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31話【コスプレの賭け】
しおりを挟む「怜、早速だがこれを着てくれ」
「·········はい??」
目的地である遊園地の駐車場に辿り着いた俺に対して先輩が最初に言った言葉だ。
またこの人は何言ってんだろ·····。
見ると、先輩は紙袋を持っていて、どーやらそれを俺に着てもらいたいらしい、、、
(仮装するのか疑問だったけど、まさかここで言ってくるとは·····)
当然、俺の答えは決まっていて、満面の笑みで「嫌です♡」とハッキリ断った。
先輩の事だ·····絶対、紙袋の中身はまともな衣装じゃない。
これは何が何でも阻止してみせる。
そんな俺に対して、
「え··········怜なら着てくれると思ったんだが、」と先輩は残念そうな表情を浮かべて言うが、俺はそんな手には乗らない。
「残念でしたね、それ···絶対変な衣装だから嫌です」
「変な衣装って、、、見ても無いのに。俺···信用ないな」
先輩はそう言うが、高校の頃の先輩を知ってるからこそ··········どの口が言ってんだっ!!と、思う。
「じゃあ、中身は何ですか?」
「それ言ったらつまらないだろ」
つまらないって··········なんだよ、とツッコミたい気持ちがあるが、その言葉にまともな衣装じゃない事は確信出来た。
「なぁ、怜」
「何ですか?絶対嫌ですからね」
「賭けをしないか」
突然先輩から提案される。
「賭け·····ですか?」
「そう、賭けだ。今から俺はこの紙袋の中身を怜に見せる。その中身を怜が見事に当てられたら仕方がないが諦める」
「それ、俺のデメリットしか無いですよね?」
この賭けを受ける意味は無い。
やらない、が自身にとって安全な選択だというのはΩの俺でさえ分かりきっている。
「確かに···今の話なら無いよな。だが、もし怜が当てたら何でも一つ願いを叶えてやるぞ。例えば··········あのアーティストのSS席チケットとサイン入り色紙はどーだ?」
話しながら黒い笑みを浮かべる先輩。
しかし、俺は大好きなアーティストのSS席とサイン入り色紙と聞いてそれどころじゃ無い。
(SS席とサイン··········)
何が来ても賭けを受けない自信があったのに、この提案は卑怯だと思う。。。
俺の中では、賭けを受けよう!!と言う俺と、
やめとけって!!先輩はαだ、絶対に負けるぞ!と言う俺が喧嘩している。
「ぅ"~~~~~~~~」
この前も久坂のお願いでチケットに釣られて大変な事になったのにどーしようか、、、
でも·····貴重なチケットと一生手に入らないサインが手に入るかもしれない···············。
「さあ、どーする?」
俺の反応が面白いのか先輩は上機嫌だ。
「衣装·····当てるだけでいいんですよね?」と、念の為もう一度先輩へ確認する。
「ああ、そうだ。でも制限時間は設けさせてもらう」
制限時間内に何の服か当てるだけ··········なら、Ωの俺でも賭けに勝てる可能性は十分だ。
(よしっ)
「分かりました。賭けをしましょう」
俺は先輩の賭けに乗った。
ルールは先輩が紙袋を開けた瞬間からスタートとなり、制限時間である十分間で中身の衣装は何かを言い当てる。
その間に俺は何度答えても良いが中身を取り出したり触るのはNG。
「自分から言っといてあれだけど、怜はあのアーティストに弱すぎないか?」
先輩は困った様な呆れた様な表情をしている。
「けーさんがそれ言います?自分で言っといて」と、俺は先輩を睨む。
「ごめん、ごめん。準備は良いか?」
先輩が謝りつつ確認してくる。
「はい。何時でも良いですよ」
「時計で長い針が〔12〕になったら始めるぞ」
10······
9·······8··········7·······
6········5····4····· 3····
2··········
1 ⎯⎯⎯⎯⎯⎯······
先輩は無言で紙袋の口を広げて此方に見える様に見せた。
「······································赤い?服??」
中身を見た俺は眉間にシワが寄る。
先輩が俺に着させようとしている服は、畳まれていてよく分からないが、赤い服と白いシャツと黒のズボン?なのか·····スカート?らしき物が入っていた。
「何だと思う?」と聞かれて「吸血鬼ですか?」と俺は答えるが「はずれ」と返される。。。
(色的に吸血鬼っぽいのに···あと何だ?)
「ゾンビ」
「はずれ」
「フランケン」
「違う」
「狼」
「違う」
「ミッキー○ウス」
「はずれだ」
服を見詰めながら思い付くハロウィンに出てきそうなものを挙げていくが、全て違った。
「なんだ?ゾンビ違うし、フランケンも違ったし·····狼でも無かった、、、赤と白と黒···もしかして海賊?」
「それも違うな··········あと、二分だ♪ 」
先輩は楽しそうに[違う]と言う姿が見てて悔しいッ。
「くそっ、ピエロ!!」
「違うな」
「悪魔?」
「いや、全然違う」
その後も色々手当り次第言うもののを全然違い、
とうとう⎯⎯⎯⎯⎯⎯·····
「 ·····5 4 3 2 1 はい!俺の勝ち」と、先輩は嬉しそうに言う。
「あ"ぁぁぁぁ~~負けたぁ"~~~~~っ」
賭けなんかしなければ良かった、と俺は後悔した·····まあ、今更だが、、、、
「さ、賭けには俺が勝ったから怜には···赤ずきんちゃんになって貰うぞ♡」
紙袋を俺に手渡して話す先輩に対して、
「赤ずきんって·····男の俺が何でですか?」と不満を漏らす。
「メイドとも迷ったが、この前それは見たからな。怜なら似合うぞ」
上辺だけのお世辞や嘘では無いから、俺はその言葉に顔が熱くなる。
(似合うって·····)
「さ·····さっさと着替えるので待っててくださいね」
俺は紙袋から衣装を取り出した。
白のシャツは首周りが空いていて、黒の膝までありそうなスカートは所々白色の刺繍が施されている。
スカートの下には白いフリルが付いており、白シャツの上からは赤色のマントを羽織るようだ。
先輩の言葉通り、童話に出てくる【赤ずきんちゃん】の衣装そのものだった。
(これを俺が着るのか·······ハードル高くないか?)
衣装を見ていて俺は固まるが、そんな俺に対して
「怜、固まってるとこ悪いが···コレも後で履けよ」と先輩は紙袋にまだ入っていた何かを取り出してみせる。
「⎯⎯⎯⎯⎯⎯·····は ? ?? 」
見た俺の口から出たのはそれだけだ。
黒の腿まであるタイツはまだ理解できる。
しかし、、、
「··紐····パン···············」
先輩が見せてきたのは白のレースの紐パンだった。
(これ、絶対透けるやつ·····)
「けーさん、本気で言ってるんですか?」
先輩の頭を疑いたくなるレベルのものだ。
幾らあの綺麗な人に会えないからって·····契約で仮の番である俺にこんなのを履かせようとするとは、、、、
まあ、あの時も黒の紐パンは履いたけどさ··········。
俺がそう思ってるとは思ってない先輩は、
「本気で言ってる。取り敢えず下着は園内のトイレで履いてくれればいい」と言われた。
「はぁ···············」
溜め息を吐きつつ俺は先輩に借りていた服を車内で脱ぐと衣装に着替え始める。
「けーさん、、このシャツ···首周りが空きすぎてませんか?」
白色のシャツはメイド服程じゃないが首周りが空いていてスースーするし、スカートはやはり男の俺は落ち着かない。。。
尋ねた俺に対して「大丈夫だ。それに·····」と先輩は手を伸ばして俺の頬を優しく撫でると、
「似合ってて凄く可愛い」と先程とは違い、真面目で熱を帯びた目をして言う。
言われた俺はというと·····心臓は跳び出るんじゃないかと思う位脈を強く打ち、速い。
「ぁ·····ありがとう、、ござ···います」
返せた言葉がお礼だけだった。
「ははっ、、じゃあ行こうか」
先輩は笑いつつ何処に隠してたのか、後ろの席から狼の被り物を取り出して頭から被る。
「けーさんはそれで行くんですか?」
いや、そもそも見えているのか·····??疑問だ。
「赤ずきんちゃんには狼が必要だろ」と、平然と答える先輩。
確かに·····【赤ずきん】と聞くと次に思い浮かぶのは狼か赤ずきんのおばあちゃんだな、と思う。
「確かにそーですね、俺の事は見えてます?」
俺は狼の被り物を被る先輩の目の前で指を三本立てて、何本に見えますか?と尋ねた。
「指三本も見えてるし、可愛い怜の顔も見えてるよ」
(ッ!、また可愛いっていう·····)
先輩は口を開けば俺を可愛いと言うから本当に困るな·····。
「はい、はい·····もう行きましょう」と、俺は慌てて車を降りた。
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【読者様へ】
読んでくださって有難うございます。
お気に入り登録も300人様を越して毎日感謝の心しかありません。
明日以降も一日一話は頑張って更新出来たらと思っておりますm(_ _)m
今後も応援宜しくお願いします!
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