上 下
34 / 60
刻の唄――ゼロ・クロニクル―― 第一部

第三章 犠牲の軍隊後編 10

しおりを挟む
「お、居た居た。ご同輩方、所定の位置から東に少し移動して隠れてる」
「どれ」
 輸送型機械兵マキナミレスユニットの中、零の前列にアームで固定されうずうずしたようなどこか愉しげなブレイズの声と挙動に、零は己の内で泉のように湧き出るそれを感じながら視線の先を注視した。秘超理力スーパーフォースによって増強された視覚、鷹の目イーグルアイによって岩が連なる切れ目から覗く機械兵マキナミレスユニットの周囲に馴染みやすいオリーブドラブ色が見て取れた。
 同様に零の隣で目を凝らすエレノアが、快活な響きを艶のあるメゾソプラノに帯びさせた。
「ほう。なかなか、上手く隠れてるじゃないか。目聡いな、ブレイズ」
「野外戦は、慣れてますから。俺、なかなか仕官先に恵まれなくて、情けない話、あちこちを転々としてPMCなんかの臨時雇いで端役を色々やってましたから。こういうの、得意になっちまって……あ、ははは……」
「……苦労したんだな」
 振り向き謙遜を見せるブレイズに、零は機械兵マキナミレスユニットの自立型特化型AIANIに架空頭脳空間オルタナスペースを通して進路指示をしつつ強いくせに弱者を装うなとの思いが掠めるが、途中からこれまでの生き様を思い出してか悲壮感を漂わせ始めるブレイズの様子にエレノアが微妙な表情で慰めを口にするのを聞きながら、身についた性かかと小さく落とした吐息と共に腐した。
「何かおまえ、三下が何故か似合うよな。ソルダの道を捨てた俺と違って、ブレイズは念願叶ってボルニアに仕官が叶ったのに、他人に己を偽る必要はないだろう」
「別にそういうつもりはないんだけど、ほら、リザーランド卿はこの内乱がなければ本来ボルニア帝国でも近衛軍副司令って目上の立場で、零とは違って遠慮しちまうんだよ」
「おまえ、そんな風に人を見てたのか。俺は、どうでもいいって扱いか?」
 零は意識的に鋭くした視線を送り、向けられたブレイズが本能的にびくりと首を竦める様に溜飲を下げたが、途端不機嫌になった。
 ――今のが勝てるか分からない相手を武勇以外で下して喜ぶなど、俺も存外考えが甘くなったものだ。
 秋霜のカーンと冴えた峻厳な響きを声に乗せ、同様な視線をサブリナが向けてきた。
「馬鹿話は、それくらいにして。気を緩めていい、状況じゃないわ」
「あら? だからこそじゃないの。長丁場なの。ずっと、気を張り詰め続けることなんて出来はしないわ。いざというとき、判断力が鈍りミスを招くだけよ」
 ブレイズの隣に天井から伸びるアームに固定されたマーキュリーの冷笑が滲む指摘に、ムッとなした声でサブリナは抗弁した。
「そんなことは、分かっているわよ。ただ、あまりにも零やブレイズが気を抜きすぎだから」
「怒られた」
「ははは、結構きついだね」
 悪戯が見付かったように零は肩を竦め、ブレイズ少しだけ端正な面を引きつらせ苦笑し、続けて零は出会ってからの意趣返しも含めやり返した。尤も、感じていたことではあったが。
「前から思ってたけど、真面目というのとも違ってサブリナには才気走るきらいがあるよな。センスは悪くないと思うけど、持論に空転しがちっていうか、剣にもそれが現れていて多数の流派を学んだようだけどそれが却ってネックになってぐちゃぐちゃな感じがして、ポテンシャルの割に飛び抜けられない。だからこそ、虹位階止まり」
 やや辛辣な零の批評に、応じたのはサブリナではなくヴァレリーだった。
「それは、十分凄いことでしょう。真に能力があるものが才能によって力を開花させて、ようやく到達できるのがソルダ位階第三位虹。それを凡百の輩の如き言いよう。強者の驕りです。わたしでは、どう足掻いても到達できぬというのに。ご自分の恵まれた境遇だけで物事を判断するのは傲慢に過ぎます」
「そう、睨んでやるな。零も気の毒だ。わたしも、零の言うことは分からなくはないんだ。似たようなことを、ブランシュも言っていた。ヴァレリー、気を悪くしないで欲しい。持って生まれた資質はソルダ諸元スペツクだが、これは持つべくして生まれた者しか持てない。だからこそ、限られた資質の者には、それなりの責務があるとわたしは思っている。だから、サブリナは今のまま甘んじるべきではないんだ」
 青い瞳に瞋恚を乗せ零を睨むヴァレリーを、エレノアは茶目っ気を効かせ宥めると表情を改め持論を伝えた。ヴァレリーは小声で、そんなこと今となっては無駄だわと寂しげに呟くとそっぽを向いた。
 ヴァレリーを見遣るサブリナに、不憫そうな表情が面に掠めたがすぐに切り替えた。
「着くわ。人のことを好き勝手に。今度こそ、無駄話は止めて。AIマザー、発光信号でこちらの所属を伝えて」
 輸送型機械兵マキナミレスユニット群五体は、囮兵団群が潜む岩山の向こうへ降り立った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

未来に住む一般人が、リアルな異世界に転移したらどうなるか。

kaizi
SF
主人公の設定は、30年後の日本に住む一般人です。 異世界描写はひたすらリアル(現実の中世ヨーロッパ)に寄せたので、リアル描写がメインになります。 魔法、魔物、テンプレ異世界描写に飽きている方、SFが好きな方はお読みいただければ幸いです。 なお、完結している作品を毎日投稿していきますので、未完結で終わることはありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【新作】読切超短編集 1分で読める!!!

Grisly
現代文学
⭐︎登録お願いします。 1分で読める!読切超短編小説 新作短編小説は全てこちらに投稿。 ⭐︎登録忘れずに!コメントお待ちしております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...