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第1章★身を引く3人★

第7話☆告白☆

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「菫!」


 カルラが菫の部屋に入ってくる。菫は笑顔で受け入れた。


「菫、お疲れ様。天満納言の下で良く頑張ったな」


 カルラがニコニコしながら菫の頭を撫でた。


「うん。カルラ様も1日頑張りましたね。天満納言の仕事、思ったより楽しかったです」


「そうなんだ……それなら良かった」


 カルラが笑いながら言う。菫はそれを聞くと、大きく深呼吸をした。


「カルラ様、お茶淹れますから座って下さい。わたしね、あなたに隠していたことがあるんです」


「え、なに……」


 カルラは菫の部屋に入ると、緊張した面持ちの菫を抱き寄せた。


「待って、カルラ様はわたしに触れない方がいいです」


 カルラは一瞬目を見開くと、構わず菫を抱きしめる。


「待て待て、そんなこと言うなよ……俺は菫が全てなんだけど……俺の気持ち重かったか?」


 切ない視線を菫に向け、カルラはその後ギュッと力を込めて菫を抱きしめる。


「違うんです。あなたの気持ちはとても嬉しいんです。ただ、わたし……カルラ様が以前言っていた通り、吸血王と……あまり上手くいっていなかったんです」


 カルラは菫を抱きしめながら頷いた。カラムの町で、御剣と3人で話したあとの会話を思い出す。


 あのときは、仲悪かったのかもな、と何となく思っただけだったが、菫が今理由を話そうとしていると察する。


「……そのとき、言いづらいことは言わなくてもいいって言っただろ……」


「いえ、これを言わないとカルラ様が知らずに傷付くことになるんです」


 菫はカルラを押し戻そうとしたが、さらに抱きしめられた。


「……吸血王は、裕やワタルは倭国の将来を担う人材として、丁重に育てていました。表向きはわたしも同じように育てられました」


「うん」


 カルラは抱きしめながら頷く。


「吸血王は政界、経済界、貴族華族といった、世界で影響ある人物をできる限り自分の味方にしたがった。敵を作るのではなく、懐柔することで敵対勢力を押さえ込むことを好んでいました」


「そうなんだ……」


「そこでわたしが繋ぎ止める道具として使われました。玉座の間の裏の隠し部屋で、吸血王主催で権力者たちを一堂に集めた集会が開かれていました。ラウンジと呼ばれたそこで、わたしは権力者たちを相手に、服を脱ぎ裸になってみんなの前で踊っていました」


「……えっ?」


 カルラの驚いた声がしんと静まり返った部屋の空気を揺らした。菫は淡々と続ける。


「13歳の誕生日を迎えた当日から、権力者たちに裸を晒し、脱いだ下着を投げて、拾った者には当選と称して、その男のものを口や手で弄って果てるまで相手をさせられていました」


「……え……」


 カルラは体を離すと、目を見開いて菫を見る。


「わたしの体は将来政略結婚の道具になるから、傷は付けるなと吸血王が参加者に命令していました。だからわたし、処女だったでしょ」


 カルラは絶句して菫を見ていた。嘘を言っているようには思えなかった。


「わたしが当選者の体を触り、手や口を使って果てさせる。ラウンジは1回1億出したら参加できるの。毎回30人くらいはいたかしら。一晩で30億よ。そのお金、自分の大切なものに使ったらいいのにとずっと思っていました」


 呆然と聞いていたカルラの目から、大粒の涙が落ちてきた。


「……これは吸血王とわたしだけの秘密でしたから、裕やワタルは知らないの。このお金で、倭国皆さんの補償ができたから、まあ結果良かったのかもしれないけれど」


 カルラは深くため息をついて涙を拭った。


「……戦争の補償金はそこから出したのか」


「はい。13歳からほぼ毎晩……天界国が攻めてくるまでやっていましたから。吸血王が隠し財産としてラウンジの奥に隠していたのを使ったわ。わたしが稼いだんだもん。どう使ってもいいでしょ」


 カルラはしばらく涙を流して菫を抱きしめていた。菫はため息をつくとカルラから離れるように胸を押した。


「白薔薇様に、娼婦は無理と言って怯えているカルラ様を見て、申し訳なくて……あなたは知らずに娼婦を抱いてしまっていました……ごめんなさい」


 カルラの顔がサッと青ざめた。


「娼婦って……自分のことを言っているのか?」


 菫は迷いなく頷く。


「白薔薇様は数百人相手したと言っていましたが、わたしは数千人になるかもしれません。ごめんなさい、騙して」


 カルラは涙を拭うと首を振る。


「あの、なんか……娼婦は無理と言ったから……俺のせいで菫が苦しんでいるんだろ……」


 菫は首を振って笑顔を見せた。


「リョウマ様はこのことを知っていて、カルラには言え、あいつは菫のことを受け止めるからと……言って下さっていましたが、わたしがなかなか言えずに……本当にごめんなさい」


「え……なんでリョウマが……」


 菫が口を開こうとした途端、部屋がノックされた。2人はハッと顔を見合わせる。


「誰だろう……」


「リョウマじゃないのか?」


 カルラは抑揚のない声で言いながら、隠れるジェスチャーをすると、風呂場にそっと隠れた。


「はい」


「私だ。開けろ」


 天満納言の静かな声が響いた。菫は驚いてしまった。また何か仕事でミスをしてしまったのかと慌ててドアを開けた。


「天満納言様……どうなさいましたか?」


 右目に眼帯をした天満納言が、あいかわらずの無表情で、じっと菫を見て立っていた。


 士官塔まで来るということは、何か重大なミスでもしてしまっただろうか。
 菫は不安になって天満納言を見上げた。


「……明日の予定を言い忘れた。明日は白騎士団長を決めるための剣術大会がある。1時間ほど早く私の書斎に来い」


「はい、わかりました」


 急ぎの業務連絡だったようだ。菫は内心ほっとすると無言でいる天満納言を見上げた。


「天満納言様?」


「……」


 ふと天満納言は無言のまま紙袋を取り出して菫に手渡した。ほんのりと温かかった。


「えっ、あの……?」


「……食事を摂らなかっただろう。これを食え」


「……えっ、わざわざ持ってきて下さったの?」


 大きな目をさらに大きくして天満納言に聞く菫に、天満納言は首を振った。


「違う。明日の予定を伝えにきたついでだ」


「それでも嬉しい、ありがとうございます」


 すでに夕飯をとっていたが、菫は天満納言の気持ちが嬉しくて笑顔を見せた。


 仏頂面の天満納言が去ると、菫は急いで風呂場にのドアを開ける。


「カルラ様、カルラ様?」


 風呂場には誰もおらず、寝室の部屋の窓が開いており、カーテンが風に揺れていた。


☆続く☆
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