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第5章★人質交換★

第3話☆リョウマVS裕②【中断】☆

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「リョウマ……」


 2人の戦いを廊下で見ながら、どうしようか考えているカルラの隣に、ゼンタが静かに立った。


「カルラさん……リョウマさんを止めたほうが良くないですか……和平交渉が台無しになりますよ……」


「……うん、だよな、了解」


 ただ、カルラは全面的にリョウマの言い分の味方だったが、このまま争いを続けていても和平交渉に差し障るだけだ。


 カルラはため息をついて瓦礫の向こうに足を踏み入れた。
 隣にいたコウキが止めようとしたが、カルラは笑顔でそれを制して瓦礫を乗り越える。


「お~い、お2人さん。熱くなりすぎじゃないの~? 銀環の天空城を壊したいのかよ? 建築家の中でも評価高くて、世界文化遺産として登録するか検討されている城だぞ~」


 ひょっこりと瓦礫の隙間からカルラが現れたものだから、リョウマと裕は驚いて目を丸くする。


「カルラ……久しぶり……」


 裕がポツリと呟く。カルラは猫背のまま瓦礫をひょいひょい避けてリョウマの隣に立った。


「久しぶり~。裏切り者らしく、ヒール役として和平交渉に参上致しました。お手柔らかに~王子様。ヒヒヒっ」


 ニヤニヤ笑いながらさり気なくかばうようにリョウマの前に出たカルラに対して、裕はゆっくりと1度深呼吸した。


「すまない、熱くなってしまったな……和平交渉を始めようか。リョウマ、俺への個人的な不満を聞くのは日を改めてにしよう。そのときに受けて立つ」


 裕がリョウマに近付いて、左手を差し出した。地面に倒れていたリョウマは、差し出された左手をパンと払いのけると、自力で立ち上がる。


「フッ。俺に負けそうになったから取り繕ったな? ざまあないな」


「リョウマ」


 カルラが嗜めるように言い、リョウマの背中を押して物理的に裕と離す。


「申し訳ありません裕様。リョウマにはあとで言っておきますので、これを和平交渉の材料には加味しないで下さいませんか~」


 カルラが情けない声を出すと、リョウマはすかさずカルラに向かった。


「ふん、まさかそのような小さなこと、一国のトップがするはずないだろう? こちらには切り札がある。個人的な感情を加味したら、俺は容赦なくその切り札を殺す」


 鬼の形相で低い声で呟くリョウマに、裕は硬直した。


 切り札は菫を指しているのかな、とカルラは思ったが、リョウマの発言は思ったより有効のようだった。


「……個人的感情を加味したら、俺は君たち2人に返しきれない恩義があるよ。邪神国で記憶をなくして、女王の護衛をしていた俺に記憶を取り戻させてくれた」


「チッ。綺麗事を。偽善なら聞き流すぞ」


「さあ和平交渉を始めようか。どうやら外に交渉団が揃ったようだよ」


 リョウマとカルラが壊れた扉の方を見ると、今までいなかった太一と菫、ワタルとヒサメが歩いて来るのが見えた。


 菫を見たカルラとリョウマは、ホッと安堵する。


 玉座の間が破壊されたので、別室にある会議室で交渉を行うことになった。
 倭国側に裕、ワタル、太一、ヒサメが着席し、天界国側には天満納言、リョウマ、御雷槌、竜神女王がベールをかぶり、誰だかわからない状態で座った。


 後の者は椅子に座らず、立っていることになった。
 菫の隣にはカルラが立ち、何かあっても対応できるようにしていた。


「あの……彼女の椅子……用意しましょうか?」


 ふとゼンタがカルラの隣で小さく囁いた。カルラがゼンタを見下ろすと、ゼンタは菫を気にしているようだった。


「うん、大丈夫だよゼンタ」


 眼鏡をかけ直しながらカルラが笑うと、天満納言が裕に向かって頭を下げた。


「まずは遅刻し、大変長い間おまたせして申し訳ない。書状にあった3ヶ月後の満月の日に交渉だと思い違いをしていました」


 天満納言に倣い、天界国側の交渉団が頭を深く下げる。


「こちらこそ。ルウ王子に口頭で変更希望を伝えただけでした。大変失礼しました」


 裕が深く頭を下げて顔を上げた瞬間、対面にいた菫と目を合わせた。
 菫が気付いて敢えて微笑むと、裕も笑顔で返してくる。


「まずは、和平交渉の前に人質交換といきませんか。我々倭国は天倭戦争時、竜神女王を……母を人質に取られ3年間、心痛める日を送って参りました。第2王子のワタルは、母を側で守りたい、救いたいという想いで戦争後天界国の騎士団試験を受け、白騎士となり母を見守っていたようです。倭国の政治的総意でも、スパイ活動でも決してない。ただ母を思う子の愚直な行動だったことをご理解頂きたい」


 裕は暗に、ワタルの無実をサラリとふてぶてしく唱えた。
 菫は天満納言の答えをジッと待つ。


「……ワタル様を無罪にしろと?」


「無罪? むしろ何か罪を犯しましたか、俺の弟は?」


「……」


 有無を言わさぬ爽やかな裕の笑顔に、天界国側がグッと息を呑むのを感じた。


「それからこちらにいる狐仮面の太一ですが、彼のことを天界国は罪人として指名手配をしているようですね」


 裕は太一を指し天満納言を見据えた。


「私の片目を潰したので、指名手配とさせてもらっていますが」


「それはおかしいですね、天満納言殿。戦争時の傷病は個人的恨みとなります。こちらも吸血王の死や、重鎮の死を負っております。天界国だけ、彼を重罪に問うことは出来ないはずです」


 この裕の言い分は正論だったので、天満納言もグッと言葉を控えた。


「さて、彼の処遇をどうするつもりですか?」


 にこにこと笑いながら裕が天満納言に圧をかけてくる。天満納言は静かな声で言った。


「狐仮面殿の指名手配は解くことと致します……」


「大満足の回答です。ありがとう」


 裕が満面の笑みで軽く頭を下げた。


「まずは竜神女王とヒサメ殿を人質交換しましょう。ヒサメ殿、こちらへ」


 裕が肘を立てて手を顎に置くと、ニヤリと笑った。


「はい、裕様」


 ヒサメが裕の側に立ち、じっと下を向いた。
 次は竜神女王だ。今まで竜神女王は茨の塔に幽閉されていたため、天満納言とヒサメ、天界国王くらいしか顔を見たことがない。


 その竜神女王の顔が見られるとあって、天界国側の騎士団長たちはひそかに緊張していた。


☆続く☆
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