上 下
15 / 106
第1章★閑話★

2☆鏡の国のカルラ☆

しおりを挟む
ワタル「菫、菫!」

菫「……うーん」

ワタル「起きろ。うなされながら涙流して寝てるんじゃねーよ」

菫「……えっ、なに? 朝?」

ワタル「まだ夜中だよ。ちょっと、匿ってくれ。カボシがおれを探してるらしいんだ」

菫「なんで?」

ワタル「今日パーティーあっただろ。あの王女様、飲みすぎて酔っ払いながらおれと一緒に寝ると言い張ってるらしい」

菫「寝てあげなよ」

ワタル「おい! 敵国の王女となんて嫌だよ!」

菫「わたし眠いんですけど……明日隠れ里に出発だし」

ワタル「泣きながら寝て疲れ取れるわけねーだろ。ほら、涙拭け」

菫「うん、ありがとう」

ワタル「菫の部屋にいさせてもらうぜ。ここなら誰もこないだろ」

菫「いいですけど、わたし寝るからね。ヒサメ様のところに行った方がいいよ……」

ワタル「おい、寝るな!」

菫「わたしそのパーティーの準備で疲れたの……おやすみ……」

カルラ『……ワタル、大丈夫?』

ワタル「うわあああ! びっくりした! どこから声が聞こえるんだよ!」

カルラ『ここだよ~』

ワタル「雷電の鏡? 何で繋げてあるんだ?」

カルラ『菫、いつもうなされて涙流して寝るから、心配で』

ワタル「……毎日?」

カルラ『う、うん……ごめん』

ワタル「ふーん、なるほど。隅に置けないよなー、カルラって」

カルラ『ごめんなさい』

ワタル「お前はいいよな。研究してるからパーティー不参加を許されてるなんて」

カルラ『……嫌だよ』

ワタル「ん? パーティー好きだった?」

カルラ『嫌い。でも天界城にいれば菫に会えるだろ……』

ワタル「!」

カルラ『涙を拭いてあげられる……ワタルがきてくれて良かった……』

ワタル「死の監獄の方がいいじゃん。カボシもこないし。代わって欲しいくらいだ」

カルラ『死の監獄、前は気楽でいいと思ってたけど、菫に出会ってからは天界城に行きたくてたまらない』

ワタル「カルラって……普通のヤツだったんだな」

カルラ『え?』

ワタル「いや、うつむいてブツブツ独り言言うし、笑い方もおかしいし、オドオドしてるし、気味悪いヤツだと思ってたけど」

カルラ『う……』

ワタル「普通の感覚を持った、普通の男だったんだな」

カルラ『……そう?』

ワタル「ああ」

カルラ『俺、菫のことたくさん傷つけたからな……ひどいこと言ったし、ひどいこともした』

ワタル「ふうん?」

カルラ『多分俺が世界で1番菫を傷付けた。こんなに優しい人の心を抉った』

ワタル「……」

カルラ『もう2度としない。菫の心を護れる存在になりたい』

ワタル「それってさ……」

カルラ『え?』

ワタル「菫を好きなんじゃなくて、罪悪感に基づいて行動してねえか?」

カルラ『え?』

ワタル「だったらやめてやれ、菫に失礼だ。心も体も時間が経てば癒える。お前の優しさに触れ、菫は充分癒やされただろう。カルラにも幸せになる権利がある」

カルラ『……』

ワタル「もういいよ、カルラ。菫はもう大丈夫。カルラは本当に好きなヤツと一緒になれよ。罪悪感に基づく行動は、菫はすぐ気付くぜ。あいつは感情の機微に聡いからな」

カルラ『ワタル様……俺じゃ、菫様には分不相応ですか』

ワタル「え? そうじゃなくて……」

カルラ『俺、出会う前から菫に憧れてたから……』

ワタル(ん? どういうことだ?)

カルラ『妹が菫の専属侍女だったから、妹からたくさん菫の話を聞いてきた。俺が11歳のときから、ずっと』

ワタル(ああ、そんなこと言ってたな、記憶操作されたとき朦朧としながら。本当のことだったのか)

カルラ『顔なんて知らなかったよ、死の監獄にきた菫を見るまで。19歳の今まで』

ワタル(19歳?)

ワタル「お前31歳じゃなかったか?」

カルラ『う……ごめん……年齢詐称してました……』

ワタル(……なんで?)

カルラ『菫は俺の世界で1番大好きな人なんだ。罪悪感なんて……言わないで欲しい』

ワタル「……ああ、悪かった」

カルラ『ワタルが1番良く知ってるだろ、菫を。幸せになってほしいんだ。俺が幸せにできないなら、気持ちの優しい人と結婚して欲しい……』

ワタル(わかる)

カルラ『俺じゃなくてもいい、菫が幸せになればそれでいい』

ワタル(わかるよ、カルラ……)

ワタル「随分献身的じゃねーか。わかったよ。変なこと言って悪かったな」

カルラ『うん……良かった』

ワタル「でも、もうお前も寝ろよ。菫の泣く姿見ながらじゃ、カルラも毎日眠れてないんだろ、心配で」

カルラ『俺なんか別にいいんだけど……』

ワタル「今日はおれがカルラの代わりに菫を見ててやるから、お前もたまにはゆっくり寝ろよ」

カルラ『え?』

ワタル「いつもありがとう」

カルラ『! わ、ワタル……』

ワタル「おれの大事な姉を、大切に思ってくれてありがとう。カルラがいれば、おれも安心して菫を任せておける」

カルラ『い、いえ……もったいないお言葉です……』

ワタル「おやすみ、カルラ。また明日から菫を頼む」

カルラ『うん……任せて。おやすみ、ワタル』

ワタル「ああ、おやすみ」


ワタル「……鏡、閉じたけど」

菫「……なんて話をしているのよ」

ワタル「顔、ニヤニヤしてるけど」

菫「焚き付けるのはやめてよ」

ワタル「嬉しいくせに」

菫「……」

ワタル「良かったな、涙止まって」

菫「そうね……」

ワタル「というわけで、今夜はここに泊めろよ」

菫「わかりましたよ、一緒に寝ようか」

ワタル「よし、あー良かった良かった。カボシから逃げられた」

終わり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

1.戦災の魔界姫は正体を隠し敵国騎士の愛人候補になる1 ★月読教改革編★

喧騒の花婿
恋愛
魔界にある倭国は、 敵国の天界国に戦で負けてしまう。 倭国の竜神女王は天界国の捕虜となり 高い茨の塔に幽閉されていた。 そして戦で崩御されたと思われている 菫王女は兄弟たちと別れ 敵国である天界国に潜入し 母親を救うため士官として その機会を伺うことになる…… これは始まりの話です。 ★1・月読教改革編★は6章で終わります。 ★2・陰陽師当主編★に続きます。 ★IF番外編√は 本筋以外の騎士と恋愛したら という、もしも√を書いています。 本編とは異なる設定ですので、 ご了承下さる方はお気を付けて 読んで下さると幸いです。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...