55 / 58
第4章★銀環の天空城★
第10話☆優しい悪魔☆
しおりを挟む
太一はカルラに幻術を掛けた後、重厚な扉の部屋に戻る。
カルラが菫以外の女性に迫られたら、どうするだろうか。太一はそれを確かめたかった。
菫が目覚めたのは天蓋付きの豪奢なベッドの上だった。
客間のような美しい部屋に、菫は紙吹雪まみれになりながら寝かされていた。
「カルラ様……?」
慌てて起きて周囲を見渡すと、紙吹雪中まみれた際に抱きしめてくれたカルラはおらず、代わりに太一が陰陽服を着て、狐のお面をつけて銀に輝く美しいソファに座っていた。
「ようこそ菫様。銀環の天空城の客間へ」
「太一様……お久しぶりです。カルラ様はどちらでしょうか」
太一は狐仮面の下で鼻で笑ったようだった。
「カルラは、ボクの幻術の中におります。菫様とボクが話をするのを阻止しようとしましたので。無事でおります、安心めされるよう」
「そう……」
菫はベッドから起き上がり、太一の側に歩く。
部屋に静寂が包みこんだ。
「菫様に話したいことがありまして……少し、みんなに騎士団長たちを足止めしてもらっております」
「そうなの? わかりました。カルラ様や天界国のみなさんは無事なのね」
太一が頷くと、菫は安心したようにホッと息をはいた。
「太一様、まずは陰陽師当主、おめでとうございます。ご挨拶が遅れてすみません」
そう言うと、菫はニコッと笑う。太一はギクッと硬直したが、菫は笑顔を崩さなかったのでようやく頷いた。
「まあ前回お会いしたときは……裕様が菫様とカルラたちを追放したときでしたからな……」
太一が陰陽師当主を決めるときを思い出しながら言うと、菫も同じように八雲の課題を思い出していた。
「……教えてください、遺言状にあった太一様の課題はクリアできたの? 八雲様の9人目の子供、誰だかわかったの?」
「あ、その……それはですな……」
太一が言い淀むと、菫は続けて問いかける。
「八雲様の9人目の子供、わからなかったんじゃないですか? 課題、クリアしていないのでしょう」
「……なぜそう思いますか」
「わたしたちが倭国城で追放させられたところに、同席していなかったから。もし9人目の息子が判明していたら、あの場所に連れてきていないと不自然ですよ」
菫が言うと、太一はクスッと笑った気配がした。
「あと、太一様は天界国にある天殻変動を起こす【魔竜の宝珠】を持ってくることが課題でしたね」
「……はい」
「魔竜の宝珠は、天界国にないのよ、太一様。この空中楼閣にあるんです。魔竜の宝珠のおかげで、空中楼閣は天空を浮遊出来ているのですから」
「え……そうなのですか?」
「はい。だから空中楼閣が未だ浮遊しているということは、太一様は魔竜の宝珠を持っていないということよ」
「……そう……でしたか……」
太一は肩を落とす。魔竜の宝珠の場所を知っていて、太一に教えなかったということは、菫は完全にカルラの応援をしていたのだな、と感じ取ったからだ。
実際のところ、中立を公言していたためだが、太一にはそれもカルラの味方をしたと受け取った。
「しかし、裕様の権限でボクが当主になりました」
ふう、と一息つくと、太一はゴクリと喉を鳴らし、菫に向き合った。
「課題をクリアしていないボクが、なぜ当主になったかお話ししたくて、裕様に無理言って天界国のやつらを足止めしてもらいました」
太一は立ち上がって菫の前にきて、そっと菫の肩を抱きソファに座らせた。
「まず、ボクは稲田一族の当主になることは嫌でした。厳密に言えば、稲田一族当主など、決めなければ良いと思っております」
「そうなの? あなたは先代当主、八雲様に気に入られていたのに?」
「いいえ。ボクは八雲に忌み嫌われておりました。連れ回されていたのは、八雲の仕事をボクが代わりにやっておりました。それを八雲の手柄にされておりましたゆえ」
八雲は小さい頃から、太一を倭国城に連れてきて可愛がっていた印象がある。
「菫様は、八雲と吸血王様が王立学校の学友だったことはご存知ですか?」
「……はい、人づてに聞きました」
コウキに教えてもらったことを思い出し、菫は頷く。
「八雲は学生のときから、将来吸血王の子が娘ならば、倭国や他国権力者に奉仕をさせ、倭国の役に立ってもらったら良いと、吸血王様に進言していたそうです」
太一の言葉に菫は力を抜いて肩を竦めた。ラウンジで奉仕していたことを知っていると、暗に伝えたのがわかった。
「なーんだ、太一様も知っていたのね。わたしがラウンジで裸になっていたこと」
「……はい、知っておりました」
「もうなんかいいや。そう、わたしラウンジで裸踊りして、何千回と男を咥えてきたの。権力者たちの前で、処女を守られながらね。穢れた女です」
「……投げやりにならないでくだされ。ボクは秘密厳守しております。ワタル様にも、裕様にもラウンジのことは言っておりませぬよ」
「わたしのラウンジの件、八雲様に聞いたの?」
「はい。八雲はボクを連れ回しておりましたからな」
「……いつも太一様を倭国城に連れて来ていましたものね、八雲様」
菫は八雲と太一がラウンジに参加していたのかどうか、ためらって聞けなかった。
太一は深呼吸すると、固い声を出した。
「八雲がボクを連れ回すようになったのは、ボクに不義の子としての価値があったからです。つまり、陰陽師としての才覚のことです」
「……えっ」
「賢いあなたならもうおわかりかと思いますが、八雲は吸血王様と結託し、菫様がラウンジを使わないときには、ボクに使わせておりました」
「まさか……」
菫は落ち着かなくなって立ち上がり、太一に近づくと、不安そうに見上げた。
「八雲の命令で、ボクの遺伝子が欲しい女たちにラウンジで色々搾り取られていたということです」
「うそ……」
菫は思わず太一の手を取った。
「太一様も……? そうか、だから……」
太一もまさかラウンジを使っていたとは衝撃だった。
菫は男性相手に、太一は女性相手に、性接待をされられていたのだろう。
「ボクの場合は女性が参加するだけで5千万。妊娠したら追加で1億支払いだったそうです。菫様と同じく13の誕生日から……ボクの脱いだ下着を投げて拾った女に、ステージ上で好奇の目にさらされながら子作りの真似事です」
「ひどい……」
「ただ、変な薬を飲まされておりました。八雲は精力回復薬と言っておりましたが、調べたところ精子減少薬のようなものでありました。なるべく妊娠させぬようにされていたようです」
エイチ先生だ。
太一の子供がなかなかできないようにされていたのだ。
妊娠しなければ、何度もラウンジに通い、金を巻き上げることができるからだろう。
「八雲に性虐待されておりましたゆえ、ボクはあの男を父親だと思ったことはありませぬ。憎しみの対象です」
達観したように呟く太一を見て、菫は息を呑んだ。
「こんなこと、誰にも言えませぬよ。ワタル様にも……情けなくて……とても言えませぬ」
「わかる……わたしもワタルに言えない……倭国の魔人には知られたくない……」
「当主の話に戻りますが……」
太一は菫を見つめながら言い聞かせるように呟いた。
「稲田一族当主になったら、一族の血を絶やさぬよう、遺伝子を残すためボクや八雲のように、色々な女と寝なければなりませぬ。カルラには無理です、あれは一途ですからな。菫様を想い、きっと壊れてしまう」
「……えっ?」
太一は下を向いて優しい声で静かに呟いた。
「菫様だけを愛し抜く、菫様しかいらないと、誘惑に負けず真っ直ぐに言える純真な心持ちのカルラには、稲田一族当主に向いておりませぬよ」
菫は目を見開いて太一を見つめた。
憎まれ役を引き受けていたか、と菫は察した。
他の兄弟は太一を憎むような目で見ていた。
当たり前だ、太一が他の兄弟に対してきつく当たっていたからだ。
「カオスは女なので当主にならずに済みます」
菫は太一の声に再び顔を上げる。倭国は未だ男尊女卑が根強い国だ。カオスは幸い免れる。
「センジュは1番当主になりたがっておりました。勉強家で真面目です。当主になれば世継ぎの圧力で1番先に精神を蝕まれます。あれはきっと脆い」
「……良く、見ておられますね」
「長い付き合いです。ボクだけは全員の兄弟と交流がありましたからな」
太一は狐の面を触って、ため息をついた。菫は呆然としてしまった。
太一の課せられた使命の重さを考えたら、思わず太一の手を強く握っていた。
「……シデンは潔癖なところがあります。高潔だと信じている稲田一族や王族が裏でこのようなことをしていると知れば、確実に荒れますゆえ」
「太一様……」
小さい頃から優しい人だった。
菫が転んで泣いてしまったときは、同じく泣きながら拙い手当てをしてくれた。
大人が花を踏み潰したときは、術で結界を張り、踏み潰されないようにしていた。
お互い歳を重ねて擦れてしまった。
それでも持って生まれた優しさは変わっていない。
菫は太一の狐仮面を見つめた。表情はわからない。
「セイは順応性は高いですがまだ17歳です。若い彼に背負わせるのは酷だろうて」
「太一様だってまだ18歳でしょ……」
菫は静かな声色で太一に言った。
「湊人も凪人も、稲田一族の裏を知れば混乱して何をするかわからぬ。ボクだけが稲田一族の所業を知っておる。ボクが当主になるのが1番いい。もうボクの心身はとうに壊れておりますからな」
「そんな……太一様……」
「ボクの兄弟が、当主になった途端複数の女を相手しなければならないと知るくらいなら、13歳から何千回と複数の女を抱いてきた、穢れたボクが当主になります。こんな吐くような想いをするのはボクだけで十分です。そして内部からぶっ潰す。これが、ボクが当主になりたい理由です」
菫は目に涙を溜めて太一を見つめる。太一はそれに気付いてクスッと笑うと、菫の涙を指で拭った。
「今まで兄弟にはつらく当たってきました。稲田一族が未練にならぬよう、裕様に追放もしてもらいました。これでボクが当主になっても、兄弟たちはボクや稲田家を未練なく切り捨てられるだろうて。血を分けた彼らには自由に生きて欲しいですからな、ボクの代わりに」
告白をして安堵したのか、太一は肩の力を抜いた。
☆終わり☆
カルラが菫以外の女性に迫られたら、どうするだろうか。太一はそれを確かめたかった。
菫が目覚めたのは天蓋付きの豪奢なベッドの上だった。
客間のような美しい部屋に、菫は紙吹雪まみれになりながら寝かされていた。
「カルラ様……?」
慌てて起きて周囲を見渡すと、紙吹雪中まみれた際に抱きしめてくれたカルラはおらず、代わりに太一が陰陽服を着て、狐のお面をつけて銀に輝く美しいソファに座っていた。
「ようこそ菫様。銀環の天空城の客間へ」
「太一様……お久しぶりです。カルラ様はどちらでしょうか」
太一は狐仮面の下で鼻で笑ったようだった。
「カルラは、ボクの幻術の中におります。菫様とボクが話をするのを阻止しようとしましたので。無事でおります、安心めされるよう」
「そう……」
菫はベッドから起き上がり、太一の側に歩く。
部屋に静寂が包みこんだ。
「菫様に話したいことがありまして……少し、みんなに騎士団長たちを足止めしてもらっております」
「そうなの? わかりました。カルラ様や天界国のみなさんは無事なのね」
太一が頷くと、菫は安心したようにホッと息をはいた。
「太一様、まずは陰陽師当主、おめでとうございます。ご挨拶が遅れてすみません」
そう言うと、菫はニコッと笑う。太一はギクッと硬直したが、菫は笑顔を崩さなかったのでようやく頷いた。
「まあ前回お会いしたときは……裕様が菫様とカルラたちを追放したときでしたからな……」
太一が陰陽師当主を決めるときを思い出しながら言うと、菫も同じように八雲の課題を思い出していた。
「……教えてください、遺言状にあった太一様の課題はクリアできたの? 八雲様の9人目の子供、誰だかわかったの?」
「あ、その……それはですな……」
太一が言い淀むと、菫は続けて問いかける。
「八雲様の9人目の子供、わからなかったんじゃないですか? 課題、クリアしていないのでしょう」
「……なぜそう思いますか」
「わたしたちが倭国城で追放させられたところに、同席していなかったから。もし9人目の息子が判明していたら、あの場所に連れてきていないと不自然ですよ」
菫が言うと、太一はクスッと笑った気配がした。
「あと、太一様は天界国にある天殻変動を起こす【魔竜の宝珠】を持ってくることが課題でしたね」
「……はい」
「魔竜の宝珠は、天界国にないのよ、太一様。この空中楼閣にあるんです。魔竜の宝珠のおかげで、空中楼閣は天空を浮遊出来ているのですから」
「え……そうなのですか?」
「はい。だから空中楼閣が未だ浮遊しているということは、太一様は魔竜の宝珠を持っていないということよ」
「……そう……でしたか……」
太一は肩を落とす。魔竜の宝珠の場所を知っていて、太一に教えなかったということは、菫は完全にカルラの応援をしていたのだな、と感じ取ったからだ。
実際のところ、中立を公言していたためだが、太一にはそれもカルラの味方をしたと受け取った。
「しかし、裕様の権限でボクが当主になりました」
ふう、と一息つくと、太一はゴクリと喉を鳴らし、菫に向き合った。
「課題をクリアしていないボクが、なぜ当主になったかお話ししたくて、裕様に無理言って天界国のやつらを足止めしてもらいました」
太一は立ち上がって菫の前にきて、そっと菫の肩を抱きソファに座らせた。
「まず、ボクは稲田一族の当主になることは嫌でした。厳密に言えば、稲田一族当主など、決めなければ良いと思っております」
「そうなの? あなたは先代当主、八雲様に気に入られていたのに?」
「いいえ。ボクは八雲に忌み嫌われておりました。連れ回されていたのは、八雲の仕事をボクが代わりにやっておりました。それを八雲の手柄にされておりましたゆえ」
八雲は小さい頃から、太一を倭国城に連れてきて可愛がっていた印象がある。
「菫様は、八雲と吸血王様が王立学校の学友だったことはご存知ですか?」
「……はい、人づてに聞きました」
コウキに教えてもらったことを思い出し、菫は頷く。
「八雲は学生のときから、将来吸血王の子が娘ならば、倭国や他国権力者に奉仕をさせ、倭国の役に立ってもらったら良いと、吸血王様に進言していたそうです」
太一の言葉に菫は力を抜いて肩を竦めた。ラウンジで奉仕していたことを知っていると、暗に伝えたのがわかった。
「なーんだ、太一様も知っていたのね。わたしがラウンジで裸になっていたこと」
「……はい、知っておりました」
「もうなんかいいや。そう、わたしラウンジで裸踊りして、何千回と男を咥えてきたの。権力者たちの前で、処女を守られながらね。穢れた女です」
「……投げやりにならないでくだされ。ボクは秘密厳守しております。ワタル様にも、裕様にもラウンジのことは言っておりませぬよ」
「わたしのラウンジの件、八雲様に聞いたの?」
「はい。八雲はボクを連れ回しておりましたからな」
「……いつも太一様を倭国城に連れて来ていましたものね、八雲様」
菫は八雲と太一がラウンジに参加していたのかどうか、ためらって聞けなかった。
太一は深呼吸すると、固い声を出した。
「八雲がボクを連れ回すようになったのは、ボクに不義の子としての価値があったからです。つまり、陰陽師としての才覚のことです」
「……えっ」
「賢いあなたならもうおわかりかと思いますが、八雲は吸血王様と結託し、菫様がラウンジを使わないときには、ボクに使わせておりました」
「まさか……」
菫は落ち着かなくなって立ち上がり、太一に近づくと、不安そうに見上げた。
「八雲の命令で、ボクの遺伝子が欲しい女たちにラウンジで色々搾り取られていたということです」
「うそ……」
菫は思わず太一の手を取った。
「太一様も……? そうか、だから……」
太一もまさかラウンジを使っていたとは衝撃だった。
菫は男性相手に、太一は女性相手に、性接待をされられていたのだろう。
「ボクの場合は女性が参加するだけで5千万。妊娠したら追加で1億支払いだったそうです。菫様と同じく13の誕生日から……ボクの脱いだ下着を投げて拾った女に、ステージ上で好奇の目にさらされながら子作りの真似事です」
「ひどい……」
「ただ、変な薬を飲まされておりました。八雲は精力回復薬と言っておりましたが、調べたところ精子減少薬のようなものでありました。なるべく妊娠させぬようにされていたようです」
エイチ先生だ。
太一の子供がなかなかできないようにされていたのだ。
妊娠しなければ、何度もラウンジに通い、金を巻き上げることができるからだろう。
「八雲に性虐待されておりましたゆえ、ボクはあの男を父親だと思ったことはありませぬ。憎しみの対象です」
達観したように呟く太一を見て、菫は息を呑んだ。
「こんなこと、誰にも言えませぬよ。ワタル様にも……情けなくて……とても言えませぬ」
「わかる……わたしもワタルに言えない……倭国の魔人には知られたくない……」
「当主の話に戻りますが……」
太一は菫を見つめながら言い聞かせるように呟いた。
「稲田一族当主になったら、一族の血を絶やさぬよう、遺伝子を残すためボクや八雲のように、色々な女と寝なければなりませぬ。カルラには無理です、あれは一途ですからな。菫様を想い、きっと壊れてしまう」
「……えっ?」
太一は下を向いて優しい声で静かに呟いた。
「菫様だけを愛し抜く、菫様しかいらないと、誘惑に負けず真っ直ぐに言える純真な心持ちのカルラには、稲田一族当主に向いておりませぬよ」
菫は目を見開いて太一を見つめた。
憎まれ役を引き受けていたか、と菫は察した。
他の兄弟は太一を憎むような目で見ていた。
当たり前だ、太一が他の兄弟に対してきつく当たっていたからだ。
「カオスは女なので当主にならずに済みます」
菫は太一の声に再び顔を上げる。倭国は未だ男尊女卑が根強い国だ。カオスは幸い免れる。
「センジュは1番当主になりたがっておりました。勉強家で真面目です。当主になれば世継ぎの圧力で1番先に精神を蝕まれます。あれはきっと脆い」
「……良く、見ておられますね」
「長い付き合いです。ボクだけは全員の兄弟と交流がありましたからな」
太一は狐の面を触って、ため息をついた。菫は呆然としてしまった。
太一の課せられた使命の重さを考えたら、思わず太一の手を強く握っていた。
「……シデンは潔癖なところがあります。高潔だと信じている稲田一族や王族が裏でこのようなことをしていると知れば、確実に荒れますゆえ」
「太一様……」
小さい頃から優しい人だった。
菫が転んで泣いてしまったときは、同じく泣きながら拙い手当てをしてくれた。
大人が花を踏み潰したときは、術で結界を張り、踏み潰されないようにしていた。
お互い歳を重ねて擦れてしまった。
それでも持って生まれた優しさは変わっていない。
菫は太一の狐仮面を見つめた。表情はわからない。
「セイは順応性は高いですがまだ17歳です。若い彼に背負わせるのは酷だろうて」
「太一様だってまだ18歳でしょ……」
菫は静かな声色で太一に言った。
「湊人も凪人も、稲田一族の裏を知れば混乱して何をするかわからぬ。ボクだけが稲田一族の所業を知っておる。ボクが当主になるのが1番いい。もうボクの心身はとうに壊れておりますからな」
「そんな……太一様……」
「ボクの兄弟が、当主になった途端複数の女を相手しなければならないと知るくらいなら、13歳から何千回と複数の女を抱いてきた、穢れたボクが当主になります。こんな吐くような想いをするのはボクだけで十分です。そして内部からぶっ潰す。これが、ボクが当主になりたい理由です」
菫は目に涙を溜めて太一を見つめる。太一はそれに気付いてクスッと笑うと、菫の涙を指で拭った。
「今まで兄弟にはつらく当たってきました。稲田一族が未練にならぬよう、裕様に追放もしてもらいました。これでボクが当主になっても、兄弟たちはボクや稲田家を未練なく切り捨てられるだろうて。血を分けた彼らには自由に生きて欲しいですからな、ボクの代わりに」
告白をして安堵したのか、太一は肩の力を抜いた。
☆終わり☆
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる