33 / 63
刻の唄――ゼロ・クロニクル―― 第一部
第三章 犠牲の軍隊後編 9
しおりを挟む
「ブレイズ、マーキュリー。二人が生きていたのは、僥倖だ。何しろ戦力が足りなくて、猫の手でも借りたい状況だからな。強者は、大歓迎だ」
地上に降りた輸送型機械兵ユニットの近くの岩場に寄りかかり、エレノアが美貌に艶っぽさが不思議と滲む雄々しい笑みを浮かべた。
取り残された敵地で偶然遭遇し互いに敵と誤認した為生じた戦闘は、互いの正体が知れ終わった。今は情報交換を兼ねて、小休止をしていた。
藍色の丸みを帯びた騎士甲冑の胸甲を開け寛ぎ地べたに腰を下ろすブレイズは、恐縮した様子で答えた。
「そちらこそ。まさか決死隊が生き残るとは、思っていませんでしたから。さすがは、リザーランド卿。ま、無事なのは本軍を襲ったマーク・ステラートがそんなことを言ってたから分かってたんですが」
「へぇ。あの琥珀色の騎士と話したのか? っていうか、よく生き残れたな。本軍三万は全滅したんだ。残った敵を逃すとは思えないが。こちらはエレノアと俺が共闘してどうにか凌いだよ。奴は、あからさまに陽動の動きを見せる決死隊を窺いにきただけだから、無理せず退いてくれた。マーキュリーもいるとは言え、奴には第一エクエス・ストレール百と兵団群が一緒だった筈だ。退く理由はなさそうだけど?」
「話したわけではないけど、圧勝が見えて敵の不甲斐なさに憤り驕る彼の独り言を聞いたわ。わたしとブレイズは、琥珀色の騎士の大技を突然喰らって混乱に陥った本軍が奇襲を受けて機能を失い為す術がなくて、情けない話だけど地に斃れ重なった味方の骸に紛れてやり過ごしたの。そのとき、たまたま彼が近くに来てそれで」
「味方が狩られていく様を、俺たちはこそこそ隠れてどうすることも出来なくて只指を咥えて見ていた。バロアン卿も奇襲で討ち死にし、どうしようもなかった。そうやって、卑怯に生き残ったのさ」
あの銀河に名だたる十色の騎士の一人琥珀色の騎士とどうブレイズが戦ったのか興味が湧いた零の問いに、マーキュリーが閑雅な美貌を曇らせ応えブレイズが忸怩といった態度で口調に屈辱を滲ませた。
凜々しく引き締まった声を凜と鳴らし、並んで腰を下ろすブレイズとマーキュリーへ、金髪のポニーテールを揺らし向き直るとヴァレリーが清楚な美貌をキリッと引き締めた。
「それは、決して卑怯でも卑劣でもないわ。琥珀色の騎士一人でも、難敵。そこに、ミラトの第一エクエス・ストレール百に三千の兵団群。機能を失い混乱に陥った兵団群では、どう抗おうとも負けは確実。出来るのは、逃げて捲土重来を期すことのみ。生き残りを図ることは、正しいことよ。手段はどうあれ」
「今こうしてここにいることが、正しいやり方だった証拠だわ。味方が恐慌状態だったに違いない状況で、ただ逃走を図るでは逃げ切れるものではないわ。確かに屈辱だろうし褒められないけど、そんなの一時の汚辱に過ぎない」
主筋であるヴァレリーの隣に立つサブリナが、煌めきのある榛色の瞳に思慮を浮かべ彼女らしいプラグマチックな結論を付け足した。
円になるように集まっているのは、零、エレノア、ブレイズ、マーキュリー、ヴァレリー、サブリナの他決死隊から十六名。残りは、輸送型機械兵ユニットに待機していた。
精悍さのある端正な面に自嘲を刻み、皮肉な口調でブレイズは吐き捨てた。
「ざまーねーな。決死隊は生還できない死地に送られ全滅必至とか憐れんでいながら、こちらはほぼ全滅。何温いこと考えてたんだって話だな」
首を振ると気持ちを切り替えるように、ブレイズは零へと向き直った。
「が、まだ死地を逃れたわけじゃない。零、おまえらはどうする?」
「ああ。今まさに、その死地とやらを逃れるために行動しているところだ」
水を向けられ零は形のいい眉を軽く持ち上げ不敵さを口調に刻み、ブレイズは怪訝ながらも量るような視線を向けた。
「どうにかなる状況か? 国境惑星ファルではおまえの悪知恵で切り抜けたが、今回は前回以上に不可能に思えるぞ」
「これからわたしたちは、恐らく健在な囮兵団群と合流するつもりなの」
勝ち気を宿した明眸の瞳に強い意志を宿したヴァレリーの応えに、マーキュリーが難しい表情を閑雅な美貌に浮かべた。
「味方は増えるけど、焼け石に水だわ。囮兵団群は、三千。決死隊の生き残りが、四百三名。その半数近くが、キャバリアーではない。この戦力差では、状況に変化はないわ」
「逃げ回ることを考えたらな。わたしたちは、ガーライル基地をこの戦力で奪還するつもりなんだ」
勇ましげにすると艶っぽさが増すエレノアが断言すると妖気じみた色香が迸り、ややたじろぐブレイズは及び腰だ。
「そりゃ、無茶ってもんじゃ……」
「当然、今見込める戦力でガーライル基地へ向かっても全滅するわ。だから一人で戦場を支配しかねない厄介な敵琥珀色の騎士とミラトの精鋭ストレール百を、こちらの戦力を二手に分け陽動兵団群が引き付ける」
「そして、もう一方の基地奪還兵団がその間に基地を奪還する。マークやストレールが不在なら、防衛兵団群も半数以下になっているだろうから、難易度はぐんと下がる。幸い、こちらにはキャバリアー位階第二位伝説級のエレノアがいる。数千の兵団群が残っているといっても、どうにかできないわけじゃない。基地奪還兵団の人員は、第二エクエス以上のキャバリアーが多少はいる決死隊から優先的に割り振るつもりだ」
怜悧さを美貌に閃かせサブリナが大まかな作戦を示し、この場にいる決死隊に視線を送り零が後を継いだ。
美貌を幾分困りが顔にするエレノアの口調は、どこか拗ねたような響きがあり素っ気ない。
「伝説級位階以上は、わたしだけじゃないだろう。零やブレイズもいるし、マーキュリーも強力だ。この作戦で一番危険に晒されるのは、陽動兵団群だ。圧倒的に戦力の質が異なる中、全滅せずに敵を引きつけ続けなければならないんだからな」
「上手くいきますかね? かなり厳しいと、俺は思いますが」
確信を持てないようで顎に手をやり言葉を濁すブレイズに、零は普段は雅やかさのある麗貌に凶悪な笑みを浮かべ開き直ったように口にする言葉は珍しく大味だった。
「何もやらないより、増しだろう? それに、決して不可能ってわけじゃない。敵主力さえ拘束し続けられたら、勝ちが見える。基地を攻略し殲滅の砲弾さえ黙らせてしまえば、味方の艦隊が惑星に降下できるんだから」
地上に降りた輸送型機械兵ユニットの近くの岩場に寄りかかり、エレノアが美貌に艶っぽさが不思議と滲む雄々しい笑みを浮かべた。
取り残された敵地で偶然遭遇し互いに敵と誤認した為生じた戦闘は、互いの正体が知れ終わった。今は情報交換を兼ねて、小休止をしていた。
藍色の丸みを帯びた騎士甲冑の胸甲を開け寛ぎ地べたに腰を下ろすブレイズは、恐縮した様子で答えた。
「そちらこそ。まさか決死隊が生き残るとは、思っていませんでしたから。さすがは、リザーランド卿。ま、無事なのは本軍を襲ったマーク・ステラートがそんなことを言ってたから分かってたんですが」
「へぇ。あの琥珀色の騎士と話したのか? っていうか、よく生き残れたな。本軍三万は全滅したんだ。残った敵を逃すとは思えないが。こちらはエレノアと俺が共闘してどうにか凌いだよ。奴は、あからさまに陽動の動きを見せる決死隊を窺いにきただけだから、無理せず退いてくれた。マーキュリーもいるとは言え、奴には第一エクエス・ストレール百と兵団群が一緒だった筈だ。退く理由はなさそうだけど?」
「話したわけではないけど、圧勝が見えて敵の不甲斐なさに憤り驕る彼の独り言を聞いたわ。わたしとブレイズは、琥珀色の騎士の大技を突然喰らって混乱に陥った本軍が奇襲を受けて機能を失い為す術がなくて、情けない話だけど地に斃れ重なった味方の骸に紛れてやり過ごしたの。そのとき、たまたま彼が近くに来てそれで」
「味方が狩られていく様を、俺たちはこそこそ隠れてどうすることも出来なくて只指を咥えて見ていた。バロアン卿も奇襲で討ち死にし、どうしようもなかった。そうやって、卑怯に生き残ったのさ」
あの銀河に名だたる十色の騎士の一人琥珀色の騎士とどうブレイズが戦ったのか興味が湧いた零の問いに、マーキュリーが閑雅な美貌を曇らせ応えブレイズが忸怩といった態度で口調に屈辱を滲ませた。
凜々しく引き締まった声を凜と鳴らし、並んで腰を下ろすブレイズとマーキュリーへ、金髪のポニーテールを揺らし向き直るとヴァレリーが清楚な美貌をキリッと引き締めた。
「それは、決して卑怯でも卑劣でもないわ。琥珀色の騎士一人でも、難敵。そこに、ミラトの第一エクエス・ストレール百に三千の兵団群。機能を失い混乱に陥った兵団群では、どう抗おうとも負けは確実。出来るのは、逃げて捲土重来を期すことのみ。生き残りを図ることは、正しいことよ。手段はどうあれ」
「今こうしてここにいることが、正しいやり方だった証拠だわ。味方が恐慌状態だったに違いない状況で、ただ逃走を図るでは逃げ切れるものではないわ。確かに屈辱だろうし褒められないけど、そんなの一時の汚辱に過ぎない」
主筋であるヴァレリーの隣に立つサブリナが、煌めきのある榛色の瞳に思慮を浮かべ彼女らしいプラグマチックな結論を付け足した。
円になるように集まっているのは、零、エレノア、ブレイズ、マーキュリー、ヴァレリー、サブリナの他決死隊から十六名。残りは、輸送型機械兵ユニットに待機していた。
精悍さのある端正な面に自嘲を刻み、皮肉な口調でブレイズは吐き捨てた。
「ざまーねーな。決死隊は生還できない死地に送られ全滅必至とか憐れんでいながら、こちらはほぼ全滅。何温いこと考えてたんだって話だな」
首を振ると気持ちを切り替えるように、ブレイズは零へと向き直った。
「が、まだ死地を逃れたわけじゃない。零、おまえらはどうする?」
「ああ。今まさに、その死地とやらを逃れるために行動しているところだ」
水を向けられ零は形のいい眉を軽く持ち上げ不敵さを口調に刻み、ブレイズは怪訝ながらも量るような視線を向けた。
「どうにかなる状況か? 国境惑星ファルではおまえの悪知恵で切り抜けたが、今回は前回以上に不可能に思えるぞ」
「これからわたしたちは、恐らく健在な囮兵団群と合流するつもりなの」
勝ち気を宿した明眸の瞳に強い意志を宿したヴァレリーの応えに、マーキュリーが難しい表情を閑雅な美貌に浮かべた。
「味方は増えるけど、焼け石に水だわ。囮兵団群は、三千。決死隊の生き残りが、四百三名。その半数近くが、キャバリアーではない。この戦力差では、状況に変化はないわ」
「逃げ回ることを考えたらな。わたしたちは、ガーライル基地をこの戦力で奪還するつもりなんだ」
勇ましげにすると艶っぽさが増すエレノアが断言すると妖気じみた色香が迸り、ややたじろぐブレイズは及び腰だ。
「そりゃ、無茶ってもんじゃ……」
「当然、今見込める戦力でガーライル基地へ向かっても全滅するわ。だから一人で戦場を支配しかねない厄介な敵琥珀色の騎士とミラトの精鋭ストレール百を、こちらの戦力を二手に分け陽動兵団群が引き付ける」
「そして、もう一方の基地奪還兵団がその間に基地を奪還する。マークやストレールが不在なら、防衛兵団群も半数以下になっているだろうから、難易度はぐんと下がる。幸い、こちらにはキャバリアー位階第二位伝説級のエレノアがいる。数千の兵団群が残っているといっても、どうにかできないわけじゃない。基地奪還兵団の人員は、第二エクエス以上のキャバリアーが多少はいる決死隊から優先的に割り振るつもりだ」
怜悧さを美貌に閃かせサブリナが大まかな作戦を示し、この場にいる決死隊に視線を送り零が後を継いだ。
美貌を幾分困りが顔にするエレノアの口調は、どこか拗ねたような響きがあり素っ気ない。
「伝説級位階以上は、わたしだけじゃないだろう。零やブレイズもいるし、マーキュリーも強力だ。この作戦で一番危険に晒されるのは、陽動兵団群だ。圧倒的に戦力の質が異なる中、全滅せずに敵を引きつけ続けなければならないんだからな」
「上手くいきますかね? かなり厳しいと、俺は思いますが」
確信を持てないようで顎に手をやり言葉を濁すブレイズに、零は普段は雅やかさのある麗貌に凶悪な笑みを浮かべ開き直ったように口にする言葉は珍しく大味だった。
「何もやらないより、増しだろう? それに、決して不可能ってわけじゃない。敵主力さえ拘束し続けられたら、勝ちが見える。基地を攻略し殲滅の砲弾さえ黙らせてしまえば、味方の艦隊が惑星に降下できるんだから」
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女貞操逆転世界で、自己肯定感低めのお人好し男が、自分も周りも幸せにするお話
カムラ
ファンタジー
※下の方に感想を送る際の注意事項などがございます!
お気に入り登録は積極的にしていただけると嬉しいです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あらすじ
学生時代、冤罪によってセクハラの罪を着せられ、肩身の狭い人生を送ってきた30歳の男、大野真人(おおのまさと)。
ある日仕事を終え、1人暮らしのアパートに戻り眠りについた。
そこで不思議な夢を見たと思ったら、目を覚ますと全く知らない場所だった。
混乱していると部屋の扉が開き、そこには目を見張るほどの美女がいて…!?
これは自己肯定感が低いお人好し男が、転生した男女貞操逆転世界で幸せになるお話。
※本番はまぁまぁ先ですが、#6くらいから結構Hな描写が増えます。
割とガッツリ性描写は書いてますので、苦手な方は気をつけて!
♡つきの話は性描写ありです!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誤字報告、明らかな矛盾点、良かったよ!、続きが気になる! みたいな感想は大歓迎です!
どんどん送ってください!
逆に、否定的な感想は書かないようにお願いします。
受け取り手によって変わりそうな箇所などは報告しなくて大丈夫です!(言い回しとか、言葉の意味の違いとか)
作者のモチベを上げてくれるような感想お待ちしております!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる