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26話【過保護】

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俺は今、一限目の授業に出席する為大学に向かっている·····勿論先輩の車で。


「怜、本当に大丈夫なのか?」
運転しながら先輩が尋ねてきたので「大丈夫です」と俺は返す。
昨日全然出なかった声はガラガラだが一応出る様になった。ただ·····時々掠れて相手には聞きづらいかもしれない。

「······························。」


窓の外を見ながら俺は朝の出来事を思い出す。

朝、先輩の胸の中で目が覚めると壁にある時計を見た。
時刻は五時三十分·····普段ならまだ夢の中で家を出る一時間前に起床するが、十月という事もあって起きたばかりは肌寒く感じる。

(でも·····今は先輩のおかげで凄く暖かい)

もう少しこの状態でいたい気持ちはあるが、学校の準備をしなければと思い、俺は先輩の胸の中から逃れようと動く。
(良かった、動かしやすい)
昨日は重かった身体が今は軽く、声も「⎯⎯あ、あ"~···」と出た。
これなら何の問題も無く大学に行ける。


「··········れい?」

俺が動いたせいで先輩は目を覚めてしまい、まだ寝惚けているのか声が掠れていてそれが凄く艶かしい。

「おはようございます。起こしてすみません、、大学に行きたいのでシャワー借りても良いですか?」
俺の発言で先輩の目が大きく見開き、
「駄目だ。大人しく寝ていろ」と、逃れようとしていた俺を強く抱き締めて言う。

(心配して言ってくれてるのも分かるし、昨日の事も凄く有難いけど····でも、)

「今日も休んだら俺·····授業についていけなくなります。だからっ 」
絶対に折れる訳にはいかない。
出来損ないのΩである自分は努力しなければあの大学に在学するのさえ大変で、裕福じゃない普通の家の出だから成績は上位にいなければならない·····。
それさえも駄目なら自分自身の価値が本当に失われてしまう、、、、


(それだけは·····絶っっ対嫌だ!)


「勉強なら俺が何とかしてやる、それじゃ駄目か?」
先輩も簡単には折れてくれない。
「すみません、それは駄目です。自分で頑張りたいので」と、俺は首を左右に振り先輩の目を見て話しを続ける。
「けーさん、無理は絶対にしません。だから·····お願いします。俺を大学まで連れてって下さい」

「·························。」

先輩は少し考えているのか無言になり、
やがて「はぁ·····怜は狡いな」と、拗ねた表情で言うと抱き締めていた手を緩めて上体を起こす。
「けーさん?」
何故、俺は大学に行きたいとお願いしただけで狡いと言われたのか不明だ。

「いいよ、分かった。但し·····熱が37度以上あったら行かせられない」
「はいっ!  ありがとうございます、けーさんっ」
先輩の返答が嬉しくて自然と笑顔になる。
(良かった)
「ッ、はぁ·····ほんとズルいよね。絆される自分にもムカつくけど」
溜め息をついた先輩は俺の胸ぐらを掴むと自身の方に近付けて額にキスをした。
「な"ぁっ?!なんでいきなりキスするんですか?!?」
突然の事に驚き、俺は手で額を覆うが先輩は「口にしたいの我慢してるから」とだけ言うとベッドから起き上がり部屋を出て行く。

(口にしたいって···)

「おかしいだろ、、」

先輩はあの写真立てに写ってる綺麗な人と両思いじゃないのか?
分からない·····しかも絆されるって俺に?!
先輩が??
有り得ない。




◇┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◇



一人で勝手に悩んでいる間に先輩は戻ってきた。
手には体温計を持っていて俺に測るよう言うので、体温計を受け取って脇に挟む。

(熱がありませんよーにっ!)

祈りながら数分待っていると、ピピピ·····と体温計が鳴り、脇から抜いた。
「あ、    ぁ⎯⎯···········」
体温は36.9度と····まぁ何とも微妙な数値で、俺は喜びそうになった声が微妙な声に変わる。
先輩も俺が持っている体温計を見て、眉間に皺を寄せて複雑そうな表情を浮かべた。

(これは、、セーフ?アウト?)

いや、でも一応·····一応37度以下だ。
うん。。うん、だ···大丈夫!大丈夫っ!!

すると、、、
「アウトだろ」と先輩が口を開いた。
「いやいやいや、けーさんっ!37度以下です」
俺も俺で譲る気は無い。
これはセーフだと必死に主張する。
「怜、四捨五入したら37度だろ。アウトだ」
何故いきなり四捨五入をしてくるんだ、この先輩は··········。もしかして、心配じゃなくて俺をただ連れていきたくないだけなのでは??
なら俺は交通機関を駆使して大学に行くけど、、、、

「けーさん、四捨五入しないでくださいっ!俺を連れてくのがダルいなら俺一人で行きますから、ハッキリそう言ってくださいよ!」
「なっ?!誰もそんな事言ってないだろ。あ”~~~もうっ、怜のわからず屋っ!鈍感!!」
「わ、わからず屋って·····けーさんも頑固過ぎます!!」
「怜の事が心配だからだろ!」
朝っぱらから俺と先輩は言い合いをする。
そーいえば·····こんな言い合いを高校の頃一度もしたことが無い。
大体どちらかが折れていたから·····。


「···································。」


なんか、ヒートアップするこの言い合いが俺はどんどんおかしくなってきて···怒りを通り越し思わず「·····ぷっ、はははは、、」と笑ってしまう。
「れ、怜?何で笑うの」
先輩は俺が突然笑いだしたのが不思議みたいで、変な表情を浮かべている。
「すみません、、けーさんとこんな言い合いしたこと無かったから·····なんか面白くて、」
「··········確かに、言われてみれば無いな」と、俺につられて先輩も笑う。

結果、大学が終わったらまた先輩の家で療養するという事でこの件は取り敢えず決着した。


朝ご飯は先輩が鮭のお粥を準備してくれたが、自分で食べられると言ってるのに「まだ駄目だ」と·····俺の口にスプーンで掬ったお粥を運び、薬も昨日と同じでゼリーに包んだものを飲まされる。
看病してくれるのは本当に感謝してるが、かなり度を超えてる気がするのは気の所為だろうか··········?


(俺、重病人じゃ無いのに·····)





「怜、もう少しで着くぞ」

「!、」

先輩が話し掛けてきたので、朝の出来事を思い出すのをやめた。
「分かりました」と、返事を返したが、何だろ·····既にかなり疲れた感じがする。

大学の駐車場に車を止めて「心配だから、まめに連絡しろよ」と、心配そうな表情で先輩は言う。
(本当に過保護過ぎる)
「分かりました。あと、俺は病弱じゃ無いのでそんな過保護にならなくて大丈夫です」
拗ねながら返して俺はリュックを持ち、ドアを開けようとするが、そんな俺に「行ってらっしゃい」と後ろから優しい声で先輩は言ってきて、
「行ってきます、けーさんも行ってらっしゃい」と俺は嬉しい気持ちでドアを閉めた。






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