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第4章★リョウマVS裕★

第1話☆左利きの剣士☆

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 死の監獄からは数刻歩くと邪神国へと続く国境の町に到着する。


 国境を超えるときに身分証と目的を申請するのだが、3人はその国境で足止めされていた。


 少し前に魔物が出て、国境近くで暴れているらしく、危険なため国境の町から出てはならないと通達があったためだ。


「困ったな。今夜はここで足止めか」


「邪神国の、あの強い剣士がくるならすぐに魔物も倒せるだろう」


「ああ、あの左利きの剣士だろ?」


「めちゃくちゃ強いんだよな。なにせ実月姫の護衛となってから、魔物を軒並み退治していると聞く」


「あの左利きの剣士様なら、すぐに倒してくれる」


「剣士様、お顔を見たことあるけど、眉目秀麗でカッコいいの! 私ファンなのよ」


「強くてカッコいいなんて、完璧よね」





 国境の町は魔物と左利きの剣士の噂でもちきりだった。


「また魔物か……」


 リョウマがうんざりした声を出す。少し前に氷の魔物を討伐したばかりなので、まだ完全に傷や疲労が癒えていないのだ。


「リョウマは今回おとなしくしてて。俺がちょっと情報収集してくるから。菫と宿で待ってろよ」



 カルラがリョウマに向かって声をかける。


「これくらい大丈夫だ。魔物が出るなら倒すまで。それが騎士の務めだ」


「こんな怪我で?」


 カルラがリョウマの右腕を軽く掴むと、リョウマは身をよじって顔をしかめた。


「ほら、痛いんじゃん。俺もね、リョウマ。騎士の端くれなんだよ。リョウマほど強くないけど、市民を守る矜持くらいはあるから」


 そう言うと、カルラは静かな足取りで歩いて行った。


 残された菫とリョウマは、カルラの後ろ姿をしばらく見送る。


「……情けない」


 リョウマがポツリと呟いた。


「研究職の橙騎士に守られてるようでは、赤騎士失格だ……」


 菫はそれを聞いて、努めて明るく口を開く。


「あら、カルラ様は強い方ですよ」


「そう、か……そうですね……」


 菫は敢えてリョウマを否定するような口調で言った。


 責任感が強いのは素晴らしいが、リョウマは自分の強さを信頼しすぎて他人に任せるということが出来ないように見ていて思う。


 ここで仲間を信頼し、信じて待つということも出来れば、魔人としても最強になれるのでは、と判断したためだ。


「リョウマ様、わたしたちは宿を予約しに行きましょう。皆さんここで足止めされていたら、宿もきっといっぱいになってしまいます」


「了解しました」


 敬うように頭を下げるリョウマに、菫は苦笑してしまう。


 彼はまだ権力に囚われているのかもしれない。


 例えばここで、菫と同等以上の権力者がきたら、いったいリョウマはどちらに付くのか、とふと考える。


「菫様、足場が悪いです。俺の腕に捕まって下さい」


「大丈夫よ、リョウマ様。あなた腕怪我しているんでしょう? 足場が悪いくらいで、わたしを気にすることないです」


「いえ。俺はあなたのお御足が穢れることが我慢なりません。失礼します」


 リョウマはそう言うと、サッと菫を横抱きにして颯爽と歩き始めた。


「みんな見ていますよ」


「構いません。俺にとって恥ずべき場面はこういうことではないので」


「……じゃあ、これは?」


 菫はリョウマの首に捕まり、ギュッと抱きしめた。たちまちリョウマの顔が赤くなった。


「その……恥ずべき、場面でしょうか……」


「そうよ。みんなに注目されてわたし恥ずかしいな。下ろしてくれると助かるわ」


「すみません……」


 お姫様抱っこから開放された菫は、シュンとしているリョウマを見てクスッと笑った。


「わたしを守ってくれようとしたのね、ありがとう」


 そう言うと菫はリョウマの頭を数回撫でた。


「俺はまだ犬ですか……」


「わたしの可愛いワンちゃん、行きましょう」


 菫はリョウマに微笑むと宿へと颯爽と歩く。靴が汚れることを全然気にしないように歩く様は、自国のカボシ王女と全然違う。リョウマはその様子を見て苦笑しながら菫を追いかけた。


「調子が狂うな、こっちの姫様は……」





「満室ですか……」


「そこを何とか出来ぬのか、店主よ」


 宿はやはり足止めされた人々で満室だった。リョウマの圧に耐えながら、店主は頑張って断っている。


「俺が魔物を倒すと約束する。だから一室でも空けてくれ。こちらの女性だけでも泊めてほしい」


「無理だよ、お兄さん。問い合わせだけでパンクしそうだ」


「では、キャンセルが出たら教えてくれ」


 あまり期待できそうにないが、一応キャンセル待ちを予約し、2人は外に出た。



「どうするか……」


「カルラ様を待ちましょうか。一度死の監獄に戻り、体制を整えるのもありかと思います」


「そうだな……」


 少し待つと、カルラが不思議そうに首を傾げながら待ち合わせ場所にきた。


「おまたせ~。魔物の名前はライデン。雷の魔物で、首が三叉に分かれているんだって。ヒヒッ、こいつの尻尾には伝説の……ヒヒッ、早く誰か倒さないかなあ」


 眼鏡をずりあげながらくぐもった声で言うカルラに、リョウマが残念そうに口を開く。


「カルラ、お前なんか元に戻りつつあるぞ」


 カルラが情報収集の際に買ってきてくれた団子を、3人で頬張りながら報告を聞く。


「セットで名を聞くのが『左利きの剣士』。彼は相当強いから、彼がくればもう安心みたい。邪神国の剣士らしい」


「左利きの剣士?」


 リョウマが首を傾げながら言った。


「強くて、格好良くて、優しくて、背も高いんだって。リョウマとどっちが強いかな。ワタルとどっちが格好良いかな。菫とどっちが優しいかな。コウキとどっちが高いかな。ヒヒっ」



 ワクワクした様子でカルラが呟く。こうして見るとただのおかしな魔人のようだ。


「その左利きの剣士が到着し、ライデンを倒すのをただ待っているだけでは、天界国騎士の名折れだ。俺は市民が困っているならば、その困惑を取り除くのが騎士の役割だと学んだ。もう見てみぬふりはしない」


 お忍びのため、騎士の鎧を着てはいないが、剣は腰に差しているため、退治できないことはないかもしれない。


 ただ、偵察にきている身としては素性がばれたらまずいということで、カルラは冷静に反対をしてきた。


「退治したらどうしても目立つ。ここはおとなしく左利きの剣士がライデンを倒してくれるのを待った方が良いと思う」


「カルラの言い分もわかるが、その間暴れて国境の町にきたらどうする? 人的被害が出るのは困るだろう」


「そうだね……」


 リョウマとカルラが真剣に悩む横で、団子を食べながら菫は周囲を見渡した。


 誰も国境を通れないため、だんだんと魔人が増えてきてしまっている。


「確かに今の状態で魔物に攻め込まれたら被害が甚大ですね……ですがリョウマ様は怪我が治っていませんし、本来カルラ様は討伐専門の騎士様ではないのでしょう? わたしは本当に役に立ちませんし……こういうとき、兄や弟だったらすぐ解決できるのに……」



 菫は悔しそうに自分の不甲斐なさを嘆いた。
 そんな菫の様子を見て2人は顔を見合わせる。


☆続く☆
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