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第4章★堕ちた王子★

第8話☆反乱分子☆

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「天界国側にはセイとルージュ様が婚約すること、周知されちゃったわけか」


 カルラが苦笑いしながら言うと、マユラが頷いた。


「そのはずよ。もうキャンセルは出来ません。セイはルージュさんと結婚させます」


 仕方ないのかもしれないが、強引に政略結婚をしてきた稲田一族の感覚では、普通なのかと菫はマユラを見て感じた。


「……うん、俺はいいけど。でもリョウマ義兄さんが納得していないみたい」


 セイがリョウマの顔色を見ながら呟く。


「当たり前だ! 菫を夢見術にかけるような犯罪者と、妹を結婚させられると思っているのか?」


「……すみません」


 セイがリョウマに頭を下げる。


「でも招待状出してしまったら、婚約パーティーは開催するしかないんじゃないの、体裁的に? あの、その……天界国側の参加者は誰かわかりますか?」


 カルラがマユラに聞いた。マユラは書類を取り出すと、場に広げる。


「天満納言、天界国騎士団長7名、親族、貴族、大臣。それから友人や仕事の取引相手と聞いているわ」


「うわ~。がっつり仕事関係固めてるじゃん……リョウマ~、もうキャンセルできないぞ、これ」


「ふ、ふざけるな……」


 みんなのやり取りを聞いていた菫は、ふと疑問を口にした。


「天満納言も呼んだの?」


「はい、そう書いてあります」


「……まずいですよ、それ。天満納言は、自分の目を潰した太一様に相当な恨みを持っています。天界国が誇る赤騎士団長の妹の婚約者が、自分の目を潰した張本人の腹違いの弟だと知ったら、また争いになってしまうんじゃ……」


「恐らく把握しているだろ」


 菫の言葉に、カルラが低く抑揚のない声で応えた。


「天満納言は太一も婚約パーティーに参加すると睨んでいるはず。戦争は終わり、敗戦国の民をさらに追い打つ卑怯な真似をしたら、天界国軍師としての面子が立たない。個人的な攻撃を仕掛ける可能性はあるけど、太一はパーティーに来ないなら、何もないと思う」


「指名手配されているのでしょう?」


 菫がリョウマを見て言うと、リョウマは頷いて菫に向かって口を開いた。


「まあな。円卓会議のときは、必ず狐仮面の男を生け捕りにしろ、で会議は終わる」


 それを聞いて菫は心配になった。


「太一様の血縁として、稲田一族の皆さんが天満納言に捕虜にされたりはしないでしょうか」


「それは大丈夫だ。天満納言はそういうことはしない。あくまで本人を狙うはずだ」


 リョウマが安心させるように菫に向かって力強く頷いた。


「天満納言は、体裁を非常に気にする男だ。卑怯なことはしたくてもできない」


 菫は天満納言に会ったこともないので、リョウマの言い分はいまいちピンとこなかった。


 しかし騎士団長が言うのだから、大丈夫なのだろうと頷いた。


「でも、私たち倭国追放されてしまったから、我々の方は参加者も減るかもしれませんわね」


 マユラが表情を曇らせる。


「それなら、大丈夫ですよ。裕が勝手に追放と言っているだけです。現在、倭国跡地を復興中です。稲田一族のみなさんは、そちらに住んで下さい。一応まだ王女の肩書きはあるので、そこを倭国にしてしまえばいい。わたしは皆さんを追放していませんし」


「菫様!」


 マユラが身を乗り出して菫の名を呼ぶ。分家3人の子供も目を丸くして菫を見た。


「今まで通り、倭国に住んで良いのですか?」


「当たり前です。敷地面積や隣地境界線などは、法務局地下倉庫に厳重に保管してもらっていました。もし、稲田一族の方が、わたしの作る倭国で良いと言って下さるなら、是非」


「菫様……! すみませんでした、色々な嫌味言ったり、嫌がらせをして……」


 マユラが謝ると、分家たちも続いた。


「むりやりキスしてすみませんでした」


「足を引っ掛けて転ばせてすみませんでした」


「おしめした方がいいって言ってごめんね」


「……は?」


 リョウマはセンジュに、菫はセイに対して向き合い、顔を真っ赤にした。


「……大丈夫なのか、菫? 勝手にそんなことして。裕や王党派に、謀反とか、革命軍とか、反乱分子と大義名分を与えてしまうんじゃ……」


 カルラが心配そうに菫に言う。菫はニコニコ笑いながらカルラに言う。


「うふふ、大丈夫大丈夫。どちらが反乱分子か決めるのは曖昧なことです。裕が天界国に挙兵するのは、人材を集めてからと言っていました。まだ猶予があると考えましょう」


「菫……相変わらずざっくりだな……」


 カルラがクスッと笑いながら言う。呆れているというよりは、好意的な笑いだった。


「菫様、私達は倭国跡地に引っ越して大丈夫ですの?」


「もちろん。隠密部隊に報告済です。セージ様かクラリ様に聞いて下さい。マユラ様たちの特徴を伝えているので、向こうから話しかけてきます」


 菫は少し考え、マユラとセイを見た。


「夢見術で謀った罪で、セイ様とマユラ様は相応の罰を受けてもらいますが、でき得る範囲にしますので、安心して下さい」


「はい……わかりました」


「姫様、ありがとう」


 菫はマユラとセイに向かって微笑む。


「招待状を出してしまったなら、とにかくパーティーは開くしかないですね。婚約披露パーティーなのだから、その後結婚せず別れることだってありますよ。どう転んでも平気平気」


 菫の笑顔に、センジュが舌打ちをする。


「呑気な穀潰しだな……」


「何だと、クソ長男」


 リョウマがセンジュを睨みつけた。


「裕は当主を太一様に決めたようですが、八雲様のもう1つの遺言状に何が書かれているかわかりません。何があっても対応できるよう、引き続き八雲様の課題には取り組んで下さい」


「あ、ありがとうございます……菫様!」


 マユラの声に、菫はニコッと笑った。


「まずはパーティーの準備ですね。わたしリョウマ様のパートナーになるの、初めてだわ。楽しみです」
 

 菫がウキウキと言う。


 それを聞いたマユラが驚きの声を上げた。


「待って菫様、あなたリョウマさんのパートナーとして、セイとルージュさんの婚約パーティーに出るつもりなんですか?」


「そうですけれど……」


 マユラが呆れた声を出した。3人もため息をついて菫を呆れたような目で見た。


「わたし、倭国ではお面着けていたし、素顔を知っている人は倭国幹部の方くらいですから、普通に素顔でいても気付かれませんよ……鋭い方以外……」
 
 菫はチラリとカルラを横目で見て言った。


「そういうことではなくて、何故わざわざリョウマさんのパートナーとして出たがるの、と聞いているんです」


 マユラの強い口調に、菫は肩を竦めた。


「いいじゃないですか。わたしだってルージュ様のお祝いしたいもん」


「この……わがまま王女が……」


「おい、クソ長男。口を慎め。俺の意向だぞ」


 センジュとリョウマのやりとりを見て、マユラが深くため息をついてから口を開いた。


「ふざけないで下さい! ただの女中として出るつもりでしょう? パーティーの格を落とさないで下さい!」


「何よ、じゃあ倭国王女として出てもいいですけど。お面つけて」


 菫が口をとがらせると、その場にいた全員が「それはダメ!」と一斉に合唱した。


「えっ、気が合いすぎじゃない、皆さん……?」


「死んだことになってるでしょう、姫様は」


「リョウマ様のパートナーが女中だから、反対しているの?」


「当たり前です。格が下過ぎます」


 マユラ以下分家3人が深く何度も頷いた。


 菫はパーティーに参加するときは、家柄の格が1番上だったため、パートナーの家柄を揃えることには詳しくなかった。


「とにかく、菫様はパーティーに出ないで下さい!」


「何よ、お祝いしたいのに」


 リョウマは腕を組んでマユラを斜め上から見下ろした。


「婚約すら反対なのに、俺のパートナーまで管理しようとするのか? 俺の意思は無視か」


 マユラはリョウマを見据える。


「リョウマさんは、格式や家柄をとても大事にしている方と伺っていました。女中なんかパーティーに誘ったことないのでは? 周りから怪しまれますよ」


 キラリとマユラの目が光った。すかさずカルラが猫背のまま、肩を震わせて笑い出した。


「ヒヒっ、かわいそうな菫。お祝いさせてあげればいいのに~」


「変人は黙ってて! 関係ないくせに口出しをしないでちょうだい」


「ヒッ……すみません……」


「怯むなカルラ」


 リョウマが腕を組み直しながらカルラを援護したため、カルラは少し勇気が湧いてきたようだった。


「こんなにお祝いしたがってる姫様を無碍に扱うなんて、ひどいな~。俺が一緒に姫様とパーティー出ちゃおうかな~? ヒヒヒっ」


「は? 何言ってんだ、このホクロ眼鏡。寝言は寝て言え」


「ひっ……」


「愛人の子など、穢らわしくてパーティーに呼ぶわけがないだろう、勘違いも甚だしい、不義のオタク眼鏡が」


「お、オタク眼鏡……」


「頭おかしいんじゃない。変な笑い方だし……常識知らないんだ。日陰者なんてパーティーに呼ぶわけないじゃん。バカだね、根暗眼鏡は」


「ね、根暗眼鏡……」


「変人眼鏡には招待状など出していないわよ。稲田一族とはいえ、不義の子など参加することすら許していないわ。わきまえることね、愛人の子」


「変人……眼鏡……」


 カルラは稲田一族からの集中砲火に、ガクッと肩を落とした。


「ひ、ひどい言われよう……ヘコむな~……」


「そうかお前ら……知らないのか」


 リョウマがフン、と鼻を鳴らして笑った。
 

「これはいい! 戦争を嘆くだけで、被害者のまま時を過ごしたお前ら稲田一族は、パーティーで後悔することになるぞ。ククッ、当日を楽しみにしている! 行くぞ、カルラ、菫」


 リョウマが勝ち誇ったように笑うと、2人を連れて立ち上がった。


「菫様、いいですね? リョウマさんと一緒には出ないで下さいよ!」


 マユラは菫に念を押すと、引っ越しの準備をするからと立ち上がった。

☆続く☆ 
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