毒殺された男

埴輪

文字の大きさ
上 下
36 / 45
火傷

しおりを挟む
朝、偽ゲーベルドンの姿はなかった。

生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。

看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。

僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。

囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。

こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。

そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。

次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。

貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。

僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。

そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。

悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。

この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。


彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。

何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。



でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。



額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。



アタフがまた何かを語る。



もう一度、語り出す言葉をよく訊く。




お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。





その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。





ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。



だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。



次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。



ベリオストロフ・グリーンディの部屋。




あれも、ケツァル島の特殊言語だ。





間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。






誰に何かを伝えようとしている。






誰にだ。






各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。




アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。





囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。






彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。







看守に伝えようとしているのか。







まさか、









僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、










僕を試そうとしているのか。







ジスマリアの25日
     カインハッタ牢獄内にて
_________________________

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きな幼馴染と結婚した夜

clayclay
恋愛
架空の国、アーケディア国でのお話。幼馴染との初めての夜。 前作の両親から生まれたエイミーと、その幼馴染のお話です。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...