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第5章★黄金の林檎(改)★

第8話☆心から味方になって欲しい☆

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「カルラ、貴様その髪型どうした? いつもボサボサで寝癖で、目にかかるほどうっとうしいのに、今は男前に見えなくもない。まあルージュ様の婚約パーティーがあるから、さすがに髪を整えに行ったか」


 御剣の指摘に、カルラは恥ずかしそうに髪を両手で触った。


「う……いつもは自分で切ってたけど、さすがに今回は切りに行った。切りすぎたけどな……」


 菫はカルラを見て笑顔を見せた。


「カッコいいです、カルラ様。カルラ様の綺麗な目がよく見えます。眼鏡はかけないの?」


 菫の言葉に、カルラはさらに真っ赤になると、自信なさそうに下を向いた。


「……リョウマが……パーティーのときはかけないほうが見栄えするって……稲田一族を驚かせろって……少し裸眼の練習しろって……」


「リョウマ様が?」


 菫が驚いたように言うと、カルラは頷いた。


「俺も稲田一族なんだけどな……」


 御剣は興味深そうにカルラの話を聞いていた。


「リョウマ、俺を色んな店に連れて行って試着させたり、仕立ての良いスーツ買ってくれたり、靴や小物類を揃えてくれてなんか申し訳なかったな……俺、お洒落とか流行に疎いから……」


「ふふ、疎いというより、全然興味ないんでしょ。カルラ様は実験や研究をしているときが、1番いきいきした表情しますから」


 菫が笑いながら言うと、カルラは照れたように下を向いた。


「まあな……できれば独りで籠もって実験していたいよな……」


「だから根暗オタクと言われているんだ……貴様は」


 肩を竦めながら苦笑する御剣が、2人のやりとりを聞いて呟いた。


「俺、最後にきちんとパーティー出たの、サギリ様の誕生日パーティーは途中退場したから……多分ワタルの白騎士団長就任記念パーティーか、八雲の個人的な忌み子限定誕生日パーティーかどっちかだから……何年前だろ……やだな……」


「忌み子限定?」


 御剣が首を傾げたので、カルラは自分の出自をぽつぽつと語った。


「稲田一族……聞いたことがある。力の強い陰陽師一族で、外部の血筋を忌み嫌い、純血を好む陰陽師一族だと。倭国王族を太古から支えている名門一家だな。貴様そんな家の出だったのか」


「所詮忌み子だけどね。本家筋のマユラに子供ができなかったから、ろくでなしの八雲が外部に愛人を作りまくったんだよ。俺はその愛人3の子供の1人。稲田一族の長、フドウに認められているわけじゃない」


 御剣はマユラの名を聞いて目を丸くした。


「マユラ? まさか、月読教の広報にいたマユラのことか?」


「えっ?」


 菫とカルラが同時に声をあげて御剣を見た。


「子供ができないと随分悩んでいて、入信してきた。いつだったか……10年前にはなるだろうか。このままだと子が産めなくなる年齢になるからと、焦っていた」


「そうか、月読教は若返りの薬を開発していたもんな。月読教信者となり、黄金の林檎を、マユラも買っていたのか……子を成すために」


 カルラが言うと、菫は首を傾げながら考えを巡らせた。カルラもふと下を向いてブツブツ言い始めた。


「……フドウじゃないな……マユラに子ができたらマズい人物……」


「1人しかいないでしょ」


 菫がカルラを見上げて呟く。同じことを考えているようで、カルラも慎重に頷いた。


「分家のカヤだ。あいつは……八雲の正式な妾となり、センジュ、シデン、セイを産んだ。稲田一族分家の肩書きもあるし、マユラにこのまま子供ができなければ、自分の子供の誰かが跡取りになれる」


 カルラの言葉に菫も頷く。御剣は不思議そうに声を出した。


「しかし、黄金の林檎は不完全だ。良くあの化け物にならなかったな」


「お前が言うなよ……」


 カルラが呆れた顔で御剣に突っ込む。


「……わたしも……子供が出来ない体なんです。無月経で……だから、定期的に生理が来るよう、薬をもらっていたんです……」


 菫が2人を交互に見てゆっくりと話した。カルラはハッと硬直して菫に向き合う。


 あのときは自分のことしか考えておらず、菫の中に出すことで復讐を考えていた。


 つくづく失礼なことをしてしまったと、後悔の念が襲う。


 御剣は気遣いなのか、小さく菫に呟いた。


「言いづらいことは言わなくていいぞ」


「……いえ、言わせて下さい。わたしが天界国に潜入し、しばらく病院に行けない時期があったんです。でも、自然に生理が来ました。丁度月読教騒動が終わった後にきたと思います……」


「……」


 何か頭の中で考えながら話しているのだろうと察し、2人は黙って菫を見守った。


「生理を誘発する薬を飲まなくなった途端になぜか生理がきた。マユラ様の主治医はエイチ先生だと……シデン様が言っていました。もしマユラ様が婦人科でエイチ先生にかかっていたとしたら……わたしの主治医もエイチ先生なんです……」


「……まさか、子供ができない薬を処方されていた……?」


 御剣が驚いたように菫を見た。カルラも眉を潜めると、菫を心配そうに見つめる。


「いえ、子供ができない薬じゃなくて、生理を止める薬を、誘発剤だと偽って処方されていたんじゃないかな……わたしの希望的観測かもしれませんが……」



「……菫、エイチ先生に処方された薬、まだある? 成分、調べてみるから貸してくれるか?」


「あ、はい……」


 夢見術にかかり、退院する前に処方された薬を取り出すと、カルラに渡した。


 カルラはカプセル状の薬を見ると、懐に入れる。


「すぐ調べられるのか?」


「いやいや、まさか。ここから死の監獄近いから、すぐやろうと思えば出来るけど、結果でるの遅いし、明日はルージュ様の晴れ舞台だよ。わりと空気読まない俺でも、さすがにそれはわきまえるよ。パーティー終わったら死の監獄に行って調べてくる」


「そ、そうか」


 カルラの淀みない話し方に、御剣は少し圧倒されたように頷いた。


 今までオドオドしており、いじめられっ子気質だと思っていたカルラの思わぬ頭脳的な一面に、何か思うところがあるのだろう。


「仮にこの薬が続発性無月経薬だとしたら、考えられるのは、菫とマユラに妊娠して欲しくなかったからだと思うんだけど……ただの1医師が、王女や稲田一族女帝に個人的感情でするような仕打ちではない。糸を引いているやつは誰だろう」


 カルラの疑問に菫は沈黙する。
 御剣が静かに声を出した。


「倭国の伝統を断ち切りたい者……か?」


 菫は考えながら口を開いた。


「……エイチ先生を問い詰めるのは愚策ですね。証拠が足らない。カルラ様が調べて下さる薬の成分の結果次第でしょうが、わたしは……父とエイチ先生はグルだった可能性があると思います」


「えっ……? 吸血王がか?」


 御剣が驚いたように声を出した。


「わたしは能力がないので、無駄な子孫はいらない……ただ、人道的に強制不妊をさせると体裁が悪いから、不自然にならないよう薬を出して、わたしが妊娠しないよう、エイチ先生に言っていたんじゃないかな」


「……」


 カルラは吸血王のことを淡々と語る菫の横顔を観察していた。


「婚前交渉をあれだけ否定していた父ですからね。父は優秀な子の遺伝子は残したいけれど、わたしの子はいらなかったのね」


「えっ……」


 菫の言葉にギクリと硬直したカルラが、菫を見た。


「……まあ、考えても仕方ないですね。死人に口無し。御剣様、これ、倭国移住の当面の資金です。これで貧民街に住む倭国民を、よろしくお願いします」


 菫が頭を下げると、御剣に分厚い封筒を渡した。


「わかった。それは私に任せろ。菫のためなら私は何でもやるぞ。サギリと共に」


 御剣の言葉に、菫は感謝するように顔を赤らめながらお辞儀をした。


「ありがとう。わたしも、御剣様やサギリ様、国民のために、より良い倭国を作りたいです。倭国に行ったら、隠密部隊空組隊隊長のセージという者に色々聞いて下さい。あなたのことは話してあります」


「わかった、セージ殿だな。ありがとう、菫」


「ふふ、けんかしないでね。私の命令で、あなたを牢獄で縛り付けたんですから。セージ様は」


「あいつか……目つきの鋭い。まあ善処する」


 御剣は菫の元に来ると、抱きしめた。カルラが慌てて立ち上がる。


「み、御剣~! サギリ様に告げ口するからな~!」


 御剣は菫を抱きしめたまま、カルラを見てニヤリと笑った。


「いいじゃないか、別に。感謝のハグだ。不満なら後でまた消毒しろよ、不良根暗オタク」


 見せつけるようにさらに菫を抱きしめた御剣は、カルラのオロオロした様子を楽しそうに見てから、ゆっくりと菫から離れた。


「御剣様、からかわないで下さいよ。あなた結構いい性格してますよね」


「いや、あの変人が菫に対してこんなに取り乱すなんて、楽しくて。暗い顔でブツブツ独り言を呟きながらリョウマ様の屋敷にきていた頃は想像できない」


「もう……」


 小さな声で囁く御剣を不安そうに見ながら、カルラはオロオロしていたが、菫は御剣の胸を押して離れた。


「御剣様、わたしたちもう行きます。どうかお気を付けて」


「ああ、菫もな。また倭国で会おう」


 カルラはオドオドしながらも御剣の前に出てきた。


「あの……その……御剣……気をつけて。未だ隠れ里にいる倭国民は基本的に敵だと思えよ……倭国跡地にいる倭国民は全員菫の味方だから……そっちを頼るんだよ」


 心配そうに小さく呟いたカルラに、御剣は頷いた。


「わかった、ありがとうカルラ。それから……今まで陰険に嫌がらせをして申し訳なかった。許せないとは思うが、私はカルラを誤解していたようだ。貴様は周囲を良く見て動けるやつだ。すまなかった」


 カルラに向かって深く頭を下げた御剣に、カルラは慌てて首を振った。


「え……頭下げるなよ……これから菫の力になってくれたら、俺なんかのことはいいから……」


「カルラ……」


「御剣が思う以上に、菫に対する倭国での扱いは酷いんだよ。倭国よりも他国の方が菫を王女として敬うくらいだ。だから俺は……菫に味方を増やして欲しいんだ。どうか菫のこと……心から味方になって欲しい」


 深く誠実にお辞儀を返したカルラを、2人は見つめていた。


☆続く☆
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