、文香の蟀谷を伝った。

「ごめん、わざとじゃないんだ…… 文香に夢中で、そこまで気が回らなかった」
「っぁ……? 何言って……」
「ごめん、文香、ごめんな……」

 ぎゅっと背後から文香を抱き締めながら、優の腰はゆっくりと律動を始める。

「ぁ、あっ…… んっ、あ、まっ…… まっ、て……!」
「はっ、ごめん、中には…… 絶対に、出さないからっ、だから、このまま……」
「んんっ……! っぁ、んっ、あんっ! ぁあっっ……!」
「はぁ、す、ごい…… 文香の中、気持ち、いい……」

 じゅくじゅくと粘液が掻き混ぜられる音が熱気が籠った部屋に響く。
 暑さで呆けたのか、夫婦だったときですら毎回忘れずに避妊具をつけていたのに、今日に限って優は生で挿入した。
 その事実に文香は戸惑った。

(スキン、つけていないの……?)

 浅ましいことに、文香が青褪め焦ったのはほんの一瞬で。
 文香は優がぼそぼそと罪悪感と欲望の狭間で苦しみながら必死に謝罪するのを聞いていた。

「ごめん、ごめん、ふみか…… ごめん……」
「はっ、はぁん、ゆ、う、っあ、ゆう……」
「っ、絶対、なかには…… っ、ださない、から……!」

 なんとも信用ならない男の台詞に文香は反射的に罵りたくなったが、唾を呑み込んで誤魔化した。
 自分の口から零れる甲高くも甘い嬌声はまるで別人のようだ。
 歪む視界の端に映る優の死にそうな顔を見上げる。
 必死に謝りながらも、文香を放そうとしない優。
 が頭を過ぎったが、それでも文香は残酷なまでに不器用で、一つのことしか選べない女だった。

 優がスキンをつけなかったことについて責める気はなかった。
 同じくいい大人な文香がそれに気づかなかった点でいえば同罪である。

 むしろ、これは喜ぶべきことなのだ。
 だったのだから。



* *


 文香が何か口を開くよりも前に優は激しく腰を叩きつけた。
 普段以上の熱が二人を余計に興奮させ、本能的な歓喜と欲望が快楽を一層高めるのだ。

「っぁ、あんっ…… ひっ、はぁんっっ…… ん、んんっっ」

 文香の柔らかな臀部に優は下半身を叩きつける。
 亀頭がギリギリ引っかかる寸前までペニスを抜き、そして勢いよく叩きつけながら時折文香の反応が良かった箇所をぐりぐりと責め立てた。

「やっ、だめぇ……っ あ、そ、こぉ…… はぁんっ、ぁ、やぁ……っん」

 ぴくぴくと身体を痙攣させながら、涙目で文香は優に哀願する。
 優らしくない乱暴で性急なセックスに文香は自分自身ですら戸惑うほど感じていた。
 それは優にも伝わっている。

「はぁっ、いつもより、ずっと、締め付けてくる……」

 優の手が文香のブラウスの下から潜り込む。
 すっかり疎かにしてしまった胸を揉みながら、優は堪らない快感に気が変になりそうだった。
 鼻の先で揺れる文香のネックレスを見つめながら、耳裏の匂いを嗅いだ。

「ふみか……」

 冷静などではいられないはずなのに、どこか冷めた視点で見ている自分がいることに優は気づいていた。
 優に他意はない。
 本当に、文香に夢中になりすぎてスキンをつけるのを忘れてしまったのだ。
 初めは後悔した。
 挿入する直前に気づきながらも、もう勢いが止まらないばかりにそのまま奥へ突き入れてしまったことを。
 いつも以上の粘膜の熱さと滑りにそのまま抜く意思がとろとろに溶けてしまった。

「文香、ごめん、俺……」

 うわ言のように謝りながら、幻聴のようなものが優に囁く。
 それは優自身の言葉だ。

(中にさえ出さなければいいんだ、イく直前に抜けばいい)

 軽率な考えを振り払いたいのに、揺れる文香の腰が視界に入る度にその声が強くなる。

(ほら、文香だってこんなに善がってる)

 どこか嘲るような声は優自身に向けたものなのか、それとも変わってしまった文香に向けたものなのか。
 それを知る前に、優はぞくぞくと這いあがって来るような快楽に意識を呑まれた。
 本能のまま、優は文香の尻を掴み、激しく突き上げる。
 悲鳴に似た文香の嬌声が優を堪らなく凶暴にさせるのだ。
 それを、歯を食いしばって優は耐えた。

 文香、文香と。
 頭の中が文香でいっぱいになる。
 ずっと我慢していたのに、最後になって優は我慢できず文香の顔を振り向かせ、無理矢理その唇を貪った。

「んっ、んん……!」

 かちっと火花が散るような感覚に、優は己の中のもう一人の声を振り払うようにして性器を抜いた。

(中に、出したら)

 文香の尻に、ぐちゃぐちゃになった黒のパンティーを白濁が汚していく。

「はぁー…… はぁ……」

 優はその光景に目を細めた。
 無理矢理口を塞がられた文香もまた共に果てたらしい。

「ぁ……っ」

 文香の嬌声は優に食われた。
 全身の力が抜けてく文香を優は軽々と支える。

 二人が奏でる淫靡な音は鳴りを潜め、獣のような息遣いのみが温い空間を満たしていた。
 テーブルの端に、冷凍庫に入れ忘れたアイスの残骸が目に入る。
 完全に溶けてしまったそれを、もったいないと優は思った。

(ああ、もったいない)

 もう一人の優が嘆く。

(さっさと、喰っちまえば良かった)

 何を、とは深く考えないようにした。

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