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刻の唄――ゼロ・クロニクル―― 第一部

第三章 犠牲の軍隊後編 25

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【ブレイズ、そろそろ陽動兵団群が保たない】
【みてーだな。このままじゃ、ストレールに飲み込まれるのも時間の問題だ】
 周囲を暗紅色で閉ざされた固有結界戦塵の果てバトル・ダストが繰り出す剣戟を霞むような機動と太刀筋で捌きつつ呼ばわる零に、ブレイズは同様に凌ぎつつ答える。
 尽き果てぬ闘争への渇望は、琥珀色の騎士アンバーナイトマーク・ステラートの心象風景。現実として具象化したその世界に囚われた零とブレイズは、終わりなき戦塵の果てバトル・ダストにその身を晒す。
 瞬間、零は神速を超えた絶へと達し狙い澄ましたように殺到した剣戟を躱すと、思考に気迫を乗せる。
【これ以上、奴に付き合っては居られない。固有結界を破るぞ。その後は俺が奴を引き受けるから、ブレイズは陽動兵団群の援護へ向かってくれ】
【強引にでも仕掛けるっちゃねーな。この剣戟の嵐の中キツいがな。でもよ、俺がいなくなっちまっておまえは大丈夫かっ!】
 騎士甲冑ナイトアーマーの盾で前方からの斬撃を防ぐと同時上下からの刺突を回転しながら躱し発するブレイズの問いに、零は追い縋った亡霊が過去を囁くのを今だけは拒絶する。
【少しの間なら。エレノア達、ガーライル基地奪還兵団次第だ。長引けば、陽動兵団群は全滅必至。俺たちに出来るのは、時間稼ぎだけなんだよ。だから】
【分かった。少しでも命長らえさせるしか、俺たちに生き残る目はねー。先に行くぜ】
 藍色の騎士甲冑ナイトアーマーを群青色の膜が覆い丸みを帯びたアーマーの上で形状が固定すると、それまでのフォルムが一変し流線型の鋭利なデザインへと変貌した。
 バイザーの下の夜空の双眸をすっと細め、零は科学兵装騎士甲冑ナイトアーマーがどこかしら生物めくのを子細に観察する。
 ――ブレイズが契約した幻魔は、創造世界ミユートロギアから契約者に力を引き込むより己を顕現させる形状変幻タイプか。
 固有結界が織りなす途切れぬ剣戟を細心に捌いていたそれまでの機動が嘘のように、途端ブレイズは鷹揚な挙動となった。その身を切り裂き貫く筈の剣戟が、斬刺を刻む間際阻まれる。丁度フィールドがあるみたいに、刃との接点に青黒い障壁が浮かび上がり、それ以上刃が進むことを拒絶する。
 攻撃を躱ししつつ視界の端にそれを捉え、零は訝しむ。
【防御が、馬鹿げて跳ね上がった。あれだけでも厄介だが、それだけのものか? あの幻魔に俺が感じる違和感は、そんなものじゃないって告げている】
 ブレイズの背後に秘超理力スーパーフォースの波紋が生まれムーブによって一気に加速し、その場から掻き消えたようにマークとの距離を毫の間に殺した。同時に動いていた零は、同様にムーブによって騎士甲冑ナイトアーマーに劣る型落ちの外骨格Eスケルトンスーツにスペック上無理な機動を急激に叩き込み下方へ。
 既に動いていたマークから、生命いのちから振り絞られたかのような思念が漏れる。
【くぉおおおおおおおおおおおお!】
 急襲したかに見えたブレイズは直進するように見えて不自然な機動でその場に止まり、次の瞬間にはその少し前に出現してを繰り返し時間差による幻惑でマークの間合いや感覚を狂わせたのだ。
 マーク同様ブレイズの攻撃タイミングを図りかねながら零は、時間差攻撃オーバーラツプにも似たその攻撃に戦慄を覚える。
 ――空間干渉……あれは、契約した幻魔の能力ちからか? ブレイズがクリエイトルだったとは、ついぞ聞いたことがなかったからな。時間差攻撃オーバーラツプとの違いは、無数に時間差で連なった分身ダブルが残像を作りその間本体オリジナルが次元移動するだけと違い、本体オリジナルである同体が同時に二カ所に存在すること。つまり、常に時間差で二カ所に出現するブレイズを片方が偽物フェイクと片付け無視することができない。前後二人のブレイズに、対処せざるを得ないことだ。当然、マークはそれに気づいている。だからこそ、ああも殺気立ってる。
 どこかしら妖気を騎士甲冑ナイトアーマーを覆う幻魔の顕現体に帯び、ブレイズは前後に出現するトリッキーなゆるりとした突進でマークへ迫った。対するマークはナイトリーソードを振りかぶり、それはあまりにも単純な応手に見えた。一見すれば。
 前後に時間差で出現し迫る前列のブレイズがパワー・ブレイドの強い光輝を放つバスターソードに鋭利な刺突を乗せたかに見えた瞬間、後列のブレイズが消えアダマンタイン製フィールド発生エネルギー伝導硬化型ラウンドシールドを構え刺突より前に現れた。咄嗟に攻撃対象を変更し振り下ろしたマークのナイトリーソードの斬撃は、ブレイズが放ったシールドバッシュの強烈な一撃で弾かれ騎士甲冑ナイトアーマーにもろに喰らい体勢を崩した。が――、
 痛みに耐えるような思考を発したのは、ブレイズだった。
【ぐ、あぁあああああああああああああ】
 シールドバッシュで琥珀色の騎士アンバーナイトの体勢を崩し時間差で必殺の刺突を叩き込む筈だったブレイズを、十分に魔力を帯びた武器特有の光彩を放つ咒力帯纏汎剣ミスティツク・ブレイドを発動したナイトリーソードが出現し切り裂いたのだ。幻魔の顕現体が斬撃の威力を殺したらしく、必殺の剣は負傷に止められたようだった。
 十色の騎士イクス・コロルムが絶対の強者であることを知っていた筈の零にして、はっとさせられる。
 ――モータル・ブレイド! ブレイズと同時にマークは、技を発動していたのかっ! 神技中位に相当する、剣を振るうと同時にロックした相手の周囲から剣戟を出現させる必滅の剣。本来、対峙する一人に用いる技。前列のブレイズは本体オリジナルで相手をし、前座を用い必殺を放つであろう後列のブレイズに用いた。
 懸命な選択だった。契約する幻魔の力を用いたブレイズが仕掛けた攻撃を、完全に捌くことは不可能と判断したマークは二枚揃えたブレイズの仕掛けの片方は敢えて捨てた。まさに肉を切らせて骨を断つ、見事な戦の駆け引き。
 トクン、と零の心臓の鼓動が高鳴った。恐怖ではなく、まるで焦がれるかのように。
 ――強い。
 けれど――、
 ブレイズが沈められたまさにそのとき、零はマークの真下を取っていた。ブレイズの必殺に全力で抗したまさにそのときを突き、零はパワー・ブレイドによる強い光輝を帯びた太刀を振り抜いた。
 が、マークは零が振り抜いた太刀に反応してのける。
【甘いぞ、贖罪者!】
 神速を超える絶でもって、対応不能の零の一撃に反応してのけた。魔力探査シークによって零の動向を掴んでいたとしても、先程の攻防の一瞬だけはマークの意識から外れた筈で、空白が生じていたに違いないというのに。にもかかわらず、そうなるよなと零は麗貌に笑みを刻んだ。
 太刀とナイトリーソードが打ち合わされた刹那、零の姿はその場から掻き消え、抗力を失ったマークは体勢を崩し吠える。
【姑息っ!】
 秘技の一つ縮地により二点の空間を結び瞬間移動した零に、当然のようにマークは付いてきてナイトリーソードが霞んだ。
 真横からの零の出現に、毫すらの間を置かず絶の速度で応じたマークは獲物を屠る絶対の体勢。
 身内から湧き上がる高揚感で、零の意識が灼熱する。
 ――待ってたよ。おまえの意識が、完全に空になるのを。
 普段より正面に構えていたハイメタル製フィールド発生エネルギー伝導硬化型ヒーターシールドを太刀を振るうより早く零は殴りつけるようにナイトリーソードに叩き付け、連動した動作で太刀を振るった。
 当然のように応じたマークから、驚愕が漏れる。
【くっ、はっ――】
 打ち合わされる筈だったマークのナイトリーソードが、空を切った。零が振るった刃が柄を残し掻き消え琥珀色アンバー騎士甲冑ナイトアーマーを真後ろから切り裂いたのだ。零の手に確かな手応えが伝わった。
 周囲の暗紅色が消え去り、閉ざされた空間が消失した。マークの心象風景を具象化した固有結界・戦塵の果てバトル・ダストが解除されたのだ。
 目的は果たしたが、零は麗貌を顰める。
【ブレイズ、平気か? 陽動兵団群の救援に向かって欲しかったが、それなりに手傷を負っている筈だ。固有結界を破った意味がなくなっちまったが、無理はするな。下がれ。後は、俺がマークを作戦完了まで引き受ける。逃げ回るつもりだけどな。奴め、斬撃を受ける直前、堅硬ハードで防御しやがった。致命傷じゃない】
【済まねぇ。そうさせて貰うぜ】
 幾分苦しそうに答えると、群青色の幻魔の顕現体である鋭利な装甲が退いていき藍色の丸みを帯びた騎士甲冑ナイトアーマーが現れ、ブレイズは機動スタビライザーでくるりと背を向けると汎用推進機関から電離気体を引き離脱した。
 その様子を見遣った零はマークへと視線を戻そうとしたとき、全身を凍り付かせるような殺気が走り抜け咄嗟に飛び退いた。
 滞空するマークは掌を向け零の頭上には数十の魔法陣が連なり、その一つから魔力の光束が迸ったのだ。
 退いた零から、呻きが漏れ出る。
【くっ!】
 躱したと思った瞬間次の魔法陣から、魔力の光束が零に照準され放たれたのだ。零の前方に秘超理力スーパーフォースの波紋が出現し、その場から掻き消えたように逃れた。が、それに追随するように上空の魔法陣が広がり、零を捉えて放さない。ムーブによる回避が途切れると、零の身体が残像を残しつつ、次々と放たれる魔力の光束を無数の分身体に分かれマークとの間合いを時間差攻撃オーバーラツプで狂わせつつ躱していった。
 遂に最後の一射を零が躱し無数の分身体が追いつくように一つになると、マークは冷たさを装った高速伝達に怒りを乗せる。
【いつまでもそんな手品は通用せんぞ、贖罪者。ブレイズなしで、どこまで保つかな?】
【別に。俺はおまえに勝つつもりはないからな。無理はしないさ。逃げ回るだけなら、丸一日だろうと自信はある】
 確実に零を仕留めるつもりで発動させた固有結界・戦塵の果てバトル・ダストを破られ矜持を傷つけられた怒りに満ちるマークに、零は気楽な言葉とは裏腹精神を極限まで研ぎ澄まさせる。
 ――必ず、生き残る。俺は、これまでだってそうして来たのだから。
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