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7話【意地悪】

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自分でも相手の名前を呼んだ時、
声が震えているのが分かった。
相手は·····モデルさんでも俳優さんでも無い。
高校の頃、諦めた初恋の相手だ。


「はぁ·····やっと思い出した、、」


以前付けた噛み痕に重なる様に軽く噛む小崎先輩··········。
「···何で·····此処に居るんですか?」
此処は金持ちのαとΩ専用の合コンだ。
という事は、先輩はそういう目的でこのイベントに参加したことになる。

「逆に、何で怜がここに居るの?」
俺の質問を逆に質問で返されたが、先輩の声はとても冷たい·····多分怒ってると思う、思うんだけど、、、手や額、頬に口付けを何回もしてくるから正直疑問だ。

「  と、友達に···頼まれて、、」と、困った表情をして答える。
貴方と俺が好きだったアーティストのs席のチケットに釣られて来ました、とは言えない··········。
そんな俺に先輩はキスをすると、唇から首筋へ舌を這わせる。
「やっ   めて··········ぁっ  、   」
くすぐったい様な·····舌のザラッとして、それでいてヌメっとした感触が首筋から伝わってくる。

「友達·····ねぇ、、、怜はまだβとヤッてるの?」
「···············え?···」
「それとも別れた?だから、このイベントに来たのか?」
「········································。」
先輩は···突然何を言ってるんだろう?
俺はあのクソ野郎と付き合っていない。しかも·····セックスはただただ痛いだけで···辛いだけ·········俺は大嫌いだ。

「俺は···誰とも付き合ってませんし········こんな事···しないです。したくないです」
何も悪い事はしていないのに、気持ち悪くて···辛くて泣きたくなって、吐きそうな気分になるのは相手が小崎先輩だからだと思う。。。
「どーだか··········そんな言葉、信じられない」
先輩は呆れた様に俺の言葉を否定する。
(やっぱり、信じられないよな)
俺が先輩でも同じ事を言いそうだ。
過去に·····あんな姿を見せてる訳だし、、、

なら、あの時と同じ様に先輩の前から消えよう·····釣り合わない初恋だったし、終わらせた恋だ。

「信じて貰わなくて結構です。帰るので放してください·····先輩とは··········今後会う事は無いでしょうし」
「ッ、」
会うことは無い、と言う怜の言葉に小崎は眉間に皺を寄せて泣きそうな表情を浮かべていたが、怜はそれに気付かないまま話し続ける。
「合コンは初めて参加しましたが、今日ので懲りました。もう一生参加する予定は無いので、先輩も俺の事は忘れてください」

「···············お前は···どんな気持ちで、俺が探してたのか知らないから···そういう風に言えるんだな、」
先輩は暗く低い声で呟いた。
「  ぇ?」
(探した?俺を??)
何故?、と聞く前に唇を強引に奪われ、両腕をネクタイで拘束される。
まるで·····あの時と同じ様に⎯⎯⎯⎯⎯⎯·····


(な、なに?!)


「こんな事なら、あの時·····番にしておけば良かった」
唇が離れた時、熱のこもった赤い目が俺の目を見て言うが、『番』という言葉に恐怖を感じる。
「やめてくださいッ!流石に冗談でも笑えないです」と、震える声で話す。
こんな····無理矢理結ばされる番は絶対に嫌だ!!
俺は確かに小崎先輩が好きだった······でも、小崎先輩からそんな言葉を聞いた事がない。

「はっはは、、お前には冗談に聞こえる訳だ」
(···············本気···なのか?、、)
「なんで、、何で俺なんですか?小崎先輩なら、、もっと·····可愛いΩや良家のαを番に出来ます!」
言っていて喉が渇く···本当に俺の知っているあの小崎先輩なのか?
目の前の人物がどんどん怖く感じる、、、、

「他のΩやαなんか必要ない。怜が俺以外の番になる事が許せない」
苦虫を噛み潰したような表情で先輩は言う。
「おっ、落ち着いて下さい!俺は·····俺は誰の番にもなる気はありませんッ!!《β》として一生一人が良いんですっ。だから、だからっ先輩の番になる気も──────·····」

「    黙   れ     」

「ッ、」
先輩の威圧感に負けて俺は言葉を失う。


「········································。」


先輩は無言のままスーツの胸ポケットから何かを取り出し、それを見た俺は思わず叫んだ。
「そ、、、それ·····ヒート誘発剤?!」
自分で言ってて凄く怖い··········。
α‬やβに使っても何の効果も無い、Ωにしか効かない薬でもあり、毒にでもなる物。
「 知ってるよ。だから使うんだ」と、冷静に先輩は言う。

(うそ·····嘘だろ?···先輩ッ、辞めて、、、俺は誰の番にもなりたくないっ!!怖い·····嫌だッッ)
恐怖に支配された俺は涙がボロボロと溢れる。

「泣くほど··········俺の事が嫌いか、だから逃げたのか」
吐き捨てる様に先輩は言う。
「ちがっ·····そうじゃなくて──────·····あ"っ!?やめッ」
話している途中でヒート誘発剤を腕に打たれる。


どうしようっ·····どうしよう··········どうしようどうしよう·····抑制剤は今無い、、、
このままじゃ、、このままじゃ·····ッ




「······································································」




「··················································」




「················あれ?」


「    な、なんとも··········ない·····?」

来るはずのヒートの症状が無く、俺は唖然としている。
「怜、ごめんな。今のは誘発剤じゃないよ」
意地悪な笑みを浮かべて小崎先輩は言う。
「            へ  ?」
まだ混乱している俺に対し、先輩はまたがるのを辞めて両腕を縛っていたネクタイを外す。

「···············ど、どーいう事ですか??」
縛られた腕を擦りながら尋ねた。
「怜が鈍感すぎて·····俺ともう会う事は無いって言うのがムカついて意地悪した」と高校の頃の、、、俺がよく知っている小崎先輩の表情に戻っていた。
(よ、良かったあぁぁぁぁあ)
俺はそれを聞いて胸を撫でおろす。



本当に·····、、、、

ほんっっっとうに!!
この人は···············この人はッッ!!!



キスも沢山してきたし、どーいうつもりなんだ!
安心したけどそれと同じ位·····いや、、それ以上にこの人を殴りたいッ!

··········高校の頃、初めて先輩と会った時は物静かでクールな印象だったが、半年経つ頃にはその第一印象は見事に崩れた。

クール?    NO!!
物静か?   はぁ???
何それ美味しいの?って最初の自分に言ってやりたい。
小崎先輩は本当は話すが大好きで悪戯もよくしてきたし、俺を揶揄って笑う人だった。何度それで慌てたか分からない。
でも、今回みたいにキスはしてこなかったな·····。
本当、なんで今回こんな過激な意地悪をしてきたのか··········はぁ、駄目だ···溜め息しか出ない。

「先輩は相変わらず最低で安心しました」
満面の笑顔で棘のある言い方をする。
‪α‬の彼にそんな事が言えるのは多分·····自分位だ。
「ごめん。やり過ぎた···でも、本当に友達のお願いで来たのか?」
「はい、実は──────·····」
新しく持って来て貰った服にきがえつつ此処に来た経緯を今度は誤魔化さずに話す。


「───·····っと言うことで此処にいます」
話し終えると、
「怜·····チケットでこんな所来るもんじゃないから」と、呆れた表情をする先輩。
「はははは、、今は反省してます·····。で、先輩は何で?」
「俺はパートナーを見つける為だな。勿論、番探しじゃ無い。ちょっと面倒事を手伝ってくれるパートナーを」と、困った表情で先輩は言う。
「面倒事·····ですか?」

「ああ。  なぁ、怜は今好きな人とか恋人はいるか?」
探る様な目が此方に向けられる。
「さっきも言いましたけど、俺はβとして一人で生きていくので好きな人も恋人もいりません」
「それ·····さっきから気になってたけど、何でβに拘る必要があるの?」
「っ············それは····自分が出来損ないのΩ······だからでしょうか、ね、、、」
可愛い顔もしていない·····背も周りのΩより高い。
ヒートが軽いのは凄く助かるが、俺は性行為が嫌いでしたくもない。


「怜が出来損ないのΩ??」
何処が?っと理解不能な様子の先輩·····。

「俺、セックス自体·····あの水泳部のクソ野郎から脅されてやってましたけど、、、正直めちゃくちゃ痛くて苦しかったから嫌いなんです。他のΩみたいに可愛くないし、甘えられない··········こんな···こんな出来損ないなんか·····番にされても直ぐ捨てられてしまいますから···」
だから、『β』として捨てられる事が無い·····独身で一生を終えたい。

「 はあ??···············脅された?  あのβにか?」
先輩の声が怒りのこもった低く冷たい声に変わる。
「えぇ、まあ·····。でも、もう終わった事なので。  先輩?」
過去の事なのに何故こんなに小崎先輩が怒っているのか不思議だ。

「あ、すまない。怜は出来損ないのΩじゃないよ」と、先輩は優しく微笑む。
「···でも··········、、」
「少なくとも、あの時のヒートの時は·····凄く可愛く感じまくって、俺に沢山おねだり出来てた」
まあ、大事な約束も全て忘れてるけど·····と、俺の右手を掴み甲にキスをする先輩。
(   ぇ"?!大事な約束??おねだり??か、、可愛い???え?誰の事??)
いきなりの情報量に俺は頭がパンクしそうになる。

「はははっ、、怜の顔真っ赤」
俺を見て先輩は笑う。
「せっ、、先輩がまた·····俺を揶揄って遊ぶからですよっ」
「揶揄ってない、今のは本当だ。·····あの時さ、怜が姿を消して俺がどれだけショックだったか知らないでしょ?」と、切ない表情で話す。


(ぅ"···············)
突然の罪悪感に俺は潰される、、、、


無言になって黙る俺に対して小崎先輩は、
「それじゃ、怜·····さっきの話しに戻るけどビジネスの話しをしようか」と、強気な笑みを浮かべた。






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