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刻の唄――ゼロ・クロニクル―― 第一部
第三章 犠牲の軍隊後編 10
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「お、居た居た。ご同輩方、所定の位置から東に少し移動して隠れてる」
「どれ」
輸送型機械兵ユニットの中、零の前列にアームで固定されうずうずしたようなどこか愉しげなブレイズの声と挙動に、零は己の内で泉のように湧き出るそれを感じながら視線の先を注視した。秘超理力によって増強された視覚、鷹の目によって岩が連なる切れ目から覗く機械兵ユニットの周囲に馴染みやすいオリーブドラブ色が見て取れた。
同様に零の隣で目を凝らすエレノアが、快活な響きを艶のあるメゾソプラノに帯びさせた。
「ほう。なかなか、上手く隠れてるじゃないか。目聡いな、ブレイズ」
「野外戦は、慣れてますから。俺、なかなか仕官先に恵まれなくて、情けない話、あちこちを転々としてPMCなんかの臨時雇いで端役を色々やってましたから。こういうの、得意になっちまって……あ、ははは……」
「……苦労したんだな」
振り向き謙遜を見せるブレイズに、零は機械兵ユニットの自立型特化型AIに架空頭脳空間を通して進路指示をしつつ強いくせに弱者を装うなとの思いが掠めるが、途中からこれまでの生き様を思い出してか悲壮感を漂わせ始めるブレイズの様子にエレノアが微妙な表情で慰めを口にするのを聞きながら、身についた性かかと小さく落とした吐息と共に腐した。
「何かおまえ、三下が何故か似合うよな。ソルダの道を捨てた俺と違って、ブレイズは念願叶ってボルニアに仕官が叶ったのに、他人に己を偽る必要はないだろう」
「別にそういうつもりはないんだけど、ほら、リザーランド卿はこの内乱がなければ本来ボルニア帝国でも近衛軍副司令って目上の立場で、零とは違って遠慮しちまうんだよ」
「おまえ、そんな風に人を見てたのか。俺は、どうでもいいって扱いか?」
零は意識的に鋭くした視線を送り、向けられたブレイズが本能的にびくりと首を竦める様に溜飲を下げたが、途端不機嫌になった。
――今のが勝てるか分からない相手を武勇以外で下して喜ぶなど、俺も存外考えが甘くなったものだ。
秋霜のカーンと冴えた峻厳な響きを声に乗せ、同様な視線をサブリナが向けてきた。
「馬鹿話は、それくらいにして。気を緩めていい、状況じゃないわ」
「あら? だからこそじゃないの。長丁場なの。ずっと、気を張り詰め続けることなんて出来はしないわ。いざというとき、判断力が鈍りミスを招くだけよ」
ブレイズの隣に天井から伸びるアームに固定されたマーキュリーの冷笑が滲む指摘に、ムッとなした声でサブリナは抗弁した。
「そんなことは、分かっているわよ。ただ、あまりにも零やブレイズが気を抜きすぎだから」
「怒られた」
「ははは、結構きつい娘だね」
悪戯が見付かったように零は肩を竦め、ブレイズ少しだけ端正な面を引きつらせ苦笑し、続けて零は出会ってからの意趣返しも含めやり返した。尤も、感じていたことではあったが。
「前から思ってたけど、真面目というのとも違ってサブリナには才気走るきらいがあるよな。センスは悪くないと思うけど、持論に空転しがちっていうか、剣にもそれが現れていて多数の流派を学んだようだけどそれが却ってネックになってぐちゃぐちゃな感じがして、ポテンシャルの割に飛び抜けられない。だからこそ、虹位階止まり」
やや辛辣な零の批評に、応じたのはサブリナではなくヴァレリーだった。
「それは、十分凄いことでしょう。真に能力があるものが才能によって力を開花させて、ようやく到達できるのがソルダ位階第三位虹。それを凡百の輩の如き言いよう。強者の驕りです。わたしでは、どう足掻いても到達できぬというのに。ご自分の恵まれた境遇だけで物事を判断するのは傲慢に過ぎます」
「そう、睨んでやるな。零も気の毒だ。わたしも、零の言うことは分からなくはないんだ。似たようなことを、ブランシュも言っていた。ヴァレリー、気を悪くしないで欲しい。持って生まれた資質はソルダ諸元だが、これは持つべくして生まれた者しか持てない。だからこそ、限られた資質の者には、それなりの責務があるとわたしは思っている。だから、サブリナは今のまま甘んじるべきではないんだ」
青い瞳に瞋恚を乗せ零を睨むヴァレリーを、エレノアは茶目っ気を効かせ宥めると表情を改め持論を伝えた。ヴァレリーは小声で、そんなこと今となっては無駄だわと寂しげに呟くとそっぽを向いた。
ヴァレリーを見遣るサブリナに、不憫そうな表情が面に掠めたがすぐに切り替えた。
「着くわ。人のことを好き勝手に。今度こそ、無駄話は止めて。AI、発光信号でこちらの所属を伝えて」
輸送型機械兵ユニット群五体は、囮兵団群が潜む岩山の向こうへ降り立った。
「どれ」
輸送型機械兵ユニットの中、零の前列にアームで固定されうずうずしたようなどこか愉しげなブレイズの声と挙動に、零は己の内で泉のように湧き出るそれを感じながら視線の先を注視した。秘超理力によって増強された視覚、鷹の目によって岩が連なる切れ目から覗く機械兵ユニットの周囲に馴染みやすいオリーブドラブ色が見て取れた。
同様に零の隣で目を凝らすエレノアが、快活な響きを艶のあるメゾソプラノに帯びさせた。
「ほう。なかなか、上手く隠れてるじゃないか。目聡いな、ブレイズ」
「野外戦は、慣れてますから。俺、なかなか仕官先に恵まれなくて、情けない話、あちこちを転々としてPMCなんかの臨時雇いで端役を色々やってましたから。こういうの、得意になっちまって……あ、ははは……」
「……苦労したんだな」
振り向き謙遜を見せるブレイズに、零は機械兵ユニットの自立型特化型AIに架空頭脳空間を通して進路指示をしつつ強いくせに弱者を装うなとの思いが掠めるが、途中からこれまでの生き様を思い出してか悲壮感を漂わせ始めるブレイズの様子にエレノアが微妙な表情で慰めを口にするのを聞きながら、身についた性かかと小さく落とした吐息と共に腐した。
「何かおまえ、三下が何故か似合うよな。ソルダの道を捨てた俺と違って、ブレイズは念願叶ってボルニアに仕官が叶ったのに、他人に己を偽る必要はないだろう」
「別にそういうつもりはないんだけど、ほら、リザーランド卿はこの内乱がなければ本来ボルニア帝国でも近衛軍副司令って目上の立場で、零とは違って遠慮しちまうんだよ」
「おまえ、そんな風に人を見てたのか。俺は、どうでもいいって扱いか?」
零は意識的に鋭くした視線を送り、向けられたブレイズが本能的にびくりと首を竦める様に溜飲を下げたが、途端不機嫌になった。
――今のが勝てるか分からない相手を武勇以外で下して喜ぶなど、俺も存外考えが甘くなったものだ。
秋霜のカーンと冴えた峻厳な響きを声に乗せ、同様な視線をサブリナが向けてきた。
「馬鹿話は、それくらいにして。気を緩めていい、状況じゃないわ」
「あら? だからこそじゃないの。長丁場なの。ずっと、気を張り詰め続けることなんて出来はしないわ。いざというとき、判断力が鈍りミスを招くだけよ」
ブレイズの隣に天井から伸びるアームに固定されたマーキュリーの冷笑が滲む指摘に、ムッとなした声でサブリナは抗弁した。
「そんなことは、分かっているわよ。ただ、あまりにも零やブレイズが気を抜きすぎだから」
「怒られた」
「ははは、結構きつい娘だね」
悪戯が見付かったように零は肩を竦め、ブレイズ少しだけ端正な面を引きつらせ苦笑し、続けて零は出会ってからの意趣返しも含めやり返した。尤も、感じていたことではあったが。
「前から思ってたけど、真面目というのとも違ってサブリナには才気走るきらいがあるよな。センスは悪くないと思うけど、持論に空転しがちっていうか、剣にもそれが現れていて多数の流派を学んだようだけどそれが却ってネックになってぐちゃぐちゃな感じがして、ポテンシャルの割に飛び抜けられない。だからこそ、虹位階止まり」
やや辛辣な零の批評に、応じたのはサブリナではなくヴァレリーだった。
「それは、十分凄いことでしょう。真に能力があるものが才能によって力を開花させて、ようやく到達できるのがソルダ位階第三位虹。それを凡百の輩の如き言いよう。強者の驕りです。わたしでは、どう足掻いても到達できぬというのに。ご自分の恵まれた境遇だけで物事を判断するのは傲慢に過ぎます」
「そう、睨んでやるな。零も気の毒だ。わたしも、零の言うことは分からなくはないんだ。似たようなことを、ブランシュも言っていた。ヴァレリー、気を悪くしないで欲しい。持って生まれた資質はソルダ諸元だが、これは持つべくして生まれた者しか持てない。だからこそ、限られた資質の者には、それなりの責務があるとわたしは思っている。だから、サブリナは今のまま甘んじるべきではないんだ」
青い瞳に瞋恚を乗せ零を睨むヴァレリーを、エレノアは茶目っ気を効かせ宥めると表情を改め持論を伝えた。ヴァレリーは小声で、そんなこと今となっては無駄だわと寂しげに呟くとそっぽを向いた。
ヴァレリーを見遣るサブリナに、不憫そうな表情が面に掠めたがすぐに切り替えた。
「着くわ。人のことを好き勝手に。今度こそ、無駄話は止めて。AI、発光信号でこちらの所属を伝えて」
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