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新婚
3.独占欲
しおりを挟む軍人であるエアハルトの朝は早い。
幼少の頃から朝日の昇りと同時に彼は鍛錬の一環として長距離の走り込みや体操、剣の素振りを日課にしていた。
家にいるときは父や昔から仕えている私兵と、任務では軍隊の者と一緒に訓練を行い、怪我のために療養していたとき以外は一日も欠かしたことはなかった。
むしろ一日でも鍛錬をしないと気持ちが悪くなり、機嫌も悪くなるのだ。
一種の重度の鍛錬中毒にエアハルトはかかっていた。
初めて妻を迎えて抱いたその翌朝もいつも通りの時間にエアハルトは目を覚ました。
エアハルトは軍人として鍛えられてきたせいか、目覚めるとともに無意識にその場の状況を確認するという癖があった。
嗅ぎ慣れた事後特有の残り香と爛れたような花の香りが部屋に充満していた。
花の香りの正体は昨晩すっかり空にしてしまった香油、潤滑油である。
鼻が利くエアハルトは部屋に充満する強烈な精の匂いから逃れるように無意識に昨晩さんざん嗅いだ妻のミルクのような控えめな体臭を嗅いだ。
彼女特有のミルクのような甘い香りは昨晩も、そして目覚めた今このときでもエアハルトに擽るような満足感を与える。
腕の中にすっぽりおさまる妻の寝顔はひどく幼い。
幼いながらも公爵家の誇りを持ち、少し真面目なロゼは普段から礼儀正しく我儘も言わない。
無邪気で純真な部分もあるが、基本は理性的で己を律することができる。
そんなロゼが初めて見せた昨晩の痴態と今のこの無防備な寝顔の差は著しく、あれは全て夢だったのではないかと錯覚させられるほどである。
しかし腕の中のロゼの乱れた黒髪や赤く腫れた唇。
情事の激しさを証明するようにいたるところに散らばっている赤い欝血の痕に激しい咬み跡。
ロゼの象牙色の肌にそれらの痕跡はよく映え、痛々しいほど目立っていた。
エアハルトは後悔していた。
やはり無理をさせてしまったのだと。
その証拠にロゼはまったく目覚める気配を見せず気絶するように眠っている。
呼吸はしているので死んではいないのだろう。
しかし無理をさせてしまったせいで顔色は悪く、知らない者が見れば暴行されたのではないかと疑うほど全身に散らばる情事の跡は生々しく、血が出ている箇所もあった。
何よりも処女を貫いた証拠に太ももの更に奥の秘密の部分から渇いてこびりついてしまった血がそのままとなっていた。
時間が経って透明になったエアハルトの精液の跡もあり、幼気な処女をさんざんに貪ったことを証明している。
気絶したロゼをそのままに何度も致したことを今更ながらに思い出し後悔したのだ。
結婚式のギリギリまで他の女を散々に貪り、彼なりに初夜の計画も立てていたのだが。
なるべく処女であるロゼを傷つけないようにと。
避妊具をつけるのも途中で面倒になったが、なんとか中には出さないように抑えていた。
どうやらそれが精いっぱいの理性だったらしい。
エアハルトは久しく感じていなかった罪悪感を覚えた。
急いで不寝番のロゼ付きの侍女をエアハルトは呼びつけた。
少し冷たくなっている身体を暖めてやりたいのと、自身がつけた欲望の跡を早く洗い流してやりたかった。
目のやり場に困ると同時に、夜まで待てなくなりそうになるからだ。
「自重してください」
罪悪感とは裏腹に今夜も閨を共にする気まんまのエアハルトにミュラー家からついて来た執事長が険しい顔で言い放った。
医者にロゼの容態を診てもらうのと、更にしばらく夫婦の寝室は別にするように忠言されたエアハルトは眉間に皺を寄せた。
盛った猿じゃないのだから少しくらい我慢しろと内心で不敬なことを考える執事長は不本意そうな主人に必殺の一撃とばかりに従わなければ公爵家と侯爵家に報告すると脅した。
今にも拳一つで人を殴り殺しそうなエアハルトも低い獣のような呻きを漏らしてしぶしぶと了承した。
怪我で軍隊を名誉退職した老執事は元ミュラー侯爵の片腕の副官であり、エアハルトのことは生まれたときからよく知っている。
ゲーアハルト家からついて来たロゼ付きの侍女達の無言の批難を受け止め、自分がこの暴走気味の主を止めなければならないという使命に燃えていた。
ロゼがまだ幼く、身体もまだ出来上がっていないこと。
エアハルトのような体力馬鹿とは違う繊細な方なのだということ。
オブラートに包みながら懇々と半ば説教するように語った。
このままエアハルトのペースで抱き潰して身体を壊せばすぐに公爵家が怒り狂い連れ戻しに来ることは確実である。
頭のいいエアハルトもそれは分かっており、可哀相なことをしてしまった罪悪感もあるのだ。
ただそれ以上にもう一度、せめてもう一回昨晩の蜜を味わいたいだけなのだ。
夢中で記憶にない部分も含めてもう一度、幼い妻の身体を確かめたいだけなのだ。
だが、それでロゼと新婚早々離婚させられて奪われたらたまったものではない。
しぶしぶだが、エアハルトはしばらくロゼを安静にしとくことに同意した。
何よりも最後の執事長の言葉が止めを刺した。
「このままでは奥様に嫌われますよ」
人を殺しそうなエアハルトの形相に老執事は無言を貫いた。
どれだけエアハルトの機嫌が悪くとも暴力で理不尽に人を支配する方ではないことを執事長はよくわかっていたからだ。
ただ、この後八つ当たりとばかりにミュラー家から連れて来た兵士達に地獄の扱きという名の拷問をするのだろうが。
そこは尊い犠牲である。
仕方がない。
一度機嫌が悪くなればしばらくは元に戻らないことは経験上知っているのだ。
兵士達も可哀相だが、これからあの生粋の温室で育った公爵令嬢が耐えられるのかが不安である。
どうか機嫌が悪くても幼い妻にまで八つ当たりはしないでほしいと執事長は祈った。
と、胃が痛くなるほど心配していたエアハルトの機嫌の悪さは執事長の予想に反してあまり長く続かなかった。
むしろ呆れるほど早く直った。
悪かったそもそもの原因が妻であれば、良くなる原因も妻である。
朝の鍛錬で頭と身体を冷やそうとエアハルトは不機嫌なまま服を替え、不穏な気配に敏感に気づいた屋敷の兵士達を怯えさせた。
そんなびくびく怯える兵士達をどう扱こうかと考えながら鍛錬場に向かったエアハルトだったが、どうも気持ちがのらない。
剣を持てば振るか切るか突くか殴るかしかなくなるエアハルトにしては珍しいことだが。
気になるのはやはりロゼのことだ。
ロゼの白い裸体ばかりが悶々と頭の中を埋めつくし、昨夜の情事が頭の中で蘇る。
その中で悲鳴を上げながら痛い痛いと泣くロゼの様や、入れたまま二度、三度と続けて腰を振るった自身の行いなども鮮明に蘇ったのである。
(痛がっていたな…… 一晩中)
気絶するまでずっとロゼは泣いていた。
鎮痛剤と媚薬が少し入った香油が効かないぐらいに激しく求められたせいだ。
最後に思い出したのは唇を丸ごと食べるように激しくしつこく繋がったまま接吻して気絶させたことだ。
気絶の原因が疲労と慣れない衝撃と呼吸困難とは、正に鬼畜の所業である。
更にその後も腰を振ったような記憶があったが、今は思い出さないことにした。
今更ながら無体を強いたと焦り始めて来たエアハルト。
やはり一度様子を見てこようと早々に鍛錬を引き上げて浴室に向かったエアハルトはなんとも言えない顔の執事長に出迎えられた。
侍女の細腕ではロゼを抱えて寝室に戻るのは辛いだろう。
かと言って男の使用人に抱えられては貴族令嬢のロゼの名誉を傷つけるかもしれない。
ミュラー家の侍女なら馬鹿力でなんとかなるかもしれないが、慣れない者に抱えられてはロゼも不安だろう。
夫の務めとして自分が寝室に連れ戻すのが道理だと珍しく長々と口を動かす主人に執事長は承知するしかなかった。
本気でそう思っているのが凄い。
その直後に不安気なロゼの泣き声が浴室に響いた、らしい。
エアハルトが黙っているはずがなかった。
ちなみに執事長にロゼの小さすぎる声はまったく届かなかった。
老いた云々ではなく、浴室は固い扉で隔てられ、声というには小さすぎる音だったからだ。
主人の人外ぶりが恐ろしいと執事長は思った。
それ以上に恐ろしい思いをしたのは浴室でロゼを甲斐甲斐しく世話をしていた侍女達であった。
彼女達のほとんどがゲーアハルト家所縁の者達で、エアハルトのことをよく知らないのだ。
険しい殺気だった形相の大男が浴室の扉を乱暴に開ければどこぞの暴漢かと混乱するに決まっている。
慣れない殺気に恐怖する侍女達は自分達の主人の夫の顔を判別することすらできなかった。
とっさにロゼを守るように盾になる彼女達の忠誠心は大したものであったが。
一人周囲の状態がまだ分からず混乱中のロゼは心細げにエアハルトの存在を探そうとしている。
衝撃すぎる初夜を迎え、気絶して起きれば見覚えのない浴室で周りの侍女達が何故か泣きそうになりながら自分の身体に触れている。
身体のあっちこっちが痛く、慣れない痛みという痛覚がより一層寝ぼけのロゼを不安にさせた。
今だ覚醒しない状況の中で傍にいたはずの夫の姿を探すのは当然のことであった。
良いのか悪いのか昨夜のことをまったくロゼは覚えていなかった。
ぐすぐすと涙に濡れた目をこする幼いロゼに胸をわしづかみされたような錯覚を覚えながらエアハルトは服が濡れるのも構わず裸で泣いているロゼを抱きしめた。
周りの悪鬼を見るような悲鳴や怒声など無視である。
普段は荒事などまったく知らない侍女達であったが、ロゼからエアハルトを引き離そうと必死に抵抗した。
エアハルトは鬱陶しい蠅どもだとしか思っていなかったが。
混乱する浴室内でミュラー家に仕えていた侍女達が今度は乱入し、なんとか誤解を解こうと奮闘した。
あの男は暴漢でも悪鬼でもなく正真正銘のエアハルト・ミュラーだと、なかなか納得しないゲーアハルト家から来た侍女達を宥めた。
そんな騒がしいやりとりなどまったく気にせずエアハルトは服を濡らしながらまだ少し混乱しているロゼを宥めていた。
「だんなさま? ほんものの、だんなさま?」
「……俺以外の誰がお前を抱きしめるというのだ?」
そういって裸のロゼを壊れないぐらい繊細に抱きしめるエアハルト。
あまり裸を見ないようにする為である。
湯気で上気した肌はなんとも官能的であったからだ。
「だって…… おきたらだんなさまがいなくて……」
「……不安にさせてすまなかったな」
擦れてしまった声が痛々しく、まだ寝ぼけているのか幼い口調がそれに反して非常に甘くエアハルトの耳に入った。
恐る恐るとロゼの細腕がエアハルトの背中に回される。
その仕草は昨夜を思い起こされ、濡れたシャツ越しにロゼのやわらかい胸などが当たり、エアハルトは一瞬言葉につまったがなんとか取り次ぐろい謝罪の言葉を発した。
それに対してロゼは少し目が覚めて来たのか、今度はエアハルトに潤んだ瞳を向けてゆるく首を振った。
ふるふると首を振ると濡れた髪から滴がぼたぼたと零れ、水浴びしたあとの猫を思わせた。
色気づいた薔薇色の頬に昨夜エアハルトが啄みしすぎたために赤く腫れた唇。
エアハルトは目を離すことができなかった。
気づけば勃起していた。
やはり我慢できないとエアハルトが思い始めたときにロゼは今まで聞いたことがないようなやわらかい声で囁いた。
「だんなさまがいなくて…… すこし、さびしかった、だけ」
まだ夢と現実を彷徨っているせいか、ロゼは気が緩んだまま敬語を忘れて本音を口にしていた。
ほにゃっと、照れたような、安心しきった幼子のような無防備で緩んだ控えめな笑みはエアハルトが三年目にして初めて見る妻の素の表情であった。
エアハルトは反省した。
その後、浴室を出たエアハルトは今までで一番厳しいのではないかというほど己の身体を苛め抜いた。
鍛錬というよりも自身に拷問をしているのではないかという様子に鍛錬場を警備する私兵達は恐怖した。
唯一事情を知る執事長だけはむしろ逆に後押しするように熱い声援をおくっていたが。
と、いうような小さな騒動がなんとか落ち着いたときにはもう夜が完全に明けていた。
エアハルトは身を清められたロゼを当然のように横抱きして寝室に運んだ。
そのまま自分の寝室に入れようとしたときに執事長に止められたが、今夜は何もしないからと強引に押し切った。
基本有言実行をする主人なので、執事長はそれを聞いて安堵したという。
周りに控えるロゼ付きの侍女も自分の寝室に入れ、よく面倒を見るようにエアハルトは言いつけた。
「旦那様、ごめんなさい…… 妻の務めも満足にできなくて」
自分の体力がないせいでエアハルトに我慢をさせていることに敏感に気づいたロゼは健気に謝った。
上手く動かない身体では夫の望むような閨はできないことが情けなかったのだ。
そんなロゼを内心で罪悪感を刺激されながら宥め、先ほどまで見せていた不機嫌な悪鬼の形相などまるでなかったかのように優しくエアハルトは囁いた。
「何も謝る必要はない。昨夜は少し無理をさせてしまった。お前がまだ幼いことを失念していた。少しずつ慣れていけばいいのだ。 ……今はゆっくり身体を休め」
どの口が言うのだと、使用人達一同は思った。
そしてロゼは忠誠心溢れる侍女達に溺愛と称していいほど甘やかされて一日を過ごした。
少しでも動こうとすれば身体に障ると窘められ、口を開く前に望むものを全て与えられていた。
さすがに尿意に我慢できなくなったときにおまるを用意されたときは泣きそうになったが。
いつも以上に過保護な馴染みの侍女達にミュラー家の侍女達も呆れているだろうなと思えば違った。
彼女達は彼女達で壊れ物を扱うようにロゼを気遣い、体調を心配する様は死にかけの病人に対するようであった。
ミュラー家の使用人は全て歴戦の軍人や兵士達であるという話の通り、彼女達は見た目からして他の貴族に仕える侍女とは違っていた。
彼女達のほとんどは元傭兵や退役した元軍人だという。
年が少し上の者が多い中、何人かはロゼと同じぐらいの年の者もいた。
侍女服の上からでも分かる筋肉はそこらへんの男では束になっても叶わないだろう。
豹のようにしなやかな肢体の者もおり、そういった者はまた違う雰囲気を纏っていた。
ミュラー家の綺麗どころを集めてきたのか、侍女達は皆美しかった。
ゲーアハルト家の侍女達も美しいが、ミュラー家の侍女は出自がばらばらで、異国の血をひく者もいるためゲーアハルト家の侍女達と違い容姿のバラエティが非常に豊富であった。
唯一共通するのは皆が並外れた武芸の達人であり、ロゼと体格が変わらなさそうな侍女でさえあっさりロゼの身体を横抱きして移動することができるほど力持ちであること。
これはおまるは嫌だとふるふる震える姿があまりにも可憐で可哀相でゲーアハルト家の侍女達に遠慮して控えていたミュラー家の侍女が耐えきれずにその身を抱いてトイレに連れて行ったことで判明した。
無邪気に頬を紅潮させて力持ちなのね、ありがとうと言われたその侍女は危うく道を踏み外しそうになった。
こんな幼げな嫁に無体を強いた主人を見損なったと憤慨していた彼女はあっさりこれだけ可愛ければ仕方がない、むしろよく耐えたと考えを変えて主人を讃えたという。
見たことがないほど可憐で愛らしい女主人にミュラー家の侍女達は完璧に骨抜きにされていた。
話を戻そう。
年老いた宮廷医師をわざわざ呼びつけて診察されたロゼはすっかり顔色が良くなり、大好物の果物を朝食代わりに食べていた。
今朝は無理をせず軽めのものを食べるように指示されていたからだ。
共に朝食を食べたかったエアハルトは残念そうにしていたが自業自得である。
むしろ一番落胆していたのは新しく屋敷に雇われた料理長であろう。
美しく聡明な屋敷の妻に美味しいものを召し上がってもらいたいという野望に燃え、前々日ぐらいから仕込みをし、献立は数か月前から考えに考え抜いていたのだから。
泣く泣く冷やした新鮮な果物を料理長手ずから、これでもかと華麗に皿に盛ったという。
主人は主人で食べればなんでも良いという料理人泣かせであり、軍隊で鍛えられた早食いを披露してさっさと朝食の席を立った。
仕事を早々に片付けて妻の下へ行きたいという思惑があった。
優秀なエアハルトに回される仕事は多い。
一応新婚の身のため、屋敷でも決済できる書類関係が数日分用意されている。
三日三晩続いた結婚披露宴でほとんどの貴族との挨拶はすませている。
ハネムーンは無理だが、一週間ぐらいは屋敷で新婚気分を楽しめるように仕事は調整されていた。
エアハルトも一週間で終えるであろう量の仕事を屋敷に持ち込んでいる。
慌てる必要はないのだが、エアハルトは計画を変更することにした。
一週間など生温いことはしない。
三日、いや二日、いやいや一日。
一日、今日中に全ての仕事を片付ける。
何故ならば妻であるロゼが自分の想像する以上に寂しがり屋であることが判明したからだ。
心細げに縋りつく姿を鮮明に思い出す。
なんせ数時間前の出来事だ。
しっとり濡れた身体で必死にしがみつき、恥ずかし気に頬を染めて扇情的な赤い唇で幼い言葉を囁く。
『だんなさまがいなくて…… すこし、さびしかった、だけ』
今思えばそれは控えめすぎるほど控えめなロゼの初めての我儘だ。
思い出して身体が熱くなるエアハルトはむしろ好都合とばかりにその熱を全て仕事に費やしたという。
鬼気迫る様子だったと使用人達はのちに語った。
そうとは知らないロゼはのんびりしていた。
朝食を楽しみにしていた食いしん坊の気があるロゼはもっと腹にたまるものを食べたかったのだが、いざ食べ物を口に入れると食欲があまりわかないことに気付いた。
やはり昨夜の行為は身体の至る所、それこそ見えないところにまで負担を強いたらしい。
食欲もそうだが、あられもない所がまだぽっかりと穴が空いているような気がして、どうしても意識してしまう。
身体の節々から痛みがあり、特に足腰は上手く歩けないほどだ。
身体の色んな箇所に傷口のような赤い跡や歯形が残っていて、鏡で全身を見たときは思わず何事かと青褪めたほどである。
病気にでもなったのかというロゼは閨について基礎を教えてくれた最年長の侍女に泣きついた。
侍女はどこか引き攣ったような笑顔で病気ではないと否定した。
「大丈夫です、奥様。それは旦那様の愛の証の一つですわ」
「愛の証? これが?」
「ええ…… 少しばかり…… ほんの少し多めに…… 少しだけ少しだけ普通より多めに…… じょ、情熱的な愛の証です」
ギリギリと内心では幼い主人になんて無体なことをするんだと歯ぎしりしたくなる胸の内を隠した彼女はプロである。
「愛……? 旦那様が、私を?」
ぽつんとロゼの口から零れた疑問を疑問に思う者はその場にはいなかった。
妻として愛された経験が今までなかった少女の恥じらいとしか思われなかったからだ。
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