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刻の唄――ゼロ・クロニクル―― 第一部
第三章 犠牲の軍隊後編 27
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――崩れた。間に合わなかったか。
怒濤のマークの魔術・物理混合の攻撃を凌ぎつつ、バイザー奥のモニタの端に映し出された陽動兵団群の様子に零の中で悔恨にも似た思いが湧く。
――上手くいくと彼らに請け合っておきながら、この様だ。失敗すれば、対価は命。エレノア、どうした? こちらはもう保たないぞ。
自責する零を真横に出現した魔法陣から光束が放たれ襲い、回避を余儀なくされた。
嘲笑を滲ませマークは、ミスティック・ブレードで魔力を宿したナイトリーソードを振り抜き、マジック・キャバリアー汎用技空剣を使用し魔力の刃を零へと飛ばす。
【何に気を取られている。下の様子を、貴様が気にしている場合か。贖罪者、奴らと貴様は同じ運命だ。共に、蹂躙されこの惑星に骸を晒す。何の栄光もなく、な】
【気が早いじゃないか。まだ、グラディアート一万体がガーライル基地北方に残っているぞ】
暗紅色の魔力刃を下方へ逃れ躱しつつ、零は虚勢を張った。
今度こそ残酷に、高速情報伝達に乗るマークの思考が酷薄を奏でる。
【嘘だろう。初めから、そんなものはなかった。降下ユニットを確認してはいても、一万ものグラディアートとなると、怪しいものだ。そう意見したが、ミラト側は聞き入れなかったが】
【どうだろうな?】
ミラト王国の間抜けさに感謝しつつ零は、機械兵ユニット群の背後に控えたキャバリアーがストレール連隊と戦闘に突入するのをモニタ端のウィンドに捉えた。全滅まで僅かな時しかあるまい、と。
その中、零の注意を惹くものが戦場を走り抜ける。
【……ブレイズ】
藍色の装甲を纏った一人の戦士が、ストレール連隊の一角を崩し陽動兵団群の蹂躙を遅らせたのだ。が、それも時間の問題。負傷し騎士甲冑も破損し力を発揮できないブレイズは、初手こそ大技で勇戦したが明らかに動きが悪く、既に防戦に回らされている。
一瞬の隙。伝説級以上と目する戦士の、恐らく命を落とすであろう悲哀に僅かな間気を取られてしまった零を、衝撃が襲う。
【くっ、しまったっ!】
多数の暗紅色に輝く魔光の矢が、零を捉えたのだ。
回避したが間に合わず外骨格スーツが破損し装甲の一部が吹き飛び、架空頭脳空間が警告に満たされた。制御人工知能の機械的な声が、響く。。
【外骨格スーツの脱装を推奨。グラビトンエンジン暴走の恐れあり】
【これでは、逃げ切れない】
後悔を刻みつつ零は外骨格スーツを緊急パージし、ガコッという音と共にスーツが吹き飛んだ。重力制御の恩恵を失った零は、落ちて行く。背後に秘超理力の波紋を作り、零はその場からムーブで跳躍し距離を取った。敵が居なければムーブを使用し落下死は免れられるが、機動の大半を失った今零は裸も同然だった。当然、そんな零をマークが放っておく筈もなく、高速で迫る。最後の悪あがきを零が決意したとき、汎用コミュニケーター・オルタナがボルニア帝国軍の通信を拾った。
ヴァーチャル音響システムが作り出す声は、聞き覚えのあるもの。
「リザーランド卿から作戦成功の報を受け、渋る大公閣下を説得し一足先に主力兵団群が駆けつけた。降下ポイント策定中に、この戦闘を見つけてね。ガーライル基地には、三兵団群が向かった」
「……モリス、と、あれはポトホリか?」
懐かしさを覚えるモリス・ド・デュポンのやや高めのどこかわざとらしい声を、零は全く柄にもなくありがたく聞いた。
落下する零の視界に、巨大な影が赤みがかった空を割るように急速に降下してきた。急激に膨張する重戦艦ポトホリは、四角錐を優美さで艤装した全長四キロメートル級の巨体でまるでこの世に終末をもたらす暗黒竜のように本能的な恐怖を抱かせた。その船体から煙が突如湧き上がった。機関銃が乱れ撃たれるように、グラディアートが超電磁誘導チューブにより高速射出されたのだ。
怒気が滲むマーク・ステラートの肉声が、ヴァーチャル音響システムで響く。
「ミラトはまんまと、貴様の術中に填まったか。貴様の目的は、ガーライル基地。惑星フォトーの殲滅の光弾砲台無力化。あの紅の女騎士の姿が見えぬと思ったが。防衛兵団ごときでは戦女神は止められなかったか。生き汚く足掻くものだな、贖罪者。まんまと、死から逃れ仰せたか。今少し、生かしておいてやる」
琥珀色の騎士甲冑がくるりと向きを変え、その場から高速離脱した。
去る強敵に、ぽつりと零は呟きを落とす。
「生き残れた、か」
中隊規模のストレール・キャバリアーに囲まれ右翼決死隊を守り防戦一方に怪我と騎士甲冑の損傷で追い込まれていたブレイズは、快哉を叫ぶ。
「間に合ったか。命拾いしたぜ。もう少しやれるかと思ったんだが、十数人倒せただけだ。ドュポン兵団群長様々だな」
勿忘草色の華奢な騎士甲冑で、輸送型機械兵ユニットからまさに飛び立とうとしていたマーキュリーは、涼やかな声音にほっと安堵を乗せる。
「ブレイズ、無事ね」
「……間に合った……の?」
半ば半壊した砂色の外骨格スーツでストレール・キャバリアー四人を相手取っているサブリナは、ブレイズに決死隊を任せ中央へ移動し背後で負傷し倒れるオーレリアンらを庇っていたのだ。オーレレリアンらが呆然と、「基地奪還がなった?」と呟く声がサブリナの耳に流れ込む。
獅子奮迅の活躍を物語るように周囲にサファイアブルー色の騎士甲冑が散乱する中に立ち、半ば呆然とサブリナは声を震わせる。
「お嬢様、リザーランド卿、無事殲滅の光弾砲台の無力化に成功したのね」
頭上に重戦艦ポトホリが迫ると、残存するストレール・キャバリアーは後退を開始した。
怒濤のマークの魔術・物理混合の攻撃を凌ぎつつ、バイザー奥のモニタの端に映し出された陽動兵団群の様子に零の中で悔恨にも似た思いが湧く。
――上手くいくと彼らに請け合っておきながら、この様だ。失敗すれば、対価は命。エレノア、どうした? こちらはもう保たないぞ。
自責する零を真横に出現した魔法陣から光束が放たれ襲い、回避を余儀なくされた。
嘲笑を滲ませマークは、ミスティック・ブレードで魔力を宿したナイトリーソードを振り抜き、マジック・キャバリアー汎用技空剣を使用し魔力の刃を零へと飛ばす。
【何に気を取られている。下の様子を、貴様が気にしている場合か。贖罪者、奴らと貴様は同じ運命だ。共に、蹂躙されこの惑星に骸を晒す。何の栄光もなく、な】
【気が早いじゃないか。まだ、グラディアート一万体がガーライル基地北方に残っているぞ】
暗紅色の魔力刃を下方へ逃れ躱しつつ、零は虚勢を張った。
今度こそ残酷に、高速情報伝達に乗るマークの思考が酷薄を奏でる。
【嘘だろう。初めから、そんなものはなかった。降下ユニットを確認してはいても、一万ものグラディアートとなると、怪しいものだ。そう意見したが、ミラト側は聞き入れなかったが】
【どうだろうな?】
ミラト王国の間抜けさに感謝しつつ零は、機械兵ユニット群の背後に控えたキャバリアーがストレール連隊と戦闘に突入するのをモニタ端のウィンドに捉えた。全滅まで僅かな時しかあるまい、と。
その中、零の注意を惹くものが戦場を走り抜ける。
【……ブレイズ】
藍色の装甲を纏った一人の戦士が、ストレール連隊の一角を崩し陽動兵団群の蹂躙を遅らせたのだ。が、それも時間の問題。負傷し騎士甲冑も破損し力を発揮できないブレイズは、初手こそ大技で勇戦したが明らかに動きが悪く、既に防戦に回らされている。
一瞬の隙。伝説級以上と目する戦士の、恐らく命を落とすであろう悲哀に僅かな間気を取られてしまった零を、衝撃が襲う。
【くっ、しまったっ!】
多数の暗紅色に輝く魔光の矢が、零を捉えたのだ。
回避したが間に合わず外骨格スーツが破損し装甲の一部が吹き飛び、架空頭脳空間が警告に満たされた。制御人工知能の機械的な声が、響く。。
【外骨格スーツの脱装を推奨。グラビトンエンジン暴走の恐れあり】
【これでは、逃げ切れない】
後悔を刻みつつ零は外骨格スーツを緊急パージし、ガコッという音と共にスーツが吹き飛んだ。重力制御の恩恵を失った零は、落ちて行く。背後に秘超理力の波紋を作り、零はその場からムーブで跳躍し距離を取った。敵が居なければムーブを使用し落下死は免れられるが、機動の大半を失った今零は裸も同然だった。当然、そんな零をマークが放っておく筈もなく、高速で迫る。最後の悪あがきを零が決意したとき、汎用コミュニケーター・オルタナがボルニア帝国軍の通信を拾った。
ヴァーチャル音響システムが作り出す声は、聞き覚えのあるもの。
「リザーランド卿から作戦成功の報を受け、渋る大公閣下を説得し一足先に主力兵団群が駆けつけた。降下ポイント策定中に、この戦闘を見つけてね。ガーライル基地には、三兵団群が向かった」
「……モリス、と、あれはポトホリか?」
懐かしさを覚えるモリス・ド・デュポンのやや高めのどこかわざとらしい声を、零は全く柄にもなくありがたく聞いた。
落下する零の視界に、巨大な影が赤みがかった空を割るように急速に降下してきた。急激に膨張する重戦艦ポトホリは、四角錐を優美さで艤装した全長四キロメートル級の巨体でまるでこの世に終末をもたらす暗黒竜のように本能的な恐怖を抱かせた。その船体から煙が突如湧き上がった。機関銃が乱れ撃たれるように、グラディアートが超電磁誘導チューブにより高速射出されたのだ。
怒気が滲むマーク・ステラートの肉声が、ヴァーチャル音響システムで響く。
「ミラトはまんまと、貴様の術中に填まったか。貴様の目的は、ガーライル基地。惑星フォトーの殲滅の光弾砲台無力化。あの紅の女騎士の姿が見えぬと思ったが。防衛兵団ごときでは戦女神は止められなかったか。生き汚く足掻くものだな、贖罪者。まんまと、死から逃れ仰せたか。今少し、生かしておいてやる」
琥珀色の騎士甲冑がくるりと向きを変え、その場から高速離脱した。
去る強敵に、ぽつりと零は呟きを落とす。
「生き残れた、か」
中隊規模のストレール・キャバリアーに囲まれ右翼決死隊を守り防戦一方に怪我と騎士甲冑の損傷で追い込まれていたブレイズは、快哉を叫ぶ。
「間に合ったか。命拾いしたぜ。もう少しやれるかと思ったんだが、十数人倒せただけだ。ドュポン兵団群長様々だな」
勿忘草色の華奢な騎士甲冑で、輸送型機械兵ユニットからまさに飛び立とうとしていたマーキュリーは、涼やかな声音にほっと安堵を乗せる。
「ブレイズ、無事ね」
「……間に合った……の?」
半ば半壊した砂色の外骨格スーツでストレール・キャバリアー四人を相手取っているサブリナは、ブレイズに決死隊を任せ中央へ移動し背後で負傷し倒れるオーレリアンらを庇っていたのだ。オーレレリアンらが呆然と、「基地奪還がなった?」と呟く声がサブリナの耳に流れ込む。
獅子奮迅の活躍を物語るように周囲にサファイアブルー色の騎士甲冑が散乱する中に立ち、半ば呆然とサブリナは声を震わせる。
「お嬢様、リザーランド卿、無事殲滅の光弾砲台の無力化に成功したのね」
頭上に重戦艦ポトホリが迫ると、残存するストレール・キャバリアーは後退を開始した。
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