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第6章★新・白騎士団長決定★

第6話☆評価の相違☆

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 コウキの部屋はひんやりとしており、寒いくらいだった。
 菫が声を上げたからか、コウキは隠し部屋のある寝室から慌てた様子で顔を出した。


「えっ……ど、どうしたのみんな?」


 コウキが驚いたように目を丸くする。菫と目を合わせると、察したように頷いた。
 天満納言は構わずズカズカとコウキの部屋に入り込んだ。


 部屋着のようだったが、怪我で両手を塞がれているので着替えられないのだろう。


「白騎士団長を決める会議をここでする。円卓会議くらいは出られるだろう? 部屋を借りるぞ」


「ま、待って下さい。少し片付けますから」


「その手でか? この女中を使え」


 コウキの手を一瞥してから、天満納言は菫の背中を押してコウキの前に出させた。強く押されたため、勢い余ってコウキの体にぶつかってしまう。
 コウキは菫を受け止めようにも手をかばったため、体全体でクッションになったようだった。


「す、菫……大丈夫?」


 コウキが慌てて菫を体で抱きとめながら言うと、菫は「すみません……」と頷いた。


 ふと床になにかゴソゴソと素早く動く物体が通り過ぎたため、2人は同時に床を見た。
 コウキの横をすり抜けて行くそれは、尻尾の切れたヤモリだった。


「あ、ヤモリ……」


「ひっ!」


 コウキが飛び上がって菫に抱きついてきた。菫は驚いてコウキを見上げる。


「えっ、ヤモリ苦手ですか?」


「こ、昆虫とか爬虫類とか、ダメなんだよ俺」


 菫の華奢な体にしがみつく大きな体躯のコウキが震えていて、菫は思わずクスッと笑ってしまった。


「な、なんだよ……情けないのはわかってるけどさ。怖いものは怖いんだよ」


「ヤモリは家を守ると書いて……」


「知ってる知ってる! だからアイツは俺の部屋の守り神とでも言いたいんだろ! でも尻尾切れてたぞ。ここに来るまでにケンカでもしたんだろ。縁起が悪い!」


「やだコウキ様。尻尾を切ってまで一生懸命生き抜いているヤモリに向かって縁起を持ち出すなんて……」


「菫はさあ……すこしズレてるぞ!」


 コウキと菫がやり取りをする側で、カルラが神妙な顔でヤモリの行方を目で追っていた。


「は? は?」


 菫に抱きついたコウキの後ろから、リョウマのドスの効いた声が聞こえた。


「あいつ、先程のヤモリじゃないか? なぜまたこんなところにいる?」


 リョウマの声を聞きながら、カルラは懐を弄ると、先程保管していたヤモリの切れた尻尾が発光し、ヤモリ本体の方へフワリと飛んで行った。


 そして尻尾は何事もなかったようにヤモリにくっついた。
 その後ヤモリはコウキの寝室の奥にある隠し扉の隙間に入って行った。


「……」


 カルラは隠し扉を見て沈黙する。


「あのヤモリ、騎士塔をネグラにしているのか? 追い出してやろうか」


 リョウマがコウキの寝室に入ろうとしたので、コウキが慌てて止めた。


「待てよリョウマ。一応俺のプライベートな空間なんだからさ、寝室には入るなって。もうこのままでいいから、円卓会議を始めよう」


 ヤモリの行方を追わずに、コウキの部屋の客間で円卓会議をすることになった。


「……爬虫類苦手なのに、追い出さなくていいんだ……寝室に入らせたくない余程の理由があるんだな……」


 カルラは静かに呟くと、最後までコウキの寝室を見つめていたが、やがて客間に足を向けて会議に向かった。




 会議の間、菫は騎士団長たちの発言や決定事項、今後の予定などを書き込んでいった。


 色々発言するので、取り逃がさないようにと記録していたら、ふと全員の視線が菫に向いていることがわかり、菫は不思議に思って記録している手を止めて顔をあげた。


「どうしましたか……?」


「……あの、両利きなんですか?」


「あ、はい……」


 ゼンタがおずおずと、菫の手元を見て驚きの声を出す。騎士団長たちの会話量が多いため片手では時間がなく、両手を使って記録していたのだ。


「わっ……左右違うこと書いてありますね。すごいな……」


「ほう? 左右で少し字体が違うんだな。面白い」


「右上がり、左上がりになるから字体が変わるんだろうな。左手で書いた方が跳ね、止めが綺麗だ」


「待って……そんな詳細に分析されたら恥ずかしいんですけど……」


 ゼンタの声を皮切りに、天満納言やみんなが近付いてきた。そして記録を覗き込むと、それぞれ言葉を交わす。
 菫は思わず注目されてしまったため、頬を赤らめた。


「みんな褒めてるんだよ、君を」


「そうですよ。珍しいですね、そんなに照れるの」


「ふん、菫が重宝される人材だということは、普段接している者はわかるだろう」


「そうだよな。菫、サラッとすごいからな……」


 騎士団長たちが次々と発言し、それを聞いていた菫は思わず呆けてしまった。
 手を止めて暖かい雰囲気が菫を包んでいることがわかると、思わず目頭が熱くなってきた。


「す、菫、どうした?」


 カルラが菫の涙に気付いて、慌てて指の腹で涙を拭った。


「すみません……嬉しくて……」


「嬉しい?」


 カルラが涙を拭くのが間に合わないほど、菫の目から大粒の涙がこぼれてくる。


「わたしなんて、大したお役に立てるわけでもないのに、両利きなだけで良く言って下さって……天界国の皆さんが……温かくて……」


「……」


 カルラはそれを聞いて、リョウマと目配せをした。
 倭国でいらない王女扱いされ、大臣たちには無能と蔑まれ、華族にないがしろにされていた菫は、評価されることに慣れていない。


 倭国の雰囲気では、菫の自己肯定感が低くなるのは当たり前だろうな、とカルラは考えた。


「菫、お前は俺たち騎士団長のために良くやってくれている。才能は……菫の家族の中ではない方かもしれないが、それを補う努力と勉強……そして人を想う優しい心は……家族にも負けていないと俺は思う。自信を持て」


「……ありがとうございます、リョウマ様」


 リョウマはフッと笑うと、カルラにハンカチを差し出した。カルラはリョウマから刺繍入りの高そうなハンカチを受け取り、菫の涙をそっと拭く。


「すみません、大切な会議の腰を折ってしまいました。再開して下さい。どうぞわたしに構わず」


 泣きながら笑顔を見せた菫を、天満納言が複雑そうに睨んでいた。


 会議は主に白騎士団長を決めることと、次回の倭国との和平交渉、人質交換の対策、そしてカボシ姫の誕生日パーティーの予算案についてだった。


 この中で時間を1番割いたのは和平交渉の件で、意外にも白騎士団長は早く決まった。


 リョウマやカルラは疑問を呈したが、筆記試験の高さと不思議な技を使うということが評価され、狂法師が新しい白騎士団長となることが決定した。


☆続く☆
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