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第1章★敵国潜入★
第12話☆倭国陰陽師☆
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「人権保障の面で発言したことが、どうやら竜神女王に熱を上げていると噂になったらしい」
菫は神妙なワタルの様子を見て試すような笑顔を見せた。
「大義名分を掲げて感情を隠そうとしています? 愛情を知られることを恥と感じていませんか?」
ワタルは菫を睨みつけた。仄かに頬が赤い。
「何が言いたい?」
「かなり年上だからって、恋慕の情を隠さなくても良いのに。傍から見たらコウキ様の見立て通り執心していると思うかも。ならば逆に声高に言えば良いのよ。冗談じみてね、竜神女王が大好きだーって」
菫を睨みつけていたワタルは、それを聞いてニヤリと笑いながら菫に近付き、以前のように顎を掬うように持ち上げた。
「なぜおれが竜神女王が大好きなんて言わなければならない? ガセだと言っているだろう?」
顎を掴まれた状態のまま、菫はワタルを柔らかい笑顔で迎えた。
「会えるかもしれないからよ。天界国王、天満納言に次いで、あなたが愛人になれるかもしれませんよ、竜神女王の」
それを聞いたワタルは、一瞬動きを止めたが、やがておかしそうにククッと含み笑いをした。
「おれが竜神女王を愛人にするんじゃなくて、竜神女王がおれを愛人にするのかよ? バカバカしい。お前、ヤキモチ妬いてるみたいだぜ」
「えっ、そう?」
今度は菫が驚いて目を丸くした。
「わたしヤキモチ妬いているのかな?」
驚いた顔のまま、菫がワタルを見ながら言った。
「さあ? 試しにコウキじゃなく、おれの愛人にでもなってみる?」
ふと菫がワタルの部屋を見渡す。女性の影はないようだった。
「白騎士様に愛人はいないの?」
「いねえよ」
こともなくサラリと答えたワタルは、興味なさそうに次を続ける。
「使い回しされてる女なんて、おれはごめんだぜ。普通に暮らして、おれだけのために普通に笑う、そういう女がいいからな」
菫は少しホッとしてワタルを見た。ワタルは菫から離れて静かに座る。
「まあここで捕虜を解放しても、世界中に散らばって隠れている倭国の生き残りが、竜神女王を立ててまた団結して戦を仕掛けてくるとも限らねえし。知ってるか、倭国の生き残りの中には、有能だった者が結構いるんだぜ」
菫は静かに首を振った。
「天界国が把握しているのは、倭国の陰陽師だった男。戦の時期を占ったり、天気を占ったり、とにかく要所要所で倭国の吉凶を予見するやつだ。世界的に有名な陰陽師一族の一人らしいぜ。それから戦闘に優れた城勤めの者が数名。戦闘はどうにかなるが、陰陽師がやばい。奴を逃しておくとどうなるかわからねえからな。天界国でも総力を挙げて探している」
「陰陽師ですか……」
「名前は不明だが、天倭戦争時にそいつに殺された当時の青騎士団長が、今わの際に呟いたらしいぜ。宮廷陰陽師にやられたと」
「……そこまで……」
「ん?」
そこまで知られているとは思わなかった。
「そろそろ時間だ。とにかく竜神女王とおれの噂はガセだからな。いいな?」
ワタルは念を押すように言い、部屋から出ていこうとしたが、言い忘れたのか顔だけこちらに向けて菫に口を開いた。
「コウキには気を付けろ。あいつお前を愛人にしようとしているぜ」
「え……」
「まあコウキの専属になれば、他の男とは寝なくて済むだろうがな。ただあの軽くて話しやすい雰囲気に呑まれるな。あいつは騎士団きっての非情さと冷酷さを持ち併せているぞ」
不穏なセリフを残すだけ残して、ワタルは部屋を出て行ってしまった。
☆続く☆
菫は神妙なワタルの様子を見て試すような笑顔を見せた。
「大義名分を掲げて感情を隠そうとしています? 愛情を知られることを恥と感じていませんか?」
ワタルは菫を睨みつけた。仄かに頬が赤い。
「何が言いたい?」
「かなり年上だからって、恋慕の情を隠さなくても良いのに。傍から見たらコウキ様の見立て通り執心していると思うかも。ならば逆に声高に言えば良いのよ。冗談じみてね、竜神女王が大好きだーって」
菫を睨みつけていたワタルは、それを聞いてニヤリと笑いながら菫に近付き、以前のように顎を掬うように持ち上げた。
「なぜおれが竜神女王が大好きなんて言わなければならない? ガセだと言っているだろう?」
顎を掴まれた状態のまま、菫はワタルを柔らかい笑顔で迎えた。
「会えるかもしれないからよ。天界国王、天満納言に次いで、あなたが愛人になれるかもしれませんよ、竜神女王の」
それを聞いたワタルは、一瞬動きを止めたが、やがておかしそうにククッと含み笑いをした。
「おれが竜神女王を愛人にするんじゃなくて、竜神女王がおれを愛人にするのかよ? バカバカしい。お前、ヤキモチ妬いてるみたいだぜ」
「えっ、そう?」
今度は菫が驚いて目を丸くした。
「わたしヤキモチ妬いているのかな?」
驚いた顔のまま、菫がワタルを見ながら言った。
「さあ? 試しにコウキじゃなく、おれの愛人にでもなってみる?」
ふと菫がワタルの部屋を見渡す。女性の影はないようだった。
「白騎士様に愛人はいないの?」
「いねえよ」
こともなくサラリと答えたワタルは、興味なさそうに次を続ける。
「使い回しされてる女なんて、おれはごめんだぜ。普通に暮らして、おれだけのために普通に笑う、そういう女がいいからな」
菫は少しホッとしてワタルを見た。ワタルは菫から離れて静かに座る。
「まあここで捕虜を解放しても、世界中に散らばって隠れている倭国の生き残りが、竜神女王を立ててまた団結して戦を仕掛けてくるとも限らねえし。知ってるか、倭国の生き残りの中には、有能だった者が結構いるんだぜ」
菫は静かに首を振った。
「天界国が把握しているのは、倭国の陰陽師だった男。戦の時期を占ったり、天気を占ったり、とにかく要所要所で倭国の吉凶を予見するやつだ。世界的に有名な陰陽師一族の一人らしいぜ。それから戦闘に優れた城勤めの者が数名。戦闘はどうにかなるが、陰陽師がやばい。奴を逃しておくとどうなるかわからねえからな。天界国でも総力を挙げて探している」
「陰陽師ですか……」
「名前は不明だが、天倭戦争時にそいつに殺された当時の青騎士団長が、今わの際に呟いたらしいぜ。宮廷陰陽師にやられたと」
「……そこまで……」
「ん?」
そこまで知られているとは思わなかった。
「そろそろ時間だ。とにかく竜神女王とおれの噂はガセだからな。いいな?」
ワタルは念を押すように言い、部屋から出ていこうとしたが、言い忘れたのか顔だけこちらに向けて菫に口を開いた。
「コウキには気を付けろ。あいつお前を愛人にしようとしているぜ」
「え……」
「まあコウキの専属になれば、他の男とは寝なくて済むだろうがな。ただあの軽くて話しやすい雰囲気に呑まれるな。あいつは騎士団きっての非情さと冷酷さを持ち併せているぞ」
不穏なセリフを残すだけ残して、ワタルは部屋を出て行ってしまった。
☆続く☆
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