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手紙
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しおりを挟むディエゴは王妃がメリッサに勝手に会ったことに強く怒った。
口ではメリッサが王妃に危害を加えるかもしれないと、王妃を諭しながら、内心では腹の膨れた王妃を見てメリッサが何を思ったのかと焦っていた。
何に焦っているのかも分からない。
ずっと封印しようとしていたメリッサへの興味や関心、愛憎が再び這い出そうになるのを耐えた。
王妃はあの日見たメリッサの容態を心配し、彼女の回復が気になったのだと涙を浮かべて反省し、それ以上興奮させて胎児に悪影響が出ることを懸念した周囲の臣下達にディエゴは宥められた。
王妃が幼い頃から親しくしている臣下達の取りなしもあり、ディエゴはなんとかその場は我慢した。
今にも泣きそうな王妃を最終的には慰め、そしていつものように腹の子に話しかけてからディエゴはメリッサのもとへ向かった。
隣国からついて来た王妃と親しい臣下達が慣れたように王妃をあやすのを見届けて。
ディエゴが来る事を察していたメリッサは自分で掌に薬を塗り、包帯をちょうど巻き終えていた。
漸く書き終えた手紙を枕の下に隠し、ディエゴを迎える。
ディエゴは無言でメリッサを一瞥し、いつものように包帯を取り換えて薬を塗ろうとしたが、メリッサはそれを拒絶した。
いつもと違うメリッサの態度に、やはり王妃のせいかと戸惑うディエゴに、メリッサはその場に跪いた。
そして、驚くディエゴに紙を渡す。
最後に自分を抱いて欲しいと、そこには記されていた。
困惑し、一瞬頭が真っ白になったディエゴの目の前でメリッサは淡々と病人服を脱ぐ。
メリッサはディエゴが今のメリッサに欲情し、抱くはずがないと思いながらも、両手の包帯以外は全て取り、見る人が顔を顰めてしまう痛々しい火傷の痕を晒した。
これは、王妃のお願い事の代償である。
王妃に悪意があったのか分からないが、妊娠し、満足な奉仕ができない自分の代わりにディエゴを誘うことをお願いされた。
あくまでお願いだが、ディエゴの目の前で醜い傷を晒し、そして拒絶されることはある意味で自分に相応しい罰だと思い、メリッサはそれを承諾した。
きっと王妃も、見たら欲情どころか、嫌悪のあまり男なら萎えてしまうことを承知でメリッサを揶揄ったのだと思う。
王妃本人がそれを自覚しているのかは分からないが。
王妃とメリッサのそんな歪な遣り取りがあったことを知らないディエゴはメリッサのその行動にひたすら戸惑い、目を逸らすことができなかった。
ずっと、日に何度も見て来た火傷の痕。
潰れた右目の周囲に広がる爛れた化け物のような様相。
頭皮の一部も爛れているため、無事な左顔面との対比がより怖ろしく見える。
その残った左目でまっすぐディエゴを見つめるメリッサの姿に、ディエゴはふらふらと近づく。
「俺に…… 抱かれたいのか?」
メリッサは頷く。
そして、喉を抑え、痛みを耐えながらしゃがれた声で囁く。
ディエゴにはひどく聞き取りにくいだろう。
王妃ではなく、メリッサ自身の望みをディエゴに伝えた。
ディエゴに服を脱いで欲しいと。
驚くディエゴの右目の眼帯にメリッサは触れる。
全て、取り外して。
もう傷を隠さずに全てを曝け出して、メリッサを抱いて欲しい。
欲情しないだろうと思ったディエゴだったが、最後の慈悲か、メリッサの願いに無言で頷いた。
いつもとは逆にメリッサがディエゴの手を引いて寝台に導く。
怯える子供のように身体を固まらせるディエゴを、メリッサ鈍い動きでその上半身のマントも服も全て脱がす。
メリッサの眼前に晒された傷跡は痛々しく、メリッサの火傷よりも酷いと思った。
そして、下着ごと脱がし、手袋もついでに外した。
メリッサの手がディエゴの眼帯に伸びようとすると、ディエゴは無言でその手を掴んで自分で外すと静かな声で言った。
メリッサの目に、ディエゴの怖ろしい傷跡が晒される。
ディエゴが死にそうなほど心臓を高鳴らせ、その手が震えていることにもメリッサは気づいていた。
ディエゴが頑なにメリッサに傷を見せたくなかったのは、もう二度とメリッサに拒絶されたくなかったからだ。
今まで、どうにかメリッサに無関心な態度を示し、自分でもそうだと思い込もうとしていた。
だが、メリッサが自分からディエゴを誘い、そしてディエゴの傷だらけの身体を見せることを望んだ事実に、ディエゴは抗えなかっのだ。
それは、メリッサもディエゴと同じくらい醜くなったことへの安堵もあった。
メリッサが自分と同じ化け物になったのだと狂喜した自分を自覚していた。
火傷で呻くメリッサを前にして、これでもう誰もメリッサを愛さないと、卑劣なことを考えていたのだ。
そのことをディエゴは心底恥じている。
メリッサは恐る恐るディエゴの傷跡に触れ、そして力の入らないディエゴを寝台に押し倒した。
そのままディエゴの身体の上に乗っかる。
互いの上半身の爛れた部分がお互いの肌を撫でる感触が不思議だった。
ディエゴは、王妃を抱くときも服や眼帯を外さない。
裸で誰かを抱くのは、何年ぶりだろう。
服越しではない、女の肌、メリッサの滑らかな肌と火傷で爛れた肌に例えようのない感情を抱く。
ディエゴとメリッサの視線が絡み、メリッサはそっとディエゴの顔の傷跡に口づけた。
忌まわしい過去も、かつての裏切りも、お互いの歪んだ復讐も、この瞬間だけ二人は忘れた。
結局、ディエゴはメリッサに挿入しなかった。
だが、何度も勃起し、緩やかな射精を繰り返した。
ディエゴが自分の身体を見て欲情するはずはないと思っていたメリッサの考えを裏切り、ディエゴはどんどん興奮し、身体を赤くしていた。
緩やかに、優しく触れるような口づけをし、お互いの全身を余すことなく互いに舐めあった。
メリッサの身体に負担をかけないよう、ディエゴは挿入せず、自身の手で慰めたり、メリッサの太ももで擦ったりして果てた。
一度、メリッサの願いの通りに身体を逆にして重ね、お互いの性器を愛撫した。
その恥ずかしい体勢をメリッサが望んだこともディエゴを興奮させ、感動させた。
間近でメリッサの尻の穴の皺全てを舐めて、陰部もたっぷり愛撫した。
その体勢で二人は一度果て、そしてまた汗だくの肌を重ねた。
挿入がないはずなのに、かつてないほど二人は強く結ばれていた。
肉体的に、そして精神的に。
夢のような時間に、ディエゴは魂を奪われた。
メリッサを抱きしめ、初めて二人はそのまま朝を迎えた。
メリッサを手放すと宣言したことも忘れ、ディエゴはその夜愛しいメリッサを漸く取り戻したような満足感に浸っていた。
*
王妃は結局神殿に行ったまま戻ってこなかったディエゴに不満を言うことなく、満面の笑みを浮かべて迎えた。
一晩を共にした男女が何をするか、王妃はよく分かっている。
悪意も嫉妬も見られない王妃の姿に、ディエゴは夢から覚めたように、謝罪した。
それを王妃は寛大に受け止め、すっきりとした顔のディエゴに微笑んだ。
「陛下の幸せが、私の幸せですわ」
健気な王妃に強い罪悪感を抱きながらも、それでもディエゴは昨夜のメリッサとの幸せすぎる性交が忘れられなかった。
かつてない幸福感に酔いしれていた。
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