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一章

【謝罪】

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テオが開会式で挨拶を終え、いよいよ狩猟祭は始まる。

大きいテント内は侍女であるアンナさんと執事のマイロさんがオレの側で護衛兼世話をしてくれるらしく、大きいテントに繋がる小型のテント二つにはシェフのガレイズさん、医師のテリーさんが滞在している。
外も抜かりは無く、近衛騎士であるジャスパーさんとアーロさん二人が守ってくれるとの事だ。
これだけでも十分なのに·····テオは去る前にテントへ防壁魔法を三重に掛けていた。。。


「あっ♡始まったみたいですね~!」
アンナさんが嬉々として話す。
テントの空いている出入口から人を乗せて走る馬の姿が沢山見えた。
皆、各々得意な武器を背負ったり持ったりしている。

「テオは毎年出場されているんですか?」
ガレイズさんに淹れてもらった蜂蜜入のダージリンティーを口にしながらアンナさん達へ尋ねる。
·····うん♪今日も美味しい。後でガレイズさんにお礼を言わないと。

「はい♡毎年出られてずっと優勝しております~っ!去年は過去最大の熊を捕まえてましたね」
「そうなんですね、やっぱりテオは凄いな」

「ルイス様、テオ様より『沢山の貴族や貴賓が此処に来ると思うが、疲れたり嫌なら拒否していい』と言伝が御座います」と、マイロさんが言う。
執事のマイロさんはアミメキリンの獣人で歳は四十前後。
背がテオより高く長髪の為後ろで結んでいる。
城では週に二、三回程テオに報告しに部屋に来ていた。
因みに趣味は刺繍で、以前見せて貰った薔薇の刺繍は素晴らしい作品だった。

「そんなに沢山来るんですか?テオは居ないのに」
此処に来ても手と足が無いオレとアンナさん達しかいない。ハドラさんはテオに付いて行ってるし、、、
来る意味があるのか?
「テオ様はおりませんが噂のルイス様が居ますからね。不審者は私共で対応するので御安心下さい」
「成程·····マイロさん達が居るので心強いですね」

三人で話していると外の護衛をしているジャスパーさんに「ルイス様、サリバー公爵がみえました。如何されますか?」と聞かれる。
よしっ!!
テオとハドラさんに後で良い報告できる様に頑張ろう。
オレも元は王子だったのだから·····。

フェイスベールを付けて深呼吸する、、、、


「通して下さい」


六十位の牛の獣人男性が中に入って来た。
「はじめまして。私は此処を治めているハルン・ド・サリバーと言う。貴方がルイス様でしょうか?」
「はじめましてサリバー様。はい、私はルイスと申します。獅子王の命によりフェイスベールを付けたままで申し訳ありません。今回も狩猟祭の場を設けて頂いた事、獅子王は大変喜ばれておりました」と笑顔で返しつつ敬意を込めて深くお辞儀する。

「ほぉ、まだ若いのに礼儀がしっかりしていますな。テオ様が認められたのにも納得出来る」
「ありがとうございます。まだまだ至らぬ事ばかりですが再びお会いする機会があれば是非サリバー様に色々とご教示願いたいものです」
それからの話で好印象を与えたのか、後日この地域の特産品であるキノコを送るとの事でサリバー様との話は終わった。

よし!成功··········

「ルイス様素晴らしかったです~~っ♡もっと推しになりました~♡」とアンナさんから言われた。
··········推し?推しってなんだろう?
「お見事でございます」
マイロさんからも褒められて嬉しい。

そうこうしている間にもジャスパーさんやアーロさんから訪問者の報告があり、オレは色んな貴族や貴賓と話していく、、、、
今の所勉強した甲斐あって皆好印象を持ってくれて安心だ。

「ルイス様~~~!そろそろ休憩しやせんか?」と、ガレイズさんが昼食を持って来てくれた。
今日のメニューは鹿肉のソテーで今日も今日とて凄く美味しそうだ♪
「ありがとうございます!ガレイズさんの料理が食べたかったんです」
「そりゃあー良かった♪」
オレは机に置かれたご飯を食べ始める。

テオは今何してるんだろうか·····。
ご飯しっかり食べてるかな?
怪我はしてないよね?
無茶···············はしてそう···。
まだ数時間会ってないだけなのに既に寂しい。
狩猟祭は日の出が落ちるのと同時に終わる。
そこから獲物の大きさや量によって審査され、明日優勝者が発表されるらしいけど、、、

「·························。」

「テオ様なら大丈夫ですよ♡」
「え?」
「あれ~?違いました?」と、アンナさんが笑う。
「いえ、調度考えてました。ご飯ちゃんと食べてるかな、って」
「······························ぷっ、」
突然、オレの言葉を聞いたアンナさんとマイロさんが声を出して笑った。
「???」
「テオ様見る目あるぅ~♡あははははははははっ、お腹いたっ···お腹たたたたたっ」
「テオ様、自分の自己管理怠りますもんね。心配·····ぶふっ」
「オレ何か変な事言いましたか?」
「ううん♡至極真っ当で面白かったの」
「?」

·····なのに二人は何故笑うんだろう?



昼食が終わり、次はあの時の伯爵令嬢の一人が尋ねて来た。
アンナさんがかなり威嚇している。
「何か御用でしょうか」
「!    貴方話せたのね」
「はい。まあ、あの時は話せませんでした」
····本当は少しだけ話せたけどテオに話すなと言われてたから今のオレの言葉は嘘だ。

「そう·····。今日は貴方に謝りに来たの。あの時は本当に、本当に申し訳ありませんでした」と、その令嬢はひれ伏す。
「え?!」
いきなりの事で驚いた。
嫌味の一つでも言いに来たと思っていたから、、、

「ルイス様に一生危害は加えません、愚かな行いもしません。お願いします、テオ様に家を潰すのだけは辞めさせて欲しいのです」
「、」
家?潰す??
あの時の事でテオが?
確かに対処するとは言ってたけど···。

「········分かりました。テオに話してみます。だから立ってください」
オレの言葉に令嬢は立ち上がり「ありがとうございます。どうか·····どうかお願いします」と深く頭を下げてからテントを出て行く。


「···············アンナさん」
「はい」
先程と違い、アンナさんの口調は緩急のないものに変化している。
「あの令嬢の話は本当ですか?」
「はい、本当です。ルイス様を傷付けた·····それはテオ様の所有物を傷付けたという事。首を刎ねなかっただけテオ様は寛大で御座います」
「そう、、最後に·····テオにやめてとお願いしたらやめてくれると思いますか?あの令嬢は一人で此処まで来て直接謝ってくれた。オレはその謝罪で十分なので」
「! ··············貴方様は本当に·····。  はい。他でもないルイス様のお願いでしたら可能かと」と、アンナさんは驚いた表情から目を細めて言う。
「そうですか。ありがとうございます」

テオが帰って来たらこの事はお願いしようと決めた。



「ルイス様、ハレス国第一王女様がお見えになりましたが如何されますか?」
「···············ハレス国?」
うー···ん?何処かで聞いた名前だけど何処で聞いたのか思い出せない、、、、
歴史の勉強かな?

「ルイス様お会いしない方が宜しいかと」
「!」
マイロさんが小声で言い、アンナさんはテントの外を凄く嫌そうに見ている。
「どうしてですか?」と、念の為尋ねた。
「ハレス国第一王女はテオ様の正妃、側妃をずっと狙っております。貴方様に何かする可能性が高いかと」
「あ、」
マイロさんの言葉で思い出した。
そうだ·····以前、テオがハドラさんに指示を出していた時に出た名前だ。
「ルイス様、あんな女会わなくていいです。執拗いストーカー女でかなり性格が悪く私は大嫌いです」

··········アンナさんもこんな状態だし会わない方が良さそうだけど、今回の貴賓の内の一人でもある。わざわざ足を運んでくれたのだから挨拶だけはしよう。

「マイロさん、アンナさん有難うございます。でも、相手は貴賓ですから挨拶だけはします。アーロさん、通してください」
「畏まりました」
オレの言葉でアンナさんは嫌そうな表情が拗ねた表情に変わり、マイロさんは「何かあればお守りします」とオレの直ぐ背後に立つ。

少しして、赤色で長髪の·····既に外見から気の強そうな美女を先頭に二人の侍女と四人の取り巻きの令嬢が中に入って来た。
「ハレス国第一王女様お初にお目にかかります。ルイス・ホガースと申します」
「ハレス国第一王女、エリザベト・クリスティ・ミラーよ」
アンナさんやマイロさんが席を用意するが「結構よ」と立ったまま話すみたいだ。
どうやらオレを上から見下したい様で口元が嫌な歪み方をしている。。。

「貴方、貴賓である第一王女である私に挨拶に来ないなんて一体どういうつもりですの?」
「そうですよ。エリザベト様に挨拶に来ないなんて無礼だわっ」
「テオ様を騙すなんて·····これだから下賎の人は」
「身体が欠落した貴方よりエリザベト様こそがテオ様にお似合いなのよ!早くこの国から去りなさいっ!」
「何故テオ様はこんな人を···」

陰口や嫌味が当たり前と教わった中で、こんなにハッキリと言われたのが初めてで·····オレは思った事をそのまま伝えるべきか遠回しに言うべきか悩む、、、、


「··········それに関しては申し訳ありません。獅子王より此処から動くなと言われているもので。それと·····オレはグルファ国第一王子ルイス・ホガース。亡国だとしても元は王族です。下賎は失礼ではありませんか?後は···そうですね、、勝手に去る事は出来ませんのでオレでは無くテオに進言されては如何でしょう?勿論、先程の言葉全て言ってみて下さい」
今、言われた事を概ね返答したつもりだ。
まあ····そんな事を言ったらテオは怒ると思うけど。

「·············································。」

オレの言葉にエリザベト様も他の令嬢も何も言わない。
自身より身分が低い令嬢ばかり相手にしてきたからなのか言い返されるのは慣れていないようだ。
まあ、自国ならエリザベト様に適う貴族は存在しないだろう。

「御用が無い様でしたらどうぞお引き取り下さい」と、オレはマイロさんにエリザベト様達をお送りして欲しいとお願いした。
「エリザベト様、どうぞお引き取りを」
満面の笑みを浮かべてマイロさんがテントの出入口のパネルを開ける。

「~~~~~~~っ、帰るわよ!!」
エリザベト様はかなり怒っているのか顔が赤く、持つ扇からミシミシと軋む事が鳴った。
「は、はいっ」
侍女や取り巻きの令嬢達が先に出て行ったエリザベト様の後を急いで追い掛けて行きテント内は静かになったが、
「ぷっ、あははははははは♡ルイス様最高っ!推しが今日も最高です♪」
アンナさんがお腹を抱えて大笑いしている。
「そんなに笑う事ですか?」
「だって·····っ、あはは♡♡あの女のあんな顔初めてで···ははははははっ♡」
こんなに笑うアンナさんを初めてみた。
「アンナ、笑い過ぎですよ」と、話すマイロさんも破顔して笑う。


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