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第2章★新・白騎士団長審査会開始!★
第2話☆狂法師☆
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白騎士たちが1対1となって闘技場で戦っている。
5つのエリアに分け、それぞれ10人が戦っていた。
審判は現騎士団長。赤騎士団長リョウマ、緑騎士団長コウキ、黒騎士団長ゼンタ、橙騎士団長カルラ。
銀騎士団長の御雷槌は、倭国との和平交渉の地である空中楼閣から離れられず、今回は不参加となっていた。
そのため銀騎士団長の代わりか、もう1つのエリアには菫が審判員として立っている。
白騎士団に所属する希望者と外部からの希望者を募って、審査会を開催しているが、みんな屈強な肉体を持つものばかりなので、審判で戦いのエリアに佇む菫がやけに小さく見えた。
「あんな華奢な子、審判なんて出来るの?」
「誰なんだよ、きちんと判定するんだろうな」
「あんな戦いもわからないような女に、審判なんかさせるなよ、天満納言」
観客は上から見下ろすようにぐるりと一周しているため、上からのやじが良く聞こえる。
菫はエリア5を任せられていた。
さきほどから白騎士同士の剣のぶつかりあいで、砂埃が目に入ってしまう。
技の掛け合いのときは、風圧でエリア外に飛ばされそうになってしまった。
それでもなんとか判定をして、勝ち残った方の騎士の名前を用紙に記入していく。
リョウマやカルラが菫を気にしながら自分の仕事をしているのがわかって、足手まといになっていることを痛感した。
「よっしゃ、勝った!」
「くそ、負けた……」
勝敗が決まり、菫はすぐに倒れている剣士の方へ向かう。
「あなたの戦い方、とても良かったです。相手をなるべく傷つけないよう、直前で軌道を変えていましたね。多分本気でやったらあなたが勝っていたわよ」
「え……」
負けた剣士は、頬から出た血を拭ってくれた菫を見て、目を大きくさせた。
「おい、先に勝った方に行かなくていいのかよ。何で負けた俺の方に一直線に来るんだよ」
「別に構わないでしょ。わたしはあなたの優しい戦い方に感銘を受けたんですから」
クスッと笑い、菫は敬意を表するように負けた剣士にお辞儀をして、ようやく勝者へと向かう。
菫には、負けてしまう剣士の方がどうも魅力的に見えてしまう。
こういうところも、きっとダメな部分なんだろうな……と思いながら、次の対戦の審判へと続いた。
この剣術大会で、団長候補者の順位をポイント制で決める。1位から最下位まで、ポイントで決まる。
すでに他のエリアの対戦は終わっていたが、最後の1組の対戦だけまだ終わらなかった。
菫のいるエリア5の対戦が、なかなか終わらずに持久戦となっていたからだ。
他4つのエリアの戦いは終了し、候補者たちは明日の筆記試験に向けてすでに帰っていた。
「くそ……早く倒れろ!」
「……あーあ。弱い者ほど良く吠えるってね」
1人は現白騎士のようで、白騎士の鎧を着ていた。体格が良く、筋肉がすごかったため力で押し通すような戦いをしていた。
もう1人は一般参加のようで、ずいぶんとラフな服装をしていた。背が高く、剣はそれほど得意ではなさそうだが、かわし方がとても上手で、相手の体力を奪っていた。
持久戦ならば一般参加が勝ちそうだな、と菫は分析していた。
そして、一般参加が攻撃をかわす度に黄色い歓声が起こる。
菫は真剣に審判をしていたため、この歓声には気付かなかった。
「この……いい加減倒れろ!」
「お前がな」
攻防が激しくなり、菫は邪魔にならないようにエリアの端に移動する。
大きく飛びかかった現白騎士が、一般参加に剣を振るう。
金属音を立てて受け止めた一般参加が、反動で菫に向かって後ろ向きに倒れ込んできた。
「危ない!」
カルラの声が聞こえ、菫が受け身を取ったと同時に一般参加の剣士が菫に覆いかぶさるように倒れた。
大きな音を立てて菫も地面に倒れてしまう。
「菫!」
近くのエリアにいたリョウマとコウキの声が重なり、こちらに走ってくる。
「すみません! 大丈夫ですか?」
耳元で声が聞こえ、倒れながら目を開けると、一般参加の剣士が菫をかばうように抱き寄せながら心配そうに覗き込んでいた。
ぶつかるときも最小限の痛みだった。彼が護ってくれたのだろう。
「大丈夫です、こちらこそすみません。審査の邪魔をしてしまって……」
菫は男の綺麗な目と視線を交わす。
どんぐり眼の黒目に、黒髪が菫の頬をくすぐった。
浅黒い肌の色に、左の口元に黒子がある。
ふと気付くと、観客席から黄色い声が聞こえてくるのがわかった。
そこで初めて菫は気付く。ああそうか、女性たちが彼を応援している声か。
心配そうに菫を見つめる一般参加者の剣士は、整った綺麗な顔の若い男性だった。
その後の審判はリョウマに交代して、念の為菫は医務室に運ばれ、ベッドに寝ていることになった。
全身打ったということだったが、一般参加の剣士が抱きしめて護ってくれたため、全然体も痛くはなかったのだが、心配したリョウマに寝ているよう言い渡されたのだ。
独りで何もすることがなかったので、そっとセージが持ってきた剣矢の不倫写真を見ながら色々と考える。
しばらくして医務室の外から足音が聞こえた後、小さいノックも聞こえた。
「はい」
入って来たのは先程の一般参加者の剣士だった。
審査が終わったのだろう。
「すみませんでした。体は大丈夫ですか、痛いところはありませんか」
心配そうに菫に近付く彼は、確かにワタルのように目を引く外見をしていた。ワタルの代わりと言ってはなんだが、ワタルロスになっている天界国民のお嬢様たちの琴線に刺さりそうな、まるで彫刻のように美しい外見の男性だった。
「体は大丈夫です。こちらこそ対戦の邪魔をして申し訳ありませんでした。あの……」
結果を知りたかったが、自分をかばったせいで負けたらと考えたらなかなか聞けなかった。
「僕が勝ちました。お気遣い下さりありがとうございました」
菫の意図を汲み結果を教えてくれてから、はにかむように笑顔を見せた男性が、菫のベッドの横に腰掛ける。
さり気ない行動に、少し不思議に感じて男性を見上げる。
「勝ったのですか? おめでとうございます!」
「はい。菫さんのおかげです」
男性が人懐っこい笑顔を見せる。
「いえ、わたしは邪魔をしただけで……」
「いいえ。あなたがいたから僕は勝てました。申し遅れました、僕の名前は狂法師と言います」
「狂法師様?」
「はい。明日は筆記試験をするそうですね。明日も頑張ります」
「……騎士団長になるには何でも出来ないといけないのですね。大変……」
「あの、このご縁に、菫さんの身につけている物を下さいませんか。あなたの物を御守りにして、明日の試験に望みたいのです」
「え? わたしの物なんて、ご利益あるでしょうか……今までの半生、誇れるものなんて何もなくて……」
「菫さんが審判をしてくれたから勝てたんです。あなたの物が良いです。何でもいいんです」
「何があるかしら……」
菫は体を触りながらキョロキョロと探す。狂法師は菫の様子を見ながらクスッと笑った。
「なさそうですか?」
「そうですね……部屋に行けば何かはあると思いますが、今はないですね。明日お渡ししても良いですか?」
狂法師は菫の様子を見て頷く。
「もちろん。菫さんの物を身に着けていたら、白騎士団長になれる気がします」
「ふふ、何かの縁ですものね。わたしも狂法師様のこと、応援していますね」
「本当ですか? ありがとうございます」
顔を赤らめた狂法師が、菫の目を見つめてはにかむように笑う。
人懐っこくて可愛い人だな、と菫は自分より20センチくらい背の高い彼を見て釣られて笑った。
☆続く☆
5つのエリアに分け、それぞれ10人が戦っていた。
審判は現騎士団長。赤騎士団長リョウマ、緑騎士団長コウキ、黒騎士団長ゼンタ、橙騎士団長カルラ。
銀騎士団長の御雷槌は、倭国との和平交渉の地である空中楼閣から離れられず、今回は不参加となっていた。
そのため銀騎士団長の代わりか、もう1つのエリアには菫が審判員として立っている。
白騎士団に所属する希望者と外部からの希望者を募って、審査会を開催しているが、みんな屈強な肉体を持つものばかりなので、審判で戦いのエリアに佇む菫がやけに小さく見えた。
「あんな華奢な子、審判なんて出来るの?」
「誰なんだよ、きちんと判定するんだろうな」
「あんな戦いもわからないような女に、審判なんかさせるなよ、天満納言」
観客は上から見下ろすようにぐるりと一周しているため、上からのやじが良く聞こえる。
菫はエリア5を任せられていた。
さきほどから白騎士同士の剣のぶつかりあいで、砂埃が目に入ってしまう。
技の掛け合いのときは、風圧でエリア外に飛ばされそうになってしまった。
それでもなんとか判定をして、勝ち残った方の騎士の名前を用紙に記入していく。
リョウマやカルラが菫を気にしながら自分の仕事をしているのがわかって、足手まといになっていることを痛感した。
「よっしゃ、勝った!」
「くそ、負けた……」
勝敗が決まり、菫はすぐに倒れている剣士の方へ向かう。
「あなたの戦い方、とても良かったです。相手をなるべく傷つけないよう、直前で軌道を変えていましたね。多分本気でやったらあなたが勝っていたわよ」
「え……」
負けた剣士は、頬から出た血を拭ってくれた菫を見て、目を大きくさせた。
「おい、先に勝った方に行かなくていいのかよ。何で負けた俺の方に一直線に来るんだよ」
「別に構わないでしょ。わたしはあなたの優しい戦い方に感銘を受けたんですから」
クスッと笑い、菫は敬意を表するように負けた剣士にお辞儀をして、ようやく勝者へと向かう。
菫には、負けてしまう剣士の方がどうも魅力的に見えてしまう。
こういうところも、きっとダメな部分なんだろうな……と思いながら、次の対戦の審判へと続いた。
この剣術大会で、団長候補者の順位をポイント制で決める。1位から最下位まで、ポイントで決まる。
すでに他のエリアの対戦は終わっていたが、最後の1組の対戦だけまだ終わらなかった。
菫のいるエリア5の対戦が、なかなか終わらずに持久戦となっていたからだ。
他4つのエリアの戦いは終了し、候補者たちは明日の筆記試験に向けてすでに帰っていた。
「くそ……早く倒れろ!」
「……あーあ。弱い者ほど良く吠えるってね」
1人は現白騎士のようで、白騎士の鎧を着ていた。体格が良く、筋肉がすごかったため力で押し通すような戦いをしていた。
もう1人は一般参加のようで、ずいぶんとラフな服装をしていた。背が高く、剣はそれほど得意ではなさそうだが、かわし方がとても上手で、相手の体力を奪っていた。
持久戦ならば一般参加が勝ちそうだな、と菫は分析していた。
そして、一般参加が攻撃をかわす度に黄色い歓声が起こる。
菫は真剣に審判をしていたため、この歓声には気付かなかった。
「この……いい加減倒れろ!」
「お前がな」
攻防が激しくなり、菫は邪魔にならないようにエリアの端に移動する。
大きく飛びかかった現白騎士が、一般参加に剣を振るう。
金属音を立てて受け止めた一般参加が、反動で菫に向かって後ろ向きに倒れ込んできた。
「危ない!」
カルラの声が聞こえ、菫が受け身を取ったと同時に一般参加の剣士が菫に覆いかぶさるように倒れた。
大きな音を立てて菫も地面に倒れてしまう。
「菫!」
近くのエリアにいたリョウマとコウキの声が重なり、こちらに走ってくる。
「すみません! 大丈夫ですか?」
耳元で声が聞こえ、倒れながら目を開けると、一般参加の剣士が菫をかばうように抱き寄せながら心配そうに覗き込んでいた。
ぶつかるときも最小限の痛みだった。彼が護ってくれたのだろう。
「大丈夫です、こちらこそすみません。審査の邪魔をしてしまって……」
菫は男の綺麗な目と視線を交わす。
どんぐり眼の黒目に、黒髪が菫の頬をくすぐった。
浅黒い肌の色に、左の口元に黒子がある。
ふと気付くと、観客席から黄色い声が聞こえてくるのがわかった。
そこで初めて菫は気付く。ああそうか、女性たちが彼を応援している声か。
心配そうに菫を見つめる一般参加者の剣士は、整った綺麗な顔の若い男性だった。
その後の審判はリョウマに交代して、念の為菫は医務室に運ばれ、ベッドに寝ていることになった。
全身打ったということだったが、一般参加の剣士が抱きしめて護ってくれたため、全然体も痛くはなかったのだが、心配したリョウマに寝ているよう言い渡されたのだ。
独りで何もすることがなかったので、そっとセージが持ってきた剣矢の不倫写真を見ながら色々と考える。
しばらくして医務室の外から足音が聞こえた後、小さいノックも聞こえた。
「はい」
入って来たのは先程の一般参加者の剣士だった。
審査が終わったのだろう。
「すみませんでした。体は大丈夫ですか、痛いところはありませんか」
心配そうに菫に近付く彼は、確かにワタルのように目を引く外見をしていた。ワタルの代わりと言ってはなんだが、ワタルロスになっている天界国民のお嬢様たちの琴線に刺さりそうな、まるで彫刻のように美しい外見の男性だった。
「体は大丈夫です。こちらこそ対戦の邪魔をして申し訳ありませんでした。あの……」
結果を知りたかったが、自分をかばったせいで負けたらと考えたらなかなか聞けなかった。
「僕が勝ちました。お気遣い下さりありがとうございました」
菫の意図を汲み結果を教えてくれてから、はにかむように笑顔を見せた男性が、菫のベッドの横に腰掛ける。
さり気ない行動に、少し不思議に感じて男性を見上げる。
「勝ったのですか? おめでとうございます!」
「はい。菫さんのおかげです」
男性が人懐っこい笑顔を見せる。
「いえ、わたしは邪魔をしただけで……」
「いいえ。あなたがいたから僕は勝てました。申し遅れました、僕の名前は狂法師と言います」
「狂法師様?」
「はい。明日は筆記試験をするそうですね。明日も頑張ります」
「……騎士団長になるには何でも出来ないといけないのですね。大変……」
「あの、このご縁に、菫さんの身につけている物を下さいませんか。あなたの物を御守りにして、明日の試験に望みたいのです」
「え? わたしの物なんて、ご利益あるでしょうか……今までの半生、誇れるものなんて何もなくて……」
「菫さんが審判をしてくれたから勝てたんです。あなたの物が良いです。何でもいいんです」
「何があるかしら……」
菫は体を触りながらキョロキョロと探す。狂法師は菫の様子を見ながらクスッと笑った。
「なさそうですか?」
「そうですね……部屋に行けば何かはあると思いますが、今はないですね。明日お渡ししても良いですか?」
狂法師は菫の様子を見て頷く。
「もちろん。菫さんの物を身に着けていたら、白騎士団長になれる気がします」
「ふふ、何かの縁ですものね。わたしも狂法師様のこと、応援していますね」
「本当ですか? ありがとうございます」
顔を赤らめた狂法師が、菫の目を見つめてはにかむように笑う。
人懐っこくて可愛い人だな、と菫は自分より20センチくらい背の高い彼を見て釣られて笑った。
☆続く☆
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