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10話【契約】

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俺が落ち着くと先輩の車で移動した。

「何処に向かってるんですか?」
「契約も兼ねて、怜とディナーしたくて」
運転しながら先輩は嬉しそうに話す。
「お、俺·····そんなお金持ってないですよ?!」

確か··········財布の中は八千円だった筈だ。
先輩が言うディナーだと一万を軽く越しそうで恐ろしい。近くのコンビニでおろすか?
内心焦っていると、
「はははっ、、そう言うと思った。大丈夫、怜は心配しなくていい」と先輩は笑う。






「·············································。」




確かに、、、

確かに···数十分前に言われたけど、
今、まさに!かなり気にしますッ!!!!


連れてこられたのは高層ホテルの上の方にあるレストランだ。
ウェイターに案内され個室に入るが、昨日の合コン会場よりも階が上なのか·····此処から見る外の風景はかなり遠くまで見渡せる。
窓のすぐ横に設置されている長方形の机は薄い金色と白のタイル柄のテーブルクロスが敷かれ、中央には薔薇やガーベラ、ブルースター、アイビー等の生花が花束になった状態で陶器の花瓶に飾られて綺麗だ。
全体的に落ち着いた感じの場所だと思った。

(どーしよ·····こんな所に来て良い服装じゃない、、)

こういう高級なレストランとかお店は、もっと畏まった服装じゃないと駄目な気がする。
来た事ないから想像だけど···············、、、

「せ、、けーさん」と、先輩の袖を軽く引っ張った。
「どうした?」
「俺、こんな服装で来てますが大丈夫ですか?」
「ん?」と、黒の長ズボンに紺の七分のYシャツ、青の線が入った白のスニーカーを履く俺を見て、
「それなら大丈夫だろ」と先輩は言う。
「そ、そーですか、、」
先輩を疑う訳じゃないが、大丈夫が大丈夫に聞こえない·····。


(かなり不安だ)


不安に思っている俺をよそに先輩は椅子を引くと
「さ、座って」と言うので、渋々その椅子に座る。
そして、先輩は向かいに座ると「料理か契約どっちを先にする?」と聞かれ、契約の事を気にしてご飯を食べたく無い俺は「先に契約で」と、ワイングラスの水を飲んで言う。
「分かった、準備する」
先輩は鞄から数枚の書類を挟んだクリアファイルを取り出すと机に置いていくが、その内の一枚を見ると〈乙は~·····〉や〈甲は·····〉といったあまり馴染みの無い文章が長々と書かれていた。
(うわ”ぁ"ぁ··········)
それを見て俺は引く。
これ、、、ちゃんと理解出来る自信が無い。

読みたくない、見たくない·····という気持ちが表情に出ていたのか、
「はははっ、怜すごい顔」と、先輩は笑うけど誰だってこんなの数枚出されたら同じ気持ちになると思う。
「しょ、しょうがないじゃないですか、、こんな書類見た事無いですし」と俺は拗ねた。

「そうだな。あまり見ないよな、こういう書類って。じゃあ·····今から説明するけど分からなかったり疑問に思った事は直ぐに言ってくれ」
「わかりました、」
それからペンを片手に先輩から契約書の内容を説明された。




◇┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◇




契約書に全て目を通し終わったのはあれから一時間後だった。

「つがれだあぁあぁあぁああ」


俺は机に突っ伏す。
そんな俺の頭を先輩は優しく撫でて「お疲れ」と言い、ベルでウェイターを呼ぶとコースを始めて、とお願いしていた。

「契約の件で何か他に求める条件はある?」
「··········条件、ですか?」
突っ伏していた上体を上げて考える··········。
契約内容的には金額面もその中身も問題は何も無かった。
簡単にいえば····強制では無いが先輩とパーティーやイベントに一緒に参加する事、契約中は恋人や番を作らない事、もし分家が俺一人の時接近して来た場合は先輩に細かく状況を説明する事、何があるか分からない為肌身離さず抑制剤を持っておく事、発情期前には事前に知らせておく事、期間は延長の可能性もあるが半年。
普通に過ごしていればなんて事ない内容ばかりだ。


「なら、一つだけ·····条件じゃないですが良いですか?」と、先輩の目を見て話す。
「なに?」
「契約中、俺は番も恋人も作りません···いや、一生ですね。だから先輩も··········契約期間中は他のαやΩの所に···そのっ···い、行かないでください 。もし、、気になる人が出来たら·····俺との契約は必ず解除して欲しいです」
話してて先輩の目を見ていたのにどんどんテーブルの方へ視線が下がってしまう。。。


(出来損ないのΩの癖に·····なんてお願いをしてしまうのだろう、自分は···)


「···············怜は、番候補がいる俺が他の奴の所に行くと思ってるの?」
悲しそうな表情を浮かべて先輩が尋ねてきた。
「えっ?!ぁ·····い、···いえ、違いますっ!お、俺が出来損ないでセックスの相手も上手に出来ないので、、それで·····」
「捨てられたりしないか、って?」

「········································。」

先輩の言葉に何も言えなくなる。



先輩は深い溜め息を吐いた後、
「怜、ならこれも契約に入れようか」と、契約書にペンで言葉を付け足し、書き終えると「目を通して」と言われて俺はそれを読む·····。

《柊 怜は小崎 健との性交渉をヒート以外は週三回以上行うものとする。契約期間中に小崎 健が他の相手と行為またはパートナーとなった場合、柊 怜へ違反金として三億円払うものとする。》


「      ··············は??」


自分自身の目を疑った。
週三回以上先輩とセックスして、先輩が期間中に他のαやΩと恋人やパートナーになったら、お·····俺に···············さんおくえん···。。。
(え?  まって?!?!三億???三億?!?!?!宝くじでよく聞くあの三億?!)
目が見開いて、喉が渇く···金額がえげつない。


「俺は本家の跡継ぎとして契約は必ず守る。だから怜も週三回以上俺とのセックス頑張って♡」と、黒い笑みを浮かべる先輩。
「でも、俺下手ですし·····」
「大丈夫。俺好みに教えるから」
「痛いのは、、嫌ですし、」
「気持ち良い事しか教えないから安心して」
「···································。」


(嗚呼·····さっきのは言わなければよかった)


もし、時が戻せるなら自分の発言を取り消したい。
とんでもない事になったと後悔した。



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