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一章

【宿】

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「────·····」

冷たい·····?、これは、、、布?
目を覚ますと目の前は真っ暗で布が目に当てられていた。
いつの間にか寝ていた様で身体を起こす。

「起きたか」
「!」
声のする方を見ると獅子王が椅子に座りながら何枚かの書類に目を通している様だ。
「待っていなさい、直ぐ食事を持ってくる」
そう言って机に書類を置くと獅子王は部屋から出て行ってしまった。

あれからどれ位経ったのだろう?
それに、この布は獅子王が?
気に入っているからオレを買ったと言っていたが、それだけの理由で普通ここまでしてくれるものか?

考えながらベッドに寝そべる。


オレは···················
戦場の獅子王しか知らない。
あんな風に優しく笑う獅子王を知らなかった。
·····当たり前か、、、
同盟の話も一回しか顔を出さず、戦争の時は殺し合いをしていた仲だ。

でも·····ダイランに買われなくて本当に良かった。
こればかりは感謝しか無く、奴隷として今後は精一杯仕えよう。まあ、やれる事なんて限られているが。
先程は優しく接してくれたし、もしかしたら獅子王は心が広いお方なのかもしれない。

「······························。」

それにしても、
ベッドがふっかふかだ········。

ベッドなんて久しぶり過ぎて、左手で掛け布団や敷布団·····枕の感触を確かめる。
ダイランに捕まった一年も、そこから脱走し前の旦那様に飼われていた三年間も冷たい床で寝ていた。
布団ってこんなに暖かいものだったんだなぁ、、、
あんな事になる前は当たり前過ぎて全然気付けなかった。

ベッドに感動し感触を堪能しているとドアが開いて、「ルイス」と獅子王はトレイを持った状態で中に入ってくるがトレイの上では湯気を上げる料理があり、とてもいい匂いを漂わせていた。

獅子王は慌てて座ろうとするオレを見て、
「嬉しそうだな、さて食事にしよう」と微笑む。

寝そべる状態から座る状態にされ、獅子王はオレの隣に座り、スプーンで白くてドロっとした液体を掬うとオレの口に近付けて、「ルイス、口を開けなさい」と言う。
「·························。」
こんな事、幼い頃熱を出して母上にやって貰った時以来で凄く恥ずかしい。。。

「ルイス」

恥ずかしいけど、主である獅子王が口を開けろと言うからオレは奴隷で命令には逆らえない。
「··········、」
恐る恐る口を開けるとスプーンが口の中に入り、食べ物を中へ置いていく。

その食べ物を噛んでみると··········凄く柔らかく、牛乳とその何かが合っていてとても美味しい。
「!!!!!!」
「良い子だ。これはパン粥というらしい」
獅子王は何故か嬉しそうに話し、美味しいか?と尋ねてくるので縦に頷き再び口を開ける。
「ふっ、まあ待て。熱いから少しずつな」



パン粥を見事完食し、
「ルイス、此処はお風呂が無い。明日まで我慢してくれ」と獅子王が謝ってくるが、まともなお風呂に入ったのは今日の朝のみ。
今まではというと桶に入った冷たい水で流すだけの毎日だった。

だから、
「────」
『平気です』と返したが声は出ない。
直ぐに机にある紙にペンで今言いたかった言葉を書く。
「·····大丈夫、か。ではお湯と布を持ってくる。暫し待て」
「?!」
何故???
お風呂が無いと言っていたから、今日はそのまま寝ると思っていた。
予想外の言葉に·····咄嗟に獅子王の服の袖を掴む。

「?、どうした」

袖を引っ張られた獅子王は立ち止まり此方を向く。
しかし、、、
奴隷如きが主の袖を無遠慮に触ってしまった事に慌てて手を離し、ベッドから落ちると急いでひれ伏す。

以前·····ダイランの国で同じ事をしてしまった。
その時はオレに罰を与えれば良いのに、
弟が代わりに罰を受け、一枚、一枚·····手足全ての爪を剥ぎ、牢獄で拘束され出られないオレは目の前で爪が剥がされ痛みに泣き叫ぶ弟を唯········見る事しか出来なかった。。。
あの時の·····弟の叫び声と光景を思い出して身体が勝手に震える。

奴は···············

ダイランはオレでは無く、オレの大切な人達で何かと理由を付けては罰を執行しオレが絶望する姿を見て喜んだ。
暴力を受けても犯されても悲鳴を上げないオレが余程つまらなかったのだろう。


「······························。」

「ルイス?!大丈夫か?何故その様な事をする?」
獅子王は驚いた声を出す。
しかし直ぐに「やめなさい」と、この行動をやめる様に言った。

「·······················。」

オレは恐怖のあまり、主がやめろと言ってもひれ伏す事を止めず獅子王はというと床に片膝を着き、
「やめるんだ。お前はもう奴隷では無い」と、オレの両肩を掴む。

「──!??」


·····奴隷では···············ない·····???

え?    
じゃあ、今のオレは一体何?

『奴隷』じゃないのならオレはどうすれば良い?
どうやって·····どうやって生きていけば?
どうすれば許して貰える?
こんな身体で···どうやってこれから生きていけば????
自分の存在意義が分からなくなり、恐怖に心が蝕まれて冷静に物事を考えられなくなっていく·····。

「────! ────! ─···───!────!!!────!!────!」

ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!何でもします!だから捨てないでください!!!お願いしますッッ!申し訳ありませんッ

怖い ···············

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわい怖い怖い怖いこわいこわい怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわい怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわい

「────────、────!────!!」

言っても聞こえない。
相手に分からない·····。
無駄な事だと知っていながら獅子王に向かって許して欲しいと必死に謝る。

「落ち着きなさい。大丈夫、大丈夫だ」
オレを抱き寄せ、獅子王は背中を擦りながら何度も何度も『大丈夫』『心配いらない』と言う。


◆┈┈┈┈┈┈┈◆


やがて·····パニック状態から少しずつ平常心を取り戻し震えも治まった頃、
「ルイス、少し話そうか」と、獅子王がオレを軽々と抱っこしてベッドに座り直させた。
しかし、、、
何の話をされるのか不安で不安で仕方が無く、オレは獅子王の顔を見る。
「大丈夫だ。そう怯えずともお前が不安に思う事は言わぬ。今から心配な事、聞きたい事を紙に書いて欲しい」 
そう言って獅子王はペンを目の前に差し出した。

「····················。」

オレは·····恐る恐るそのペンを持ち、拙い字で書いていくが、やはりいきなり上手くなる事は無く思う様に書けない。
しかも一つの質問を書くのに大分時間が掛かっている。。。
獅子王にかなり申し訳ない気持ちになり、謝りたくなるが「ゆっくりで良い」と優しい言葉を言われて·····凄く安心した。

『オレは奴隷で無いのなら何ですか?』
「ルイスはルイスだ。グルファ国第一王子のルイスだ」
『主········獅子王を何と呼べば?』
「戦場ではテオと呼んでいただろう。今更変えずとも良い。口調もだ」
『オレはこれからどうすれば?』
「ふむ、、先ずは左手で文字を綺麗に書ける様になりなさい。後はよく食べ、寝る事。他は好きなように城で過ごせば良い」
『何故利用価値の無いオレを?』
「お前に利用価値を求めた事など無い。先程も言ったが私はお前を特に気に入っている·····それでは不服か?」
『いえ、ありがとうございます。十分です』

「少しは安心したか?」
『はい』
「それは良かった。また何かあれば遠慮せず何でも聞きなさい」
獅子王はそう言うとまたオレの頭を撫でてくる。
以前のオレなら、その手を払い除けただろうが今は悪い気はしない。
寧ろ·····嬉しい気持ちになってもっと撫でて欲しい。


「さて、遅くなってしまったな。今日はもう寝よう」

「!」
言われてみれば·····今はかなり遅い時間だろう。
獅子王は多忙の筈なのにオレのせいで大切な睡眠時間を奪ってしまった。

『申し訳ございません』
「良い、気にするでない。寝ない日はよくある」と獅子王は平気そうに話し、部屋の電気を消してベッドに横になるが、両手を広げ「おいで」と言われる。
オレは··········まさかの出来事に恥ずかしい気持ちになったが、直ぐに獅子王の腕の中に倒れ込んだ。

「おやすみ、ルイス」
「────、──」

おやすみなさい、テオ

返事は返せないが、伝わっていれば良いなと·····そう、思った。。。

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