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第3章★あなたのこども★

第9話☆菫の予想☆

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「コウキ様って、火輪様に命令されてるでしょ。頭の中で、俺を復活させろーって言ってるんじゃない?」


 菫がコウキに抱きつきなら聞く。コウキは安定しない観覧車の中で思わず菫を抱きとめる。


「えっ……ええと……命令というか、お願いというか、だな……」


「そんな自分のことしか考えていないような血の繋がらない弟、捨てちゃえば?」


「でも、火輪が死んだ後の父さん……大変だったんだよ……」


「ジュダ様も亡くなったでしょ。無視していいです」


「……君が俺の家族のことをとやかく言う筋合いはないと思うんだけど」


 少し強く言うコウキに、菫はクスッと笑うとコウキを抱きしめる力を強める。 


「あるルートで数名の女性のカルテを入手しました。妊娠させたくない女性のリストです。マリア様のカルテもありました」


「え……妊娠させたくないって……? 母さんは火輪を妊娠したぞ」


「そう。火輪様が産まれたから、ジュダ様はもう兄弟を作らせたくなかった。跡取り問題でもめたくなかったから。そこで八雲様に相談します。マリア様に怪しまれず避妊させる方法を」


「……父さんが八雲に相談? 敵国陰陽師長に……?」


 敵国の幹部に天界国下院貴族の父が相談?


 コウキはハッと気付く。ラウンジだ。
ラウンジで八雲が言っていた。『君のお父さんと商談した』と。
 昔なじみだったのかもしれない。


 菫は淡々とした口調で続ける。


「コウキ様から、吸血王と八雲が同級生だったと聞いたときにピンときました。カルテにマリア様の名があったということは、カルテの配偶者はカルテを作成した男とも同級生だったのではないか。カルテのあった女性たちの配偶者は、学生時代の同級生という絆で繋がっているのではないか。それが吸血王、八雲、カルテを作成した医者のエイチ」


「………」


「そこに不自然にあったマリア様のカルテ。きっとジュダ様も、吸血王たちと同じ、王立学校の同級生だったんじゃないかしら」


「聞いたこと……ない……」


「秘密にしていたと思いますよ。現に天倭戦争であなたが八雲様と対峙したとき、一緒にジュダ様もいたんじゃないの?」


「いや……八雲の元まで行けたのは俺だけなんだ。その前に……家族は倭国の侍や陰陽師にやられて倒れてしまったから」


「きっとジュダ様は火輪様が亡くなって焦ったでしょうね。跡取り問題が起きないようにマリア様を避妊させていたし。残ったのは血の繋がらないコウキ様だけ」


「……火輪が死んだのは6年前。俺が虐待されなくなったのも火輪が死んでからだ……」


 菫はコウキの頭を強く抱きしめる。


「……父が……ジュダが、相談したのか? 火輪が死んで、器を保存しておき、魂を入れる方法を……八雲に……」


「そう思います。王立学校の同級生たちは、お互い困ったときは秘密裏に助け合う、そういう間柄だったんじゃないかな。お互い国が違うから、当時の情勢上表立って仲が良いとは国民に知られてはいけなかったけれど」


「天界国民の父さんと、倭国王、倭国幹部……敵対していたから、表立って仲良くできなかったのか」


「ジュダ様は、跡取り息子の火輪様が亡くなったから、魂をコウキ様の中にとりあえず入れて、肉体を再生させる方法を……相談していたんじゃないかな、八雲様に」


 菫はさらにコウキを強く抱きしめる。


「八雲様なら……魂の授受ができるかも」


「菫、力抜けよ。わかったから。俺にも話をさせてくれ」


「えっ」


 コウキは菫をなだめるように背中に優しく手をあてた。


「菫の予想だと、吸血王、八雲、エイチ、ジュダの4人は学生時代の友人で、お互いがお互いのために協力関係を築いている間柄だと、そう思っているわけだよな」


「はい。あと1人……ローゼンバッハにも話を聞きます。そのリストに……個人的な名前を言ってしまいますが……芹香様も含まれていたの。あのニンゲンの娘よ」


「……ローゼンバッハは、俺とリョウマが捕まえて……その後どこかに逃げてしまったんだよな、確か」


 現在倭国跡地にいるが、天界国には行方知れずということにしてあるので、菫は曖昧に頷いた。


「そのリストの入手方法と、なぜ妊娠しないような薬を処方されていたのかがわからない。何故そんなリストが存在しているんだ?」


 これを言うと菫の正体がバレてしまう。コウキには何も伝えていないため、
どう言っていいのか菫は口を閉ざした。


 ふとコウキが深く深呼吸をした。


「……よし菫、腹を割って話そうか。俺が知っていることを、全て話すよ。幻滅されるかもしれないけれど……父親の件が出てきたならば、話した方が良いと思う」


 コウキは覚悟を決めたように菫を抱きしめると、ゆっくりと景色を見た。そろそろ2回目の観覧車の頂上だった。


「長くなるかもしれないから、移動しながら話すか」


「移動?」


「ああ。カラムの町の俺の実家に行こうか……父さんが八雲や吸血王と同級生だったなら、証拠が家にあるかもしれない。菫の予想にも信憑性が出てくるだろ。時間、あるかな……明日白騎士団長候補者の面接があるんだよね」
 

「今からカラムの町に行っても、カラムの町から天界城まで移動するのに時間かかりますからね……」


 観覧車を降りるまで、菫はコウキに密着して離れなかった。
 降りてから先程の係のお兄さんにお礼を言うと、歩き始めた。しかしカラムの町にはほど遠い。次の休日に行くしかないと2人は判断した。


「よし、とりあえず2人きりになれる場所に行くか。喫茶店じゃだめだよな。はは、ある意味密談だからな、これ」


 爽やかに笑うコウキに、菫も釣られて笑った。


「あそこなんていいんじゃない?」


 菫がニコニコしながら指差したのは、オフィス街にあるビジネスホテルだった。コウキは菫を見下ろして顔を赤らめる。


「密室すぎない?」


「密談するにはいい場所ですよ。それに、あなたはわたしを襲えないでしょ、体質的に」


「ははは、バカにされてるなあ……そんなことはないんだけど」


 突然コウキは背を屈めて菫の額にキスをした。驚いた菫は、キスされた額を押さえてコウキを見上げる。


「……ふっ、その驚いた顔! 可愛いね、菫」


 爽やかな表情で笑うコウキに、菫は驚きの声をあげる。


「えっ、コウキ様、体温が苦手じゃないの? キスなんて出来ないのかと思っていました」


「言っただろ、俺は菫の体温は平気なんだよ」


「いつも、無理しているのかと思っていたんです」


「観覧車で抱きついておいて良く言うよ」


「ごめんね……」


「パーティーとかでは令嬢と無理して踊るさ。立場があるからな。ヒサメにも、怪しまれないように徹底してる」


「そう……」


「だから気をつけろよ、菫。ホテルなんて行ったら君を抱くかもしれないぞ」


 そう言われても菫には紳士なコウキが無理やり抱くとは思えなかった。
 火輪に代わっていたら別だが。


「抱けたら良いですね、いつか、生身の女性を」


「……憐憫の目で見るな、小悪魔め」


 ビジネスホテルを1室借り、静かな部屋で菫は紅茶を淹れる。菫はコウキと対面になってテーブルの椅子に座った。


「紅茶、ありがとう。まず、何から話そうかな……」


 コウキが紅茶を飲んで一息つく。


「カルテの存在を菫がどう知ったか話してもらう前に……俺が話せばまどろっこしい説明をしなくて良くなると思う。まずは俺の話から聞いてもらえるかな」


「はい……もちろん」


 コウキは爽やかに笑う。背が高くひょろりとした彼は、立つと菫と30センチくらい身長が違うため、座っていてもわりと上を見なければならなかった。


☆続く☆
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