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一章
【優しい手】
しおりを挟む「ルイス、口を開けなさい」
「·························。」
何故オレは····獅子王に看病の様な事をされているのだろうか··········。
あれは、遡る事数時間前。
宿と聞いてはいたが、まさか帝国の王が平民が使う様な宿を利用するなど誰が思うだろう。
「王、これを」
ハドラさんが小さい小瓶を獅子王に渡すと獅子王はその瓶の蓋を空けて小瓶の中に入っている透明な液体を飲む。
すると···············黄金色の髪はくすんだオレンジ色になり、目も黒がかった黄色い瞳に変わる。
そして豪華な上着や装飾を全て外し、ヨレたYシャツとズボンだけという王と言っても誰も信じない姿に変わった。
「さて、ルイス行こう」
準備を終えたのか宿近くで馬車を止め、ハドラさんがオレを抱えて歩くのかと思いきや、まさかの獅子王がオレをお姫様抱っこして抱えてきた。
今日は本当に驚く事ばかりだな、、、、
ハドラさん、獅子王、オレの三人は宿の中に入り、ハドラさんが宿主に「一泊、二部屋お願いします」と言うと料金を支払い鍵を二つ貰う。
それにしても·····二部屋という事はどうやって分ける気なのだろう?
あ!そうか、奴隷のオレは廊下とか床で寝ろって事だな。
もう王族でも平民でもないオレがベッドで寝るなんて有り得ない。
階段を上がり部屋の前で獅子王が立ち止まると、
「ハドラ、明日までこの部屋に入るな」とだけ言ってオレを抱えたまま部屋に入ってしまった。
まさか、、、
獅子王とオレ、ハドラさんで部屋が分かれるのか?!
獅子王はベッドの方へ向かい、オレをベッドの上に座らせる。
「今日は疲れたであろう。ベッドが一つしか無くて辛いだろうが我慢してくれ」
「······─────── ?」
声なんて出ないのに、
『何故、ここまでなさるのですか?』と、口を開いてしまった。
貴方は敵だった人でオレは亡国の元王子·····。
利用価値すら無い役立たずだ。
「?、すまない·····何を言ったのか分からなかった。少し待て」
獅子王はそう言うとオレの前に丸いテーブルを持ってきて、その上に紙と筆ペンを置く。
「今後は何か言いたい時は紙に書きなさい。いいな?ルイス」
オレは頷き、慣れない左腕で筆を持つとインクを付けて紙に文字を書こうとした。
·····しかし、、、
文字自体書くのが久しぶり過ぎて筆を持つ手はガタガタと震え、思う様に書けず·····ぐにゃぐにゃの酷い字が出来上がる。
「·············································。」
自身の不甲斐なさに俯いてしまった時、何故か獅子王がオレの頭を撫でてきた。
「ルイスよく頑張ったな。久しぶりにしては上出来だ。··············なぜ、で良いか?」
「!」
まさかこんなグニャグニャな字を読んでくれるとは思わなかった。
オレは嬉しくて縦に首を振る。
「良かった。何故·····か、、簡単な理由だ。私はお前をかなり気に入っているからだ」
「!?」
「分からない事だらけで不安だと思うが約束しよう。私はお前を傷付けない、他者から守ると」
獅子王はそう言ってオレを抱き締めると、
「遅くなったが·····会いたかったぞ、ルイス」と耳元で囁く。
「──····─···────!!?!?」
獅子王が耳元で話したせいか耳がくすぐったい。
·····それに、胸が速く脈打ってどんどん恥ずかしい気持ちになる。
こんな風に抱き締められたのは本当に久しぶりだ。
頭を撫でられたのも抱き締められたのも、数年前は当たり前のもので、勉学や魔法、剣術を励み、成績が良いと父上や母上がよくしてくれた。
オレも弟や妹に沢山した。
姉上なんか·····オレの頭を撫でてくれるのは嬉しかったが髪をボサボサにしたものだ。
幸せな時間はもう戻らないというのに、、、
こんな事で···あの幸せな日々を思い出してしまうなんて·································。
「ルイス大丈夫か?」
「!」
獅子王に言われて気付いた。
妹や弟を目の前で失ってから涙なんて枯れて何をされても出なくなっていた。なのに·····何故か今は目が潤み、頬に生暖かい液体が流れている。
必死に泣き止もうとするが涙が止まってくれない。
これでは主である獅子王に迷惑をかけてしまう。
それに服を汚してしまう·····早く、、早く泣き止まなければっ。
オレは慌てて左手で獅子王から離れようとするが余計に強く抱き締められて離れられない。
それどころか左手を優しく握られる。
「よい。今日は気が済む迄泣きなさい」
「···········、·········、·····、 ·····、、────····────···──────·····」
獅子王は泣き止むまでオレを無言で抱き締め、頭を撫でた。
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