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一章

【出発】

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清拭をまさかの獅子王がしてくれる事になり、オレはベッドに座っている。

「ルイス、服を脱がすぞ」
そう言って獅子王は前のボタンを外していく、、、
正直·····凄く恥ずかしいが、左手では服を満足に脱ぐ事も着る事も出来ないので大人しく待つ。
獅子王を見ると何故か耳まで顔が赤い·····。

「·························。」

ボタンが全て外れて服を脱がされたが、オレの身体を見た獅子王は一気に青ざめた表情に変わり、
「前の主は··········本当にロクでもない奴だったみたいだな」と、怒気を孕ませている。
「···············。」
獅子王が怒る理由がオレには分からない·····。
鎖骨、肋骨が少し浮き出ているからなのか、
自分が見えない所に傷でも残っていて不良品を掴まされたから怒っているのか··········獅子王の事が分からない。

「ルイス、昨日も言ったがこれからは沢山食べなさい。お前はもう自由なのだから···それと、好きな食べ物が出来たら私に教えて欲しい」と言って頭を撫でてくれる。
オレに対して怒っていない様で安心し、オレはその言葉に対して頷く。

それから獅子王は桶に布を浸して絞るとオレの顔に当てて壊れ物を扱う様に優しく拭いてくれる。
顔が終わるとまた桶に布を浸して絞り、今度は首や肩等上半身を拭かれる。
しかし、、、
横っ腹を拭かれた時·····あまりにも優しく拭いてくるから凄くこそばゆく感じてしまう。
「────···!──!!────·····!」
音にならない笑い声を上げてオレは悶えた。
「?、ルイス?」
獅子王はオレの行動が不思議そうで、暴れるでなと言うがそんなのは無理な話だ。

横っ腹から背中に移るまで、その状態が暫く続く、、、、



上半身の清拭が終わり、城に帰ってからお風呂で全身を綺麗にしようと言われ、先程着ていた女性物の服とは違い上下別々の男性服を着用する。
「あ、」
獅子王は何かを思い出した様で、自身の胸ポケットからルビーをあしらったシンプルなデザインの指輪を取り出すと、オレの左手薬指にはめた。
石は·····鮮やかな赤に僅かに紫がかった色をしており高級感漂う。

「うむ、サイズは調度良いな。今後は肌身離さず身に付けていなさい」
獅子王は満足そうに言う。
『何故ですか?』と尋ねると、
「それには私の魔法を幾つか施してある。まあ、発動しない事に越したことはないが」と説明された。
そもそも·····宝石は希少な物なのに、それに輪をかけて獅子王の魔法が施してあるなんて··········この指輪一つで豪華な屋敷が建つのではないだろうか、、、

『ありがとうございます。大切にします』
「ああ。ずっと身に付けてくれたら私は嬉しい」
そう言って獅子王は指輪に口付けをする。
「、」
予想外の行動をされて、オレの心臓は思わず大きく脈打つ·····。
考えてみれば、左手の薬指は婚姻の時に付けるのではなかっただろうか?
でも、右手が無い今の状態じゃ仕方が無いのかもしれない。
獅子王も特に理由は無く付けただろうし、、、

「······························。」

······奴隷だった筈なのに、獅子王はオレを大切に扱ってくれる。
ハドラさんもだけど二人とも凄く優しい·····。
獅子王の国に行ったら二人の役に立てる様な事を探そうと決めた。

「ルイス」
「?」
指輪から獅子王に視線を移す。
「精神的に辛い事を聞いても良いだろうか?無理なら答えなくて大丈夫なのだが·····」
精神的に辛い事?
ダイランの事か?
それとも国が滅ぼされた時の事?
どんな事を聞かれるのか分からないので身構えながら頷く。

獅子王は言葉を選んでいるのか難しい表情で少し考えた後、
「·····足は前の主がやったのか?」と尋ねてきた。
『そうです』
「加虐趣味とオークションで司会者が言っていたが、どんな事をされたのだ」
『オレ以外にも地下の牢獄の様な場所に入れられていて、身体を鞭等で痛め付けられたり、欠損しながら行為をしていました』
「────ッ、」
獅子王には衝撃的だったのか驚いた表情をしている。
確かに辛かったが、それでも·····ダイランから受けた事に比べればオレにとって前のご主人様から受けたものの方がずっとマシだ。

「すまない·····私がもっと早くお前を見付けられていたら」
何故か獅子王が泣きそうな表情で謝ってくる。
『テオは何も悪く無い。それに、死ぬ前に見付けてくれた』
ダイランに落札されそうなのを助けてくれた。
獅子王には感謝しかなくて、謝って欲しい訳じゃない。
「·····そうか。嫌な質問をしてすまなかったな」
そう言ってまた頭を撫でてくれる。
やはり獅子王は優しい。


少しして、ドアがノックされハドラさんが入って来た。
帰る準備が完了したとの事。
「では、帰るか」
獅子王はそう言うと軽々とオレをお姫様抱っこして宿を出て行くが、
これでも十九の男だから重い筈なのに何故そんな軽々と持ち上げられるんだ?·····不思議だ。

馬車に乗ると、
オレの横に獅子王、獅子王の向かい側にハドラさんが座った。
「到着は本日の夜になるかと」
「うむ」
返事を返して獅子王は変身の魔法を解き、身なりを整え始める。

「ルイス様、甘いのが好きだと昨日仰ってましたよね?」
ハドラさんに尋ねられて頷く。
「美味しいクッキーを先程購入しましたので後で食べましょう」
「!」
まさかの言葉にオレは嬉しくなって何度も頷いてしまう。

「ハドラ、ルイスを甘やかすのは良いがクッキー以外も買っておけ。ルイスの好みが分からぬだろう」
「?!」
「申し訳ありません。私とした事が·····どうされますか?今からでも他のも購入しますか?」
「?!?!」
「そうだな、せっかくだから城では食べれぬ物を」
「畏まりました」
そう言うと御者に馬車を止めるよう指示して、ハドラさんは馬車から降りて行く。


「ルイスは甘いのが好きなんだな」
「!」
獅子王に尋ねられ頷く。
先程のやり取りがオレは未だに信じられない·····。
しかも、甘やかすのは良いって、、、
「ハドラとはすっかり仲良くなって·····私はハドラが羨ましい···」と、獅子王はオレの頬を撫で、髪を指に絡ませてくる。
拗ねているような·····少し悲しそうな表情だ。
「────、────────」
『オレもテオの事をもっと知りたいです』と言ったが相手に伝わる訳もなく、もどかしい·····。

今は紙もペンも馬車には無い。

「····················。」

オレは、左手で髪や頬を撫でる獅子王の手に触れて、頬擦りをする。
「?!、る、ルイス?!」
獅子王はオレの行動に驚き固まったが、直ぐに顔が真っ赤に染まった。
「そのっ、、す、凄く嬉しいが···私の理性がっ、その·····もたな·····っ、」
頬擦りしただけで獅子王は何故こんなに慌てているのだろう?
「?」
「ありがとう·····取り敢えずもう大丈夫だ」
大丈夫と聞いて頬擦りをやめる。

少しして、、、

「今のは前の主や···ダイランにしたのか?」と、尋ねられた。
オレはその質問に対して左右に振る。
こんな事、獅子王が初めてだ。
ダイランなんか死んでもしたくは無い。
「そうか·····」
獅子王は満足そうな表情を浮かべ、今後も時々やってくれぬか?とお願いされ、オレは頷く。
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