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第2章★為政者の品格★
第3話☆里帰り☆
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天界国と倭国、そして今回偵察に行く邪神国は、三つ巴のように三角形に配置されていた国々だ。
倭国を攻め入るために同盟関係を結んだ天界国と邪神国だったが、元々この二国は領土問題で揉めている国々であり、今回の偵察はその領域の話し合いをするにあたって、事前調査をするためだった。
というのは建前で、天界国が邪神国に戦争を仕掛ける理由を探る目的もあった。
「歩き旅だと邪神国に着くにはかなりかかる。日が落ちる頃、丁度カラムの町に辿り着くはずだ。今日はそこで泊まる」
腹の底から声を出すような、気持ちの良い地声を出すリョウマは、コウキに向かって言った。
「ああ、わかったよ」
「パーティー後に帰ったときは魔術飛行で天界国の士官に連れて行ってもらったから、すぐに着いたのに。徒歩だと1日かかるのね」
ルージュが頬を膨らませて言うと、リョウマは妹を一瞥した。
「仕方がないだろう。俺たちは今旅人の振りをして邪神国に偵察に行かなければならない。実家にも話を付けておく必要があるし、目立った行動は慎まなければ」
「そうだぞ、ルージュ」
コウキが頷きながらルージュを見た。
「それに、お前は天界国城下町のリョウマの家に転がり込んでいる身だろ。アコヤさんにも少しは心の平穏を与えてやれよ」
ルージュはそれを聞くとコウキに向かって声を張り上げた。
「何よ! 私はお兄様の妹なのよ。血の繋がってないあの女に、何で私が下手に出なければならないの? 大体あの女はお兄様の妻っていうだけで偉そうなのよ」
「そんなに怒るなよ、菫が怖がるぞ」
「そんな下女、構う必要ないわよ!」
二人の会話を聞きながら、菫はコウキとルージュは相性が悪いのかな、と考えていた。
それに今出てきたアコヤという女性の名は、リョウマの妻らしい。
妻がいて毎日のように紫苑の塔に出向くとは、リョウマはなかなか女好きのようだ。
「コウキ様、もしかしてカラムの町は、皆さんのご実家があるのですか?」
菫が聞いてみると、案の定コウキは頷いた。
「今日はそれぞれの実家に泊まることになりそうだな。俺の家はリョウマのところと違って、戦争で俺以外みんな死んだから、誰も住んでいないんだけど。まあ一応売らないで取ってあるけどな」
戦争で家族全員を失ったのか。
菫はふとコウキを見て同情をしてしまった。コウキは太一の父親の首を取った男だ。
けれど、戦争を仕掛けたのは政治に関わる大臣や天満納言で、騎士は言われた職務を全うしていただけなのだ。
竜神女王救出という使命を胸に、菫は笑顔を崩さずにコウキを見据えた。
「菫は俺の家に泊まれよ。まあ、ほとんど帰っていない家だから、かなり埃っぽいかもしれないけれど」
コウキの言葉に頷こうと思った菫だが、その横からルージュが口を挟んだ。
「そんなの、この下女に掃除させればいいじゃない。そのための奴隷でしょ」
奴隷、という言葉に、コウキはピクリと身体を動かした。
「俺、奴隷制度は反対してるの知ってるだろ。二度と奴隷なんて言葉使わないでくれ」
「コウキは優しすぎるのよ。この世には階級があって、身分があることをこの下女に教えてあげないと、調子に乗るわよ」
「……」
ルージュの言葉を無視すると、コウキは菫が持っていたリョウマと菫の荷物も全て奪い、ルージュに見せつけるようにして大股で歩き始めた。
何も手に持たなくなった菫は、コウキを追いかけて自分の荷物を掴む。
「コウキ様、一人で四人分の荷物は無茶です。わたしも持ちます」
「いい。俺、人を見下す奴って嫌いなんだ。気分、悪いだろ」
「はい……そうですね」
菫が頷くと、コウキは菫を見下ろして「ルージュが、ごめんな」と呟いた。
敵国の騎士で、しかも腹心の敵とは言え、このような姿を見てしまうと、憎むべきは戦争という言葉が簡単に理解できてしまい、困惑した。
☆続く☆
倭国を攻め入るために同盟関係を結んだ天界国と邪神国だったが、元々この二国は領土問題で揉めている国々であり、今回の偵察はその領域の話し合いをするにあたって、事前調査をするためだった。
というのは建前で、天界国が邪神国に戦争を仕掛ける理由を探る目的もあった。
「歩き旅だと邪神国に着くにはかなりかかる。日が落ちる頃、丁度カラムの町に辿り着くはずだ。今日はそこで泊まる」
腹の底から声を出すような、気持ちの良い地声を出すリョウマは、コウキに向かって言った。
「ああ、わかったよ」
「パーティー後に帰ったときは魔術飛行で天界国の士官に連れて行ってもらったから、すぐに着いたのに。徒歩だと1日かかるのね」
ルージュが頬を膨らませて言うと、リョウマは妹を一瞥した。
「仕方がないだろう。俺たちは今旅人の振りをして邪神国に偵察に行かなければならない。実家にも話を付けておく必要があるし、目立った行動は慎まなければ」
「そうだぞ、ルージュ」
コウキが頷きながらルージュを見た。
「それに、お前は天界国城下町のリョウマの家に転がり込んでいる身だろ。アコヤさんにも少しは心の平穏を与えてやれよ」
ルージュはそれを聞くとコウキに向かって声を張り上げた。
「何よ! 私はお兄様の妹なのよ。血の繋がってないあの女に、何で私が下手に出なければならないの? 大体あの女はお兄様の妻っていうだけで偉そうなのよ」
「そんなに怒るなよ、菫が怖がるぞ」
「そんな下女、構う必要ないわよ!」
二人の会話を聞きながら、菫はコウキとルージュは相性が悪いのかな、と考えていた。
それに今出てきたアコヤという女性の名は、リョウマの妻らしい。
妻がいて毎日のように紫苑の塔に出向くとは、リョウマはなかなか女好きのようだ。
「コウキ様、もしかしてカラムの町は、皆さんのご実家があるのですか?」
菫が聞いてみると、案の定コウキは頷いた。
「今日はそれぞれの実家に泊まることになりそうだな。俺の家はリョウマのところと違って、戦争で俺以外みんな死んだから、誰も住んでいないんだけど。まあ一応売らないで取ってあるけどな」
戦争で家族全員を失ったのか。
菫はふとコウキを見て同情をしてしまった。コウキは太一の父親の首を取った男だ。
けれど、戦争を仕掛けたのは政治に関わる大臣や天満納言で、騎士は言われた職務を全うしていただけなのだ。
竜神女王救出という使命を胸に、菫は笑顔を崩さずにコウキを見据えた。
「菫は俺の家に泊まれよ。まあ、ほとんど帰っていない家だから、かなり埃っぽいかもしれないけれど」
コウキの言葉に頷こうと思った菫だが、その横からルージュが口を挟んだ。
「そんなの、この下女に掃除させればいいじゃない。そのための奴隷でしょ」
奴隷、という言葉に、コウキはピクリと身体を動かした。
「俺、奴隷制度は反対してるの知ってるだろ。二度と奴隷なんて言葉使わないでくれ」
「コウキは優しすぎるのよ。この世には階級があって、身分があることをこの下女に教えてあげないと、調子に乗るわよ」
「……」
ルージュの言葉を無視すると、コウキは菫が持っていたリョウマと菫の荷物も全て奪い、ルージュに見せつけるようにして大股で歩き始めた。
何も手に持たなくなった菫は、コウキを追いかけて自分の荷物を掴む。
「コウキ様、一人で四人分の荷物は無茶です。わたしも持ちます」
「いい。俺、人を見下す奴って嫌いなんだ。気分、悪いだろ」
「はい……そうですね」
菫が頷くと、コウキは菫を見下ろして「ルージュが、ごめんな」と呟いた。
敵国の騎士で、しかも腹心の敵とは言え、このような姿を見てしまうと、憎むべきは戦争という言葉が簡単に理解できてしまい、困惑した。
☆続く☆
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