37 / 45
火傷
3
しおりを挟むメリッサは今までになく興奮し、熱に浮かされたように何も考えられなかった。
カイルに抱きつくように絶頂したことに嫌悪はなく、むしろこのままカイルに抱かれたいと不謹慎にも願った。
「……せっかくだ。そいつのを慰めてやったらどうだ?」
そんなメリッサの心情を悟ったかのようにディエゴが嗤う。
その声にどうしようもない嫉妬が溢れ、今にも爆発しそうな殺意に満ちていることに、何故かこの時のメリッサは気づけなかった。
メリッサは初めてカイルを目にした時のような不思議な恍惚感と、決して彼を逃してはいけないという神の啓示を再び受けたような気がした。
理性はなく、今のメリッサはカイルの熱で本能に忠実だった。
カイルが必死に拒もうとするのも、ディエゴが嫉妬による狂気で今にも爆発しそうな様子も、メリッサには見えなかった。
ただ、本能のままカイルの精液が欲しかった。
顔に、口に、そして子宮にたっぷり注いでほしかった。
それが自分の使命だと、この時メリッサは思ったのだ。
メリッサはディエゴもカイルも見たことのない艶やかな笑みを浮かべ、頬を染めながらカイルのズボンを下げた。
硬直し、動けないカイルを無視し、ずっと風呂に入れられなかった身体から立ち込める悪臭にも構わず、メリッサは下着の中で大量に射精した黄色味が混じるどろっとした白濁に塗れた陰茎をうっとりと見つめ、なんの躊躇いもなく陰毛に顔を埋めるようにして下から丁寧にその白濁を舐めとった。
尿などそのまま放置され、蒸れて酷い悪臭がするそれをメリッサは愛し気に口に銜え、愛撫するように舐めて吸い付く。
一滴もカイルの精液を残さないように、皮や笠の部分に堪った汚れごと舌で丹念に舐めとる。
信じられないと、顔を真っ赤にしてメリッサが自分に跪いて奉仕する様をカイルは凝視し、自身の陰茎をしまったディエゴもまた、メリッサのありえない淫らな様子に目を見開いた。
呆然と二人のよく似た男に見つめられながら、メリッサはどんどん大きくなるカイルのそれが愛しくて堪らず、頬を擦りつけてカイルを上目遣いで見やる。
猿轡がカイルの唾液で濡れ、鼻息荒く瞳孔の開いたカイルに見下されたまま、メリッサは妖艶に微笑んだ。
そして舌なめずりをし、これ見ようがしにディエゴに注がれた精液を膣から掻き出す。
甘く切ない鳴き声を上げ、カイルを見つめながら大量の透明なディエゴの精を掻き出す。
もうすぐ、この中にカイルのものが挿入され、そして漸く待ち望んだ男の精液を注がれるのだ。
理性もなく、カイルの肉棒だけを求めるメリッサは恍惚とした表情で甘く囁いた。
「あぁん、カイル…… 早く、貴方が欲しい」
限界だったカイルの理性が切れるよりも早く、ディエゴはついに耐えられず衝動のままメリッサを引き倒した。
そしてカイルの陰茎を銜えたその口の中に勢いよく指を突っ込み、髪を掴んで乱暴に揺する。
突然の行為に動揺する暇もなく、メリッサは喉の奥深くに入れられたディエゴの指でそのまま嘔吐した。
胃液が込み上げて苦しむメリッサに構わず、ディエゴは更にメリッサの頭を揺らし、呑み込んだカイルの精液や体液を全て吐き出させようとした。
苦しむメリッサにディエゴは罵倒をひたすら浴びせ、もう吐き出すものがなくその場に力なく倒れるメリッサを漸く離すと、息を整えながらその弱弱しい姿を冷酷に見下ろす。
ディエゴはもう理解した。
十分すぎるほど。
メリッサはディエゴを少しも愛しておらず、今までの行為も全てはカイルのためのものだったのだと。
そんなことは初めから分かり切っていたはずなのに、心のどこかで期待していた自分がいたことに自嘲する。
もしもメリッサがディエゴに償い、再び側にいることを誓うのなら、ディエゴはそれを受け入れるつもりだったことを認めるしかない。
メリッサを傷つけ、穢して、誰からも見放されたメリッサを、ディエゴは再び愛し受け入れ、そして少しずつ関係を再構築していくつもりだったのだ。
王妃の懐妊がなければ、ディエゴは既にメリッサにその胸の内を伝えていただろう。
メリッサがもうディエゴを裏切らず、一生を捧げるのなら、許し、元の仲睦まじかった頃に戻ろうと。
だが、メリッサには初めからその気などなかったのだ。
「……何故だ。何故、お前は俺を愛さない」
苦しそうに横たわるメリッサは夢から覚めたように顔を青褪め震えていた。
メリッサが一番、先ほどの理性を失った自分の行動が信じられず、理解できなかった。
カイルを愛している気持ちは変わらないが、あんなふしだらな行為をよりによってディエゴの前で喜々としてやっていた自分に愕然とした。
「お前も、父上もっ! 何故こいつを、この男だけを愛するんだっ!」
悲痛なディエゴの叫びと絶望に満ちた狂気の視線がカイルに向けられる。
ディエゴはカイルの猿轡を乱暴に外し、身動きのとれないカイルを睨みつけ、自身が焼印を入れた右頬を引っかく。
できればその汚らわしい欲望の証をひねり潰したかった。
カイルはディエゴに反抗することなく、倒れたメリッサを見つめ、そしてまたディエゴに視線を移す。
怒りと哀れみの籠ったその視線に、ディエゴはもう我慢ができなかった。
醜いと称していもいい家畜の焼印を刻まれたカイルをメリッサは拒絶するどころか今もひどく愛している。
信じたくない事実にディエゴはもう爆発寸前だった。
「俺と、お前に一体何の違いがあるというのだ……?」
ディエゴの絶望し切った表情は眼帯をしていてもはっきりとカイルに伝わった。
カイルはメリッサを傷つけ辱めたディエゴを憎みながらも、どうしても彼を憐れまずには居られなかった。
「俺は、王太子として生まれた時からずっと国に尽くし、父上の良き後継者になるためだけに鍛え、戦場を駆け、幾度もの死線を超えて勝利を捧げて来た…… それが当然だと言う周りに見くびられないよう、ひたすら立派な王太子として、自分を殺して生きて来た」
「……」
「……唯一、俺を癒し、王太子でもない俺本人を愛したのはメリッサだけだった。メリッサの存在だけが血塗られた俺の日々に色を与え、温もりであり希望だった。メリッサと婚約してから日々はより輝き、俺は父上の役に立つために努力し、いつか報われることを信じた。幸せだった。 ……父上が俺を暗殺しようとした、あの日まではッ!」
「…………っ」
ディエゴの独自を、メリッサもカイルも苦悶に満ちた表情で黙って聞いた。
メリッサはディエゴの後ろ姿を見ながら、その悲しみに暮れる様子にどうしようもない罪悪感で胸を掻きむしりたくて仕方がなかった。
後悔しているのだ。
何故、あの時ディエゴを拒絶したのか。
そして誰よりも自分を愛したディエゴの前でどうしてカイルを求めてしまったのか。
恥知らずな自分に気が狂いそうだった。
カイルもまた、間近で見るディエゴの怒りと憎しみと嫉妬と悲哀に満ちた表情に途方もない罪悪感を抱いていた。
カイルさえいなければ、この男は苦しまず、メリッサと結ばれ、立派な国王としてこの国を繁栄させたはずだ。
全ての歪みは自分の存在だと、カイルは絶望した。
「……俺の欲したもの、俺が人生をかけて守って愛したもの全てを、お前は持っている。実の父親の愛も、俺の愛した女の愛も……! 何故、たかが父上の愛人の子であるお前にッ! 全てを奪われなければならないんだッ!!」
ディエゴの衝突に、カイルは項垂れるしかなかった。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身
青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。
レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。
13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。
その理由は奇妙なものだった。
幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥
レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。
せめて、旦那様に人間としてみてほしい!
レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。
☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる