夢幻の花

喧騒の花婿

文字の大きさ
上 下
25 / 41
FILE3『無自覚と功罪』

4・新聞倶楽部

しおりを挟む
 次の日から、ぼくは教室で山岡ウォッチャーとなり、かなりの頻度で彼女の観察をしてみることとなった。


 わかったことと言えば、いつも猪俣 亜紀という生徒と一緒に行動しているということだ。
 山岡がいつもふわふわした長いスカートをはいてくるのに対して、猪俣はわりと活発なようで、ホットパンツやジーパンをはいているような、元気な女子だった。しかし、最近は休み時間になると、二人で静かに本を広げて読んでいるようだった。


 ちらりと見てみたところ、清正 醍醐の本だった。またここでもこの名前が出てくるとは、何だろうか。最近流行っているのだろうか。小難しそうな文庫本の装飾を見ただけで、ぼくは逃げ出したくなるというのに、女子の皆さんは大したものだ。
 頬杖を付いてぼんやりとその光景を眺めていたら、ふいに後ろから声をかけられた。



「あら、大谷。山岡さんがどうかしたの?」


 この凛とした声は、高田だろう。振り返ってみると、銀縁の眼鏡を光らせてこちらに近づいてきていた。二つに結わいた黒髪がさらりと前方へ落ちてきた。


「別にどうもしないけど」


「嘘が下手ね。ずっと見ていたじゃない。あなたもああいうタイプが気になるの?」


「ああいうタイプ?」


 ここはいいネタが聞けそうだと思い、ぼくは首を傾げてとぼけるふりをしてみた。


「可愛らしくて、ふわふわした洋服を着た、女の子らしい子よ」


「高田から見て、山岡はそういうイメージなの?」


 高田はその質問に、きょとんとしていたが、自分の言った言葉の意味を考えているようだ。


「そうね……女の子らしくて、男子にもてるという印象ね。あなたもああいうタイプが……」


「いやいや、おれそういうの興味ないし。強いて言えばカガリスポーツ専属モデルのサクラが好きだから」


「なによ、有名人なんて、お子様」


 高田の冷たい視線に、ぼくは肩を竦めておいた。


「マイナスのイメージはある? 例えばぶりっこだとか」


 ぼくの質問に、高田は一瞬息を止めたようだった。そして、少し悩むように唸った。


「そういうことを言っている人がいるのは、聞いたことがあるわ。私はそう思ったことはないわね。きちんと話してみると、良い子よ」


「へえ」


 無駄に人と群れることのない高田の人間観察は、当てにして良いと思っている。個人的な感情を混ぜないで話しているところを見ると、高田は山岡に対して好印象なのだろう。何となく、ああいう恰好をして、男子から人気があるという時点で、女子からのやっかみはあるかなと想像していたが、多少あるらしい。


「そういえば、清正 醍醐っていう小説家、この学校で流行っているのか? 何かやたら本を持っている人を見るんだけど」


 高田は「私も持っているわ」と思い出したように呟くと、自分のランドセルから本を取り出して見せた。清正 醍醐の空中楼閣だった。


「その小説家、この学校にきて新聞倶楽部のインタビューを受けたのよ。私はそれを聞いた後に図書館で借りてみたんだけれど、結構面白いわよ」


「え!? 何それ、小説家がこの学校にきたの?」


 ぼくは驚いて大きな声を上げてしまった。高田は何故か得意気に頷いた。


「山岡さんと猪俣さん、新聞倶楽部なのよ。そこでインタビューをして、清正 醍醐に興味を持ったんじゃない?」


「新聞倶楽部!? 山岡は、新聞倶楽部なの?」


 思わず高田に詰め寄ると、高田は少し怯んだように身を引いて頷いていた。


「そうよ、それがどうしたの?」


 ぼくは机に座り直すと、考えた。


「今回の新聞倶楽部の会報の特集記事って何だったか覚えてる?」


 ぼくが転校してくる前の記事のことだ。高田は戸惑ったようにしていたが、思い出すように考え込んでくれた。眼鏡を何度かずり上げ、顔を上げる。


「来月は清正 醍醐先生の特集を組むそうだけれど、今月は確か……お菓子工場だったかしら。うちのクラスのは大谷と佐久間が大ゲンカしたときに破れたのよね。生徒会室に行けば、まだ会報の予備記事が残っていると思うけど、取ってきましょうか?」


「ありがとう! 頼むよ」


 思わず高田の両手を取って立ち上がったぼくに、高田は驚いたのか、顔を真っ赤にして怒っているようだった。

4.続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~

くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。 初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。 そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。 冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか! カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

処理中です...