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第2章★呪詛返し★

第10話☆お兄様に会いに☆

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 リョウマは髪を乾かしながらソファに座り、菫とカルラを見た。


 ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。


「待たせてすまない。ところで、それぞれ課題を持っていくとのことだが、カルラは課題はいいのか? 水竜殺しだろう? あのとき飲まなければ良かったな……」


「そ、そうなんだよリョウマ~! 覆水盆に返らず~!」


「ふふ」


 リョウマに縋り付くカルラが面白く見えて、思わず菫は笑ってしまった。


「カルラは、当主になりたいのだろう? そうすれば菫様を堂々と隣で護れるからな」


「うん……まあ……」


「ならば、呪詛をかけた犯人探しは菫様にお願いすればいい。俺は菫様の護衛をする。カルラはなんとしても水竜殺しと9人目の息子を探し出せ」


 リョウマの力強い声に、カルラは迷うように視線を落とした。


「もういいんだ。太一が眠っているのに、出し抜くように課題をやるのは何か違う気がするし……」


 リョウマはそれを聞いてカルラの肩を強く叩いた。バン、と大きな音が響いて、カルラがビクッと身をすくめる。


「いてて~。何するんだよ、リョウマ~」


「お前は人が良すぎるんだ! いいか、行動しなければ護りたい人も護れない状況になるぞ。とりあえず課題を集めろ。集めた上で当主争いに参加するか決めればいいんだ!」


 リョウマの腹から出したような力強い声に、カルラはハッとリョウマを見た。


「そんなに気にするなら、太一とやらの課題もこなし、持って行ってやればいい。そして太一が目覚めたとき、太一の課題を渡してニヤリと笑ってやれ」


「リョウマ……」


「他の候補者が当主になったら、そいつが菫様の隣に立つのだろう? お前はそれでいいのか?」


「……」


 カルラはリョウマの言葉に拳を握りしめた。


「菫様を護るんだろ、しっかりしろ。目標を見誤るな!」


「そうだな……ありがとうリョウマ……」


 菫は黙って2人の会話を聞いていたが、やがてリョウマを見て目を細めた。


「リョウマ様、あなたの考え素敵ですね」


「え?」


 リョウマは思いがけず菫から声がかけられ、顔を赤らめた。カルラも頷く。


「リョウマ、ごめん、そんなこと言わせて。菫を護りたいのはリョウマだって同じなのに。情けないな……俺は……」


 リョウマはふとカルラを見て偉そうに笑った。


「フッ。将来、俺と菫様が結婚するかもしれないからな。そのとき菫様をお護りしているのがカルラなら、菫様を横恋慕されなくて安心だ」


「り、リョウマ~……」


 3人は朗らかに笑うと、ひとしきり楽しく雑談を始めた。


 菫は2人を見ながらじっと下を見ると、自分の親指に刻まれた『太一』と書かれた悪魔の刻印を確認し、そっとため息をついた。


 雑談している中でカルラの気持ちも固まったようだ。


「俺、課題を集めてくる。課題は1人でやらないと意味がないから、2人は呪詛をかけた犯人の方を頼む」


「ああ、任せておけ」


 リョウマは頼もしく頷いた。


「カルラ様。課題は1家庭で出されたものです。カオス様と一緒にこなしても大丈夫だと思いますよ」


 菫の言葉にカルラは首を振る。


「カオスは巻き込まない。あいつは菫や俺のこととなると無茶をする傾向があるんだ」


「そうですか、わかりました」


 兄としてのカルラの優しさに、菫は温かな気持ちになって頷いた。


 そのとき、美しい音色が聞こえた。菫とカルラはビクッと体を硬直させる。


「ん? 来客のようだ。少し待っていてくれ」


「えっ、今の来客のベル? 素敵な音色ですね……」


「今まで和風家屋にいたから、ちょっとびっくりしたよな……」


 菫とカルラが驚きながら会話をしていると、ドタバタと大きな音が聞こえて、足音が近付いてきた。2人は顔を見合わせて構えるように背筋を伸ばした。


「もう嫌! 私ここに泊めてもらうから! お願い、お兄さ……ま……」


 ノックもせずに勢いよく綺麗な洋服を着たルージュが入ってきて、菫たちを見ると動きを止めた。


「……え? あなたたち……」


 ルージュが固まって眉を潜めた。念のため和服で来ないで、カルラ共々洋装にして正解だったと菫は安堵した。


「ルージュ! 今来客中と言っただろう……」


 リョウマが困ったようにルージュを追いかけてきた。


 カルラがビクビクしながら腰を浮かせ、ルージュから離れようとしていた。


「まあ、カルラ様! と、お兄様の夜伽相手!」 


「違う、やめろルージュ……」


 リョウマはカルラを気にしながら呟いた。


「え、夜伽……?」


「カルラ様! またそんな野暮ったい眼鏡をかけて! 外しなさいといつも言ってるでしょう」


 ルージュはカツカツとカルラの側に歩いてきて、眼鏡を外してしまった。


「る、ルージュ様~、やめて下さいよ~。眼鏡を返して下さいよ~」


 カルラが楽しそうに部屋の中を逃げ回るルージュを追いかけて、眼鏡を取り返そうとしていた。


「いやよ! あなたは眼鏡をしないとハンサムなのよ。社交界で女性たちがあなたを見向きもしないのは何だか癪だわ! こんな眼鏡外してしまいなさい」


「うわ~返して下さいよ~ルージュ様~」


 部屋の中をぐるぐる回る2人に、菫はリョウマを見て口を開いた。


「ルージュ様……お元気そうで良かった……」


「……ああ、非常に元気そうだな……」


 リョウマは菫を見て頷いたあと、追いかけっこをしている2人を眺め、ため息をついて菫の隣に座った。


 しばらくしてルージュから眼鏡を取り戻したカルラが、息を切らせながらソファに座った。


「……なに楽しそうなことをしているんだ、カルラ」


「いやいや……見てないで助けてよ、リョウマ……」


 ルージュが髪を整えてカルラの隣に座る。


「もう、お兄様ったら毎日お留守にしているんですもの。やっとお会いできたわ」


 そういえばリョウマは鉱山発掘で、月影鉱山の事務所で寝泊まりすることが多かったようなので、天界国の屋敷にはあまり戻っていなかったのだろう。


「どうしたのだ、ルージュ? 父上たちに何かあったのか?」


「ないわよ。いつも通りお金にしか興味がないもの」


「そう……か……」


「何かあったのは私です。私を後継者にするため、色々なパーティーに出席させられて……挙句の果てに婚約させられたの。私、ワタル様じゃないとイヤ!」


「へ~……」


 菫とカルラが同時に声を上げたからか、ルージュは菫を睨みつけた。


「婚約? そうか、ルージュももうそんな年になったのだな……」


 リョウマが感慨深げに腕を組んで頷いたからか、ルージュが頬を膨らませて隣に座るカルラに甘えるように腕を絡めた。


「カルラ様、お兄様が助けてくれないの……カルラ様、お父様たちを説得して、婚約破棄させて下さらない?」


「え、俺? え、無理ですよ~。俺貴族じゃないですもん」


「カルラ様!」


「ひっ……」


 ルージュに怒鳴られて、カルラはビクッと体が跳ねた。


「じゃあ、私の恋人の振りをして、婚約者に断りを入れて頂戴!」


「ひっ……むり、無理です~。俺押しが弱いのご存知でしょう?」


「カルラ様、私が人妻になってもいいの?」


「いいじゃないですか……」


「カルラ様!」


 2人のやり取りを、リョウマがニヤニヤしながら見ており、菫も初めは驚いていたが、途中からお茶を飲みながら、落ち着いた雰囲気で眺めていた。


「る、ルージュ様。どんな男なの、その婚約者って?」


 カルラの声に、ルージュは頬を膨らませて答えた。


「セイって冴えない男よ。ぼーっとしていて、何を考えているかわからない不細工!」


「えっ?」


 思わずカルラと菫が同時に声を上げ、2人は顔を見合わせていた。


☆終わり☆
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