Shame,on me

佐々木さんは困っている

2

　どうしよう。

「様子見て来いって言われて。分からないとこありますか？」

　気まずい。

「どこまで進みました？　店頭の方は人数足りてるんで、焦んなくていいですよ」

　穏やかな笑みを浮かべながら、工藤くんが何の躊躇いもなく狭くカビ臭い事務所に入ってくる。

「わかんないとこあったら、ゆっくりやりましょう」

　事務所と呼ばれているがほぼほぼ資材置き場のようなもので人一人がパイプ椅子に腰掛けて作業するのがギリギリのような部屋だ。

「ああ、なるほど……」

　なので工藤くんがごくごく当たり前のように部屋に入って来るともう部屋はそれだけで満員になってしまう。

「ちょっと、見せてください」

　つまりは距離が近いのだ。

「どうぞ、座ってください。ちゃんと見た方が覚えられますよ」

　少しどころか節電ということで普段照明を消している事務所は暗い。
　パソコンのディスプレイの明かりが唯一の光源だ。

　目に悪そうな人工的な明かりに目を細めながら、工藤くんはパイプ椅子に座る佐々木の目の前で迷いなくマウスを動かす。
　佐々木はそんな工藤くんをなるべく意識しないよう、必死にメモをとろうとした。

「たまにあるんです。誰かが、ほら……　こんな風に保存を間違えて……」

　工藤くんの声は優しかった。
　説明も上手かった。
　とても助かった。

　ただ、

（ち、近い……！）

　ついさっきまでうだうだと考えていた転職のあれこれなどすっかり忘れ、佐々木は近すぎる工藤くんの存在に内心で悲鳴を上げた。