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FILE3『無自覚と功罪』
7・愛$倶楽部
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「さて、大谷くん。歩きながら話を聞こうか」
ぼくは仙石と並んで歩きながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「今月の新聞倶楽部の会報は、お菓子工場の特集だった。山岡の書いた記事は、お菓子は美味しかったが、不衛生だったのが気になった』と、味ではなく衛生面に焦点を当てて書いている、否定的な記事だったんだ」
「ああ、そのようだね」
「そのお菓子工場って、うちのクラスの結城ってやつの父ちゃんが個人経営している煎餅屋さんだったんだよ。クラスで飼っているハムスターに自前の煎餅やってて、委員長に怒鳴られているのを見たから、ちょっと気になってそいつの住所調べてみたらビンゴ。結城煎餅屋っていう、新聞倶楽部で取材していた煎餅屋さんだった」
仙石は、ぼくの声を聞きながらだんだんこちらに近づいてきた。興奮しているのはわかるが、ぼくは廊下の端に肩をぶつけてしまった。
「では、結城さんが山岡さんの記事に激高し、修学旅行費を隠すという嫌がらせをしたということか……」
「おれはそう見ている。親がやっている稼業を貶されたら、おれも怒る。でも証拠がないから、何とも言えない。本人に聞き出すくらいしか……」
「よし、やろうじゃないか!」
仙石は大きな声で言ってぼくを見下ろした。発見したのは、自分より背が高い人が興奮している状態で見下ろされると、迫力があるということだった。ぼくもぼくより小さな人に接するときは気を付けようと戒めた。
「もしかしたら倶楽部でまだ校内にいるかもしれない。大谷くん、彼女の倶楽部は何だい?」
「さあ? クラスの奴らの名前すらまだ憶えていないのに、個人の倶楽部なんて知ってるわけがないだろ」
「では、一旦六年一組に戻ろう。うちのクラスは、教卓に倶楽部一覧表が張ってあるのだよ。恐らく一組にもあるだろう」
ぼくたちは走って教室に戻り、教卓を見た。確かに一覧表が張ってある。結城 沙奈、『愛$倶楽部』と書いてある。
「何て読むんだ?」
「アイドル倶楽部だ。これはラッキーだ、金曜日活動しているじゃないか」
「何アイドル倶楽部って?」
ぼくが素っ頓狂な声を上げてしまったが、仙石は「ああ、まあ……」と説明しづらそうに少し遠い目をして頷いた。
「好きな芸能人の雑誌やCMなどを見て、盛り上がる倶楽部のことだよ。新聞倶楽部のように、月に一度芸能人の会報を出している」
「……そんな倶楽部あっていいの?」
「猪ヶ岳小学校の倶楽部は、作りたいと思った人と、部員が一人、合計二名いれば倶楽部として成り立つようになっているんだ。とにかく乱立しているので、無理やり統合してしまう倶楽部もあるよ。顧問の先生が足りない事態になっちゃったからね。確かアイドル倶楽部も、演劇倶楽部と統合したんじゃなかったか。その代わり、我が探偵倶楽部にも言えることだけれど創設者が卒業してしまえば、次が入らず不人気の倶楽部は自然と淘汰される。過去には、裸足で校庭を歩こう倶楽部とか、キューピッド倶楽部とか、未確認飛行物体と交信したいよ倶楽部とか、失笑してしまうようなものもあったそうだが、もれなく潰れていったらしいよ」
自分たちで考えて作って良いのなら、ぼくも親を正規採用させよう倶楽部とか作りかった、とふと思ったが、賛同者がいないだろうと気付き諦めた。
「その、探偵倶楽部は仙石と司の二名だけで潰れないのか?」
「そこはまあ……これからに期待ということで。私も今年作った創設者だから、来年までに五人くらいは入って欲しいと願っているのだがね」
ちょっと難しいだろうな、とぼくは心の中で呟いた。
7.続く
ぼくは仙石と並んで歩きながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「今月の新聞倶楽部の会報は、お菓子工場の特集だった。山岡の書いた記事は、お菓子は美味しかったが、不衛生だったのが気になった』と、味ではなく衛生面に焦点を当てて書いている、否定的な記事だったんだ」
「ああ、そのようだね」
「そのお菓子工場って、うちのクラスの結城ってやつの父ちゃんが個人経営している煎餅屋さんだったんだよ。クラスで飼っているハムスターに自前の煎餅やってて、委員長に怒鳴られているのを見たから、ちょっと気になってそいつの住所調べてみたらビンゴ。結城煎餅屋っていう、新聞倶楽部で取材していた煎餅屋さんだった」
仙石は、ぼくの声を聞きながらだんだんこちらに近づいてきた。興奮しているのはわかるが、ぼくは廊下の端に肩をぶつけてしまった。
「では、結城さんが山岡さんの記事に激高し、修学旅行費を隠すという嫌がらせをしたということか……」
「おれはそう見ている。親がやっている稼業を貶されたら、おれも怒る。でも証拠がないから、何とも言えない。本人に聞き出すくらいしか……」
「よし、やろうじゃないか!」
仙石は大きな声で言ってぼくを見下ろした。発見したのは、自分より背が高い人が興奮している状態で見下ろされると、迫力があるということだった。ぼくもぼくより小さな人に接するときは気を付けようと戒めた。
「もしかしたら倶楽部でまだ校内にいるかもしれない。大谷くん、彼女の倶楽部は何だい?」
「さあ? クラスの奴らの名前すらまだ憶えていないのに、個人の倶楽部なんて知ってるわけがないだろ」
「では、一旦六年一組に戻ろう。うちのクラスは、教卓に倶楽部一覧表が張ってあるのだよ。恐らく一組にもあるだろう」
ぼくたちは走って教室に戻り、教卓を見た。確かに一覧表が張ってある。結城 沙奈、『愛$倶楽部』と書いてある。
「何て読むんだ?」
「アイドル倶楽部だ。これはラッキーだ、金曜日活動しているじゃないか」
「何アイドル倶楽部って?」
ぼくが素っ頓狂な声を上げてしまったが、仙石は「ああ、まあ……」と説明しづらそうに少し遠い目をして頷いた。
「好きな芸能人の雑誌やCMなどを見て、盛り上がる倶楽部のことだよ。新聞倶楽部のように、月に一度芸能人の会報を出している」
「……そんな倶楽部あっていいの?」
「猪ヶ岳小学校の倶楽部は、作りたいと思った人と、部員が一人、合計二名いれば倶楽部として成り立つようになっているんだ。とにかく乱立しているので、無理やり統合してしまう倶楽部もあるよ。顧問の先生が足りない事態になっちゃったからね。確かアイドル倶楽部も、演劇倶楽部と統合したんじゃなかったか。その代わり、我が探偵倶楽部にも言えることだけれど創設者が卒業してしまえば、次が入らず不人気の倶楽部は自然と淘汰される。過去には、裸足で校庭を歩こう倶楽部とか、キューピッド倶楽部とか、未確認飛行物体と交信したいよ倶楽部とか、失笑してしまうようなものもあったそうだが、もれなく潰れていったらしいよ」
自分たちで考えて作って良いのなら、ぼくも親を正規採用させよう倶楽部とか作りかった、とふと思ったが、賛同者がいないだろうと気付き諦めた。
「その、探偵倶楽部は仙石と司の二名だけで潰れないのか?」
「そこはまあ……これからに期待ということで。私も今年作った創設者だから、来年までに五人くらいは入って欲しいと願っているのだがね」
ちょっと難しいだろうな、とぼくは心の中で呟いた。
7.続く
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