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刻の唄――ゼロ・クロニクル―― 第一部
第三章 犠牲の軍隊後編 8
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「柔軟なくせに、重厚な太刀筋。超高難易度のランクアップを用いる希有な実力。嫌な相手と出くわした。ん? あのバスターソード……見覚えが」
零の視線へ向けるように藍色の騎士甲冑のキャバリアーが流された太刀筋を戻し構えたダマスカス剛製のバスターソードは、既に見慣れ始めたものだった。バイザーの奥の瞳を見開き、麗貌を機嫌良さそうに零は笑ませた。
「まさか、ブレイズか? むざむざ死にはすまいと思ってはいたが、こんなところで出くわすとは悪運の強い奴だ。俺に気づいていないらしいな。型落ちした決死隊仕様の国章が入っていない外骨格スーツでは無理もない。だから、このまま戦えば必死に倒しに来るだろう」
舌で唇を湿すと零は、外骨格スーツの背後に秘超理力の波紋を出現させムーブによりその場から掻き消えるようにブレイズへと迫ったとき、ダブルで十五の分身体へ分裂させそれぞれで別の機動を行い襲いかかった。それが全て実体であれば、回避不可能な飽和攻撃。
気勢と共に、パワー・ブレイドを発動させた太刀を零は振り抜いた。
「挨拶だ。やられるなよ!」
敵は翻弄され、術中に填まる必殺の攻撃。が、ブレイズは基技空間把握では実体と判別の着かぬ零が放った本命の斬撃を、迷うことなくアダマンタイン製フィールド発生エネルギー伝導硬化型のラウンドシールドで受け止め、次には流し己の斬撃に繋ぎつつブオープン回線で吠えた。
「テンペスト! 見慣れぬ剣を使っていたかと思えば、今度はシュヴァイガー流か。器用な奴だな、えっ、おい!」
猛然と迫るバスターソードを零は太刀を打ち合わせ流し、さっと後方へ動き距離を取った。
回線は繋がす、一人零は満足そうに呟いた。
「当然だよな。そうじゃなくちゃ。俺が目をつけた奴なんだから、さっ!」
ムーブを使用し、零は動いた。左腕にマウントしたヒーターシールドを前へ突き出し、その上に太刀の棟を乗せるように構え刺突を放つ。当然ブレイズはバスターソードで打ち払おうとするが、太刀の背を乗せたヒーターシールが斬撃に抗し力を加え軌道をぶらさせず切っ先がそのまま進んだ。
強引にブレイズは後ろへ下がりすんでで躱し、声に警戒するような威圧を載せた。
「柔軟な技だな。オリストで、九頭竜を堕ち落とすときお前が見せた技と同じ剣を使う化け物と出くわした。大けがしちまってな。お陰で俺は、暫くリハビリが必要だった。シュヴァイカー龍といい高い戦闘技術に裏打ちされたお前の変幻な剣は、脅威だ」
牽制するようにブレイズが放つスキャッター・ブレイドの飛刃を太刀で切り裂きつつ、零は再びブレイズへと迫った。
――オリスト、ね。俺と同じ剣。そこで、あの人に出くわしたのか……気の毒に。道理で、オーガスアイランド号で出会ったとき、リハビリの痕跡があったわけだ。
それでも生きているブレイズの確かな実力に零は意識を改め、右回りに左を取ろうとするブレイズへムーブで移動。が、同様にブレイズもムーブで回り込む。後ろをブレイズに取られた零は、機動スタビライザーとムーブの制御を同方向へ向け、逆進。一瞬で前後を入れ替え、一気に加速。オーバーラップによる残像攻撃を仕掛け、僅かに生じたブレイズの感覚のずれに割り込み、強い光輝を放つ太刀で必殺の斬撃を放った。
が、驚きの声を上げたのは零の方だった。
「なっ! こいつ」
避けも加速もせずブレイズは、急速後退し零へぶちかましを仕掛けたのだ。間合いを狂わされ、もろに零は体当たりを喰らい吹き飛ばされた。
――しまった……。
透かさずブレイズの身体がダブルにより幾つにも分裂すると、一層強い光輝を宿すバスターソードを振り抜き体勢の崩れた零へ無数の飛刃を放った。
全てに対処することは不可能。無数の刃の内、実体は一つだけ。けれど零が使用するシュヴァイガー流テンペスト同様幻惑を主とするブレイズの技は、無数の飛刃が相手を欺瞞するバーゼル流ダズル・レイド。ダブルは、空間把握による走査も外骨格スーツのセンサも実体のように欺く。視覚でも見分けはつかない。吹き飛ばされ、体勢を立て直す毫。まさに、ブレイズは零の隙を突いたのだ。
零の中の、闘志が白熱する。
――少し実力の程を見てやろうと偉そうに無用の戦闘を挑んでおいて、やられたとあっては間抜けもいいところっ!
生じる意識を無理矢理ねじ伏せ、無数に殺到する秘超理力の飛刃一つ一つを神速に任せ太刀で捌いた。内、仮初めの刃に混じった本物は五つ。
賛嘆するような声で、偽りのない賞賛の言葉をブレイズは響かせた。
「はっ、凌ぎやがった。その神速、大したものだな」
「偉そうだ。こりゃ、真面目にやらなきゃならないのはこっちかもな」
呟くと、零の夜空の双眸に青い筋の煌めきが不意に走った。
秘超理力を緻密に感じ、剣気を研ぎ澄ます。
――なまじ、ソルダ技で様子見をしたのが間違いだった。身に染みた純粋な剣技で圧倒できる筈。今のままのブレイズなら。けれど、奴は何か隠している。
機動スタビライザーの重力偏向とムーブで、空中を三次元機動で欺瞞し接近。迂闊に飛び出さず、零の動きを追うブレイズへ仕掛けようとしたそのとき、空気が震えた。尋常ではない気配が、辺りを満たしたのだ。
切迫したブレイズの声が、零の耳朶を打った。
「マーキュリー!」
その気配の先へ零も視線を向けると、赤や青が浸食し合うグロー放電を時折走らせる巨大な風の渦が出現していた。それへ、エレノアがラメントを発動し赤い騎士甲冑姿を一列横並びに二十四体出現させ対そうとしていた。
双眸から青い筋の煌めきを消し零は地上から天空へと恐ろしげに立ち上る渦を眺め、現状を素早く把握した。
「精霊術を使用する相手――ファントム。恐らくマーキュリーが、あの渦の中心に。ちっ、潮時か。さすがは希有なファントム。たいした威力だ。エレノアも、無地では済むまい」
零は回線をオープンにし、その場の全員に呼びかけた。
「戦闘中止だ。エレノア、待て。ブレイズも」
「ブレイズ、だと? まさか、零が相手しているのは、ブレイズなのか。道理で、聞き覚えのある声だと思った。じゃあ、あのファントムは……味方同士で戦っていたのか」
怪訝に艶のあるメゾソプラノを響かせ、エレノアは声を呆れさせた。
バイザーを上げ鳩が豆鉄砲を食ったような顔を晒し、間の抜けた声でバスターソードを揺すりブレイズは誰何した。
「え? その声……じゃあその外骨格、零、なのか?」
「ああ」
何食わぬ声で、バイザーを後ろへスライドさせぬけぬけと余計なことは言わず零は認めた。
天地を貫くように立ち上っていたトーネードーが解け、中から勿忘草色の華奢な騎士甲冑姿が現れた。
「その赤い騎士甲冑、リザーランド卿なのですね?」
「そうだ。済まなかったな。強敵と思っていたが、味方同士で戦っていたか」
バイザーを上げ艶美な美貌を顕わにし、エレノアは面と声音に苦笑を漂わせた。
エレノア相手に腰を低くするブレイズは、弛緩した様子だ。
「いやー、ホントっすね。こっちも、強敵だって思っちまって。あれ? ん? どうして、俺だって零は分かったんだ?」
話している内にはっとなった様子のブレイズは、ぎろりと零を睨み付け掴みかからん勢いで食ってかかった。
「零。俺だって最初から分かってたなっ!」
「そのバスターソードに、見覚えがあったからな。お前だって分かったよ。ま、おまえ戦死扱いになってるんだし。ここで死んでも、問題ない」
「零、テメー」
端正な面を怒りに染めるブレイズに、零はふてぶてしいまでにそよ吹く風だった。
零の視線へ向けるように藍色の騎士甲冑のキャバリアーが流された太刀筋を戻し構えたダマスカス剛製のバスターソードは、既に見慣れ始めたものだった。バイザーの奥の瞳を見開き、麗貌を機嫌良さそうに零は笑ませた。
「まさか、ブレイズか? むざむざ死にはすまいと思ってはいたが、こんなところで出くわすとは悪運の強い奴だ。俺に気づいていないらしいな。型落ちした決死隊仕様の国章が入っていない外骨格スーツでは無理もない。だから、このまま戦えば必死に倒しに来るだろう」
舌で唇を湿すと零は、外骨格スーツの背後に秘超理力の波紋を出現させムーブによりその場から掻き消えるようにブレイズへと迫ったとき、ダブルで十五の分身体へ分裂させそれぞれで別の機動を行い襲いかかった。それが全て実体であれば、回避不可能な飽和攻撃。
気勢と共に、パワー・ブレイドを発動させた太刀を零は振り抜いた。
「挨拶だ。やられるなよ!」
敵は翻弄され、術中に填まる必殺の攻撃。が、ブレイズは基技空間把握では実体と判別の着かぬ零が放った本命の斬撃を、迷うことなくアダマンタイン製フィールド発生エネルギー伝導硬化型のラウンドシールドで受け止め、次には流し己の斬撃に繋ぎつつブオープン回線で吠えた。
「テンペスト! 見慣れぬ剣を使っていたかと思えば、今度はシュヴァイガー流か。器用な奴だな、えっ、おい!」
猛然と迫るバスターソードを零は太刀を打ち合わせ流し、さっと後方へ動き距離を取った。
回線は繋がす、一人零は満足そうに呟いた。
「当然だよな。そうじゃなくちゃ。俺が目をつけた奴なんだから、さっ!」
ムーブを使用し、零は動いた。左腕にマウントしたヒーターシールドを前へ突き出し、その上に太刀の棟を乗せるように構え刺突を放つ。当然ブレイズはバスターソードで打ち払おうとするが、太刀の背を乗せたヒーターシールが斬撃に抗し力を加え軌道をぶらさせず切っ先がそのまま進んだ。
強引にブレイズは後ろへ下がりすんでで躱し、声に警戒するような威圧を載せた。
「柔軟な技だな。オリストで、九頭竜を堕ち落とすときお前が見せた技と同じ剣を使う化け物と出くわした。大けがしちまってな。お陰で俺は、暫くリハビリが必要だった。シュヴァイカー龍といい高い戦闘技術に裏打ちされたお前の変幻な剣は、脅威だ」
牽制するようにブレイズが放つスキャッター・ブレイドの飛刃を太刀で切り裂きつつ、零は再びブレイズへと迫った。
――オリスト、ね。俺と同じ剣。そこで、あの人に出くわしたのか……気の毒に。道理で、オーガスアイランド号で出会ったとき、リハビリの痕跡があったわけだ。
それでも生きているブレイズの確かな実力に零は意識を改め、右回りに左を取ろうとするブレイズへムーブで移動。が、同様にブレイズもムーブで回り込む。後ろをブレイズに取られた零は、機動スタビライザーとムーブの制御を同方向へ向け、逆進。一瞬で前後を入れ替え、一気に加速。オーバーラップによる残像攻撃を仕掛け、僅かに生じたブレイズの感覚のずれに割り込み、強い光輝を放つ太刀で必殺の斬撃を放った。
が、驚きの声を上げたのは零の方だった。
「なっ! こいつ」
避けも加速もせずブレイズは、急速後退し零へぶちかましを仕掛けたのだ。間合いを狂わされ、もろに零は体当たりを喰らい吹き飛ばされた。
――しまった……。
透かさずブレイズの身体がダブルにより幾つにも分裂すると、一層強い光輝を宿すバスターソードを振り抜き体勢の崩れた零へ無数の飛刃を放った。
全てに対処することは不可能。無数の刃の内、実体は一つだけ。けれど零が使用するシュヴァイガー流テンペスト同様幻惑を主とするブレイズの技は、無数の飛刃が相手を欺瞞するバーゼル流ダズル・レイド。ダブルは、空間把握による走査も外骨格スーツのセンサも実体のように欺く。視覚でも見分けはつかない。吹き飛ばされ、体勢を立て直す毫。まさに、ブレイズは零の隙を突いたのだ。
零の中の、闘志が白熱する。
――少し実力の程を見てやろうと偉そうに無用の戦闘を挑んでおいて、やられたとあっては間抜けもいいところっ!
生じる意識を無理矢理ねじ伏せ、無数に殺到する秘超理力の飛刃一つ一つを神速に任せ太刀で捌いた。内、仮初めの刃に混じった本物は五つ。
賛嘆するような声で、偽りのない賞賛の言葉をブレイズは響かせた。
「はっ、凌ぎやがった。その神速、大したものだな」
「偉そうだ。こりゃ、真面目にやらなきゃならないのはこっちかもな」
呟くと、零の夜空の双眸に青い筋の煌めきが不意に走った。
秘超理力を緻密に感じ、剣気を研ぎ澄ます。
――なまじ、ソルダ技で様子見をしたのが間違いだった。身に染みた純粋な剣技で圧倒できる筈。今のままのブレイズなら。けれど、奴は何か隠している。
機動スタビライザーの重力偏向とムーブで、空中を三次元機動で欺瞞し接近。迂闊に飛び出さず、零の動きを追うブレイズへ仕掛けようとしたそのとき、空気が震えた。尋常ではない気配が、辺りを満たしたのだ。
切迫したブレイズの声が、零の耳朶を打った。
「マーキュリー!」
その気配の先へ零も視線を向けると、赤や青が浸食し合うグロー放電を時折走らせる巨大な風の渦が出現していた。それへ、エレノアがラメントを発動し赤い騎士甲冑姿を一列横並びに二十四体出現させ対そうとしていた。
双眸から青い筋の煌めきを消し零は地上から天空へと恐ろしげに立ち上る渦を眺め、現状を素早く把握した。
「精霊術を使用する相手――ファントム。恐らくマーキュリーが、あの渦の中心に。ちっ、潮時か。さすがは希有なファントム。たいした威力だ。エレノアも、無地では済むまい」
零は回線をオープンにし、その場の全員に呼びかけた。
「戦闘中止だ。エレノア、待て。ブレイズも」
「ブレイズ、だと? まさか、零が相手しているのは、ブレイズなのか。道理で、聞き覚えのある声だと思った。じゃあ、あのファントムは……味方同士で戦っていたのか」
怪訝に艶のあるメゾソプラノを響かせ、エレノアは声を呆れさせた。
バイザーを上げ鳩が豆鉄砲を食ったような顔を晒し、間の抜けた声でバスターソードを揺すりブレイズは誰何した。
「え? その声……じゃあその外骨格、零、なのか?」
「ああ」
何食わぬ声で、バイザーを後ろへスライドさせぬけぬけと余計なことは言わず零は認めた。
天地を貫くように立ち上っていたトーネードーが解け、中から勿忘草色の華奢な騎士甲冑姿が現れた。
「その赤い騎士甲冑、リザーランド卿なのですね?」
「そうだ。済まなかったな。強敵と思っていたが、味方同士で戦っていたか」
バイザーを上げ艶美な美貌を顕わにし、エレノアは面と声音に苦笑を漂わせた。
エレノア相手に腰を低くするブレイズは、弛緩した様子だ。
「いやー、ホントっすね。こっちも、強敵だって思っちまって。あれ? ん? どうして、俺だって零は分かったんだ?」
話している内にはっとなった様子のブレイズは、ぎろりと零を睨み付け掴みかからん勢いで食ってかかった。
「零。俺だって最初から分かってたなっ!」
「そのバスターソードに、見覚えがあったからな。お前だって分かったよ。ま、おまえ戦死扱いになってるんだし。ここで死んでも、問題ない」
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