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刻の唄――ゼロ・クロニクル―― 第一部
第二章 犠牲の軍隊前編 4
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零たちが惑星フォトー地表へと降り立った強襲降下ユニットからほんの二十メートルほどの距離に、分乗したもう一艇の強襲降下ユニットも着地していた。刑の執行人とその補佐、受刑者五三四名が一人も欠くことなく、殲滅の光弾の猛威を潜り抜け無事に。ここまでは、零がモリスやブレイズと練った策が、上手く運んでいる。が、三時間前のベルジュラック大公ジョルジュの前で行われた作戦会議で、三人で事前に行った話し合いにはなかった囮の囮役などという、思考を掠めはしたが選択肢から除外したオプションを加えられてしまったが。
刑の受刑者である懲罰部隊・決死隊の面々は、てんでばらばらでいかに烏合の衆という言葉が似つかわしかった。それも、無理はなかった。指揮系統が明確に作られた部隊ではないのだから。が、これから死地を生き抜こうという零にとって、集団として動く軍事訓練めいたものを実戦中最低限課す必要性を感じている。周囲に見える所々岩場がある大地は荒涼とし、これからの激戦を何とも心許ない気持ちになる。
赤を基調とした繊細なパーツと細身な形状が精巧な金色のインナーアーマーを所々覗き見せる、この場の外骨格スーツと比べれば圧倒的に洗練されスリムな騎士甲冑のバイザーを後方にずらし美貌を晒したエレノアが、零の隣に並び補佐として役割を果たしてくれた。
「皆、集まれ。戦いは嫌でも、敵は待ってはくれないぞ。もう既に、わたしたちがこの場に降下したことは、敵の知るところだ。無策なまま只蹂躙され、死にたくはあるまい」
大量生産品の戦闘用外骨格スーツの一団の中で別格に映るエレノアの外見は、見る者に力強さを与え心強い。これではまるでこの場の指揮官にしか見えず、有象無象の兵士に映るだろう己に零は内心苦笑した。
――このまま率いてくれてもいいけど。楽だし。けど、ソルダ位階第二位最強クラスの実力者のエレノアを疑うわけじゃないけど、馬鹿正直に戦うだけじゃ全滅は必至だ。押しつけられた状況で今は打開策もない。けど、その好機が微かにでも見えれば必ずものにしなければ。
決死隊の面々が集まり出すのを待ちながら、零は外骨格スーツ越しの顔を隠した者もいる中その様子を観察した。大半が、散漫な動き。明らかに、キャバリアーとしての身ごなしがなっていない者。なっていても、軍事訓練を受けたか怪しい者。そのどちらもなっていない、キャバリアーでない者。それらの者たちの中にそうでない者が少数ながら混在していて、理想型より遠い者ほど多くこのまま敵と当たれば簡単に崩されてしまうことは確実だった。
――ともかく、今はこの連中を使うしかない。気迫でどうこうなるものではないけれど、それでも今にも死にそうな顔をされてたんじゃどんな敵にだって勝利は覚束ない。
左右に可動型汎用推進システムを備えた強襲降下ユニットの前面にあるペイロードベイが解放され、まるで身を屈めた猛獣の口を連想させるその前に、飲み込まれるのを待つかの如く決死隊が集まり終えた。惑星フォトーが属する星系の恒星は赤色矮星で、その光が雲や大気に散乱されて昼間でも薄ら周囲は赤みがかっていた。荒涼とした大地が、より一層人外境めく。まさに死地という言葉が似合う場所に打ち捨てられた受刑者等を前に、麗貌を霜刃めかせ冴えさせる零はやや低めの声を凄然とさせた。
「分かってるとは思うけど、俺は別に刑を執行したいわけじゃない。そんなことをすれば、俺もこの場で死ぬことになるからな。生き残りたければ、俺の言うとおりにするんだ。おまえたちは、この戦場に死ぬために放り込まれた。ついでに俺やエレノアも、な。戦いなんてごめんだっていうのに……けど、俺はまだ死ぬ気はないから嫌でも従ってもらう」
「独善的ね。わたしたちに兵団長として部下への情を持てとは言わないわ。執行人気取りじゃないだけ増しだけど、兵団を預かる部将としての矜持は持ってもらいたいわね」
決死隊に回されたブロック化したプロテクターのようなアーマーに覆われた型の古い軍用タイプの外骨格スーツ・ES七二五を纏った、くすみのある金髪をサイドテールにした最前列の若い女性が煌めきのある榛色の瞳に挑戦的なものを浮かべ零の夜空の瞳を射貫いてきた。上級校を出たばかりに見える少女を脱したばかりのその女性は、無骨な出で立ちにも関わらず知性と勝ち気さが現れた面は端麗で美しかった。
が、零は顔を顰めた。その声に、聞き覚えがあったからだ。
「ああ、その声。さっきの奴か……普段なら余計なお世話だって言いたいところだけど、やる気があるのは結構なことだ。しょぼくれてるよりずっといい。殆どの奴らが死にそうな顔をしているからな。名前は? 実戦を見て合格なら、部下を持ってもらう」
最初嫌そうな零だったが、強襲降下ユニット内での手際を思い出しすぐさま麗貌にやや凶悪な笑みを刻んだ。使えそうな者もいた、と。そんな零を見透かしてか、若い女性は挑むような気迫を乗せた美貌と声を不機嫌にした。
「サブリナ・フリーデリケ。皆死にそうな顔って、当たり前でしょう。ここから先は、全滅必至の戦場。わたしたちの刑を執行する。けど、零と言ったかしら。あなたのことは気に入らないけれど、生き延びることには賛成よ」
「なら、結構だ」
「サブリナは、なかなか腕が立つよ。わたしの友人に弟子になるよう誘われてたけど、こいつはどうも己の才に自信過剰な面があって、自己流に走りがちなんだ」
「知り合いなのか?」
「自信過剰?」
腕を保証するエレノアの言葉に零は期待を寄せ、サブリナは榛色の瞳を鋭くした。二人の視線を受けつつエレノアは、思索しつつ零とサブリナへ苦笑を向けた。
「そういうわけではないが。ま、顔見知りといったところかな。気を悪くするな、サブリナ。あくまで、わたし個人のおまえへの印象だ」
資質を図るような視線を向けてくるエレノアに、サブリナはむっとなりつつも押し黙った。
二人のやりとりを何とはなしに見ていた零はそれが一段落すると、気怠げに上空を見上げ自嘲気味に呟いた。
「見晴らしがいいな。上はドンパチ景気がいい」
無数の煌めきが遙か上空を駆け抜け、その内の幾つかが流星となって降り注ぐ。ボルニア帝国軍とトルキア帝国・ミラト王国連合軍の総勢四百万機以上のグラディアートが、激しい攻防を繰り広げているのだ。
つられるように上を見上げたエレノアが、憂鬱そうに吐き捨てた。
「ああ。ここは、そういう場所だ。丘陵地帯のちょうど高台となった、敵に丸見えのな」
高い丘となったここから遙か遠方に、広大な宇宙港を有する高いタワーが見えた。今作戦の攻略対象である、ガーライル基地だ。
上空から視線を戻すと零は、エレノアへと憂愁を微かな笑みで覆ったような面を向けた。
「降下中、俺たちが使った強襲降下ユニットは敵に補足されていた。ここは、敵の目を避けて移動しようにも禄に隠れる場所もない。渓谷に降下した本軍と違って。けど、その本軍だって降下地点は敵に知られている。それでも、敵は俺たちが気になって仕方がない。先ずは、目障りな俺たちからってことになるだろうな」
「ああ。全く、二個師団の機械兵ユニット群に守られた囮兵団群の囮だなんてな。嫌になる。あの巨岩が並ぶ岩山の向こうの囮兵団群は、わたしたちに向かってくる敵を無視して進む」
右手を腰にやり零の夜空の瞳を憂いを宿した赤い瞳で見返すエレノアは、艶美な美貌をやや剣呑にした。
――腹立たしい、か。内線前は近衛軍副司令だったエレノアは、こんな任務夢にも思ったことなんてなかったろうな。
そっと視線をエレノアから外し決死隊へ移すと、零は軽く声に気迫を乗せ命じた。
「すぐ、戦闘になる。武器を取れ」
言うや、零は特に指示することなく回れ右をし背後の強襲降下ユニットへと向かった。今回は緊急度が低かったため本来は高速出撃させるための固定用アームを用いた射出機構は使用していないが、一度に搭載物をユニット外へ出やすいようにペイロードベイ全体が下部を残し上へと持ち上がり開いていた。零が向かったのは、その背後の補給用のウェポンベイだ。開放指示を、強襲降下ユニットと接続している汎用コミュニケーター・オルタナを通して出す。バシュッと重々しい音を立て、扉が鳥の羽のように上へと持ち上がり開いた。中には、ラックに固定された様々な武器がずらりと並ぶ。
懲罰部隊の性格上、反乱に繋がるような武器――脅威となり得るキャバリアーが扱うことで能力を発揮する武器は、携行させず戦闘直前に引き渡す。
誰かが零の背後でふて腐れたような声音で、捨て鉢気味に喚いた。
「わたしは、キャバリアーではない。剣や斧など持ったところで仕方がない」
首だけで後ろをチラリと見遣った零の視線の先には、髭が丁寧に整えられた小太りの中年男の姿があった。身体は外骨格スーツに隠れていたが、気品がある。貴族だろうか?
「分かっている。キャバリアーでなければ、機械兵ユニット群相手の戦闘は厳しい。決死隊の内、キャバリアーでない者は、ナイフ以外では実体弾射出機とミサイルポッドを一つずつとフィールド発生エネルギー伝導硬化型のヒーターシールドではなく大盾の方を取れ。光学系兵器は、フィールドに阻まれて効率が悪い。秘超理力の伝導率が高いダマスカス剛製の剣が二十振りほどあるが、自信のある奴が使ってくれよ。秘超理力が弱いかコントロールに自信がないなら、ハイメタル製の光粒子エッジの方がよほど役に立つ」
武器を携行していた零とエレノアは、決死隊の面々がそれぞれ獲物を手に取るのを眺めていた。零の武装は、国境惑星ファルでファラル城塞奪還時敵部将から手に入れた玉鋼製の太刀。エレノアの武装は、ダマスカス剛製のロングソードだ。それぞれ、外骨格スーツと騎士甲冑のラックに装備していた。
決死隊に武器が行き渡ると、零は戦塵の挨拶のように指示を出した。
「では、キャバリアーは前衛。それ以外は、後衛。連携訓練もしていない混成兵団。大雑把な配置で構わない。厄介な敵は、無理に相手するな。逃げても構わない。それは、こちらでどうにかする」
強襲降下ユニットから離れる零に付いてくる決死隊は、隊列と呼べるようなものではなかったが光粒子エッジを装備した者が前、それ以外が後ろに纏まった。そのとき、目聡いサブリナが指さしながら叫んだ。
「敵よ!」
ダマスカス剛製のロングソードを外骨格スーツの腰のラックに装備したサブリナが指し示す先には、敵影があった。零は己の内で泉のように湧き出る秘超理力を感じながら注視し、鷹の目によって遙か遠方の敵軍を子細に観察した。先頭に四脚の超大型機械兵ユニットが十確認でき、その後ろに多脚型機械兵ユニットが続き、さらに後方にずらりと人型機械兵ユニットが無数に向かってきた。
やや低めで大きくもないのによく通る声に、逆らいがたい鋭気を宿し零は指示した。
「バイザーを下げろ! 低空を飛行し、五km右へ移動した地点で、味方を追い越し先制攻撃を仕掛けてくる汎用攻撃型機械兵ユニットを迎え撃つ。移動地点にある崖が敵の行軍の邪魔をして迂回しなければならず、空と陸、個別に迎撃できる余裕が生まれる。仮に、地上型が飛んできても、汎用攻撃型でないトロい飛行などいい的だ」
背後にスライドしたバイザーを戻し肌の露出をなくすと、架空頭脳空間でコントロールしている外骨格スーツを重力制御で浮き上がらせた。やや戸惑った雰囲気だが、他の外骨格スーツもそれに倣う。決死隊が出撃準備を完了させたことを確認し、零は一声発すると同時戦術リンクを通して指示を出した。
「状況を開始する」
外骨格スーツの群が、電離機体を背後に引きながら移動を開始した。
刑の受刑者である懲罰部隊・決死隊の面々は、てんでばらばらでいかに烏合の衆という言葉が似つかわしかった。それも、無理はなかった。指揮系統が明確に作られた部隊ではないのだから。が、これから死地を生き抜こうという零にとって、集団として動く軍事訓練めいたものを実戦中最低限課す必要性を感じている。周囲に見える所々岩場がある大地は荒涼とし、これからの激戦を何とも心許ない気持ちになる。
赤を基調とした繊細なパーツと細身な形状が精巧な金色のインナーアーマーを所々覗き見せる、この場の外骨格スーツと比べれば圧倒的に洗練されスリムな騎士甲冑のバイザーを後方にずらし美貌を晒したエレノアが、零の隣に並び補佐として役割を果たしてくれた。
「皆、集まれ。戦いは嫌でも、敵は待ってはくれないぞ。もう既に、わたしたちがこの場に降下したことは、敵の知るところだ。無策なまま只蹂躙され、死にたくはあるまい」
大量生産品の戦闘用外骨格スーツの一団の中で別格に映るエレノアの外見は、見る者に力強さを与え心強い。これではまるでこの場の指揮官にしか見えず、有象無象の兵士に映るだろう己に零は内心苦笑した。
――このまま率いてくれてもいいけど。楽だし。けど、ソルダ位階第二位最強クラスの実力者のエレノアを疑うわけじゃないけど、馬鹿正直に戦うだけじゃ全滅は必至だ。押しつけられた状況で今は打開策もない。けど、その好機が微かにでも見えれば必ずものにしなければ。
決死隊の面々が集まり出すのを待ちながら、零は外骨格スーツ越しの顔を隠した者もいる中その様子を観察した。大半が、散漫な動き。明らかに、キャバリアーとしての身ごなしがなっていない者。なっていても、軍事訓練を受けたか怪しい者。そのどちらもなっていない、キャバリアーでない者。それらの者たちの中にそうでない者が少数ながら混在していて、理想型より遠い者ほど多くこのまま敵と当たれば簡単に崩されてしまうことは確実だった。
――ともかく、今はこの連中を使うしかない。気迫でどうこうなるものではないけれど、それでも今にも死にそうな顔をされてたんじゃどんな敵にだって勝利は覚束ない。
左右に可動型汎用推進システムを備えた強襲降下ユニットの前面にあるペイロードベイが解放され、まるで身を屈めた猛獣の口を連想させるその前に、飲み込まれるのを待つかの如く決死隊が集まり終えた。惑星フォトーが属する星系の恒星は赤色矮星で、その光が雲や大気に散乱されて昼間でも薄ら周囲は赤みがかっていた。荒涼とした大地が、より一層人外境めく。まさに死地という言葉が似合う場所に打ち捨てられた受刑者等を前に、麗貌を霜刃めかせ冴えさせる零はやや低めの声を凄然とさせた。
「分かってるとは思うけど、俺は別に刑を執行したいわけじゃない。そんなことをすれば、俺もこの場で死ぬことになるからな。生き残りたければ、俺の言うとおりにするんだ。おまえたちは、この戦場に死ぬために放り込まれた。ついでに俺やエレノアも、な。戦いなんてごめんだっていうのに……けど、俺はまだ死ぬ気はないから嫌でも従ってもらう」
「独善的ね。わたしたちに兵団長として部下への情を持てとは言わないわ。執行人気取りじゃないだけ増しだけど、兵団を預かる部将としての矜持は持ってもらいたいわね」
決死隊に回されたブロック化したプロテクターのようなアーマーに覆われた型の古い軍用タイプの外骨格スーツ・ES七二五を纏った、くすみのある金髪をサイドテールにした最前列の若い女性が煌めきのある榛色の瞳に挑戦的なものを浮かべ零の夜空の瞳を射貫いてきた。上級校を出たばかりに見える少女を脱したばかりのその女性は、無骨な出で立ちにも関わらず知性と勝ち気さが現れた面は端麗で美しかった。
が、零は顔を顰めた。その声に、聞き覚えがあったからだ。
「ああ、その声。さっきの奴か……普段なら余計なお世話だって言いたいところだけど、やる気があるのは結構なことだ。しょぼくれてるよりずっといい。殆どの奴らが死にそうな顔をしているからな。名前は? 実戦を見て合格なら、部下を持ってもらう」
最初嫌そうな零だったが、強襲降下ユニット内での手際を思い出しすぐさま麗貌にやや凶悪な笑みを刻んだ。使えそうな者もいた、と。そんな零を見透かしてか、若い女性は挑むような気迫を乗せた美貌と声を不機嫌にした。
「サブリナ・フリーデリケ。皆死にそうな顔って、当たり前でしょう。ここから先は、全滅必至の戦場。わたしたちの刑を執行する。けど、零と言ったかしら。あなたのことは気に入らないけれど、生き延びることには賛成よ」
「なら、結構だ」
「サブリナは、なかなか腕が立つよ。わたしの友人に弟子になるよう誘われてたけど、こいつはどうも己の才に自信過剰な面があって、自己流に走りがちなんだ」
「知り合いなのか?」
「自信過剰?」
腕を保証するエレノアの言葉に零は期待を寄せ、サブリナは榛色の瞳を鋭くした。二人の視線を受けつつエレノアは、思索しつつ零とサブリナへ苦笑を向けた。
「そういうわけではないが。ま、顔見知りといったところかな。気を悪くするな、サブリナ。あくまで、わたし個人のおまえへの印象だ」
資質を図るような視線を向けてくるエレノアに、サブリナはむっとなりつつも押し黙った。
二人のやりとりを何とはなしに見ていた零はそれが一段落すると、気怠げに上空を見上げ自嘲気味に呟いた。
「見晴らしがいいな。上はドンパチ景気がいい」
無数の煌めきが遙か上空を駆け抜け、その内の幾つかが流星となって降り注ぐ。ボルニア帝国軍とトルキア帝国・ミラト王国連合軍の総勢四百万機以上のグラディアートが、激しい攻防を繰り広げているのだ。
つられるように上を見上げたエレノアが、憂鬱そうに吐き捨てた。
「ああ。ここは、そういう場所だ。丘陵地帯のちょうど高台となった、敵に丸見えのな」
高い丘となったここから遙か遠方に、広大な宇宙港を有する高いタワーが見えた。今作戦の攻略対象である、ガーライル基地だ。
上空から視線を戻すと零は、エレノアへと憂愁を微かな笑みで覆ったような面を向けた。
「降下中、俺たちが使った強襲降下ユニットは敵に補足されていた。ここは、敵の目を避けて移動しようにも禄に隠れる場所もない。渓谷に降下した本軍と違って。けど、その本軍だって降下地点は敵に知られている。それでも、敵は俺たちが気になって仕方がない。先ずは、目障りな俺たちからってことになるだろうな」
「ああ。全く、二個師団の機械兵ユニット群に守られた囮兵団群の囮だなんてな。嫌になる。あの巨岩が並ぶ岩山の向こうの囮兵団群は、わたしたちに向かってくる敵を無視して進む」
右手を腰にやり零の夜空の瞳を憂いを宿した赤い瞳で見返すエレノアは、艶美な美貌をやや剣呑にした。
――腹立たしい、か。内線前は近衛軍副司令だったエレノアは、こんな任務夢にも思ったことなんてなかったろうな。
そっと視線をエレノアから外し決死隊へ移すと、零は軽く声に気迫を乗せ命じた。
「すぐ、戦闘になる。武器を取れ」
言うや、零は特に指示することなく回れ右をし背後の強襲降下ユニットへと向かった。今回は緊急度が低かったため本来は高速出撃させるための固定用アームを用いた射出機構は使用していないが、一度に搭載物をユニット外へ出やすいようにペイロードベイ全体が下部を残し上へと持ち上がり開いていた。零が向かったのは、その背後の補給用のウェポンベイだ。開放指示を、強襲降下ユニットと接続している汎用コミュニケーター・オルタナを通して出す。バシュッと重々しい音を立て、扉が鳥の羽のように上へと持ち上がり開いた。中には、ラックに固定された様々な武器がずらりと並ぶ。
懲罰部隊の性格上、反乱に繋がるような武器――脅威となり得るキャバリアーが扱うことで能力を発揮する武器は、携行させず戦闘直前に引き渡す。
誰かが零の背後でふて腐れたような声音で、捨て鉢気味に喚いた。
「わたしは、キャバリアーではない。剣や斧など持ったところで仕方がない」
首だけで後ろをチラリと見遣った零の視線の先には、髭が丁寧に整えられた小太りの中年男の姿があった。身体は外骨格スーツに隠れていたが、気品がある。貴族だろうか?
「分かっている。キャバリアーでなければ、機械兵ユニット群相手の戦闘は厳しい。決死隊の内、キャバリアーでない者は、ナイフ以外では実体弾射出機とミサイルポッドを一つずつとフィールド発生エネルギー伝導硬化型のヒーターシールドではなく大盾の方を取れ。光学系兵器は、フィールドに阻まれて効率が悪い。秘超理力の伝導率が高いダマスカス剛製の剣が二十振りほどあるが、自信のある奴が使ってくれよ。秘超理力が弱いかコントロールに自信がないなら、ハイメタル製の光粒子エッジの方がよほど役に立つ」
武器を携行していた零とエレノアは、決死隊の面々がそれぞれ獲物を手に取るのを眺めていた。零の武装は、国境惑星ファルでファラル城塞奪還時敵部将から手に入れた玉鋼製の太刀。エレノアの武装は、ダマスカス剛製のロングソードだ。それぞれ、外骨格スーツと騎士甲冑のラックに装備していた。
決死隊に武器が行き渡ると、零は戦塵の挨拶のように指示を出した。
「では、キャバリアーは前衛。それ以外は、後衛。連携訓練もしていない混成兵団。大雑把な配置で構わない。厄介な敵は、無理に相手するな。逃げても構わない。それは、こちらでどうにかする」
強襲降下ユニットから離れる零に付いてくる決死隊は、隊列と呼べるようなものではなかったが光粒子エッジを装備した者が前、それ以外が後ろに纏まった。そのとき、目聡いサブリナが指さしながら叫んだ。
「敵よ!」
ダマスカス剛製のロングソードを外骨格スーツの腰のラックに装備したサブリナが指し示す先には、敵影があった。零は己の内で泉のように湧き出る秘超理力を感じながら注視し、鷹の目によって遙か遠方の敵軍を子細に観察した。先頭に四脚の超大型機械兵ユニットが十確認でき、その後ろに多脚型機械兵ユニットが続き、さらに後方にずらりと人型機械兵ユニットが無数に向かってきた。
やや低めで大きくもないのによく通る声に、逆らいがたい鋭気を宿し零は指示した。
「バイザーを下げろ! 低空を飛行し、五km右へ移動した地点で、味方を追い越し先制攻撃を仕掛けてくる汎用攻撃型機械兵ユニットを迎え撃つ。移動地点にある崖が敵の行軍の邪魔をして迂回しなければならず、空と陸、個別に迎撃できる余裕が生まれる。仮に、地上型が飛んできても、汎用攻撃型でないトロい飛行などいい的だ」
背後にスライドしたバイザーを戻し肌の露出をなくすと、架空頭脳空間でコントロールしている外骨格スーツを重力制御で浮き上がらせた。やや戸惑った雰囲気だが、他の外骨格スーツもそれに倣う。決死隊が出撃準備を完了させたことを確認し、零は一声発すると同時戦術リンクを通して指示を出した。
「状況を開始する」
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