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物語
ありきたりな話
しおりを挟む昔、戦を繰り返し、他国を侵略して領土を広げる国があった。
多くの国の、そして多くの人々に恨まれていたというその国の王族はとにかく強い子が生まれることを望んだ。
男は強く、女は強い子を産む様に。
王族は病的なまでにそれを求め、数多の優秀な医者や薬師の一族を捉え、人の交配の研究をさせた。
神に等しい行為には限界があり、研究の副産物に色んな薬や毒は生まれたが、結局人の意のままに子供を生ませることはできず、理不尽に医者や薬師の一族もまた見せしめのために残酷に殺された。
いつしか王族は数を減らし、王家の血筋も少なくなった。
慌てた王族は血族間で交配を繰り返し、なんとか血を絶やさないようにした。
血が純潔であることを望むように、いつしか血の濃い一部の王家のものは生まれたときから一種の本能のように、己に近しい血を持つ者を本能的に嗅ぎ分けられるようになったと言われている。
だが、それは何世代も前の話だ。
現実的に、理性ではなく本能で血筋が近い者、王家の血が濃厚な子が生まれるように配偶者を選別し、自覚なく恋に落ちるなど、そんな都合の良い話はないと思われている。
それは結局王家の血筋に対する妄念への皮肉であろう。
その国はあまりにも恨みを買いすぎた。
巡りに巡って、結局その国は滅んだ。
歴史書に記されていない名もない国だが、何故か人々の口ではその国のことが細々と途切れることなく伝わっている。
それでも、何故か国が滅んだ直接的な理由は曖昧で、色んな説が面白可笑しく人々の口から伝わっている。
ただ、その国の最期の王が歴代で一番勇敢で残酷で傷を持った大柄な男だということと、王を支え、常にその側にいた春の女神のような王妃と、その王妃が自身によく似た金髪に青い目の王子を生んだことは必ず共通として語られる。
国が滅んだ理由は人によって違った。
その国には血も涙もない、愚かで醜い王女がいて、嫉妬に狂ったその女が国に災いを齎そうとし、それを退治したのが最期の国王だというのもある。
また、王女を騙した男がいて、その男が王位につこうと国に内乱を起こした説も有名である。
最期に王妃が国王の冷酷な心を溶かし、彼に愛され、賢く愛らしい金髪の王子を生んだのに、物語はそこで途切れ、その後は国は滅んだとしか伝わってない。
愚かな王女も、卑怯な男も、国王とその息子が倒せば物語は綺麗に終わるというのに。
人々は不思議に思ったが、所詮、ただの創作に過ぎないと深く考える者はいなかった。
それでも何故か、この特に面白味のない物語は長く長く人々の口から伝わっていった。
誰も知らない、滅びた国が本当にあったのかさえ分からないというのに。
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